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第十一楽章

「おぉ~い! 俐桜! ちょっと待ってくれ!」


俺は前に黒いランドセルを背負って歩く俐桜を追いかけた。

俐桜は俺の声に気がついて、振り返って俺の到着を待った。


「鶯、どうしたの? 今日は、稽古あるから遊べないよ。」


走ってきて荒れた息を整えている俺を待ちながら、俐桜は言った。

俐桜は毎週水曜日はヴァイオリンの稽古があるから遊べない。それくらい、知ってる。でも……


「いいから、ちょっと来い!」


俺は俐桜の手を無理矢理掴んで、今来た道を走る。

俐桜のひょろい腕を掴み、ランドセルがガシャガシャいいながらも走る。


「ちょっと……鶯!? どこ行くの!?」


俐桜は俺の足に必死について来ながら、聞いてきた。

しかし、俺は何も言わずに必死に走った。小学校の正門を通り過ぎ、近くの“天狗山”と呼ばれる山に入った。この天狗山は俺たちはよく遊ぶ山。

俺はいつも遊ぶ広場の近くの茂みに潜り込んだ。


「なぁ、鶯。僕、今日はヴァイオリンが……」


「しぃー! ちょっと黙って……」


俺は俐桜の口を手で塞ぎ、茂みの中で息を殺した。口をもごもごさせる俐桜と、茂みの中から道を見つめる。茂みから道を見ると、1人の女の子が立っていた。


「なぁ、何の用? レッスンに遅れちゃう……」


「まぁ、そう言うなって。俺はボランティアをしてるんだ。あそこに女子がいるだろ?」


俺は俐桜の肩を組ながら小声で話した。俐桜は疑問に思いながらも頷いた。


「今から、あの女子とお話してこい。」


「はぁ? なんで。僕、あんな子知らないし、話した事もない子と何で話さなきゃならないんだよ。」


こいつも鈍いな……

長い睫毛に整った顔、ちょっと色素の薄いさらさらの髪の毛。普通にしていたら、なかなか格好いいと思う。当の本人は気が付いてないが、もちろん女子にはモテる。


そんなモテモテの俐桜と友達をしていると、いたる女子から俐桜の事を聞かれたりする。

そして、最終的に今日の用に告白の手伝いまでさせられてしまう。俺って、お人好し過ぎるかなぁ?


「いいから、行け!」


文句ありげな俐桜の背中を強く押して、道に出させる。そうすると、カチカチに固まった女子が俐桜の方を向いた。

さて、後は告白タイムを覗き見するだけ。

手伝ってやったんだから、それぐらい見ても怒られはしないだろう。俺は茂みの中からカチカチに固まった女子と俐桜を眺めながら、笑いをこらえる。俐桜はなんて反応するかなぁ~



****



「いててぇ……鶯の奴……」


背中を強く押され、道に飛び出してしまった。ランドセルに着いた草やゴミを叩きながら立ち上がる。


「あ……あのぉ~俐桜君?」


服に着いた砂を払っていると、女子が話しかけてきた。この子名前は知らないけど、確か隣のクラスの子だ。


「ん? 何? 僕、今日用事があるから、手短にお願いしたいんだけど。」


僕より少し低めの身長の女子と対面して、彼女が話し始めるのを待った。

すると、見る見るうちに顔が赤くなっていくのが分かった。


「ねぇ、顔赤いけど、大丈夫? 風邪気味なら早く帰った方がいいよ。」


僕は彼女の顔をのぞき込むようにして言うと、彼女はよりいっそう顔を赤くした。なんだ?


「あ……あの! 俐桜君、私俐桜君の事が好きです!」


赤い顔をした彼女が突然言い出した。はぁ?


「前から、俐桜君が好きでした。そっ……そのぉ。私と付き合って下さい!」


彼女が頭を下げながらそう頼んだ。


「えぇ~と。僕? ごめんだけど、そう言うの興味ないんだ……だから、ごめんなさい。」


僕は素直にそう言って頭を下げた。

彼女は僕の返答を聞いて、少し泣きそうな顔をしながらゆっくり笑った。


「そう。ごめんね、用事あるのに急に呼び出して……ありがとう。」


彼女はそう言って走り去っていった。何だったんだ?


「何やってんだよ!?」


女子が去って少ししてから、鶯は俺にタックルしてきた。


「何って……断っただけだけど……」


「じゃなくて、なんでそんな簡単に断るんだよ!? もうちょっと悩め! 相手の子が可哀想だろ! それにめっちゃくちゃ可愛かったじゃんか!」

それは鶯の好みじゃん……

それに、好きでもない子にそんな事言われても、迷惑以外の何物でもない。


「あぁ~五月蠅いなぁ……もういいでしょ。僕帰るよ。ってか、何で鶯が仲立ちしてんの……」


ランドセルを背負い直して、歩き始める。鶯は下ろしていたランドセルを背負って、僕を追いかける。


「俺は単なるボランティアだよ。それより俐桜、お前なぁ~もっと女の子の事考えてあげないと、相手を傷付けるぞぉ~お前モテるんだから。」


「そんなの知らない。そういうの興味ないし。僕には関係ない。」


広場を通りながら時計を見る。ギリギリ間に合いそうだ。天狗山の下り坂を二人で歩く。


「お前は将来恋した時、絶対苦労するぞ。相手が何考えてるかとか、分からないって、苦労する。絶対! 俺はお前の将来を心配するよ……」


鶯は大きなため息をつきながら僕の肩を叩いた。お前に心配されても……それに、そんなに断言しなくてもいいだろ。

そんな先のこと、分からないし。それに、それまでには、僕も何かしら経験をするだろう。そうしたら、分かるようにもなるよ。



****



なるほど、鶯の言うことが当たってしまったな……

内心、そう思いながらも決して言わない。


「大丈夫だって……」


「大丈夫じゃねぇだろ? 城崎が心配してたぞ。入院中、城崎に会わないってどうしてだよ。なんか理由でもあるのか?」

病室に鶯の大きな声が響く。


そう、俺は入院中一輪に会わないと言っておいた。

もちろん、一輪は反対した。でも、今回の入院は薬に慣れるまでっというもの。そんな期限のない入院に一輪を縛り付ける訳にはいかない。それに、この薬は強いもの。そんな薬で窶れた俺を見られたくない。


一輪にはちゃんと説明出来ないまま入院した。それで一輪が鶯に相談したらしい。

鶯には入院のことすら言ってなかったから、慌てて病院に来ていきなり殴られた。それで今は一輪の事について説教中。


「別に……」


「じゃぁ、なんで会わないんだ? 城崎の気持ちも考えろよ。今回の入院、長いんだろ? お前は長い間会わないでいられるのかよ。」

鶯の言葉を聞いていると、決意が揺らぐ。会わないって決めたんだ。次に会うときは、絶対元気な姿で会うって……


「自分勝手なのは分かってるよ。」


「あのなぁ~城崎がわざわざ俺に聞きにくるぐらいなんだよ。それほど、あいつはお前を心配してるんだよ。分かるか?」


鶯はうなだれて大きなため息をつく。心配してくれてるのも、分かってるよ。でも……


「この入院中に会ったら、どうしても一輪に甘えそうになる。だから、一輪に会うためにも早く慣れたいんだ。これは、自分勝手だけど……」


鶯は何も言わなかった。

ただ、真っ直ぐに俺を見つめながら話を聞いてくれていた。


「入院中ってさ、この病院から、この病室から出られないんだよ。この地獄の日々を耐えるには、何か目標がないと、なんて言うか……壊れちゃいそうになるんだよ。何かを信じていないと……自分がどうなってるのか、自分はどうなるのか……分からなくなるんだ……」


俺は自分の両腕を抱くように強く握りしめる。怖かった。何かを、決心した事を信じてないと、怖い。

鶯はそんな俺を見ながらちゃんと聞いていてくれた。こんな話、誰かにするのなんて始めてだ。


「回復したら一輪に会えるっていう目標を勝手に決めたんだ。だから、会わない。」


俺は鶯を真っ直ぐに見つめ返して言った。

鶯は俺の言葉を聞いて、少し考えて時期、大きなため息をついた。


「はぁ~分かったよ。そういう理由なら、俺は何も言わない。でも、城崎には自分で説明しろよ。俺はこんな事言える自信ねぇ~」


鶯は椅子にふんぞり返って足を組んだ。


「えっ……鶯が説明してくれよ。鶯に相談してきたんだから……」


俺もちゃんと説明出来る自信ないよ……それに、自分から一輪にこんな事言えない……


「はぁ? 自分の事だろ。自分で言えよ。俺が言ってやってもいいが、“俐桜は城崎に会ったら、もう気持ちを抑えきれないからぁ~”とか言っていいならいいぞ。」


鶯は腕を頭の後ろで組み、そう言いながらニカッと笑った。


「止めろよ! 分かった、自分で言うよ……」


「それでよろしい。それより、俺に入院の事言わなかった事の方が俺は怒ってんだぞ。水くさい奴。まぁ、俺は基本暇だから、寂しくなったらまた電話してこい。公衆電話ぐらいあるだろ?」


鶯は携帯の番号を病室にあるメモ帳に書いた。


「寂しくなったらって、そんなの絶対しないからな。」


「まぁ、そう言うなよ。いつでも電話してこい。本音吐き出して少しすっきりしたんじゃねぇか?」


鶯は俺の顔を見ながら口角を上げた。なんだよ、このどや顔……


「うるせぇよ。用事が済んだら帰れよ……俺寝るぞ。」


俺は図星を付かれ、少し恥ずかしく顔を背けながら言い放つ。


「なんだよぉ~いいだろ? 面会時間ギリギリまでいてやるよ。暇だろ?」


鶯は背けた俺の顔を追いかけて、身を乗り出した。しつこい奴。そのまま、無言で顔をそらし続けると鶯は俺の脇を擽り始めた。

鶯と馬鹿笑いすると心が少し軽くなる。

鶯は、俺に構ってくれる唯一の友達。一輪とは違う、兄貴であり親友のような存在。


2人でバカ騒ぎをしていると、病室の扉が開いた。開いた扉の先を見ると先生と看護士が立っていた。


「おぉ、俐桜君元気そうだね。珍しく笑ってると思ったら、お友達かな?」


先生はにこやかに笑いながら俺に近付いてきた。看護士は点滴の替えと注射を乗せたトレイを俺の横の棚の上に置いた。鶯は俺を擽るのを止めて椅子から立ち上がった。


「こんにちわ。俺、俐桜の小学校の頃からの友達の一ノいちのたに鶯です。騒がしくして、すみません。」


鶯はそう言いながら先生に手を差し出す。こう見ると、鶯ってでかいんだなぁ~と思う。先生よりちょっと低いが、部活をしてるからか肩幅が広く、ゴツい。


「いえいえ。始めまして、俐桜君の担当医の孔野です。これからも俐桜君を笑わせてやってよ。この子全然笑わないから。」


先生は本人を目の前にしてそう言いながら鶯の手をとり握手した。失礼な、俺だって笑うよ……


「お医者さんなのに、若いんすね! 任せて下さい! 俺がこいつに笑わせて見せます!」


鶯は先生を見ながらニカッと笑った。いや、だから俺だって笑うって……

先生と鶯がなんだかんだで打ち解けている間に俺は点滴を交換されていた。


「そう? これでも、もう31なんだよ。頼もしいお友達を持ってるね、俐桜君。でも、診察の時間だから、ちょっと待っててね。」


先生、31歳なんだ……始めて知った。

鶯は頷いて少し下がり、椅子に座って待っていた。

先生は聴診器で俺の心拍数を聞いたり、リンパ腺を触ったりした後注射の準備をし始めた。


「とりあえず、今回は今までの薬にしといて、新しい薬は今夜か明日にしようか。」


先生は鶯の方をチラッと見ながらそう言った。


「俺、今日体調悪いの?」


俺はカルテを書く先生に聞いてみる。


「いや、そうでもないよ。」


先生はキョトンとした顔をしながら答えた。


「じゃぁ、悪くないんだったら、その薬今使ってよ。早い方が良い。」


俺はベッドに預けていた体を起こし、先生に意志を伝える。先生はキョトンとした顔から、驚きの顔に変わった。


「でも、今はせっかく一ノ谷君が来てくれてるんだ。彼だって、俐桜君の苦しむ姿は見たくないだろう。」


やっぱり、鶯がいるからか……先生は周りのことも考え過ぎなんだから……でも、それなら大丈夫だ。


「先生、俺は大丈夫っすよ。今まで目を背けてきたんだ。俺はこいつを笑わすのと、城崎に見せない姿を見る役目がある。俺のことなら考えないでいいですよ。な、俐桜。」


鶯はそう言って少し笑った。

さすが鶯、分かってるな。


「あぁ、別にお前にそんな役目はないけどな。先生、薬使ってよ。」


もう一度、今度はさっきより強く言うと、先生は頭を掻きながら考えた。そして、小さく笑いながら大きなため息をした。


「分かったよ。でも、条件。俐桜君は何かあったら絶対すぐにナースコールを押すこと。一ノ谷君は俐桜君の見張りと、ストッパー係り。俐桜君が無茶しそうだったら無理矢理にもナースコール押すこと。」


先生は俺と鶯の顔を交互に見ながら言った。俺も鶯も頷く。


「はぁ~なら、よろしい。じゃぁ、打つけど……拒絶反応があったら、本当に大変だからすぐ呼ぶんだよ!」


強く念押しされ、俺は再度頷く。そして、先生は看護士さんに頼んで急遽薬を変更してもらい、注射を打ち込んだ。



****



あぁは言ったものの……

内心ではやっぱり怖かった。俐桜が苦しむ姿を見たことないし、本音は見たくない。

でも、俺のせいで俐桜の目標を邪魔したくない。俐桜を城崎に会わせてやりたい。早く治してやりたい。

それに、俐桜も俺がこう言うと分かって言ってると思うし……


慣れた様子で注射を打たれる俐桜を見ながら、やっぱり俺と生きている世界が違うと実感した。

正直に宣言しよう。俺は注射が嫌いだ。

でも、俐桜はそんな事言ってられないんだよな……やっぱり俺って贅沢者だな。


「はい、完了。薬が効き始める頃にもう一回来るけど、お利口にしてるんだよ。一ノ谷君、見張りお願いね。」


孔野先生はそう言って、少し笑いながら病室を出て行った。あの先生、なんかいい感じの人だなぁ~

俺はベッドに寝転ぶ俐桜の横に椅子ごと移動した。


「大丈夫か?」


黙っている俐桜の顔を覗き込みながら聞いてみる。


「そんなすぐ効くかよ。そんな即効性のある薬ヤだよ。まだかかるよ。」


俐桜は呆れたように言うと、リモコンを操作してちょっとベッドに傾斜作った。


「そりゃ、そうか。全く、お前も無茶するよなぁ~そんなに城崎に会いたいか。」


「馬鹿っ! そんなじゃねぇよ!?」


俺は少し茶化すように言うと、俐桜は顔を少し赤くしながら俺の肩を叩いた。

俺は笑いながら、俐桜の弱いパンチを腕で受ける。あんま痛くねぇんだもん~

少しすると、俐桜は普段に戻り小さくため息を漏らす。こいつのこういう正直なとこ好きだわぁ~


「鶯……」


俐桜はベッドに体を預けながら俺の名前を呼んだ。


「ん? なんだ?」


俺は窓の外に目をやる俐桜を見る。俐桜は少し寂しそうに眉を垂らしながら呟いた。


「ありがとな。」


……はぁ? 何に対してのありがとうだ? 俺、なにかしたかなぁ……


「なんだよ、いきなり。気持ち悪い。何のありがとうだ、それは……」


「気持ち悪いってなんだよ。人が素直に礼言ってんのに……さっき、俺のわがままに賛同してくれた事に対する礼だよ。先生の言うとおり、お前だってわざわざ苦しむ俺を見たくなんかないだろ……なのに、ああ言ってくれて、ありがとうって事だよ。」


あぁ……そんな事……

俺はてっきり今茶化した事かと……


「あぁ、あれな……成り行きだよ、あんなの。確かに俺はお前のそんな姿見たくねぇよ。それを承諾してやってんだ、有り難く思えよぉ! あぁ~安心した。ちょいと便所行ってくるわ。」


そう言って俺は立ち上がって俐桜を見る。俐桜は少し笑って“シッシッ”と言いながら手で俺を向こうにやった。



病室から出て、扉を閉める。

ちょっと、落ち着こう。俐桜はあんなに落ち着いてるのに、俺が不安になってどうするんだ……

静かなのか騒がしいのか分からない廊下をポケットに手を突っ込みながら歩く。


さっき俐桜には安心したなんか言ったが、内心ではビクビクだ。

いつ、薬の副作用が出るか分からないし、本当に俐桜の意見に賛同して良かったのか……めちゃくちゃ不安だ。歩く速度は心拍数と同調して速くなる。


エレベーターホールに着くと、孔野先生がベンチに座っていた。


「やぁ、一ノ谷君。どうしたの?」


先生は俺の存在に気が付くと、手招きした。俺はその指示に素直に従い、先生の横に座った。


「いや、ちょっと頭を冷やしに……」


「ははは。ちょっとびっくりちゃったかな? あっ、そうだ。一つ聞いて良い?」


先生は人差し指を立て、俺を見ながら聞いてきた。俺が頷くと少し笑った。柔らかい笑顔の人だ。


「なんで、俐桜君の意見に賛同したんだ? 君的には友人の苦しむ姿は見たくないだろうし、俐桜君がわがままなのも、ある程度理解してるだろう? どうして?」


先生は首を傾げながら俺の目を見つめた。なんで、か……


「確かに、俺も見たくないのは当たってます。でも、さっき自分で言った事も本当なんすよ。。今まで俺は目を背けてきたんだから、たまにはちゃんと俐桜を見てやんないとなぁ~て……ほら、あいつ頑固でわがままなのに、弱音言ったり弱いとこを他人に見られるの嫌うから。本当の俐桜をちゃんと見てやる奴が、俺ぐらいはいてやっても良いかなって……」


そう言いながら自分で何言ってんだろうって思ってる、自分がいる。

俐桜をちゃんと見てやる……か。逃げてる俺が何言ってるんだか……

俺があいつから逃げちゃ駄目なんだ。あいつはあいつの中で戦ってる。それから俺は逃げちゃ駄目だ……俺はあいつの親友であり、相棒なんだ。

城崎を思う気持ちがあいつを動かしている。城崎がいれば、俐桜は死なない、死ねない。

俺は昔からあいつのサポート係だ。


このポジションが変わることはないだろうし、変わる気もない。

それに、城崎にも救いの手は出してある。俺って結構策士かも~


「そうか、一ノ谷君は俐桜君のお兄さんみたいだね。1つ、君にお願いしたいことがあるんだ。もちろん、これは一輪ちゃんにも言えることなんだけど……」


先生は俺を真っ直ぐに見つめて言った。


「最後まで俐桜君を信じてあげて欲しいんだ。俐桜君がどんな状態になっても、ずっと……絶対に……」


先生はそう強く言って、悲しげな笑顔を浮かべた。

どう言うことだ? どんな状態になっても……?


「もちろん、そのつもりっすよ。俺は、俐桜は学校に帰ってくるって思ってますから。じゃぁ、病室に戻りますわ。さいならぁ~」


俺は立ち上がり、少し会釈して病室に戻る。

先生は安心したように肩の力を抜き、手を振って俺を見送った。

先生の、あの悲しそうな笑顔が俺の不安をより大きくさせた。

どんな状態になっても……

この言葉が頭の中でループしている。


廊下に響く、俺の足音が不気味に反響していた。

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