『 僕とゲーム 』
僕とサイラスとの緊迫した空気の中に割り込んできたのは
僕の後ろで大臣達と酒盛りをしながら、事の成り行きを見守っていた将軍だった。
サイラスの殺気は大臣達にはきついだろうと思い
音声以外は遮断する結界を張っているが、将軍が何かを敏感に察したらしい。
将軍が僕に声をかけてくる。
「セツナ殿、今は人材不足……減らぬように頼みたい」
「……」
将軍の言葉に思わず僕は後ろを振り返り、将軍と視線を合わせてしまった。
僕の視線を受けた将軍は、僕を見て少し驚いた表情をしていたが真面目な顔で
僕にもう一度同じ言葉を繰り返した。
「減らぬように頼みたい……」
それは遠まわしに、サイラス達に大怪我を負わせないでくれというものだろう。
大臣達も、僕に真剣な眼差しを向けていた。僕はそんな彼等に苦笑を落とす。
「……我侭な注文ですね」
「よろしく頼む」
もともと、王妃が悲しむようなことをするつもりはなかった。
王妃の願いは、建国祭を楽しみたいということなのだし。
僕は首を縦に振り、了承の言葉を告げた。
「頼まれました」
僕の返事に安心したのか、大臣達は表情を緩めまた酒を飲み始めた。
楽しそうに飲んでいるように見えるが、その腹の中はきっと違うのだろう。
本当は、もっと穏やかに、穏便にすませる事ができればよかったのだけど。
余りにも、目の前のことしか見えていない彼等に少し失望した。
王妃も今の状況を十分理解している。
理解している上で、僕に依頼をしてきた王妃の気持ちを
少しも考えようとしない彼等……。
確かに、彼等の言うことは正しいのだろう。
だが、王妃の話を聞かない理由にはなりえない。
サイラスは選択肢などなかったといった。
だけど、将軍と大臣達は同じ情報量でサイラスとは違う選択を選んでいる。
何故それがわからないのだろう。
殺気を撒き散らす前に、尋ねればいいのだ。
僕が答えないのなら、酒盛りをしている先達達に聞けばいいのに……。
同じ国を守る先達達の行動を知ろうともせず、理由を聞こうともしない。
"殺す" "倒せば"という言葉を言ったのは僕だけど、他の解決策を考えることもせず
力で解決しようとするサイラスに苛立ちが募った。
自分の力がどれだけ周りを巻き込む恐れがあるのか忘れている。
頭に血が上りすぎて、冷静な判断ができていないんだろう。
さて……。サイラスを叩きのめすのは簡単だけど
将軍達と約束してしまったから、怪我をさせないようにしないと駄目だ。
怪我をしてもすぐに治せるんだけどな……と心の中で思いつつ戦う方法を考える。
ふと、隣を見ると僕が王妃に渡した、ぬいぐるみが浮かんでいる。
この部屋に結界を張る魔法と、国王と王妃を自室に移動させる魔法をかけた魔道具だ。
魔法を起動させる魔道具を何にするか考えたときに
可愛いものがいいと言うので、ぬいぐるみにしたのだ。
僕は、サイラス達に視線を戻す。彼等のからだが少しゆれるがそれ以上
後退ることを何とか抑えているようだ。
彼等との戦い方を決めた。
この方法なら大怪我はしないだろう。考えが纏まったところで
サイラス達に静かに戦いの方法を話す。
「将軍に手加減してやって欲しいと頼まれたから、手加減してあげる。
僕が戦うと弱いものいじめになってしまうしね?
だから、僕が考えたゲームで白黒をつけようと思うんだけど?」
「ふ……ふざけるなっ!」
怒りで、剣が震えている。
僕の言葉が気に入らなかったらしい。
僕もあえて、サイラスの神経を逆なでする言葉を選んでいるんだけど
ここまで素直に反応を返されると
時期国王の片腕となる騎士としてどうなんだと言いたくなった。
「ふざけてないよ?
自分の力を把握できていないサイラスのほうがふざけてる」
サイラスの顔が怒りで赤くなっていく。
僕は更に、火に油を注ぐようにサイラスの怒りを煽る。
ゲームを成功させるために。
「ここで戦おうとしているサイラス様、第一騎士様。
貴方は何を守ろうと言うのか?」
「……何を」
「僕と貴方が戦って、この場が無事であると本気で思っているの?
それとも、君が僕を敵だと認識しているのに、僕がこの場を守るために結界を張るとでも?」
僕は彼に嘲笑を向ける。サイラスが絶句し、目の色が変った。
周りに当り散らすようにまかれていた殺気が僕だけに集中する。
「本当に……ふざけるなだよサイラス?」
そんなサイラスを僕は一瞥して、ゲームの内容を話していく。
「……簡単なゲームだよ。この魔道具はこの部屋に結界を張る魔法が掛かっている。
この魔道具を壊せば、外に出ることができるし、国王様と王妃様の部屋にもいける。
サイラス達がこの魔道具を壊すことができたのならサイラス達の勝ち」
僕は、僕の周りに女性の握りこぶしほどの鳥を魔法で数十羽作る。
「僕自身は動かないけれど、妨害はさせてもらうよ。
この鳥を全部殺さないと魔道具に触れないようになっている」
僕の周りに現れた鳥に驚いた表情を見せている面々を気にせずに続きを話す。
サイラスだけは僕から視線を外さない。
「簡単でしょう? この鳥を殺して、魔道具を壊すだけ。
ただ、この鳥は凶暴だから急所を確実に狙うよ……。
死ぬことはないけど、怪我はすると思うから気を抜かないようにね。
その鳥は動ける間は白色、動けない状態は赤色になるから
落ちても白なら止めを刺したほうがいいよ。
アルトの訓練と同じものだから大丈夫かな?
まぁ……アルトでも倒せるレベルだから、倒せないようじゃ問題かもね?」
僕の最後のセリフに不愉快といった表情を見せる3人。
ふとジョルジュさんとフレッドさんに顔を向けると、2人とも警戒したように僕を見た。
この2人は、サイラスと違い的確に状況を判断しているようだ。
僕は、サイラスよりもジョルジュさんが第一騎士になったほうが良いと思った。
余り表情に出さないし、冷静であることを心がけているし
将軍達の様子を気にしていることから何かしら疑問を抱いているようだし……。
-……邪魔かな。
僕は少し考えて、ジョルジュさんとフレッドさんは
このゲームの邪魔になると思い退場してもらうことにした。
「ジョルジュさんとフレッドさんは邪魔だから、将軍達と一緒にいてくれる?
後ろの兵士さん達も一緒に」
僕はそういうと、呪文を唱え右腕をジョルジュさんのほうから将軍の方へと動かす。
それと同時に、ジョルジュさん達の体がその場から消え、僕の後ろへと移動した。
守るべき主から引き離されたジョルジュさんが、慌てて戻ろうとするが
僕の結界が張ってあるので移動することはできない。
ジョルジュさんが、僕の名前を呼ぶがその呼びかけには答えなかった。
将軍が、ジョルジュさんとフレッドさんを宥めている。
納得はしていないが、上司の言葉に渋々と言った感じで従うことにしたようだ。
ゲームを始める準備が整ったので、僕はサイラス達に告げる。
「準備はいい?」
「いつでもこいよ……」
低く地を這うような声で返事をするサイラスに、サイラスの殺気には劣るけれど
ユージンさんもキースさんも僕に殺気を向けている。
「それじゃぁ、ゲームを始めようか」
僕の合図と共に、僕の周りに飛んでいた鳥が魔道具を守るように
周囲に散らばる。僕は魔道具から離れた位置で観戦することにした。
サイラスが一歩踏み出したと同時に、一羽が反応しサイラスに襲い掛かる。
サイラスは怒りにぶつけるように、鳥を思いっきり剣で床に叩きつけるように切り落とす。
その瞬間、僕以外の全員が目を見開き動きを止めた。
サイラスも例外ではない……。
足元に落ちた鳥を見て驚愕の表情を浮かべ、微動だにしなかった……。
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