『 僕と冒険者ギルド 』
あれだけ寝たのに、カイルの手紙を読み終わり
片付け終わったところで、また気持ちよく寝ていた。
気がついたら、早朝で朝食にはまだ時間がありそうだった為
僕は、着替えると軽く体を動かす。
筋肉というのは、使わないとすぐ衰えてしまう。
人生の大半を、ベッドの上で過ごしていた僕には
ほとんど体に、筋肉がついていなかった。体を動かすのは楽しい。
今のこの体は、理想の体といってもいい。
理想の体を、手に入れたのだから
この体形を維持しなければということで
体が温まったところで、本格的に体を動かしていく。
僕は、カイルが行っていたであろう筋力トレーニングと
剣術の型、体術の型を中心に毎日行う事にする。
慣れてきたら、もう少し負荷をかけていくのもいいかもしれない。
部屋が狭いため、剣を持たずに動く。
自分の命にも関わってくることだから、真剣にトレーニングを行った。
しなやかに動く体に、感動しながら……。
大体……1時間ぐらい体を動かしていたのだろうか?
トレーニングを終え、汗をぬぐい食堂へ行き朝食をとった後
昨日予定していた、冒険者ギルドへと向かった。
ギルドの場所は、さほど苦労せずに見つける事が出来た。
ギルドの扉をくぐり、受付に居る人物に声をかける。
「ギルド登録をしたいのですが」
受付に居たのは、壮年の男性で僕を観察するように眺めながら
説明をしてくれる。
「まずは、この用紙に必要事項を書いてくれ」
男性から、用紙を渡され記入していく。
まずは名前……。僕は、少し考えてセツナと書く。
杉本刹那は、死んだから。1年前に病気で死んだ。
この世界に召喚されての1年は、僕は生きては居なかった。
呼吸をし、肉体は動いていたがそれだけだった。
僕は、昨日初めて、僕の名前をこの世界の人に伝えた。
元は、日本人だけど……。僕の本当の名前を名乗ったのは一度だけ。
僕の過去を知るのも、僕の本当の名前を知っているのも彼だけでいいと思った。
僕は、彼が眠りについた時に
僕の全ても捨てたんだ。杉本刹那は1年前に死んでいる。
ここにいるのは、杉本刹那ではない。
唯のセツナだ……。
だけど、そう思いながらもカイルのように新しい名前を
用意する気にはなれなかった。
小さく溜息を落とし
知識を引き出しながら、空白を埋めていく。
名前:セツナ
年齢:18
職業:学者・魔導師
属性:風
能力:なし
特技:薬草学
習得言語:共通語・古代語・南方言語・北方言語
とりあえず、年齢は18という事にしておこう……。
地球にいた頃から数えると、28だけど姿が変わったせいで
28にはどうしても見えなくなったから。
能力は、今のところは持っていないということにしておいて
職業はとりあえず、学者という事にする。
学者としたのは、旅をする理由にもなるだろうし
好奇心旺盛な感じを出したかったからだ。
特技と習得言語は、旅をする学者という感じで適当に選ぶ。
学者と言っても、僕が新しく調べる事など無いかもしれない。
花井さんも、カイルも博識で知識の量が半端ないから……。
それでも、知識にあるところを巡って旅をするのもいいだろうと思った。
花井さんは、言語に興味を持っていたようで
大体の国の言葉は書くことが出来るし、話すことも出来る。
カイルは、歴史に興味を持っていて
見つけた遺跡などを片っ端から調べたようだ。
混沌の鞄……。カイルから貰った鞄の中に入っている
大半のものは、遺跡からの拾得物だろう……。
色々と、知識の中から選んでいるうちに
僕と、花井さんとカイルに共通する事が数個あった。
そのうちの1つは……いろいろな意味で雑食だという事。
興味を持ったものだけではなく、興味のないものも一応掘り下げて勉強する
そんなところが、そっくりだった。
男性から渡された、用紙の空白を埋めて渡すと男性が少し驚く。
「若いのに学者か? この用紙からみると言語学者か?」
「いえ、興味のある事柄を追いかけているうちに詳しくなりまして
本だけでは、物足りなくなったので、旅をして色々見てみようかと思いました」
「そうか……。学者になるやつは変わり者が多いからな」
僕に、そう告げると
僕の顔を見て、口角を上げ笑うが、嫌な感じの笑いではなく
応援してくれているような、そんな感じの笑いだ。
「若い頃は、色々見てみる方がいいに決まってる。
人生長いんだからな。俺はここのギルドのマスターしている。
マスターとでも呼んでくれ」
僕が、頷いたのを見て満足そうにマスターもうなずいた。
「ギルドの説明はしたほうがいいかね?」
「はい、お願いします」
「ギルドの仕事は様々だ、簡単なものから危険なものまで
それぞれの力量にあった仕事をしてもらうために、ランクというものがある
ランクの色は、黄、緑、青、紫、赤、白、黒となる。
登録時は、黄色からだ。左手をこの石の上においてくれ」
そういわれて、僕はよく占い師が使っているような水晶ぐらいの大きさの
石の上に左手をのせる、少しあったかい感じがしたかと思うと
左手に、椿の花を守るようにしている鳥の模様が浮かび上がった。
その光景に目を奪われていると、マスターが手の模様について説明をくれる。
「その紋様は、それぞれの職業にあった模様が浮かぶんだ
剣士や傭兵は剣、盗賊や狩人は弓や短剣、魔導師は動物系
知識を生業とする職業は植物系だ」
真面目に聞く僕に、マスターは話を続ける。
「紋様は一人一人違う、それぞれ心の奥底にあるものがシンボルとして
浮かび上がるらしい。お前さんの今の、シンボルの色は黄色だが
ランクが上がるたびに色が変わっていくからな」
「はい、わかりました」
「それから、ギルドの依頼は自分ができると思った範囲で受けることだ。
依頼を達成できなかった場合、ランクが下がることもある。
ランクを上げる方法だが、依頼の用紙にポイントが書いてある
そのポイントが基本となるポイントだ
そこから、依頼を達成するまでの過程がいいほどボーナスポイントがつく
このボーナスポイントは、依頼主からのポイントとギルド員の評価で上下する。
普通にこなすだけの依頼もあるが、少し考えれば効率よくできる依頼
というものもある、そういう依頼をどうやって達成するか
そこがお前達の腕の見せ所だ、頑張ってくれ」
「はい、有難うございます」
僕は、マスターの話を頭に叩き込んでいく。
「それと、冒険者ギルドから ”キューブ ”と呼ばれる魔道具10個を配布している。
これは、お前さんが倒した魔物をいれるものだ
入れたい魔物の前で ” 発動 ”と唱えると
その" キューブ " に魔物が格納されることになっている。
魔物は捨てるところがないほど、使い道があるから魔物に応じて換金させてもらう
魔物が入った ”キューブ”を持ってきたら、新しい ”キューブ”を渡すからな」
キューブに、丸ごと入るということはRPGのゲームのように
一々換金部位を剥ぎ取らなくてもいいという事か……。
「他に聞きたい事はあるか?」
「いえ、ありません。有難うございます」
マスターから、一通りの説明を聞きお礼を言った後
ギルドの冊子を貰ったのでカバンにしまう。
ふと、自分の左手に浮かんだ紋様が目に入り、右手で撫でながら見つめる。
僕が憧れる、椿の花の紋様を見て少し切なくなった。
そんな感傷を胸に終い、僕は何か依頼を受けようと決めた。
読んでいただき有難うございます。