『 幕間 : アルトとみにくいアヒルの子 』
『……みにくいアヒルの子は
綺麗な白鳥だったのです。
おしまい』
師匠から、この話を聞いたとき
このアヒルは、俺だと思った。
親から嫌われ、誰も俺のことを好きにはなってくれない。
このアヒルと俺の違うところは
俺は、白鳥にはなれないという事だった。
俺を助けてくれた、白鳥と同じには一生なれない。
そう言って、落ち込む俺に師匠が言った言葉……。
『この物語の白鳥は、自分自身なんだよ』
『じぶんじしん?』
『そう、自分自身』
俺が、分からないと言う風に首をかしげると
『アルトは、僕を白鳥と言うけれど
アルトが白鳥なんだよ。
辛くても諦めないで頑張ったから、僕と出会えた白鳥』
『じゃぁ、ししょうはなに?』
『僕は、湖かな?』
『どうして、みずうみ?』
『アヒルの子は、
湖に写った自分の姿を見て、白鳥だって気がつくことができたでしょう?』
『うん』
『僕はアルトに色々教える師匠だから、湖』
『おー』
『でも、本当の意味では僕もアルトもまだ飛べない白鳥だね』
『えー、どうして?』
『アルトは、今自分が白鳥だと気がついたけど
飛び方を知らないから』
『どうやったら、とべる?』
『アルトがやりたいことを見つけたとき』
『……』
『僕はね、この物語は辛いことがあっても
諦めずに、自分が探すものを見つけることができたら
綺麗な白鳥になって空を飛ぶことができますよって、言っていると思うんだ』
『……』
『アルト、飛ぶ時がきたら
飛べると思ったら、怖がらないで飛んでみて。
最初は落ちてもいいから、羽を羽ばたかせるだけでもいいから』
俺が飛ぶとき……それは、俺が師匠から離れるときだ。
俺は、師匠に返事をすることができなかった。
そんな俺に、師匠は少し困ったように笑ったけれど
何も言わずにいてくれた。
俺は……羽を広げることさえ怖かった。
師匠が、離れていってしまいそうで……。
だから、俺は飛べない白鳥でいいと思った。
ずっと、師匠と一緒にいることができるのなら
俺は、飛べないままでいいと思っていたんだ……。
読んでいただきありがとうございます。
参考図書:アンデルセン童話(醜いアヒルの子)
-Hans Christian Andersen-