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刹那の風景 第一章  作者: 緑青・薄浅黄
『 アメジストセージ : 家族愛 』
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『 私と不機嫌な青年 』

 マスクを外し、右手で前髪をかきあげ、ため息をついている青年に声をかける。

私を2度も救ってくれた、不思議な青年セツナ。本来の髪の色は、薄茶色と聞いているが

私と会うときの彼の髪は何時も銀色だ、何時もといってもまだ2度目だが……。


「セツナ、少し向こうで飲みながら話そう」


私は、酒が並んでいる場所を示し歩き出す。

セツナは少し考えた後、黙って私の後をついてきた。

私が先に座り、彼も座るように促す。


使われていないカップを2つ手元に引き寄せ、私と彼のカップに酒を注いだ。

将軍も大臣達も適当に座り、私達の様子を伺っている。


王妃は、私の隣に走ってきて隣に座り

セツナにもらった魔道具を自分の隣に置き

ユージン達が王妃の後を追い、それぞれが席に着いた。


何時も賑やかなサイラスが、今日はとても大人しい。

ジョルジュと並び、ユージンの後ろに立っていた。ユージンが2人に座るように促すが

2人とも首を立てには振らず、ユージンの後ろで立っている。


横目でサイラスを見ながら、セツナに注いだ酒を勧める。


「遠慮はなしだ、私もこの時間だけは楽しませてもらう」


少し肩の力を抜き、建国祭を楽しむことにしたのだ……。

王妃の気持ちを無にしないためにも。言葉遣いも、少し砕けた感じに戻す。

こうやって、大臣達と飲むのは本当に久しぶりのような気がした……。


「頂きます」


そう言って、静かに飲み始めるセツナにサイラスが大人しい理由を聞いてみる。

あれが大人しいのは、相当落ち込んでいる証拠だ。


「サイラスが落ち込んでいるようだが?」


「そうなんですか?」


「君が知っていると思ったのだが」


「さぁ……僕にはわかりかねますね」


セツナの言い様に、将軍と大臣達が何か言いたそうにセツナに視線を向けるが

彼は、表情を変えずに飲んでいる。


「ふむ……セツナは機嫌が悪いのかね?」


「……」


こたえる気が無いのか、目の前の酒を自分で注ぎ黙々と飲むセツナ。

私は、私の騎士に私がいない間のことを聞く。

一通り聞き、彼らの間に何があったかを把握する。


「不甲斐ない子達で申し訳ない」


私の言葉に、ユージンが私を睨みキースが苦笑する。

サイラスは無表情だ。


「僕は、ユージンさんの第一騎士を

 ジョルジュさんにしたほうがいいと思います」


セツナの発言に、サイラスが緊張したように体をこわばらせる。

ユージンが不快感をあらわにして言い返す。


「私の騎士の事に口を出さないでほしい」


ユージンと言い合うつもりは無いのか、セツナはあっさりと引き下がり

ただ一言、そうですねと返事を返した。

私は彼がどうしてそんなことを言い出したのか、不思議に思いたずねる。


「どうしてそう思う?」


「国王様がいないあの状況で

 彼だけは僕と戦う選択を選んではいけなかった。

 皆が僕と戦う選択を選んでも

 最後まで僕と戦わない道を探すべきだったと思います」


「それは、サイラスと君が友人だから?」


私の言葉に、セツナは少し呆れた視線を私によこす。

サイラスは、俯いたままこちらの話に耳を傾けているようだ。


「酔っているんですか?」


「まだ飲み始めたばかりで酔うわけがなかろう……」


遠慮はいらないと言ったからから、本当に遠慮の欠片も無い。

セツナが、私のカップにも酒を注いだ。


「サイラスもこの国のためを思って

 君と戦うことを選んだ、彼等の信念は評価できると私は思うけどね」


「……確かに、その信念は僕もいいものだと思いますけどね。

 それでも、僕と戦う選択だけは選んではいけなかったんです」


何故、彼がそこまで言い切ってしまえるのかを問うために口を開く。


「ふむ……そこまでの理由が……」


思い浮かばないがと、言いかけて自分の言葉で彼が言いたかったことを理解した。

反射的に口に出そうとした言葉を、手のひらを口元に当てることで留める。


「……そういうことか」


「そういうことです」


この事実を、私とサイラスしか知らない以上セツナの言う通り

サイラスは、もう少し考えて行動するべきだったのだと思い至る。


彼は、竜騎士の契約を結んでいる。


セツナが、彼の騎士を呼べば

この国が滅びてしまうことになったかもしれない可能性を

セツナは言っているのだろう。


少し声を落とし、私にだけ聞こえる音量で


「それに、彼の加護は僕の騎士が与えたものですから

 加護を取り消されても文句は言えないでしょう?」


「そうだな」


「そういうことを綺麗に忘れている事が不思議でなりません」


話しながらも、酒を飲み続けるセツナ。

いろいろな種類の酒を1杯ずつ飲んでいるようだ。


ため息を1つ落とし、本当に分からないと首を横に振る姿が面白い。

後半私達の会話が聞こえなかった面々は、少し不満だと言う顔をしている。


「私は君の年で、そこまで気がまわることが不思議でならないが?

 18だと言うのは本当なのか?」


私の言葉に、将軍と大臣達が驚く。


「うーん、どうなんでしょうか……。

 僕は僕の誕生月を知らないので、年齢は適当につけたんですよね」


「え……?」


「将軍、そこのお酒を取ってもらえますか?」


「あ……ああ……」


セツナの告白に、その場の全員が驚いた。

サイラスも例外ではないようだ……。将軍から酒を受け取り

私と自分のカップに注ぐ。少しペースが早い気がするが

セツナの年齢のほうが気になり、彼と同じペースで酒を飲む。


「誕生月をしらない?」


「ええ、知りません。

 だからもしかすると、僕の年齢はもっと上かもしれませんね。

 自分の見た目で適当につけた年齢ですから」


「……君のご両親は?」


「さあ……。

 気がついたら、ガーディルにいたので」


「私は、どこかの貴族の子息だとおもっていたのだが……」


「それは、前にも言われました。

 僕は、冒険者という肩書き以外何も持っていませんよ」


そういって、笑うセツナ。

王妃は複雑な顔でセツナを見ている。


彼の慎重すぎるほど慎重な行動や、冷静な言動の理由に思い当たる。

稀な力を持つ彼は、自然と自分の身を守るすべをつけたのか……。

つけざるを得なかったのか……。


セツナは、自分のカバンに手を入れ何かを取り出そうとしているようで

周りの反応を気にしている様子は無かった。

思いもよらない事実を知ったせいなのか、この場の空気が少し暗い。

その空気を少しも気にすることなく、セツナが酒の感想をこぼす。


「王妃様に頼まれて買って来たお酒は、少し度数が低いですね……」


「こんなものだと思うが?」


「僕には少し物足りないかな?」


そういいながらカバンから出した酒に、私も将軍も大臣達も固まる。

セツナが躊躇することなく封を切ろうとした瞬間。将軍が大声を上げて止める。


「セツナ殿!」


いきなりの大声に驚いたのか、体を震わせて

セツナの手が止まり将軍を見て首をかしげた。


「なんですか?」


「そ……そ……それは」


「お酒です」


「それは見れば分かる!

 その酒は200年ほど前の酒だぞ!?」


「そうですね。

 美味しいお酒ですよね」


といいながらあっさりと封を切った。


「ああ!! 飲むのか!?」


将軍の声が部屋に響く。

少し混乱しているようだ。


「お酒は飲むものでしょう……」


私も大臣達もセツナの持っている、酒の瓶に視線が釘付けになる。

200年前の……幻の酒といわれるものが目の前にあるのだ。


無類の酒好きの将軍が飲んでみたいと、言っていた一品。

それを、美味しいですよねと言ったセツナは飲んだことがあると言うこと。


何処から手に入れたんだろうか……。


将軍の視線が、セツナの手元から離れない。

その顔は驚愕で面白い表情を作っている。


「国王様もどうですか?」


「あ? ああ……頂く」


幻の酒が、惜しげもなく私のカップに酒が注がれる。


「全員が飲むには足りないかな?」


そういうともう一本、カバンから同じのを出した。

将軍の顔は青くなっている。

手に入れたくても入らなかった酒が、2本もでてきたのだから

仕方が無いと思うが……。


このような酒はめったに手に入らないので

私の騎士たちにも飲むように勧める。何時もは断る騎士たちだが

誘惑には勝てなかったのだろう、嬉しそうにカップを受け取り飲んでいた。


将軍はカップを持つ手が震え、まだ口をつけていない……。

この場面だけ見ると、酒を取り上げたい心境になりそうだ。


ジョルジュやフレッドも勧められるままに飲み

サイラスもユージンに押し付けられて口にしたようだ。


セツナは飲み終わると、少し機嫌が浮上したのか

カバンの中に手を入れ、また酒を探しているらしい。


「お祭りですし、もうひとつ封を切りましょうか」


そう言って、次にカバンから出したのは400年前の酒だった。

金貨90枚で売られていたのを記憶している……先ほどの酒は金貨30枚ほどだ。


「……セツナ、さすがにそれは……封を切らないほうがいいのでは?」


私は、思わずセツナに声をかける。私の顔が引きつっているのが自分で分かる。

将軍が、ちびりちびりと飲んでいた酒を飲み終えて、セツナのそばに来た。


酒の瓶から視線を外さない将軍を見て、セツナが苦笑する。


「金貨90枚ほどの値がついたと記憶しているが……」


「そうなんですか? それなら尚更飲まないと……」


「何故そうなる」


「転売しても自分の口に入らないじゃないですか」


「そうだが」


「お金は依頼で稼げますが

 貴重なお酒は手放すとなくなりますからね」


そして、簡単に封を切り私と自分のカップに酒を注ぎ、将軍に瓶ごと渡す。

将軍は私の後ろに居る騎士に少し注いでから、大臣達のそばに戻って行った。


「将軍、少し酔ってますね」


セツナが笑いながら、将軍の動向を追っている。


「ああ、あいつ等は昔から酒が好きだからな

 長年の夢が叶って嬉しいのだろう」


「この際、酔い潰してしまいますか。

 明日の朝まで、城に結界を張っておきますから

 国王様も心置きなく飲んでください」


「そんなに魔力を使って大丈夫なのか?」


「大丈夫ですよ」


それ以上の魔力の追求を避けるように、私に次々と酒を渡してくる。

そのカバンの中はほとんど酒なのか? と言うほどの量だ。


「そのお酒は、ガーディルのもので度数が高いですよ」


見たことの無い酒ばかりだった。最近のものから少し古いものまで

私と自分に注いでから、どんどん隣にまわして行く。


皆もセツナと同じペースで、酒を開けていくものだから

弱いものから順番に潰れていく。


潰れて動けなくなったものを楽しそうに眺め

セツナも相当な酒が体に入っているだろうに

彼の顔色はまったく変わることが無かった。


将軍は、飲んだことの無い酒をすべて味見してから

意識を落とした。


若い頃も同じようなことがあったと、思い出してひそかに笑う。

こんな風に、羽目を外したのは……何時いらいなんだろうか。


今この場で意識があるのは、私とセツナ

私の騎士とジョルジュとフレッドだ

彼等は200年ものと400年もの以外は頑として飲まなかった。


静かになった部屋で、セツナはまだ酒を飲み。

私は飲むのを止めている。これ以上は無理だ。


「セツナは酔わないのか?」


「うーん、美味しいとは思うんですが

 酔うことはないですね」


「国王様も僕と同じぐらい飲んでますよね?」


「私もさすがに辛いぞ……」


「それでは、そろそろお開きにしましょうか」


そう告げると、危なげなく立ち上がり軽く背筋を伸ばしていた。

その姿を見て、彼に問うべきかどうか思案しながら口を開く。


「そうだな……」


私の歯切れの悪い返事に、少し訝しげな表情を作るセツナ。


「どうかしましたか?」


私は結局、ため息を落としながら彼に尋ねる。


「……あの薬の金額は嘘だろう?

 酒の値段と薬の値段がほぼ同じなどありえない」


「値段があってないようなものですから」


「今日1日で、数百枚の金貨が動いていると思うが」


薬と酒代を考えると頭が痛くなりそうな金額だ

それと同時に何故ここまでと考えてしまうのは、当然の事だろう。

私の考えを読んだように、セツナが私の疑問に答えていく。


「僕は、この国を拠点に旅をしようと思っているので

 旅から戻ったときに、帝国領になっているのは不愉快ですから。

 それに……ここで貴方が倒れたら、僕がここに来た意味もなくなってしまう」


彼が私に向ける視線は、とても真剣なものだった。


「この国が、この先どう変わっていくかは分かりませんが。

 僕が住みやすいと思う限り、僕はこの国の敵になることはないですね」


「……」


「今回の薬は、王妃の依頼でもありましたが

 この国に対する先行投資です。

 お酒は、僕が物足りなかったから振舞っただけですし」


「なるほど……」


「ただ、大きすぎる力は歪みを生む。

 使うときは、気をつけなければいけません」


菫色の瞳が私を射る。大きすぎる力というのは彼のことだろう。

頼りすぎるなという忠告。あてにするなという警告。


「肝に銘じておこう」


遠まわしに、次も手助けするとは限らないと釘を刺されたようだ。


「この国は……とてもいい国だと僕は思います」


潰れて寝てしまっている面々に視線をやり、楽しそうに微笑んでいる。

何をどう思って、そう口にするのかは分からないが……。

いい国だと言われたことに、喜びを感じる。


この国の空の下で、私の国の民がそう思ってくれることを

私達は目指して来たのだから……。


「そのうち、女の子も増えていそうですしね?」


セツナの言葉に、私は返事を返すことができなかった。

頭に響くのは王妃の声……白い鳥に託された王妃の心。

セツナが、依頼を受ける決め手になったという王妃の言葉……。


『セナ君、私はね王様が好きなの。大好きなの。

 だから、王様が死んでしまったら私も死ぬわ。

 でもね、死ぬ前に私は女の子が欲しいのよ!』


固まっている私にセツナが静かに呟いた。


「死を覚悟しながら命を育む夢を語る……。

 絶対貴方と生きるんだと言う、その強さに僕は惹かれました」


「……」


「頑張ってください。色々と」


そういいながら

今日一番と思われる笑顔を見せるセツナに、私はため息を返したのだった。





読んでいただきありがとうございます。


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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されした。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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