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刹那の風景 第一章  作者: 緑青・薄浅黄
『 ミヤコワスレ : 別れ 』
107/126

『 僕とチーム 』

 気がつけば、ラギさんと暮らし始めて1ヶ月と半分以上が過ぎていた。

ラギさんの依頼を受けたのが、サルキス3の月の終わり。


リペイドの建国祭は、マナキス1の月の12日で祭りは13日、14日と続いた。

そして今日は、その祭りが終わってから6日目、マナキス1の月の20日となる。

後3日~4日ほどで、リペイドに来て2ヶ月というところだろうか……。


いつの間にか、サルキス()からマナキス()

秋といっても、急に夏が終わるわけではないが

周りの自然は、夏の終わりを感じさせ

秋の装いにゆっくりと変わりつつあった。


のんびりとするはずが、気がつけばサルキス4の月が終わっており

マナキス1の月も、後10日ほどで終わろうとしていることに、今日気がつく。


ノリスさんの依頼を終了してから、王妃の依頼と平行して魔物の討伐や

薬の調合などの依頼をこなしていたので、お金も程よくたまっていた。


ギルドに提供した薬に関する報酬は、早くて3ヵ月後ということなので受け取るのは

もう少し先になりそうだ。


冒険者ギルドのほうは、僕に対する待遇が変わるということは無く

ドラムさんは、最初は緊張した面持ちで僕と話をしていたけれど

何度か顔をあわせるうちに、以前のような関係に戻りつつあった。


変わったことといえば

昨日、僕の紋様が紫の1/5から赤の2/10になった。

一度に6ランクも上がったことになる。


今までの依頼のぶんも、もちろん加算されての6ランクアップだが

僕の紋様については、色々話し合いが行われたようで

ドラムさんが、僕の紋様が赤になった理由を教えてくれた。


僕は、自分の部屋の窓から見える景色を眺めながら

昨日、ドラムさんとした会話を思い出す。


『僕、最近紫になったばかりなんですが』


僕がドラムさんにそう告げると、ドラムさんがそうだなと返事を返す。


『ギルドに登録して半年にしかならない人間が

 赤の紋様をもっているなんて……他の冒険者が知ったら贔屓だと思われないんですか?』


そう聞く僕に、ドラムさんは呆れたように僕に告げる。


『誰が何時どんな依頼を、どれだけ受けたなんて

 知っているのは、ギルドで働くものたちだけだ。

 能力があれば、秘密裏に依頼をまわすこともある。

 紋様の色は実力があることの証だ、ギルドの信用にも関わることだからな

 妥協でポイントを与えることは決してしない。

 基本ポイントだけしかもらえない冒険者と

 ボーナスポイントまでもらえる冒険者では

 成長度合いも変わってくる……。

 それに、おめぇはいつも皮手袋をしているから

 元の色が何色かなんて、わかりやしない……。

 職業も学者でチームからのスカウトも来ない。

 アルトを連れていることで、違う意味で目立ってはいるが……それに』


ここでドラムさんは、少し考えるそぶりを見せる。

何かを口に出そうか、出さずにいようか迷っているような感じで視線がさまよう。


『おめぇ……ギルドにいるときに、何か魔法を使っているだろう?』


『何時から気がついていたんですか?』


僕は、肯定の意味で聞き返す。


『……最近だ。あれだけ立て続けに依頼をこなしているのに

 周りの反応が静か過ぎるぐらい、静かだからな……。

 普通なら、チームからスカウトが来てもおかしくない状況だというのにだ』


僕はなるほどと、頷いて使っている魔法をドラムさんに教える。


『僕から意識をそらす魔道具を使っていたりします。

 色々騒がれるのは好きではないので』


もちろん、その魔道具は僕が作ったものではあるけれど……。

精神操作、意識操作は闇の魔法の領域だから使えることを知られると

面倒なので魔道具の効果ということにしておいた。


『なるほどな、また高価なものを所持しているんだな』


さすがに、僕が闇を使えるとは思わなかったのか

マスターは疑いもせずに納得する。少し驚いた感じではあったけれど。


『形見なんですけどね……』


『そうか……悪いことを聞いたな』


『いいえ、気になさらないでください』


嘘ですしねと、心の中で付け足しておく。


『本当は、おめぇの紋様の色は黒という意見も出たみたいだが……。

 時と風の使い手で、あれだけの魔道具が作れるならと。

 だが、さすがに黒になるには、それなりの理由が必要だ。

 おめぇが、時の使い手だということを公にはしないということで

 赤ということになった。赤になった理由は2つほどある』


そう言って、ドラムさんは少し人の悪い笑みを顔に浮かべた。


『1つは、赤の紋様もちが少ない。だから、赤の依頼が中々減らない』


『……』


『依頼が多いのは、青から紫だ。

 そして、青から紫の冒険者も一番多い。

 しかし……紫から赤にかけて人が減っていく。

 紫の3/5からの依頼は難易度が跳ね上がるからな……。

 命を落とすものも多い』


ギルドの掲示板は、各色の上に依頼が張られている。

その色も紫なら紫1色ではなく

自分の紋様と同じ色に近いところから依頼を選ぶことが多い。


なので、紫の1/5と紫の5/5では依頼の内容が激しく変わってくる場合がある。

討伐系などは、特に顕著に現れている。


『赤のランクから上は、紫のランクと比べると本当に少ない。

 白は、両手で足りるし黒は片手で足りる。

 黒に近いのは、チーム月光のアギトの長男

 白に近いのが、おめぇとアギトの次男というところだな』


『それで僕に、馬車馬のように働けというんですね?』


ドラムさんは、おうよっと大げさに頷いた。


『まぁ、おめぇには紫の依頼は物足りなさそうだったからな』


『大変でしたよ?』


僕は少し驚いた感じで、マスターに返事を返すが

マスターは嘘つきやがってと言うような目で僕を見ただけだった。


『それと、もうひとつの理由は

 おめぇ達におあつらえ向きのチームを作ることが

 赤の紋様からならできる』


『どういう事ですか?』


ドラムさんは、僕の問いを無視して続けた。


『おめぇは、他のチームに入る気は無いんだろう?』


『はい。今のところはありません』


『それなら、おめぇがチームを作ってリーダーになるといい』


『メンバーがいませんが……?』


『アルトを入れておくといいだろう?』


『うーん』


『そろそろ、おめぇが提供した薬が売りに出される。

 そうなると、おめぇの名前が売れ出してくる。スカウトが来るぞ。

 魔道具があるといっても、限界があるだろう?』


『……』


意識をそらし続けようと思えば、そらし続けることができるが……。

それでは、余りにも不自然になってしまう。

今使っている魔法は、僕に対する興味を

少し阻害するものでしかないから、名前が売れて興味を持たれると

この魔道具では通用しにくくなるかもしれない。


『チームリーダーになると、スカウトはされない。

 そして、ギルドの規約にもあるように

 赤のランク以上がチームリーダーだった場合

 そのチームに入るには、チームのメンバーからのスカウトか

 ギルドマスターからの、紹介を受けないことには入れない。

 自分で売り込むのは禁止事項だからな』


『どうして、自分を売り込むのが禁止になっているんです?』


『人気のあるチームに、入ろうとするだろう?

 すると、そのチームの依頼に支障をきたしたことがある』


『なるほど……』


『まぁ、それでも売り込みに行くやつはいるが

 執拗な売り込みをする輩は、ほぼいないといっていい。

 ギルドにばれると、ランクを下げられることになるからなぁ』


売り込みが禁止という規約で、チームと冒険者の間に

ギルドが割り込めるようにしてあると言うことか。


確かに、ずっと付きまとわれるのは精神的にこたえそうだ。


『どこかのチームに、誘われたことはないのか?』


『月光のアギトさんから、1度誘われましたが』


『……おめぇ……断ったのか……?』


『はい』


『……』


信じられないといった表情で僕を見るドラムさん。


『月光は、入るのが難しいチームなんだぞ?』


『そうなんですか?』


僕を見ながらため息をついて、ドラムさんは首を横に振った。


『まぁいい……。

 でだ、チームを作るかスカウトを断り続けるか

 好きなほうを選べ』


ドラムさんのその言葉に、僕は少し考えて見ますと返事をして

アルトと一緒に決めようと、昨日はギルドを後にしたのだった。


家に戻り、ギルドでの話をアルトとラギさんに話す。

僕の話を聞いて、ラギさんが思ったことを口にした。


『薬の調合に詳しくて、風使いということだけでも

 チームにスカウトするメリットはあるからのぅ……。

 そこに、ギルドからの覚えもいいとなると

 自分のチームを売っていくには、いい材料となるな』


『僕としては、チームに入らなければいけないというのであれば

 月光に入れてもらおうとは思っていますが……。

 今のところはまだ、何処のチームにも入りたくないというのが本音です』


『チームはチームでいいものだけどな……』


ラギさんが何かを思い出しながら、静かにそう呟いた。

アルトは、俯いたまま何の反応も示さないことを不思議に思い声をかける。


『アルトはどう思う?』


『おれ……は……』


そう言ったきり黙ってしまう。僕とラギさんの視線があう。

最近アルトの様子が少しおかしい。

何かを深く考え込むような様子を見せることが多く

そして、僕やラギさんに何かを言おうとするのだが

それを躊躇して途中で止めるということをここ数日繰り返していた。


そんな時のアルトの表情はとても暗いのだが

僕とラギさんは、アルトが自分から話すまで待っていようと決めていた。


アルトが何に葛藤しているのか、僕にもラギさんにもその理由が分かっていたから

これは、アルトが乗り越えなくてはならないものだと判断したのだ。


『アルト?』


僕の呼びかけに、ハッとしたように顔を上げるアルトに苦笑する。

別に、責めているわけではないのだけれど……。

アルトの意識が別の方向へ行っていたことを、気がつかない振りをしながら

僕はアルトにもう一度尋ねる。


『アルトはどう思う?』


『あ……おれは、チームに、はいれるのかな?』


『アルトが入れないチームに、僕が入ることは無いよ』


僕の言葉に、安堵した表情を見せるアルト。


『アルトはチームに入りたい?』


『はいりたく、ない』


『それじゃ……チームを作ろうか。

 しばらくは、僕とアルト2人のチームになりそうだけど』


『ししょう、は、それでいいの?』


『いいよ。僕もチームに入りたいとは思っていないって言ったでしょう?』


『うん』


少し浮上したのか、尻尾がパタパタと動く。


『チーム名はどうするのかな?』


ラギさんが、楽しそうに聞いてくる。


『チーム名ですか?』


『有名になるだろうから

 適当につけるのは、やめておいたほうがいいかもしれないの』


『有名になると決まったわけじゃないと思いますが……』


『セツナさんとアルトのチームは

 いろいろな意味で目立つだろうから』


そう言って、笑うラギさんに僕は少し憂鬱になり項垂れた。

僕は、俯いたままチームの名前を考える。


『うーん……チーム名……』


僕が、悩んでいると


『今すぐ決めなくともいいだろう?

 ゆっくり考えるといいのではないかな?』


ラギさんのセリフに僕は、そうですねと頷くと

アルトにも、何か考えてみてねと伝えその日はベッドに入ったのだった。


そして今に至るのだが……。

これといったチーム名は、思い浮かばなかった。


窓から、下の庭に視線を移すと

アルトとラギさんが何かを話している。


アルトの表情は優れない。

そんな、アルトの様子を見て僕は1つため息をついた。



読んでいただきありがとうございます。

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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されした。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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よろしくお願いいたします。
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