『 幕間 : 私と迷い 』
* ラギ視点
扉を静かに閉める音が部屋に響く。
私は深くため息をつくと、手に持っていたグラスを机の上に置いた。
彼……セツナが私との戦いを引き受けてくれた事だけで満足するべきだった。
セツナは、どういう形であれ、私と戦うことを厭っていたのだから。
それでも、私の気持ちを優先させてくれた彼に
私は、最後の最後で余計だと思われる質問を彼に浴びせてしまったのだ。
『もし……私が、戦って殺して欲しいと願ったとしていたら。
セツナさんはどうしたかの……?』
私の中にまだ迷いがあったのだろう
戦う事の理由を、アルトの為といいながらも
戦士として死を迎えたいと思う迷いが……。
だから、その迷いを断ち切るためにも彼に聞いたのかもしれない。
戦って死にたいという私の言葉に動揺し、声を荒げ怒りを見せた
セツナならきっと、出来ませんという答えが返ってくると思ったのだ。
しかし、セツナから帰ってきた答えは正反対のものだった。
私の問いかけに足を止め、ゆっくりと振り返ったセツナの目を見た瞬間
呼吸を忘れるぐらいの衝撃を受けた……そして彼から返って来た言葉にも。
『……それがラギさんの願いなら。
僕はその願いをきっと叶えていたでしょうね』
彼の表情も、彼の目も何時もと同じように穏やかだった。
ただ……何時もと違ったのは、私を見つめる目の中に宿る光が違った。
その光を例えるならば……。
暗い光、深い闇の色……諦めと哀しみを内包させた絶望の光だ……。
セツナのような若者が、宿していい光では決して無い……。
私は、セツナが抱える何かを刺激してしまったようだ。
私の勘でしかないのだが……もしかしたら、セツナは……。
彼は……彼の大切な人の命を絶った事があるのかもしれない。
そうならば、私が告げた言葉は彼をとても傷つける言葉だっただろう。
「……今更、謝罪をしたところでなにもならないの……」
1度告げた言葉は取り消すことができず
私は、もう一度深いため息をこぼした。
机の上のグラスを手に取り、グラスの中の酒を
一気に胃に流し込み、気持ちを切り替える。
空になったグラスを、机の上に戻したときに
ふと、右手の中指にしている指輪に目が止まり
私は少し思案して、指輪にそっと触れ撫でる……。
指輪を撫でながら、セツナとの会話を思い出す。
『明日、僕は真剣に戦います。
貴方を叩き潰すために……』
-……叩き潰すか……。
明日彼は、私を叩き潰す覚悟で戦ってくれるのだろう。
ならば、私は最後になるであろう明日の戦いを
全身全霊で戦いつくそう……。
だが……竜の加護もちのセツナと今のまま戦えば
十中八九勝ち目が無い事は確かだ、私は指輪を指から外し
服のポケットへ落とした。
戦って死ぬためではなく、セツナと戦い尽くす。
そう心が定まると、迷いが嘘のように消えていた。
指輪の跡が残る指を暫く眺め、机の上のグラスを持ち
明かりを消してから、私はその部屋を後にした。
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