『 僕と薬草採集 』
黄色の色が、塗られた所に貼られている依頼に目を通しながら
僕が、出来そうな依頼を探す。
薬草採取、魔物の討伐、配達に
作物の収穫、荷造りの手伝い……。
こうしてみると、本当に多種多様なんだなと思う。
依頼を見ながら、2人の情報をざっと調べてみた。
何が得意で、どんな事が出来るかは知る事ができたけど
カイルの言っていたように、本人に深く関わる記憶はどちらとも見る事が出来なかった。
その情報から、言語学、薬草学を中心に知識を引き出し
旅と生活するのに、困らないだろうと思われるものを選んだつもりだ。
言語学はともかく、薬草学を選んだ理由は僕は医者の息子ということもあり
将来は、医者を夢見ていたから……。
父さんや母さんに、わからない事を聞きながら
自分なりに、薬に関する勉強もしていた。
僕の地球での知識が、この世界で使えるかどうかはわからないけれど
自分で知識を蓄えた事があるという点で、薬草学を選んだほうが
気持ち的に、楽かもしれないと思った。
「そうなると、薬草採取が無難かな?」
薬草なんて、見た事が無いけれど……。
見た事がないんだけど、その薬草の形や色、効能がわかるのは
不思議な感覚だ……。まるで霊能者にでもなったみたいだ。
「うーん……」
1つの依頼の内容を、丁寧に読んでいく。
依頼内容:薬草採取
薬草名 :ユランソウ
採取場所:シランの森
納期期限:シルキス2の月26日まで
報酬:半銀貨3枚
内容:ユランソウの葉を20枚程度取ってきてください。
注意事項:メティスなどの魔物が出没します。
ちなみに、こちらの1ヶ月は30日、1年は15ヶ月(450日)
日本でいうところの四季があり
春はシルキス、夏はサルキス、秋はマナキス、冬はウィルキスという
季節の女神の名前がつけられている。
春は4ヵ月、夏は4ヶ月、秋は3ヶ月、冬は4ヶ月の合計15ヶ月だ。
シルキス4の月の30日の次は、サルキス1の月の1日という風に暦が変わっていく。
今日は、シルキス2の月の20日だから……納期は6日後というところ。
シランの森は、この城下町から歩いて大体半日の所だから
何もなければ、十分行って戻ってこれる。
ユランソウの事を、簡単に頭の中でまとめると
ユランソウは、日当たりのいい場所に生えているようで
効能は、虫刺され切り傷にきくらしい。
葉をもみつぶして、患部に塗ると膿を出す効果もあるみたいだ。
注意事項の所に、メティスという魔物のことが書かれているので
魔物の事も、知識の中から引っ張り出した。
メティスっていうのは……ウサギに似た魔物らしい。
薬草の事も、魔物の事も一通り理解したので
この依頼を受けてみる事にした。
依頼板から、依頼用紙を剥がして受付に持っていく。
「決まったのか?」
「はい、これを受けてみようと思います」
マスターが、依頼用紙を受け取って手続きをしてくれる。
「それじゃ、納期は6日後だ。
そう難しい、依頼でもないが気をつけていくようにな」
「はい、ありがとうございます」
そう挨拶して僕は、初めての依頼を受けギルドを後にした。
頭の中の情報を引き出せばいいのだけど
本を触りたくて、魔物図鑑と薬草図鑑をギルドで購入した。
後、このあたりの地図も一緒に。
本と地図を鞄に入れて、旅の準備をする為に宿屋に戻る。
出発は明日の朝にしようと思い、のんびりと準備をはじめた。
冒険の第一歩。
言い換えれば、僕がここで生活していく為の第一歩だ。
不安はあるが……その中に、わくわくする気持ちがあるのも確かだった。
朝早く宿屋を出て、シランの森に着くと
思ったよりも簡単に薬草が見つかる。黄色の依頼だから簡単なものしか
無いのだろうと考えながら、手で持っているユランソウの枚数を数えた。
「5枚、10枚、15枚、20枚……と」
ギルドで受けた依頼通り
ユランソウの葉を20枚、5枚ずつ分け痛まないようにまとめる。
自分の分の薬草も、10枚ほど摘んでおいた。
ここまでは、魔物にあうこともなく順調にきている。
無事薬草も見つけることができたし、このまま行けば今日中には城下町に帰れるだろう。
朝早く出発したかいがあったというものだ。
森を抜ける為に、早足で歩いていると
前方に、何かが横たわっている。
ここから見る限り、人のようだ。
少し警戒しながら近づくと
倒れていたのは、30代あたりと思われる男性だった。
魔物にでも襲われたのだろうか?
気配を探ってみても、それらしい反応はなかった。
とりあえず、危険はなさそうなので声をかけてみる。
「もしもし? 大丈夫ですか?」
何度か、声をかけるが返事がない。気を失っているようだ。
どこか怪我をしているようにも見えないし、大きな出血もないようだし……。
さわってみても、骨が折れている感じもない。
軽い切り傷だけのようなので、とりあえず薬草が見つからなければ野宿しようと
決めていた場所に倒れている男性を運んだ。
目を覚まさない男性を、眺めながらそっとため息をつく。
今日中に帰れそうにないな……。
僕の今の肉体であれば、この男性1人担いで帰っても、疲れもしないだろうし
魔法で運ぶこともできるけれど、そんな目立つことはしたくなかったので
ここは大人しく、この男性が目を覚ますのを待つことにした。
鞄から、必要なものを出し
野宿のために必要な、結界を張る石もセットしておく。
この魔道具はとても値が張るらしいが、1人旅をする冒険者には
なくてはならないものらしい。
僕だけなら別に、結界石などなくても大丈夫なんだけど
僕自身まだ、魔物を見た事がなく戦った事もないので
動けない人を守りながら、戦う自信が無かった。
念には念を入れて、基本を守る事にする。
魔法で結界を張れることを思い出したのは、数日後のことだったり……。
火をおこし、鍋に水を入れて、簡単なスープを作る。
スープを作る前に少しお湯を分けておいて、体力を回復させる効能のある
薬草をいれたお茶を作った。
今日の食事は、簡単なスープとチーズをパンにのせたものにした。
後は、この男性が目を覚ますのを待つだけなんだけど……。
もしかして、頭を打って倒れていたんだろうか。
頭に傷はなかったはずなんだけ……と
少し不安になりながら様子を見ていると、男の人がうめき声を上げる。
「うぅぅぅ……」
「もしもし? 大丈夫ですか?」
眠りから覚めそうな様子に声をかける。
「ここは……」
「シランの森を抜けたあたりですよ」
僕が場所を告げると、ぼんやりと目を開けた男性は
まだ、夢を見ているような目で僕を見ながら、少し考えた後飛び起きた。
「シランの森!?」
「そうです。貴方はシランの森で倒れていたんですよ
覚えていないんですか?」
「そうだ……。メティスを狩りに来たんだ」
そういって、うつむき黙り込む。
「メティスに襲われたんですか?」
そう、僕が聞くと……少しばつが悪そうな様子で
「見つからなくて、探しているうちに食料が尽きやして……」
僕と男性の間に少し重い空気が漂ったのを、振り払うように自己紹介をする。
「僕は、セツナといいます。
最近冒険者になりました。今日はユランソウを採りにここまできました」
「あっしは、ジゲルといいやす
お礼を言うのが遅くなりやした、有難うございやした」
「いえ、お怪我がないようでなによりです。
簡単なスープとパンしかないですが、よろしかったら一緒に食べませんか?」
食べませんか? と疑問形にしたけれど
彼が倒れていた理由が空腹だとわかっていたので
スープの入った器とパンを彼に渡す。
受け取ったジゲルさんは……僕にお礼を言うと、黙々と食べだした。
ジゲルさんの目に、活力みたいなものが戻るのが見て取れた。
僕も自分の分の、スープとパンを食べる。
全て食べ終わって、片づけをした後、入れておいたお茶を渡す。
2人で火を囲み、お茶を飲みながらたわいもない話をする。
初めてだらけの僕は、この日少しテンションが変だったのかもしれない。
初めての依頼、初めての旅、初めての薬草採取、初めての冒険
そして、初めて倒れた人を見つけ、介抱し
初めてあったばかりの人と食事をしながら話をした。
飲んだこともないお酒を、鞄からだして2人で飲み始める。
この世界では、成人は16歳からなので
18で登録している僕がアルコールを摂取しても、違反にはならない。
お酒が入ったせいか、ジゲルさんが饒舌になってくる
饒舌……というか愚痴……?
こうして、僕と酔っ払い冒険者との一夜が始まった。
読んでいただき、有難うございます。