犯罪の根源
【あらすじ】
2015年9月5日、平凡な高校生だった雪解風・テヒモシンは、退屈な開校式の後に森で見つけた不思議な「椅子」に座った瞬間、その運命を大きく変えられた。
彼を待ち受けていたのは、地球を守護する三柱の神「モゴット」。
しかし、彼らから告げられたのは絶望的な真実だった――人類の傲慢さに激怒した上位神「ハイゴッダー」たちが、人類の抹殺を決定したというのだ。
光の力を受け継ぎ、三年に及ぶ「第12次元」での地獄の修行を終えたテヒモシン。彼は2018年、地上へ帰還する。その手には神の椅子が姿を変えた究極の兵装「GL」を携えて。
人類を救うために課せられた使命は、世界中に散らばる五人の「神の子」を探し出し、最強の異能者チームを結成すること。
光速の20億km/hを超える速度で世界を駆け巡り、テヒモシンは個性豊かな仲間たちを招集する。
一癖も二癖もある元社長やエリートたち、そして心に傷を負った者たちが集い、最悪の神々に挑む。
これは、支配されるだけの存在だった人間が、神の審判を覆すための反撃の物語。
「光より速く、絶望を追い越してみせる。」
第一章 退屈な開校式と不思議な椅子
二〇一五年九月五日、土曜日。
十年生の開校式の強い日差しの下、私は生徒たちの群れの中であくびを噛み殺しながら立っていた。スピーカーから流れる古臭い挨拶の声は、ここ九年間で何度も聞いたものばかりだった。
私の名前はセツゲフール・テヒモシン。エンターテイメント大企業の会長の息子という立場から、人々はいつも私を傲慢な奴か、遊び人の御曹司だと思っている。でも本当は、私はただ静かな日常を送り、人々の話を聞き、手を差し伸べるような人生が欲しいだけだ。あまり多くを語るのは好きじゃない。行動の方が千の言葉より重いと信じているから。
「……つまらないな」
私は心の中で呟き、特徴的な鳥の翼のような髪を軽く直した。
開校式が終わると、まだ時間は早かった。私は校舎裏の森の端に向かって歩き始めた。セミの声と落ち葉の匂いが、式の息苦しい空気よりずっと心地よかった。
歩いている途中、私は足を止めた。茂った藪の間に、妙に場違いな椅子が一つ置かれていた。
「なんでこんなところに椅子が……?」
疑問に思ったが、長時間日差しの下に立っていたせいで足はもうガクガクだった。開放的で時々お気楽な性格の私は、舌打ちして言った。
「まあいいや。疲れたし、適当に座るか」
お尻が椅子の座面に触れた瞬間、背筋にぞわっと冷たいものが走った。
――ドン!
私の足元から巨大な白い光の柱が九重の雲まで突き抜け、周囲のすべてを飲み込んだ。
目を開けると、私は果てしない白い空間の中に立っていた。地面もなく、空もなく、ただ目が痛くなるほどの白一色だけ。
「ここは……どこだ?」
私は思わず制服の裾を強く握りしめながら呟いた。
「ここは第十二次元だ」
低い、渋い声が響いた。
虚空から、巨大な存在が現れた。それは大地のような輝きを放つ九本の尾を持つ狐だった。威厳に満ちた目で私を見つめている――地神・チジュウシン。
「そして、ここは神々の住処でもある」
別の声が続いた。今度は美しい翼を持つ鳳凰で、一つ翼をはためかせるたびに竜巻のような風が私の周りを渦巻いた。風神・フエザシン。
「どうしてここにいるのか、気になっているだろう?」
三番目の存在が言った。
私はその「生き物」を見て眉をひそめた。私の共感能力のおかげで、恐怖はなく、ただ……好奇心だけが湧いていた。
「いや、俺が気になってるのは、貴方が何なのかだけなんだけど?」私は率直に答えた。「地神は九尾の狐、風神は鳳凰……で、貴方は……あんまり神様らしく見えないんだけど?」
「我は龍だ!」
その生き物が声を荒げた。
私は首を振り、平然とした顔で言った。「ありえないよ。現実の龍はこんな風には見えない。貴方はまるで……」
「黙れ!」
水神・スイズシン――が激昂して遮った。「お前が映画や本で見た龍など、安っぽい想像の産物に過ぎん! 蛇に足を生やしたり、恐竜にコウモリの翼をくっつけただけで龍だと思うのか? ここが本物の龍の姿だと言い切れる!」
チジュウシンが大きく笑い、フエザシンは首を振った。「久しぶりだな、水神を本気で怒らせた人間は。普段はあんなにお淑やかで可憐なのに」
私は肩をすくめ、心の中で思った。(この神様たち、意外と面白いな)
「まあいいや、龍の本物とか偽物とかは置いといて。で、なんで俺がここにいるんだ?」
第二章 神々の遺産と元素のグローブ
白い空間の空気が一瞬で重くなった。九尾の狐である地神・チジュウシンが、深い憂いを帯びた目で私を見つめた。
「テヒモシン、我々がお前をここに呼び出したのは、外見について議論するためではない」
チジュウシンが低い声で言った。「我々は別の使命を果たすため、地球を離れなければならない。しかし何より心配なのは……神々ヒゴッダーたちのことだ」
「ヒゴッダー?」
私はその聞き慣れない名前を繰り返し、何か不吉な予感を覚えた。
鳳凰の風神・フエザシンが軽く翼をはためかせ、緊張を和らげるような柔らかい風を起こした。
「説明しよう。我々の世界、神々の階級は二つに分かれている。モゴッドとヒゴッダーだ。我々はモゴッド――地球を外部の邪悪な存在から守る者たちだ。一方、ヒゴッダーは……」
風神は少し間を置いて続けた。
「ヒゴッダーは、お前の世界の内部――自然や人間を含む万物を直接管理する神々だ」
チジュウシンがため息をつき、巨大な尾を軽く揺らした。
「ヒゴッダーたちは激怒している。人類が自然を破壊し、滅ぼし続けていることに耐えかねたのだ。彼らは……この惑星を浄化するため、人類全体を抹消すると決めた」
私は呆然とした。そんな絶滅の決定が、あっさりと口にされるなんて。いつも他人の気持ちに寄り添う性格の私は、心が締め付けられるのを感じた。
「我々がいるうちはまだ手を出せずにいるが、我々が去れば、ヒゴッダーたちは必ず動き出す。お前の世界を罰するだろう」
チジュウシンが続けた。
「その日に備え、我々は『神の椅子ゴチャイロ』を作り出した。それは人間の内に潜む元素の力を呼び覚ます力を持つ品だ。この椅子は森の中で49年間、誰も座る資格を持つ者が現れず、ただそこにあった。そして50年目……お前が現れた」
「お前は、光の力を選ばれた者だ」
私は自分の両手を見下ろし、それから自分が座っていた椅子を見た。
「……でも、なんで椅子なんだ?」
フエザシンがくすっと笑った。鈴のような澄んだ笑い声だった。
「仕方ないわ。我々三人が力を合わせて選定者を探す道具を作った時、なぜか椅子になってしまったの。きっと天意でしょうね?」
「もう時間がない」
水の渦に身を包んだ水神・スイズシンが言った。
「お前は光の力を持ち、最初に教える必殺技は『光速』だ」
――三年後。
二〇一八年七月一日、日曜日。
第十二次元での三年間の修行はあっという間だったが、私にとっては完全に生まれ変わる旅路だった。あの頃の無邪気な高校一年生は、もういなかった。今の私は、運命すら変えられる力を身につけていた。
「修行はこれで終了だ」
チジュウシンが、別れを惜しむような声で言った。
「もうすぐ行ってしまうんですか?」
私は重い気持ちで尋ねた。
「我々は他の宇宙へ飛び、遠方の神々の反乱を鎮めなければならない。お前の地球での任務はまだ重い。光以外に、まだ五つの元素の力がある。お前は残りの五人の選定者を見つけ出さねばならない。我々にはもう彼らを鍛える時間がない。だから、この元素の核を託す」
神々が虚空に消えようとした時、私は慌てて呼び止めた。
「待って!」
「どうした?」
チジュウシンが振り返った。
私はずっと顔をベールのような水の霧で隠していたスイズシンを見た。三年間一緒に過ごした先生の顔を、温かい心からどうしても知りたかった。
「スイズシン……三年も一緒にいたのに、まだ俺に顔を見せるのが恥ずかしいんですか? もうすぐ別れるんだし、見せてくれませんか?」
スイズシンは少し迷ったが、チジュウシンとフエザシンの後押しもあり、ゆっくりと顔を覆う布を下ろした。俗世を離れた美しさが現れ、白い空間がより明るく輝いたように感じた。
「よし、これでいいな! 我々は行くぞ!」
チジュウシンが大笑いした。
「ちょっと待って!」
私はまた声をかけた。
フエザシンがため息をつきながらも、辛抱強く聞いた。
「今度は何だ、坊や?」
私は頭をかきながら、宙に浮かぶ神の椅子ゴチャイロを見た。
「この椅子……グローブに変えてもらえませんか? 椅子を抱えて仲間を探し回るのは、ちょっと……変でしょう?」
三人の神は顔を見合わせ、同時に大笑いした。そして最後の光を放ち、粗末な木の椅子を、元素の威力を宿した精巧な金属のグローブへと変えた。
グローブが私の手に収まった瞬間、モゴッドたちの姿は本当に消え去った。私は一人、壮大な使命を背負って残された。
仲間探しの旅が、ここから本格的に始まる。
第三章 最後の仲間たち
街で一番高いビルの80階、地熱発電所の本社オフィス。窓ガラスが天井まで届く部屋で、フェルシエダー・ゴンドラカは外を眺めながら小さくため息をついた。仕立ての良いスーツを着こなし、落ち着いた社長らしい態度で彼は言った。
「はあ、仕事はいつも同じことの繰り返しだな。来週は休暇だ。オヴィムチ、どこへ行こうか?」
後ろに立つ巨漢のボディガード――オヴィムチ――は、筋肉が盛り上がった胸の前で腕を組んでいた。禿げ頭と髭面が放つ殺気は、誰が見ても恐ろしい。
「またヨーロッパでもどうですか? もう行ったことのない場所なんて、ない気もしますが」
「世界を救う旅行はどうだ?」
突然、機密の極めて高い部屋に別の声が響いた。
即座にオヴィムチが社長の前に躍り出て、拳を固め、侵入者を叩き潰す構えを取った。
「貴様は何者だ? どうやってここに入った?」
ゴンドラカが目を細めて問う。
目の前に立っていたのは、鳥の翼のような特徴的な髪型をした青年。片手には奇妙な金属のグローブがはめられ、淡い光を放っていた。テヒモシンは平然と答えた。
「世界がもうすぐ滅びそうなんだ。言っても信じないだろうけど」
「80階だぞ。高レベルのセキュリティが何十重にも張り巡らされている……どうやって突破した?」
オヴィムチが唸るように言った。
「俺は世界を救うために選ばれた人間だ。そんなおもちゃじゃ俺を止められないよ」
テヒモシンは微笑み、二人の方に手を差し伸べた。「でも一人じゃ足りない。君たち二人の力が必要だ」
神のグローブ(God of Love=GL)を使って二人の体内に眠る元素の力を覚醒させると、権力者である二人の男の血管に、爆発的なエネルギーが駆け巡った。
「信じられない……」
ゴンドラカは震える自分の両手を見つめた。「しかし、どうやって俺たちを見つけたんだ?」
「一週間で世界中を走り回ったよ」
テヒモシンは散歩でもしたかのようにあっさり答えた。「光速と限界突破を組み合わせれば、この惑星にいる一人一人の『円』に触れることができるんだ」
「時速20億キロ以上……お前はいったい何の化け物だ?」
オヴィムチが冷や汗を流した。
ゴンドラカはネクタイを直し、決意に満ちた笑みを浮かべた。
「世界を救うのか。面白そうだな。特別な旅行だと思って参加しようじゃないか」
――
陽光あふれるテラスで、水力発電所の社長であるイラガエ・ウイルコが、冷たい表情の秘書ホラン・シュネヴィティと共に紅茶を飲んでいた。
テヒモシンの突然の出現に、ウイルコの手にしたカップがわずかに揺れた。
「世界が二人の助けを必要としている」
テヒモシンは簡潔に言った。
普段の明るい性格とは裏腹に、ウイルコは眉をひそめた。
「世界を救う? どうして私たちがそんなことをしなければならないの? 世界のことは私たちに関係ないわ」
しかし、無表情の秘書シュネヴィティはカップを置き、立ち上がった。眼鏡を直し、落ち着いた目でテヒモシンを見つめる。
「それは違うわ、ウイルコ。私たちは地球に生きているのよ。地球が必要としているなら、責任を持つべきだ」
彼女はテヒモシンの方に向き直った。
「話して。何をすればいいの?」
「素晴らしい! 君は本当に責任感が強いね」
テヒモシンはシュネヴィティの精神に感心した。水と氷の力を与えた後、彼は一言残した。
「2018年8月23日、木曜日、午後8時。ヴォルヘハリト火山で待ってる。遅刻するなよ!」
――
最後の人物は、風力発電所の女社長シェンケレベ・チョウカゼリだった。
テヒモシンが彼女を見つけた時、彼女はぼんやりと虚空を見つめ、「世間知らずのお嬢様」といった表情を浮かべていた。
「おい、世界を救ってくれって言ってるぞ!」
「世界が救ってほしいなら勝手にすれば? 私に関係ないでしょ」
チョウカゼリは天然だが頑固な口調で答えた。
テヒモシンはため息をつき、これまでの経験からすぐに近づいて風の力を即座に与えた。
「ほら、力は本物だ。信じるも信じないも、参加するもしないも君次第。でも俺が与えた力は、いつでも取り戻せるよ」
「参加しない。世界救済チームなんて男ばっかりでしょ? 女は私だけ?」
「いや、二人の女の子がいるよ」
チョウカゼリはぱっと立ち上がった。
「じゃあ参加する!」
「なんでそんなに急に変わるんだよ……」
チョウカゼリは話題を逸らし、テヒモシンの手に輝くグローブをキラキラした目で見つめた。
「そのグローブ、すっごく綺麗! 名前は何ていうの?」
「GL――God of Loveだよ」
「ガールラブ(百合)!?」
彼女が目を輝かせて叫んだ。
「違う! 『愛の神』だよ!」
テヒモシンは泣き笑いの表情になった。
こうして六人目のメンバーが加わり、元素の戦士たちによるチームが完成した。彼らはこれから、ヒゴッダー神々の怒りに立ち向かう準備が整った。
第四章 「神の子ら」チームと賑やかな集合
風力発電所を後にした私は、歩きながら自嘲気味にため息をついた。
「信じられないな……」
テヒモシンは独り言を呟いた。「元素に選ばれた者たちが全員『社長さん・会長さん』ばかりだなんて。みんな五つ星ホテルと豪邸に慣れ親しんだ人たちばかり。神様たちが半世紀もかかって見つけたのも納得だ。この力も『高級な場所』を選んで宿るのが好きらしい」
2018年8月23日、木曜日。ヴォルヘハリト火山。
午後8時ちょうど、火山特有のむせ返る空気が、六人の人間の登場によって破られた。全員が揃うのはこれが初めてだった。
「このチームの名前は何にするんだ?」
生まれつきのリーダー気質を持つゴンドラカが、沈黙を破って尋ねた。
「俺たちのチーム名は『神の子ら』だ」
テヒモシンが答えた。「ゴンドラカとオヴィムチは地神の血を引いている。ウイルコとシュネヴィティは水神の末裔。そしてチョウカゼリは風神の子だ」
オヴィムチは腕を組み、岩のような二の腕を強調しながら言った。
「じゃあ誰がリーダーだ? 誰が副リーダーだ?」
全員の視線がテヒモシンに集まった。
テヒモシンは慌てて手を振った。
「俺じゃないよ。俺はただみんなを集めただけだ。俺はアドバイザー――指導と監視役にするよ。それに……」
テヒモシンは苦笑いした。「俺は無職で、リーダー経験ゼロだからな。運営権は、社長の椅子に慣れている君たちに任せたい」
彼はゴンドラカとシュネヴィティを指差した。
「ゴンドラカをリーダー、シュネヴィティを副リーダーにしたい。みんなはどう思う?」
ゴンドラカは静かに頷いた。
「とりあえずそうしよう。後で誰かもっと相応しい者が現れたら、すぐに譲るよ」
女性陣も軽く首を振って反対しない意思を示した。
気まずい空気を和らげるため、テヒモシンはシュネヴィティの方を見た。今日の彼女は後ろに流した白銀の髪が印象的で、いつもと違って凛々しかった。
「その白虎みたいな髪型、かっこいいね」
「ありがとう」
秘書は短く答え、相変わらず氷のような無表情だった。
しかし視線をウイルコに移した瞬間、テヒモシンは固まった。
彼女は濃い化粧をして本物の芸者かと思うほどで、しかも頰に大きく「Sister Love」と書かれていた。
「私のメイクに何か文句でもあるの?」
ウイルコが目を細め、挑戦的に言った。
「い、いや、別に……」
テヒモシンは冷や汗をかき、今度はチョウカゼリを見た。自分がデザインしたはずの控えめな服装が、大胆に切り込みが入り、信じられないほど肌を露出していた。
「俺がデザインしたのはこんな『布面積少ない』服じゃなかったはずだけど?」
「私のファッションセンスに何か意見でもあるの?」
お嬢様気質の彼女が腰に手を当てて言った。
テヒモシンは黙るしかなかった。するとシュネヴィティが近づいてきて、小声で耳打ちした。
「みんなに可愛いって言われるから、わざと変なメイクをして怖く見せようとしてるのよ」
テヒモシンはため息をつき、小声で返した。
「可愛い子が何をしても可愛いけど、可愛くない子が無理に可愛くしようとすると、逆に嫌味になるんだよね。結局、彼女は何をしても『女らしさ』が出てしまうんだよ」
「しーっ! 小声で。聞こえたら落ち込むから」
シュネヴィティが止めたが、遅かった。ウイルコが姉の手を引っ張り、弾丸のような目で私を睨んだ。
「ねえねえ、お姉ちゃんがあいつに何を言ったの? 教えてよ!」
その頃、チョウカゼリは二人の女の子をキラキラした目で見つめていた。
「へえ、このチームにはクールビューティーと可愛い子がいるなんて!」
思いついたら即行動。お嬢様は叫んだ。「寒い! 抱きしめさせて!」と言ってシュネヴィティに抱きついた。
「ちょっと! 何するのよ!」
ウイルコが叫んでチョウカゼリを押し退けた。
「えー、ただ仲良くなろうと思っただけなのに」
チョウカゼリが唇を尖らせた。
テヒモシンは彼女の耳元で囁いた。
「おい、あんな露出度の高い服を着てるのは、女の子を抱きやすいようにしたわけじゃないよな?」
「痛っ!」
突然ウイルコの悲鳴が響いた。彼女はお腹を抱えてとても悲しそうな顔をした。
「どこが痛いの?」
シュネヴィティが慌てて聞いた。
「ここ……」
ウイルコは腹部を指差したが、顔は恨めしげだった。「お姉ちゃんが他の人に抱きつかれて傷ついた心の傷よ!」
チョウカゼリ:「二人の反応、なんかおかしくない? まさか二人が恋人同士とか?」
テヒモシンは頭を抱えた。
「いや、なんで嫉妬してんだよ! あいつらは姉妹だぞ!」
「こほん、こほん!」
ゴンドラカの威厳ある咳払いが、騒がしい空気を一瞬で静めた。
「オヴィムチと俺で話し合ったんだが」
リーダーが言った。「本物のチームには独自のシンボルが必要だ。みんなに共通する点はないか?」
私は全員の服装や顔を見回し、ふと素晴らしいことに気づいた。皆の手を寄せ集めて言った。
「見て! みんなの掌紋……信じられないくらい同じ形をしてる!」
「それいいな。それをシンボルにしよう」
オヴィムチが賛成した。
チームは正式に火山の奥深くへと進み始めた。
歩いている途中、ウイルコが突然「わっ!」と転んだ。シュネヴィティが素早く屈んで妹をおんぶした。
「なんか最近太ったんじゃない?」
シュネヴィティがぼそっと呟いた。
チョウカゼリがすぐ横で真似をした。
「なんか最近太ったんじゃない?」
シュネヴィティが振り返り、周囲に冷気を放ちながら言った。
「ねえ、ちょっと真似しすぎじゃない? 信じないと凍らせるわよ?」
「まあまあ、落ち着いて!」
テヒモシンが慌てて仲裁に入った。「あいつはただからかっただけだよ。もうすぐ着くから!」
六人の人間、六つの個性的すぎる性格。
しかし不思議な掌紋によって、運命は彼らをしっかりと結びつけていた。
第五章 苛烈な戦いと過去の欠片
ヴォルヘハリト火山の火口前。ヒゴッダーの神の姿が、生きている山のように巨大で圧倒的な威圧感を放って現れた。そのオーラだけで空気が重く淀む。
「俺たち……本当にあんな化け物と戦うのか?」
オヴィムチが呟き、拳を強く握りしめた。禿げ頭に冷や汗が伝う。
「化け物って誰のこと?」
テヒモシンは落ち着いた声で答えた。視線は前方から離れない。「俺たちが戦う相手は『神』だよ」
「はあ!?」
ゴンドラカが驚きの声を上げた。「神と戦うだって? テヒモシン、お前頭おかしいんじゃないか?」
テヒモシンはため息をつき、自分が説明不足だったことに気づいた。
「神には二つの階級がある。モゴッドは地球を守るために君たちに力を与えた存在だ。一方ヒゴッダーは、人類を抹消しようとしている管理者側の神々だ。俺たちはあいつを倒さなければならない」
「どうやって凡人が神に勝てるんだよ……?」
オヴィムチが困惑した様子で言った。
「簡単だよ。みんなで袋叩きにする」
私は少し悪い笑みを浮かべた。「あいつを疲れ果てさせてから、弱点を突いて封印する。後はモゴッドたちに任せればいい」
「このやり方……ちょっと卑怯じゃないか?」
オヴィムチが眉を上げた。
「弱者が強者に勝つには、手段を選んでいる暇はない」
私は冷たく答えた。「人類の平和のためだ。俺たちにヒーローぶる権利はない」
戦いは即座に始まった。
ゴンドラカは移動する火山のように突進し、『火山神の斬撃』と『マグマスラッシュ』を繰り出して空間を高温で切り裂いた。オヴィムチは『山神の大地揺らぎ』で地殻を激しく揺るがせ、援護する。
シュネヴィティは雪の中の幻のように優雅に動き、『雪の舞コンボ』と『氷の牢獄』で神の動きを封じ込めた。私は少し離れた位置からGLグローブを使い、チョウカゼリの風とウイルコの水を融合させて、シュネヴィティにも劣らない恐ろしい『霜の嵐』を発生させた。
ヒゴッダーが疲弊した隙に、私は必殺技「力の融合」を発動。全五つの元素の力を一点に集中させ、神の両足に叩き込んだ。
――ドンッ!
神が倒れた。
私はすぐにグローブで封印の円陣を展開し、神を別の次元空間に閉じ込めた。
戦いが終わると、皆が勝利の歓声を上げたが、私はただ冷静だった。
(神を倒すなんて、病気にかかって正しい薬を飲めば治るようなものだ。弱点を知って突けば勝てるだけさ)
――
夜が火山に訪れ、揺らめく焚き火が疲れた顔を照らしていた。
「みんな、自分の過去を話してみないか?」
テヒモシンが提案した。
チョウカゼリは小さく鼻を鳴らし、お嬢様らしい態度で言った。
「うちは先祖代々お金持ちで、特に語るようなことなんてないわ」
シュネヴィティとウイルコも軽く頷いた。
しかしゴンドラカとオヴィムチの表情は一変した。祖国を思い出すと目が暗くなった。
ゴンドラカが語り始めた。彼の祖国A――イスラム教の美しい国が、国Cに侵略され残酷に同化された話。文化を禁じられ、何百万人もの人が牢獄にぶち込まれ、土地の主人が自分の故郷で奴隷にされたこと。
オヴィムチが続けた。祖国B――祈りと平和の土地。平和を愛しすぎ、精神性を重視したあまり、国Cの占領に抵抗すらできなかった。国Cは千年続く伝統を踏みにじり、異端者を弾圧し、無実の死について世界中に嘘をついた。
「俺とゴンドラカは実の兄弟じゃない」
オヴィムチが低い声で言った。「俺の両親は国Cの独裁政権に抵抗して死んだ。フェルシエダー家が俺を引き取って、ゴンドラカが一人ぼっちにならないようにしてくれたんだ」
チョウカゼリ:「え、じゃあ二人はゲイなの?」
オヴィムチ:「二人とも妻と子供がいるぞ」
ゴンドラカ:「あいつの嫁は重量挙げの選手だ。俺の嫁は地熱発電所の社長だ」
オヴィムチ:「お前がレズビアンなら話は別だけどな」
チョウカゼリ:「そうよ。私は女の子しか愛せないの!」
そう言って彼女はシュネヴィティとウイルコに抱きついた。
シュネヴィティとウイルコは即座にチョウカゼリを押し退けた。
ウイルコ:「信じないと、早めに風呂に入れちゃうわよ?」
チョウカゼリ:「私はレズビアンだって堂々と言ってるのに。誰かレズビアンなのに認められない人でもいるの?」
シュネヴィティ:「何をわけのわからないこと言ってるの?」
テヒモシンが女子たちの会話を遮った。
「実は……俺も国Cの被害者なんだ」
テヒモシンは9歳の時に村が破壊された話、
『兄弟』と名乗る者たちが軍を連れて来て、無抵抗の子供や生徒を殺した裏切りについて語った。
「なぜ守れない人を殺すのか」「なぜ一方的に世界地図を塗り替えるのか」「なぜ国際法を軽視するのか」――そんな疑問が何年も頭の中で響き続けていた。
「結局、家族はあの記憶から逃れるために故郷を離れた」
テヒモシンは静まり返った中で話を終えた。
雰囲気を変えようと、チョウカゼリがまた騒ぎ始めた。彼女はシュネヴィティを見て挑戦的に言った。
「ねえ、今からゲームしようよ。シュネヴィティの性格はまさに自分の氷の力みたいに冷たいよね。誰が彼女を笑わせられるか試してみない?」
テヒモシン:「また何か始めるのかよ……」
ゴンドラカとオヴィムチは即座に拒否したが、ウイルコが近づいてシュネヴィティの目を見つめただけで、「氷の塊」はあっという間に優しい笑顔に溶けた。
「むー、ゲーム終了!」
チョウカゼリが唇を尖らせ、悔しそうにした。
「姉さん、薪を追加する? 寒くない?」
シュネヴィティが優しく聞いた。
「いらないよ。お姉ちゃんの近くにいるだけで、火よりも温かいもん」
ウイルコが甘えた声で答えた。
その光景を見てチョウカゼリがまた嫉妬した。
「私も寒い! 二人は私にもくっついてよ!」
「チョウカゼリ、俺の近くに来たら?」
テヒモシンが提案した。
「いらない! 私は女の子としか近くにいたくないの!」
お嬢様はぷいっと顔を背けた。
ゴンドラカが立ち上がり、ふざけ合いを止めた。
「もう夜も遅い。みんな早く寝ろ。明日は他のヒゴッダーを探す長い旅が待っている」
焚き火が徐々に消えていく中、暗闇の中で国Cの傷を抱えた六人は、共通の目的を見つけて共に戦う覚悟を固めていた。
第六章 夜明けの下の秘密
二〇一八年八月二十四日、金曜日、午前八時。
ヴォルヘハリト火山の頂上に朝日が差し込み、わずかな希望を運んできた。
全員が荷物をまとめ、次の旅路に備えている時、私は突然言った。
「みんな先に行っててくれ。俺はチョウカゼリと少し話がある」
ゴンドラカたちは頷いて去っていったが、このメンバーたちが素直に遠くへ行くはずがないことはわかっていた。彼らは近くの大きな岩の陰に隠れて、耳をそばだてて聞き耳を立てていた。
「君の態度は……まだシュネヴィティとウイルコが本当の姉妹だと思っていないみたいだね?」
テヒモシンは単刀直入に切り出した。
チョウカゼリは腕を組み、唇を尖らせた。
「そうよ! 年が同じなのにどうして姉妹なの? 双子なら似てるはずでしょ? なのに全然違う顔してるし」
テヒモシンはため息をつき、奇妙な縁について説明し始めた。
「シュネヴィティの母親はウイルコの母親の実の姉なんだ。一人は22歳で子供を産み、もう一人は18歳で産んだ。だから二人が同い年なのは普通のこと。でも悲劇が起きた……ウイルコの母親は彼女を産んですぐに亡くなった」
テヒモシンは近くの茂みに隠れているシュネヴィティの方に視線を向け、声を低くした。
「シュネヴィティの両親は仕事が忙しくて会社を家だと思っていた。だからウイルコの世話を全部シュネヴィティに任せた。彼女はまだ子供の頃から姉であり母親代わりになって、妹の食事から睡眠まで全部面倒を見ていた。それがシュネヴィティがあんなに大人びて、感情を表に出さない理由だ。彼女が秘書になったのも、後ろから妹を守るため。社長の椅子を、愛する妹に譲ったんだ」
チョウカゼリは黙り込み、目が揺れた。
私はさらに続けた。
「で、君はどうなんだ、チョウカゼリ? なんで『ストレート』の君が無理してレズビアンを演じているんだ?」
「な、何言ってるの!?」
彼女はびっくりして顔を真っ赤にした。
私は何も言わず、スマホを取り出して再生ボタンを押した。
最初の動画は幼い頃のチョウカゼリが男の子にキスをして、「大きくなったら結婚する!」と堂々と言っている場面だった。
「あ、あれは子供の頃よ! 大人になったら好みが変わってもいいでしょ!?」
彼女は弱々しく言い訳した。
二本目の動画――数年前のチョウカゼリが、男性に告白されて満面の笑みで幸せそうにしている場面。
今度は彼女は完全に言葉を失い、肩を落とした。
「本当は……私、男性恐怖症なの」
チョウカゼリが小さな声で告白した。「大学四年間は全部オンライン授業で、会社では周りが男ばかり。ずっと男の人としか接してこなかったから、今は男の人を見ただけで鳥肌が立つ……」
テヒモシンは頷いた。
「君の父親は母親を極端に愛していたから、会社には男しか雇わなかった。母親が嫉妬しないように。でも君は感情的すぎる。気に入らないとすぐクビにするから、ベテラン社員まで辞めていった。君の父親が膝をついて一人一人に謝って、シェンケレベ家の事業を救うために戻ってきてもらったことを知ってるか?」
そこまで聞くと、チョウカゼリはとうとう泣き出した。後悔の涙がぼろぼろと溢れた。
もう隠れていられなくなったみんなが岩陰から飛び出して、意地っ張りなお嬢様を囲んで慰めた。
「間違ったと気づいて直そうとするのは立派だぞ」
オヴィムチが彼女の肩を叩き、太い声で優しく言った。
「泣き終わったか? さあ、出発するぞ」
冷たくも威厳のある声――ゴンドラカだった。
私はリーダーを見て小さく口角を上げた。
「ゴンドラカは本当に厳しいリーダーだな」
六人の背中が火山の霧の中にゆっくりと消えていった。
これからまた、新たな困難と試練に満ちた章が始まろうとしていた。
第七章 大洋に架ける道
水平線を前に、青い空と果てしない海が溶け合う場所で、ゴンドラカは目を細めた。強い海風が吹き付ける中、リーダーは隠しきれない疑念を込めて言った。
「この大洋を渡らなければならないのか?」
隣に立つテヒモシンは、鳥の翼のような髪を軽く直しながら落ち着いて答えた。
「いや、俺たちはこの大洋を守るために戦うんだ」
「どうやって?」
オヴィムチが筋肉質の両腕を胸の前で組み、太い声で言った。「海の真ん中で戦うなんて、地の力を持つ俺たちには不可能だぞ」
テヒモシンは意味ありげに微笑み、三人の女性陣の方を向いた。
「どうして不可能なんだ? 見てみろよ。チョウカゼリは風神の翼を持っている。空は彼女の庭みたいなものだ。ウイルコは水神の力を持っているから、海面など平らな地面と同じさ。そしてシュネヴィティ……」
テヒモシンは、秘書の足元から冷気が広がり始めたのを見て少し言葉を切った。「彼女はもっとすごい。シュネヴィティが行くところ、大洋は凍りついて頭を垂れるしかない」
ゴンドラカは眉を上げ、自分とオヴィムチを指差した。
「じゃあ俺たち三人の男はどうなる? 女の子たちに活躍させて、俺たちは見てるだけか?」
「もちろんそんなことはしない。俺たちには切り札のオヴィムチがいる」
テヒモシンは巨漢の肩を叩いた。
「俺が?」
オヴィムチがぽかんとした。「この何億トンもの水の中で、俺に何ができるんだ?」
テヒモシンはオヴィムチの目を見つめ、声に厳しさを込めた。
「神の地が与えた本当の力を忘れたのか? 地とは足元の石だけじゃない。この惑星の基盤そのものだ。オヴィムチ、必殺技『大陸創造』を使え。大洋に、誰が大地の主か教えてやれ!」
オヴィムチは一瞬黙り、それから雷のような咆哮を上げた。
彼は前に踏み出し、拳を握りしめて筋肉を隆起させ、片膝をついて全身の黄金色の元素エネルギーを掌に集中させた。そして海の縁に向かって強く叩きつけた。
「大陸創造!」
――ドゴォォン! ドゴォォン! ドゴォォン!
静かだった海面が一瞬で咆哮を上げた。
海底の深淵から巨大な岩塊が激しく揺れ、恐ろしい速度で海面にせり上がってきた。海水が両側に押し分けられ、何十メートルもの波の壁ができた。
一瞬のうちに、広大な石の道が大洋の真ん中に堂々と伸び、海の青を切り裂いた。
全員がその壮大な光景に呆然と見入った。
チョウカゼリがぼそっと呟いた。
「……やっぱり化け物だわ。どこへ行っても破壊ばかり」
ゴンドラカは襟を直し、戦意に燃える目で言った。
「よし! 道は開けた。神の子ら、進むぞ!」
三人の男たちは新しくできた石の道を力強く歩き、チョウカゼリは空を舞い、シュネヴィティとウイルコの姉妹は両側の凍った海面を滑るように進んだ。
彼らは前へ、前へと進む――怒り狂う海の奥で、次のヒゴッダーが待ち構えていた。
第八章 人類の裁判
果てしない大洋の真ん中、新しく創造された石の道の上に、二体の神聖なる存在が重々しい威圧感と共に現れた。ヒゴッダー――審判の神々だ。
その一柱、バラウツェアミは六人のグループを軽蔑の眼差しで睨みつけた。
「ふん……お前たちが、ヒゴッダー・ヴルカオピを倒したという者たちか」
隣のランハンメルは、凍てつく風のような冷たい声で続けた。
「なぜ我々の『人類終末の日』計画を邪魔する?」
ゴンドラカは眉を寄せ、拳を強く握った。
「『人類終末の日』計画……それはいったい何だ?」
テヒモシンはグループの中央に立ち、学者めいた落ち着いた口調で説明した。
「それはヒゴッダーたちが人類全滅作戦につけた名前だ。しかし、よく聞いてくれ……」
「なぜ人間だけを狙うんだ?」
オヴィムチが疑問を投げかけた。
「なぜなら、神々は人間だけを浄化し、他のすべての生き物を残したいからだ」
テヒモシンは力を込めて言った。「想像してみろ。大洪水が起きた時、神は人間だけを沈め、草木や動物は青々と残す。地震や火山噴火が起きても、人間だけが死に、他のものは生き残る。それが神の力と、怪物のような無差別破壊の違いだ」
バラウツェアミは厳かに頷いた。
「その通り。我々は何度も警告を発した。嵐、津波、疫病……それらは人間の許されざる罪に対する怒りの叫びだ。不義の戦争、資源の無制限搾取、迷信、親が子を放置する行為、盗み、殺人、ギャングの腐敗……すべてが限界を超えた!」
ランハンメルが憤りを込めて続けた。
「自然資源をお前たちは容赦なく搾り尽くした。それは人間を破滅へ導くだけでなく、固有の動植物の絶滅をも引き起こす。人間こそが大量絶滅の元凶だ!」
「地球は万物の共有の家であって、人間だけのものではない!」
バラウツェアミが声を荒げた。「我々は人類を滅ぼし、別の種に知性を与えて進化させ、お前たちの地位を置き換える。かつて我々が恐竜を消し去り、お前たちの祖先に道を譲ったように」
神々の視線が六人の戦士の心の奥底を射抜いた。
ランハンメル:「人間の存在は地球にとって意味があるか?」
バラウツェアミ:「ない」
ランハンメル:「人間の存在は必要か?」
バラウツェアミ:「必要ない」
二柱の神が同時に言った。
「人間の存在こそが、罪の生きた証拠だ。否定できない事実だ!」
オヴィムチがぼそっと呟いた。
「この神様たち……前のよりずっとよく喋るな」
ゴンドラカが口の端を上げた。
「前の神は一言も口を開こうとしなかったからな」
「ちゃんと名前があるんだよ」
テヒモシンは胸元の輝く宝石を指差した。「あの方の名前はヴルカオピだ」
ランハンメルが鼻を鳴らした。
「ヴルカオピは人間を憎みすぎて、口を汚したくなかっただけだ。お前たちの汚い言葉を唇に乗せたくなかった」
「でもあの娘は本当に馬鹿だな」
バラウツェアミが嘲った。「何も言わなければ、この虫けらどもが神の意志を理解できるわけがないだろう?」
突然、テヒモシンの胸元の宝石から怒りの声が響いた。
「誰が馬鹿だって!? この小娘!」
封印されたはずのヴルカオピが声を上げていた。彼女はテヒモシンに向かって少し柔らかい声で言った。
「……名前を覚えていてくれて、ありがとう」
ランハンメルが驚愕した。
「消滅していなかったのか……ただ封印されていただけか! バラウツェアミ、すぐに彼女を救出するぞ!」
戦いは即座に勃発した。
「神の子ら」は素早く二手に分かれた。一組はチョウカゼリ、ゴンドラカ、オヴィムチがランハンメルと対峙。もう一組はテヒモシン、シュネヴィティ、ウイルコがバラウツェアミを迎え撃った。
ランハンメルは神聖なる翼をはためかせ、連続で嵐の必殺技を放った。
「聖なるサイクロン」「狂風」「暴風」「レイジング・ウィンドストーム」「神のサイクロン」「威風神雨」そして最後に「大陸を吹き飛ばす風」――空間が凄まじい風圧で引き裂かれた。
一方、バラウツェアミは大洋を操り、
「レイジング・津波」「破壊の巨浪」「大陸沈没」「ウォーター・トルネード」「不可視の海底波」「爆裂水晶」など、次々と強力な技を繰り出した。
激しい戦いの最中、バラウツェアミの水柱が偶然ウイルコの顔を直撃し、濃い「Sister Love」のメイクを洗い流してしまった。
テヒモシンは舌打ちした。
「神様ですら君のメイクには耐えられないみたいだな、ウイルコ」
ウイルコは頰を膨らませて悔しそうに舌を出してから、再び戦いに戻った。
チョウカゼリも負けじと
「風の斬撃」「神風掌」「偶発旋風」「風神の怒り」を連発した。
ゴンドラカとオヴィムチは息の合った連携を見せ、
「火山神の斬撃」「溶岩斬」「マグマスラッシュ」「岩石爆破」「山石破壊」「土拳無敵」「山河鎮圧」「地心爆破」などの技を浴びせかけた。
シュネヴィティとウイルコも力を合わせ、
「凍てつく風の術」「雪の舞コンボ」「霜の嵐」「雪涙撃」「水の斬撃」「神海嵐」「ポセイドンの神威」「水神の怒り」を放った。
テヒモシンが大きく叫んだ。
「二倍の力!」
GLグローブの光がシュネヴィティとウイルコを包み、彼女たちの攻撃力を何倍にも増幅させた。バラウツェアミは瞬く間に疲弊した。
テヒモシンはすぐに「力の浄化」を発動し、「封印」で水の神を新しい宝石に収めた。
しかしもう一方では、ゴンドラカの組がランハンメルの猛攻に押され、撤退を余儀なくされた。
テヒモシンと二人の少女が即座に援護に駆けつけた。
ランハンメルが「離間計」に気づいた時にはもう遅かった。彼女は完全に包囲されていた。
テヒモシンは全エネルギーを集中させた。
「力の融合!」
五つの元素が一点に集まり、光の槍となって風の神の最大の弱点――翼――に突き刺さった。ランハンメルが崩れ落ちた。
再び「力の浄化」と「封印」が完璧に成功した。
宝石の中のヴルカオピが大笑いした。
「ははは! さっき誰を馬鹿って言ったんだっけ? 今度はお前が離間計に引っかかってここに閉じ込められたぞ!」
バラウツェアミが激昂して叫んだ。
「人間はあれほど多くの罪を犯しているのに、なぜお前たちは守る? どうだ、一緒に人類を滅ぼさないか? お前たちも神の力を持っているだろう!」
テヒモシンは封印された神々を見下ろし、少し遠い目をして言った。
「モゴッドの神々はこう伝えた。『今の人類はまだ滅びるべき時ではない。だから殺すな』と」
「それだけの理由か!?」
バラウツェアミとランハンメルが信じられないというように叫んだ。
そのシンプルすぎる答えに、ゴンドラカもシュネヴィティもウイルコも言葉を失った。
テヒモシンの答えに満足できず、何かもっと大きな秘密や残酷な真実を隠しているのではないかと感じた。しかし、彼らには他に選択肢はなかった。
六人は再び黙々と歩き出し、大洋の奥深くへと進んでいった。
残りのヒゴッダーたちを探すために。
第九章 敵が言葉を必要としない時
長い過酷な石の道を越え、大洋を渡りきった一行の足がようやく陸地に触れた。しかし、海風と波の疲労を振り払う間もなく、空気は一瞬で殺気で張りつめた。
茂みと岩の隙間から、見知らぬ集団が突然飛び出してきた。彼らは一切の警告も、戦いの雄叫びも発さず、ただ武器が風を切る音だけを残して一行に向かって突進してきた。
「こいつら何者だ、テヒモシン!?」
ゴンドラカが唸りながら即座に構えた。
テヒモシンは目を細めて襲撃者たちを観察した。ボロボロの服装、無表情でまるで生体機械のような顔。少年は胸元の封印の宝石に軽く触れた。
「ヒゴッダーの皆さん、同族に心当たりはありませんか?」
「知らんな」
宝石の中からヴルカオピの声が訝しげに響いた。「神とも元素の戦士とも違うように見える。とにかく直接聞いてみろ」
オヴィムチが前に踏み出し、巨体を壁のように構えて吠えた。
「おい! 貴様ら何者だ! 用があるならはっきり言え!」
巨漢の叫びに対する返事は、ただ不気味な沈黙だけだった。
彼らは無言のまま、魂の抜けたような虚ろな目でじりじりと近づいてくる。
「こいつら……言葉が通じないみたい」
チョウカゼリが呟きながら、小さな竜巻を呼び起こす準備をした。
ウイルコが我慢できなくなり、手の周りに大量の水を呼び寄せた。
「聞くだけ無駄よ! とにかく倒してから考えましょ!」
テヒモシンを除く五人が同時に必殺技を放った。
火・地・氷・水・風が混ざり合った嵐が戦場を吹き荒れた。一瞬のうちに、謎の集団はドミノ倒しのように次々と崩れ落ちた。
戦いは信じられないほどあっけなく終わった。
「こんなに弱いのか……?」
テヒモシンは眉を寄せ、表情に安堵の色は一切なかった。「この感じ……絶対に何か企みがある。わざわざこんなおとり部隊を送ってきて、ただ死にに来るわけがない」
「待って……」
シュネヴィティが突然声を上げた。その声は珍しく震えていた。彼女は自分の冷気を放つ両手を見下ろした。「私の……力が急に弱まっている。体内のエネルギーが、何かに吸い取られているような……」
「私もだ!」
ゴンドラカが驚愕した。
「俺とオヴィムチも!」
「私も……すごく疲れてきた……」
ウイルコが膝をついた。
五人の元素戦士全員が、突然の激しい消耗を感じていた。弱い敵を倒したことが、逆にエネルギー消耗の呪いを引き起こす罠だったのだ。
混乱が頂点に達したその時、森の奥からまた別の集団が現れた。
今度の数はもっと多く、無言であることは同じだったが、放たれる威圧感は全く違っていた。彼らは急がず、ゆっくりと包囲網を狭めていく――まるで疲れ果てた獲物を狙う狩人のように。
本当の戦いは、今ようやく始まろうとしていた。
第十章 敵が恐ろしくない時、陰謀こそが恐ろしい
海岸の干潟が、神の子らの力で激しく揺れた。
体に多少の疲労はあったが、彼らの戦闘本能は依然として鋭かった。謎の集団が近づくより早く、五人の戦士が同時に攻撃を開始した。
ゴンドラカが腕を振り、灼熱の「溶岩斬」が空を横切り、オヴィムチの拳が地面に叩きつけられて「地心爆破」が炸裂。足元の地面が敵の真下で大きく裂けた。
シュネヴィティとウイルコは息を合わせ、氷の剣「霜の斬撃」と高圧の水の刃「水の斬撃」が織りなす死のマトリックスを展開。最後にチョウカゼリが鋭い「風の斬撃」を加え、残骸を吹き飛ばした。
一瞬の出来事だった。
謎の集団はあっという間に消滅した。血も流れず、叫び声もなく、ただ不自然なほど簡単に倒れていった。
技を放たなかった唯一の人物――テヒモシンは、遠い目でその光景を見つめ、表情を硬くした。
「弱すぎる……理不尽なほど弱い。これは絶対に罠だ」
テヒモシンの言葉が終わらないうちに、シュネヴィティの背筋に悪寒が走った。彼女はよろめき、手に持っていた氷の剣が小さく震えて細かな結晶に変わり、消えた。
「私の力が……異常なほど弱まっている」
シュネヴィティが息を荒げて呟いた。
「何だと?」
ゴンドラカが驚いたが、すぐに自分も血管の中の熱量が冷えていくのを感じた。「俺もだ……まるで誰かにエネルギーを吸い取られているような感覚だ」
「私も、オヴィムチも、ウイルコも同じよ!」
チョウカゼリが叫んだ。いつもの高飛車な顔に、ただ純粋な動揺だけが浮かんでいた。
ついさっきまで強大な神々を封印した五人の戦士が、今やかつてないほど無力に感じていた。この土地の静けさは、平和ではなく、大きな嵐の前の不気味な沈黙だった。
その瞬間、太古の巨木の影から、また新たな集団が現れた。
彼らは速くもなく遅くもなく、無表情のままじりじりと近づいてくる。先ほどと同じ虚ろな顔――しかし今度は明らかに違う重圧を伴っていた。
テヒモシンはGLグローブを強く握りしめ、胸元の宝石が微かに揺れた。
彼は悟っていた。
時には、世界を一撃で壊せる強敵よりも、自分の力を無力化してしまう敵の方が、遥かに恐ろしいのだ。
第十一章 力が重荷になるとき
二度目の攻撃が襲ってきた。無魂の敵たちは前より速い速度で迫り、元素の戦士たちは攻撃の強度を上げざるを得なかった。
ゴンドラカが唸りを上げ、「岩石爆破」と「地震火炎」を放ち、周囲の大地を灼熱の海に変えた。オヴィムチは「山石破壊」と「山河鎮圧」で息の詰まる一撃を加え、迫り来る敵を千斤の圧力で叩き潰した。
女性陣の方では、シュネヴィティが優雅に「雪の舞コンボ」と「雪涙撃」を舞わせ、悲しげな雪の花を咲かせた。ウイルコは高圧の「水圧斬」と「魚雷斬」を連発し、チョウカゼリは「神風掌」と「風神の怒り」で暴風の気を操った。
敵は次々と倒れたが、勝利の実感は全く湧いてこなかった。
「また弱い連中か……」
テヒモシンが呟き、冷たい目で戦場を観察した。
「テヒモシン……今回は元素の力がかなり減っているわ」
シュネヴィティが息を荒げ、顔色を青ざめさせながら言った。
「俺たちもだ!」
ゴンドラカと残りのメンバーが揃って声を上げた。
かつて溢れていたエネルギーは、今やかろうじて灯る小さな光だけになっていた。
新しい敵の集団が再び影の中から現れたその瞬間、テヒモシンがはっと気づいた。彼は大きく叫んだ。
「全員止まれ! もう元素の力を使って戦うな! これは罠だ。奴らはただの捨て駒で、俺たちの元素エネルギーを根こそぎ吸い取るために送り込まれている!」
「元素の力を使わない?」
ゴンドラカが驚いて聞き返した。「それじゃあ、何で戦えばいいんだ?」
「俺について来い!」
テヒモシンは「光速」を発動した。
一瞬で眩い光が一行を包み込み、息苦しい戦場から離れた静かな空き地へと移動させた。そこでテヒモシンは小さな異空間を開き、五つの精巧な武器を取り出した。どれも冷たい威力を放っている。
オヴィムチが目を丸くした。
「これ……お前が作ったのか?」
「そうだ」
テヒモシンは頷いた。
「すごいな……」
ゴンドラカは感嘆しながら自分の武器を受け取った。「服のデザインだけじゃなく、武器まで鍛えられるのか」
テヒモシンは武器を配りながら説明した。
「ゴンドラカ、君のは『火龍槍』。
オヴィムチは『三尖地弓刀』。
シュネヴィティは『氷華槍』。
ウイルコは『水晶槍』。
そしてチョウカゼリ、君のは『風蝶扇』だ」
どの武器も完璧にバランスが取れ、純粋な機械的な強さと重量感を兼ね備えていた。
「君の武器は?」
シュネヴィティが尋ねた。
ウイルコはテヒモシンの手に持った物を見て首を傾げた。
「ランタン……?」
テヒモシンは微笑み、ランタンの枠を握った。
「ここを引くと、武器モードに変わるよ」
「名前は?」
チョウカゼリが目を輝かせて聞いた。
「『光灯剣』だ」
ゴンドラカは火龍槍を軽く振り、物理的な力が全身に満ちるのを感じた。
「よし、これで戻って奴らに一泡吹かせよう」
「無駄だ」
テヒモシンが止めた。「今戻っても奴らはもう撤退しているはずだ。奴らは俺たちが弱った時だけ姿を現す」
「じゃあどうすればいい?」
オヴィムチが聞いた。
「奴らは俺たちを倒したいんだから、こっちから探す必要はない。落ち着いて、奴らが自分から来るのを待てばいい」
テヒモシンはそう言いながらポケットから奇妙なものを取り出した。「ほら、シュネヴィティ、ウイルコ、チョウカゼリ、エネルギー補給しろ」
彼はシュネヴィティに冷たいアイス、ウイルコに香ばしいミルク、チョウカゼリに甘いキャンディを投げ渡した。三人の少女は子供っぽい「補給品」を前にぽかんとした。
「ゴンドラカとオヴィムチもな」
テヒモシンは二人にエナジードリンクを投げた。
静かな空間の中で、六人は神兵を手にしたまま、のんびりとおやつを頬張り、次の陰謀を新しい心構えで待ち受けていた。
第十二章 すべての手段が試されるとき
二〇一八年九月三日、月曜日。
海岸での奇妙な戦いから一週間が経った。
恐ろしいほど静かな空気が一行を包んでいた。
高い岩の上から、ゴンドラカは水平線を見つめ、苛立ちを隠さずに言った。
「もう一週間だ。あのネズミどもはまだ姿を見せない。いつまで俺たちと知恵比べをするつもりだ?」
オヴィムチは『三尖地弓刀』の柄を強く握り、腕の筋肉を隆起させた。
「こんなに受け身で待っているだけじゃ耐えられない。この感じ、すごく嫌だ」
「問題は、奴らの隠れ場所について全く手がかりがないことよ」
シュネヴィティが冷静に分析しながらも、周囲を絶えず警戒していた。
チョウカゼリは『風蝶扇』を軽く回し、自信たっぷりに微笑んだ。
「何を心配してるの? 私たちにはテヒモシンがいるじゃない」
「そうだよ!」
ウイルコが明るく続けた。「テヒモシン、みんなを見つけた時みたいに、奴らも探してよ!」
テヒモシンが答えようとした瞬間、濃密な殺気が突然襲ってきた。
彼は前方にある森の方を目を細めて見た。三つの異様な影がゆっくりと姿を現した。
「探す必要はなくなったみたいだな」
テヒモシンが低い声で言った。「『三災の三人衆』がわざわざここまで来てくれた」
命令はいらなかった。一行は即座に神兵を抜いた。
熟練した戦闘技術とテヒモシンが鍛えた精巧な武器のおかげで、彼らはわずか数分で「三災の三人衆」を圧倒し、倒した。
しかし、いつものパターンが繰り返された。
「三災の三人衆」が倒れた直後、より冷たい目をした新しい集団が現れた。
「またか! みんな、行くぞ!」
ゴンドラカが叫んだ。
一行は元素の力を節約するため、物理攻撃だけで突っ込んだ。
だが今回は残酷な現実が待っていた。
これまで非常に頑丈だった神兵たちが、敵に一切の傷をつけられず、激しい金属音を響かせた後――
ガキン! パキン!
神兵たちが次々と折れ砕けた。
「何だ!? 武器が無効化されたのか!?」
オヴィムチが呆然と折れた刀を見つめた。
「もう仕方ない!」
テヒモシンが命令した。「元素の力を使わざるを得ない! 今回は全力で、容赦するな!」
テヒモシンは即座に行動した。
右手が輝き、「二倍の力」を発動してゴンドラカに膨大なエネルギーを注ぎ込んだ。リーダーの炎の斬撃が太陽の嵐のように爆発した。
同時に左手で「融合」を使い、チョウカゼリの暴風をウイルコの水と巧みに混ぜ、極寒の気流を生み出した。シュネヴィティもタイミングを合わせて、自分の氷の力を全力で注ぎ込んだ。
残酷な戦術が完成した――ゴンドラカの極高温攻撃の直後に、シュネヴィティ・ウイルコ・チョウカゼリの絶対零度の凍結攻撃。
どんなに硬い神の体を持つバゴドリーでも、急激で連続した温度変化には耐えられず、物質構造が砕け始めた。
戦いは神聖なる存在の崩壊音と共に終わった。
しかし代償は大きかった。
「私……ちょっとおかしいわ」
シュネヴィティが膝をつき、息が霧のように薄くなった。
「私の元素の力……もう底を尽きそう……」
チョウカゼリが弱々しく言い、背中のエネルギー翼が消えた。
仲間が力尽きたのを見て、テヒモシンは即座にオヴィムチに指示した。
「オヴィムチ! 『山の護体』を使ってみんなを守れ!」
オヴィムチは歯を食いしばり、最後のエネルギーを大地に注ぎ込んだ。
巨大な岩の壁が山のようにそびえ立ち、一行を外の脅威から守った。
「山の護体」の中で三時間、六人は静かにエネルギーを回復させた。
元素の光が再び血管に戻ってきた時、彼らはこれまで以上に強い決意の眼差しで互いを見つめ合った。
「行くぞ」
ゴンドラカが立ち上がり、目に炎を宿して言った。「ヒゴッダーを探し、封印する旅はまだ長い。ここで止まるわけにはいかない」
六人は再び歩き出し、前方に待ち受ける新たな試練へと進んでいった。
第十三章 混沌の神と真実
白い砂浜に波が優しく打ち寄せる音が、突然、海底から響く激しい衝撃音に飲み込まれた。
巨大な水柱が何本も空高く噴き上がり、その中心から異様な存在が姿を現した。不安定さと狂気を帯びた息吹を伴って。
その者は戦士たちを奇妙な目で見つめ、大声で笑った。
「やあ、選ばれし者たちよ。我は混沌の神、バゴドリー・カイテイコウルだ」
彼は海面に浮かび上がり、奇妙な哲学めいた言葉を吐き始めた。
「この世界が混沌としているのは、真実を求めているからだ。もし世界があまりにも平和なら、それはただの偽りで、覆い隠された嘘に過ぎない。見てみろ、勇気ある者たちが、自分たちが生きる残酷で苦痛に満ちた社会の真実を、敢えて映し出そうとしている……」
カイテイコウルは少し首を傾げ、声に嘲りを込めた。
「しかし、その国の指導者たちは現実を否定する。彼らは真実を語る者を牢獄に閉じ込め、強制的に嘘を言わせる。『この国はとても良い、平和で安定していて、住みやすい』と。俺がもたらす混沌とは、そうした仮面を打ち砕くためのものだ」
ゴンドラカは眉を寄せ、拳を強く握った。
「いきなり何を言い出すんだ?」
「自己紹介をしているんだろう」
テヒモシンは落ち着いて答え、視線を神から離さなかった。「自分の本質がなぜ混沌なのかを説明している」
「俺はここにお前たちを抹殺しに来た」
カイテイコウルは笑みを消し、殺気を爆発させた。「お前たちはもう、偉大なヒゴッダーたちが直接手を下す価値すらない」
「最後まで誰が勝つのか、見てみようじゃないか!」
オヴィムチが吠えて飛びかかろうとした。
「待て!」
テヒモシンが手を上げて止めた。彼はカイテイコウルを真っ直ぐに見つめた。「どうせ俺たちは貴方に倒されるんだろう? その前に教えてくれ。Bagodreeとは何だ? なぜ戦うたびに、俺たちの元素の力がこんなに激しく減少する?」
カイテイコウルは死にかけの者の好奇心を楽しむように笑った。
「いいだろう。Bagodreeとは、ヒゴッダーたちがお前たちの力を吸収し、抹殺するためにだけ作った存在だ。我々はヒゴッダーに仕えるために生み出された。ヒゴッダーたちは本来、正規の戦いで我々を使うつもりなどなかったが、状況が逼迫したため『予備の切り札』を使うしかなくなったのだ」
「ヒゴッダーが作ったなら、なぜ一部のヒゴッダーはお前たちの存在を知らないんだ?」
チョウカゼリが疑問を投げかけた。
「それは当然だ」
カイテイコウルは答えた。「我々は、お前たちが最初のヒゴッダーを倒した直後に、急遽作られたのだ」
ウイルコが唇を尖らせた。
「でも前のBagodreeたちはあんたみたいに喋らなかったわよね?」
「我々は段階的に作られたからだ」
カイテイコウルは説明した。「最初の五体は『五官の神』、次の四体は『四季の神』、その次の三体は『三つの天候の神』、そして最後の二体は『生と死の双子』。ヒゴッダーたちが急いで作ったため、戦闘能力だけを与えて言語を奪った。だが俺は混沌の化身だ。他の者にはないものをたくさん持っている」
シュネヴィティは冷たく彼を見つめ、すでに戦闘態勢を取っていた。
「他に質問はある?」
「もう話すことはないなら……」
ゴンドラカが大声を上げ、体から激しい炎が噴き上がった。「突撃だ! 奴を倒せ!」
これまでで最大規模の総攻撃が始まった。
ゴンドラカが火の連撃で幕を開けた。「溶岩斬」「火山嵐」「岩石爆破」「地震火炎」――周囲の海面が蒸発して白い湯気となった。
シュネヴィティが冷たい剣撃で援護。「霜の斬撃」「氷の刃」「凍てつく風の術」「雪の舞コンボ」「霜の嵐」「雪涙撃」――死の雪の花が混沌の神の視界を覆った。
ウイルコとチョウカゼリは水と風を巧みに連携。「水の斬撃」「水圧斬」「魚雷斬」「水神の怒り」「神海嵐」「神水掌」と、「風の斬撃」「神風掌」「偶発旋風」「風神の怒り」を同時に放った。
最後にオヴィムチが全力を込めた衝撃の拳撃。「山神の斬撃」「山神の大地震」「岩山鉄拳」「山風」「天高石柱」「山河鎮圧」「山石破壊」「土拳無敵」、そして締めに「地心爆破」。
恐るべき連続必殺技の圧力に、たとえ混沌の神カイテイコウルといえども耐えきれなかった。彼の体はさらに何かを語る間もなく、混沌の欠片となって崩れ散った。
勝利は神の子らに与えられた。
しかし、Bagodreeが急造で生み出されたという警告は、テヒモシンの胸に消えない不安を残した。
第十四章 人間に残された道は一つだけ
戦場に恐ろしいほどの静寂が訪れた。
オヴィムチは自分の巨大な両手を見つめ、呆然と呟いた。
「おかしい……力が感じられない……」
ゴンドラカも顔色を変えた。手に持った槍が、今や錆びた鉄のように重かった。
「俺の元素の力……完全に消えた。まるで最初からなかったかのように」
「私たちも!」
シュネヴィティ、ウイルコ、チョウカゼリが同時に叫んだ。モゴッドの神々とのつながりが完全に断ち切られていた。
絶望が広がる中、虚空から三体の絶対的な威厳を持つ存在がゆっくりと姿を現した。
それが最後の三柱のヒゴッダー――人類の運命を握る者たちだった。
「我々が人類を抹殺しようと怒り狂う最大の理由……」
ブングンドクが雷のような声で言った。「それは戦争だ」
「戦争は地球を傷つける」
シンバクウムが冷たい目で続けた。「この惑星は我々の家だ。そして今こそ、人間による破壊から守る時が来た」
グラサルジェシは戦士たちを軽蔑の眼差しで見下ろした。
「人間など、かつて支配し、そして消えていった無数の生物の一つに過ぎない。それなのに、お前たちは自分たちが永遠の主人であるかのように振る舞い、己のエゴを満たすために他の生命を滅ぼそうとする」
「人間の存在は余計だ」
シンバクウムが断じた。「人間は排除されなければならない」
「世界には平和が必要だ」
グラサルジェシが低い声で言った。「存続したいなら、人間は互いを愛し合うべきだった。この惑星の体に深い傷を刻むのではなく。領土を奪い、侵略して権力を拡大するという幻想を抱くな」
ブングンドクが手を上げ、暗黒のエネルギーが集まり始めた。
「我々は必殺技『新大陸創造』を持つ。一念で一つの国を五つに引き裂き、大陸全体を深海に沈めることもできる。小さな島を侮るな。いつかそれが新たな大陸となって、お前たちの足元を置き換えるかもしれない」
「お前たち……」
ブングンドクはテヒモシンの目を真っ直ぐに見つめた。「我々の『人類終末の日』計画に加わらないか? 人間は守る価値などない」
「よく考えてから答えろ」
グラサルジェシが警告した。「友か敵か、全てはお前たちのこの答え次第だ」
ゴンドラカは拳を握りしめ、唯一冷静さを保っている仲間を見た。
「どうする、テヒモシン? 俺たちはもう元素の力を失っているぞ」
テヒモシンは神々の問いに答えず、ただ口の端を少し上げて仲間たちに指示した。
「みんな、俺にしっかり掴まれ」
「何のために?」
オヴィムチが戸惑った。
「逃げるに決まってるだろ!」
テヒモシンはあっさり答えた。
シンバクウムが傲慢に笑った。
「我々は神だぞ。凡人であるお前たちが我々の目から逃げられるとでも?」
テヒモシンは笑うだけで反論しなかった。
「みんな、しっかり抱きつけ!」
「私は男なんか抱きつかないわ!」
チョウカゼリが顔を赤らめ、窮地でもお嬢様気質を崩さなかった。
「抱きつくか死ぬか、どっちだ!」
テヒモシンの短く冷たい一言に、彼女はびくりとして慌てて抱きついた。シュネヴィティとウイルコも素早くテヒモシンにしがみついた。
ゴンドラカとオヴィムチは顔を見合わせ、苦い表情になった。
「死んでも男は抱きつかない」
ゴンドラカが断言した。
「そうだ、男には男のプライドがある!」
オヴィムチが同意した。
テヒモシンはため息をついた。
「わかったよ。じゃあ二人は俺の肩を掴んでくれ」
二人の男の手がテヒモシンの肩に触れた瞬間、彼は潜在エネルギーを解放した。
「光速!」
――シュン!
白い光が爆発し、空間を切り裂いた。
一瞬のうちに、六人の姿は三柱のヒゴッダーの眼前から完全に消え去り、一粒の砂さえ残さなかった。
ブングンドクは呆然とし、エネルギーを溜めていた手が空中で止まった。
「何だあれは? 信じられない速度だ!」
「この速度……」
シンバクウムが呟き、傲慢な表情が崩れた。「我々が知る光速の百倍以上……」
グラサルジェシは歯を食いしばり、虚空を睨みつけた。
「見つからないはずがない。下等な人間ども、お前たちは必ず代償を払うことになる!」
第十五章 神が狩られる時
二〇一八年十一月十八日、月曜日。
三柱の最高神から衝撃の脱出を果たしてから一ヶ月が経過した。
雲の上の静かな空間で、三人のヒゴッダーは明らかに苛立ちを露わにしていた。
「もう一ヶ月だ」
ブングンドクが低い声で言った。地神の威圧感だけで周囲の雲が散らばった。「奴らの痕跡すら見つけることができない」
「あのネズミども、隠れ方が上手すぎる」
シンバクウムが冷たく続けた。「我々は別行動を取るべきだ。神の権能をもってすれば、この惑星の隅々まで捜索するのは時間の問題に過ぎない」
グラサルジェシが頷いた。
「いいだろう。ただし、見つけたらすぐに互いに連絡を取れ。独断で動くことは許さん」
しかし、神々は人間の忍耐力を過小評価しすぎていた。
ブングンドクが一行から離れた瞬間、偉大な地神は完璧に仕掛けられた待ち伏せの罠に落ちた。
「今だ!」
ゴンドラカの叫びが空に響いた。
「神の子ら」が虚無から現れ、全ての怒りを込めた総攻撃を仕掛けた。
ゴンドラカが灼熱の連撃で幕を開けた。「火山神の斬撃」「溶岩斬」「マグマスラッシュ」「火山嵐」「岩石爆破」「地震火炎」。
オヴィムチが地層を破壊する力で続いた。「大地の斬撃」「砂の斬撃」「岩の斬撃」「山神の斬撃」「山神の大地震」「岩山鉄拳」「山風」「天高石柱」「山河鎮圧」「山石破壊」「土拳無敵」「地心爆破」。
神に反撃の隙を与えず、チョウカゼリ、シュネヴィティ、ウイルコが一斉に連携攻撃を加えた。「風の斬撃」「風神の怒り」「氷の刃」「霜の嵐」「水圧斬」「神海嵐」。
ブングンドクは咆哮を上げ、究極の奥義で反撃した。「大陸粉砕」「地震撃」「岩石嵐」「山河震動」……神の振動は一つの大陸すら平らにできるほどの破壊力だった。
だが幸運なことに、戦士たちには「化け物」が後ろでサポートしていた。
テヒモシンが輝き、GLグローブから恐るべきエネルギーが放たれた。
「二倍の力――極限戦印!」
一行の力は単に倍になるだけでなく、百倍以上に跳ね上がった。元素攻撃は今や神すら破壊する破壊力を帯びていた。
ブングンドクは憤怒の咆哮を上げながら倒れ、テヒモシンは即座に「力の浄化」と「封印」を発動し、地神を永遠の宝石に収めた。
――
一方、地球の大気圏外、宇宙の闇が支配する場所で、真空の神シンバクウムは仲間が消えたことを感じ、激しい怒りに震えていた。自分が騙されたことに気づいた。
テヒモシンは宇宙空間に飛び出し、光の力を持つ彼は宇宙でも呼吸が可能だったが、残りの五人はそうはいかない。
「教えてくれ!」
シンバクウムが大声で叫んだ。虚空に浮かぶテヒモシンの姿を見て。「お前たちはどこに隠れていた? なぜ神の目すら見つけられなかった?」
テヒモシンは落ち着いて神を見つめ、鳥の翼のような髪が無重力の中で軽く揺れた。
「俺たちは遠くに隠れていたわけじゃない。いつも、貴方たちのすぐ後ろにいただけだよ」
シンバクウムは苦々しく笑った。
「なるほど……それで今、なぜお前はここにいる? この死の空間で」
「知っていたからだ」
テヒモシンは神の両手を見つめた。「本当の破壊技を発動するには、貴方は宇宙の真空環境に入らなければならない」
「やはり見誤っていなかった。お前が六人の中で最も強いようだ」
シンバクウムは笑みを収めた。
「過大評価だよ。でも、貴方をなんと呼べばいい? 真空の神ヒゴッダー・シンバクウムか、それとも宇宙の神モゴッド・ユチュバースターツか?」
神は一瞬動きを止め、ため息をついた。
「……全て知っているのか。どう呼んでも構わん、もうどうでもいい」
激しい怒りが爆発した。シンバクウムは手を振り、巨大な隕石と軌道上の破壊された衛星を操り、地球に向かって火の雨を降らせた。
「ここで終わりだ、人類よ!」
「まだ終わらない」
テヒモシンは拳を握りしめ、全身を輝く光が包んだ。「光速――ライトスラッシュ!」
宇宙の闇を切り裂く一条の光が走った。
テヒモシンは想像を絶する速度で動き、地球を守るために一つ一つ隕石を迎撃した。
光の力を持つ者と真空の神との戦いが、正式に幕を開けた。
第十六章 世界が氷河期に戻るとき
テヒモシンが宇宙の真空で単独で隕石の雨を防いでいる間、地上では白い惨劇が青い惑星を覆い始めていた。
三柱の最高神のうち最後の一人、氷の神ヒゴッダー・グラサルジェシが降臨した。
周囲の空間はもはや通常の大気ではなく、死の結晶で満たされていた。千年以上の氷塊のような無表情で、グラサルジェシは浄化を開始した。
「虫けらどもよ、永遠の静寂と冷たさを味わえ」
グラサルジェシは手を振り、究極の奥義を次々と解放した。「吹雪」「極寒」「氷圏」「凍結」。さらに権能を極限まで高め、「永遠の氷」「永遠の氷封」「氷の吐息」「氷の大洋」、そして魂を凍らせる「氷心寒気」まで放った。
テヒモシンの指揮と「二倍の力」のサポートがない状態で、「神の子ら」は即座に守勢に立たされた。戦術分析と強化技を失った五人の元素攻撃は、神の絶対的な威圧の前でばらばらになった。
ゴンドラカはマグマの炎を吹き上げて氷を砕こうとしたが、グラサルジェシの冷気は凄まじく、炎が芽生える前に消し去った。
元々氷を操るシュネヴィティでさえ、冷たさの源泉であるこの力の前で震えを抑えられなかった。
一瞬のうちに、戦場から音が消えた。
カチ……カチ……
平地に五体の巨大な氷像が現れた。
ゴンドラカ、オヴィムチ、シュネヴィティ、ウイルコ、チョウカゼリ――「神の子ら」の全員が、最後の戦闘姿勢のまま氷の中に閉じ込められた。
彼らの瞳の光は徐々に薄れ、ダイヤモンドより硬い透明な結晶に覆われていった。
グラサルジェシは敗者たちを冷たく見下ろした。
「人間は決して、そして永遠に、神に逆らうことはできない」
敗北者をもう一度見ることもなく、氷の神はゆっくりと歩き始めた。
一歩踏み出すごとに大地は氷岩に変わり、草木は凍てついたまま枯れ果てた。
彼が行くところ、氷河期が広がっていった。
都市、山林、大洋……すべてが果てしない白に覆われ始めた。
地球はグラサルジェシの手によって、徐々に最も原始的な時代――氷河期へと逆行していった。
第十七章 モゴッドの神々が介入する時
地球を包む果てしない宇宙空間で、星々の光が冷たく輝く中、宇宙の神モゴッド・ユチュバースターツは突然怒りを収め、危険な傲慢な笑みを浮かべた。
「もう十分にふざけたな、光を帯びし者よ」
言葉が終わると同時に、周囲の空間が激しく歪んだ。
彼は銀河規模の破壊権能を解放した。「虚空爆破」「虚空斬」「銀河破壊」「超新星爆発」、そして夜の帳を切り裂く究極の奥義「銀河斬」。すべてがテヒモシンに向かって同時に放たれ、彼を宇宙の塵に変えようとした。
千鈞一髪の危機――
突然、もう一つの神聖なる圧力が現れ、空間を切り裂いて介入した。
最高位のモゴッドであるチジュウシン、スイズシン、フエザシンが、遠い異宇宙から正式に帰還した。三神は協力して巨大なエネルギー障壁を展開し、ユチュバースターツの破壊攻撃を、テヒモシンが触れる直前で完全に防いだ。
宇宙での戦いは一時停止した。
すべての神々とテヒモシンは地上に降り立った――そこは今や白い氷の墓場と化した世界だった。
「神の子ら」の五人が永遠の氷塊の中に閉じ込められている姿を見て、チジュウシンは威厳たっぷりに氷の神に命じた。
「グラサルジェシ! すぐに彼らを解凍せよ」
グラサルジェシは歯を食いしばり、獲物への未練を込めた目で言った。
「なぜだ? あと少しで『人類終末の日』計画は見事に成功するところだったのに!」
ユチュバースターツも降り立ち、詰問するように言った。
「なぜ我々が人類を抹殺するのを邪魔する? 奴らの罪はまだ浄化されるに値しないというのか?」
チジュウシンはゆっくり首を振り、鐘のような声で答えた。
「人類は確かに罪を犯している。しかし、今はまだ彼らを根絶やしにするべき時期ではない」
スイズシンが運命的な約束を口にした。
「我々は誓う。もし本当に必要な時が来たら、九柱の最高神が一致団結して人類を抹殺する任務を遂行しよう。しかし、今ではない」
フエザシンは周囲を見回し、神聖な顔に疑念を浮かべた。
「待て……残りのヒゴッダーたちはどこだ? なぜここに二人しかいない?」
緊張した空気の中、テヒモシンが前に進み出た。彼は胸元から輝くエネルギー球をいくつか取り出し、平然と言った。
「ああ、残りの四柱は俺がすでに封印したよ。今はこれらの球の中に綺麗に収まっている」
モゴッドの神々を沈黙が包んだ。
チジュウシンはテヒモシンを見て、驚きと敬意が入り混じった視線を向けた。
「まさか……一人の凡人が、六柱の強力なヒゴッダーのうち四柱を自力で封印するとは……本当に予想外だ」
世界の運命は、再び破滅ではなく、神々と人類の間の危うい均衡によって動き始めた。
第十八章 九柱の神の稀有な運命
妥協が成立した後、最高位のモゴッドたちは一斉にエネルギー球に向かって手を伸ばした。
輝く魔法陣が展開され、封印が解除され、四柱のヒゴッダーが元の姿に戻された。
光の粒子が散った瞬間、テヒモシンは珍しく目を丸くして驚きの声を上げた。
「わあ……まさか九柱の最高神が全員女性だったなんて?」
解放されたばかりのヴルカオピは衣装を軽く直し、意味深な笑みを浮かべた。
「これも運命と言えるかもしれないわね」
「この世界には九柱の神がいる」
バラウツェアミが澄んだ泉のような声で続けた。「千年ごとに一度、私たちは性別を交代するの。男性と女性を交互に」
ランハンセントは姉妹たちに視線を走らせながら頷いた。
「九柱すべてが同じ千年紀に女性になるというのは、極めて稀な出来事よ」
普段あまり喋らない氷の神グラサルジェシが、眼鏡を軽く押し上げ、科学者のような口調で分析を始めた。
「確率で説明しよう。任意の千年で一柱の神が女性である確率は50%(0.5)だ。九柱の神はそれぞれ独立しているから、九人全員が同時に女性である確率は、
(0.5)⁹ = 0.001953125
つまり約0.1953%。お前は時間軸においてほぼありえない瞬間に立ち会っているということだ」
ブングンドクは同僚を見て感嘆した。
「数学が本当に得意だな、グラサルジェシ」
ユチュバースターツは短い氷河期の後にようやく光が差し始めた地平線を見つめた。
「全て決着した。我々はエネルギーを回復させるため、千年単位の眠りにつく」
「それでは、俺は仲間たちを迎えに行きます」
テヒモシンはそう言うと「光速」を発動し、眩い光の尾を引きながら「神の子ら」のもとへと消えていった。
その少年の背中を見送りながら、ヴルカオピは疑問を口にした。
「あの少年はいったい何者? 本当に人間なのか?」
「彼は完全に普通の人間だ」
チジュウシンが断言した。
「我々は直接彼と戦ったからよく知っている」
バラウツェアミは首を振りながら言った。「何か……他の人間とは明らかに違うものを持っている」
フエザシンは誇らしげに笑った。
「ああ、それは我々が直接三年間、徹底的に訓練したからだよ」
「三年もの間、一緒に過ごしたんだ」
スイズシンが懐かしげな目で続けた。
チジュウシンは厳しい声で会話を締めくくった。
「残りの五人は、ただ元素の力を与えられた選ばれし者に過ぎない。彼らの役割は終わった。今こそその力を回収する時だ」
その瞬間、九柱の最高神は一斉に輝きを放ち、虚空へと溶けていった。
世界は再び温もりを取り戻し、人類の新たな時代が静かに始まろうとしていた。
第十九章 夢ではない時間
白い平原の真ん中で、五つの輝く光の筋が突然氷塊から飛び出し、空高く舞い上がって虚空に消えた。
鋭い目のテヒモシンは、それが元素の力が宿主から離れていくのを即座に察知した。彼は迷わず極限速度を発動し、その収束点に向かって疾走した。
現場では、「神の子ら」を覆っていた氷塊が溶け落ちていた。
神聖な力を持っていた時は、寒さなどぼんやりした概念でしかなかった。しかし今、ただの普通の人間に戻った彼らにとって、去りゆく氷河期の骨まで染みる寒さが本当の意味で襲ってきた。
彼らは体を縮こませ、歯をカチカチと鳴らしていた。
その時、金色の光の筋が彼らの前に降り立った。
見慣れた姿を見て、五人は安堵のあまり声を上げた。
迷うことなく、チョウカゼリ、シュネヴィティ、ウイルコの三人が同時にテヒモシンに飛びつき、激しく泣きじゃくった。
冷え切った頰に熱い涙が伝う。
「私たち……もう死んだと思ったよ!」
チョウカゼリが肩を震わせて嗚咽した。
シュネヴィティは涙目で彼を見上げ、尊敬の眼差しを浮かべた。
「私たちが助かったということは……君は本当に最高神たちを倒したのね?」
「テヒモシン、すごいよ……」
ウイルコが鼻をすすりながら言った。「一人であの恐ろしい存在たちと戦って、無事に戻ってくるなんて」
三人の少女の体が激しく震えているのを感じ、テヒモシンは小さく息を吐き、表情を優しくした。
彼はグローブを調整し、温かな熱量を放って全員を包み込んだ。
「みんな寒そうだね。俺が温めてあげるよ」
春の陽光のような柔らかい暖かさが広がり、骨身に染みる寒さを追い払った。
テヒモシンは落ち着いて説明した。
「実は、ヒゴッダーたちを倒したのは俺一人じゃない。幸いモゴッドの神々がちょうどいいタイミングで戻ってきて介入してくれたんだ」
ようやく冷静さを取り戻したゴンドラカが聞いた。
「それで結局……あの神々はどうなったんだ?」
「俺にもよくわからない」
テヒモシンは肩をすくめた。「あれは神々同士の問題だよ。彼らは妥協して、千年単位の眠りについたらしい」
オヴィムチは再び青くなり始めた空を見上げ、安堵の息を吐いた。
「じゃあ……本当に全て終わったのか?」
空気が急に重くなった。
チョウカゼリが腕を緩め、寂しげな声で言った。
「私たち……ここで別れなきゃいけないの?」
「どんな宴にも終わりはあるものよ」
シュネヴィティは微笑んだが、目に惜別の色が浮かんでいた。
テヒモシンは突然、空間から五つのものを取り出した。
新品の戦闘服と、輝く五つの機械兵器だった。
全員が驚きのあまり言葉を失った。
「え……これ、完全に壊されたはずじゃ……?」
ゴンドラカは呆然としながら火龍槍を受け取った。
「新しく作り直したよ」
テヒモシンは落ち着いて答えた。「みんなへの記念の贈り物だ。これを見れば、俺たちが肩を並べて戦った時間は夢じゃなく、本物の記憶だって思い出せるだろう」
オヴィムチは笑いながら首を振った。
「さすが光速の持ち主だ。何をするにも速くて、綺麗で、軽やかで……信じられないよ」
「大切に保管するわ。一生の宝物として」
ウイルコは贈り物を強く抱きしめた。
ゴンドラカはふと思い出したようにテヒモシンの肩を叩いた。
「そうだ、お前まだ無職だったよな? うちの会社に来いよ。どんなポジションでも好きにしていいぞ!」
「ダメよ! 彼は私の会社に来るべきよ!」
ウイルコが即座に反対した。
「絶対に私の会社に来てよね!」
チョウカゼリも負けじと主張した。
友人たちの熱心な誘いに、テヒモシンは微笑みながら断った。
「みんなの気持ちは嬉しいけど、自分で仕事を探すよ。俺は自由が好きなんだ」
まだ自分にしがみついている三人の少女を見て、彼は優しく聞いた。
「もう寒くない?」
チョウカゼリは顔を赤らめながらも、頑なに離れなかった。
「いいの。もう少しだけこうさせて」
「どうせ元素の力はもうなくなっちゃったんだから」
シュネヴィティが小さく呟き、彼の肩に顔を埋めた。「自分で温める方法なんてないもの」
「もうちょっとだけ……」
ウイルコが囁いた。「もうちょっとだけ抱きついていたい。もうすぐ離ればなれになっちゃうんだから」
世界が蘇り始めた夕焼けの下、六人は溶けゆく雪原に立ち、最後の温もりを分け合いながら、それぞれの運命の道へと別れを告げた。
第二十章 それぞれが帰る時、俺だけはまだ歩き続ける
十一月の最後の夕焼けが空を赤く染め、大災厄の終わりを告げていた。
テヒモシンは最後の約束を果たすため、光速を使って仲間たちを一人ずつ自宅まで送り届けた。
最初に立ち寄ったのはゴンドラカとオヴィムチの家だった。
ドアの向こうでは、妻と子供たちが、静かな英雄たちの帰りを待ちわびていた。
別れの時、テヒモシンはゴンドラカの目を見つめて静かに聞いた。
「最初に、なぜ俺が兄貴をリーダーに選んだかわかる?」
ゴンドラカは黙って、いつもの炎のような目が今は静かに彼の言葉を待っていた。
「兄貴は感情をコントロールできるし、どんなに緊張した状況でも冷静さを保てるからだ」
テヒモシンはゆっくりと言った。「困難に立ち向かう姿勢には、大黒柱らしい成熟した男の風格がある。それがリーダーに必要な資質だと思った」
次にオヴィムチに向き合い、微笑んだ。
「そして兄貴は、俺が今まで出会った中で一番信頼できる人だ。責任感がグループの支えになっていたよ。でもこれからは、なんでも拳で解決しようとするのはやめてくれ」
オヴィムチは頭をかき、穏やかに笑った。
「わかったよ。直すよ」
そこを後にし、テヒモシンはシュネヴィティとウイルコを家まで送った。
玄関先で、空気が不思議なほど優しくなった。
「シュネヴィティ」
テヒモシンが言った。「君の内気で冷たい性格と落ち着きが、俺が副リーダーに選んだ理由だ。多くの人は君を無関心だと思うかもしれないけど、俺は知ってる。君は心の底からみんなのことをとても心配しているんだ」
シュネヴィティは小さく頭を下げ、幸せな笑みを堪えるように唇を結んだ。
彼はグループで一番若い少女に向き合った。
「ウイルコ、君はこれからも自分らしくいればいい。君には君だけの輝きがある。無理に姉さんのマネをしたり、影になろうとする必要はないよ」
二人の少女は堪えきれず、最後に一度だけテヒモシンに抱きついた。
この特別な友人の温もりを、心に刻み込むように。
最後に残ったのはチョウカゼリだった。
彼は彼女を屋敷の前まで送り届けた。別れ際に、テヒモシンは真剣だが鋭い忠告を残した。
「もう感情に流されて無茶な行動をするのはやめろ。自分で自立することを学ばないと、この世界は君のわがままを中心に回ってるわけじゃない。みんなから避けられたり、『関わらない方がいい人リスト』に入れられたいのか?」
チョウカゼリはびっくりして慌てて首を振った。
「そんなの嫌だよ!」
彼女はテヒモシンに強く抱きつき、謝罪と感謝の気持ちを込めた。
手を離した時、光速を持つ少年の姿はすでに光の粒子となって虚空に溶けていた。
「さて……俺もそろそろ家に帰るかな……」
テヒモシンは人気のない通りで独り言を呟いた。
しかしその瞬間、頭の中に三つの影が浮かんだ。
彼は小さく笑った。
「ああ……まあいいや。もう少し外をうろついていよう」
二〇一八年十一月三十日、金曜日。
戦いは終わった。
みんなそれぞれの安らぎの場所を見つけた。
ただ一人、光の力を持つテヒモシンだけは、孤独な道を選んで歩き続けた。
彼はどこへ行くのか? 神々をも超える力を持ちながら、無名の者として生きることを選んだ少年に、どんな試練が待っているのか?
――続く――
【後書き】
初めまして、あるいはこんにちは。作者の Vleuingu です。
本作『犯罪の根源』を手に取っていただき, 誠にありがとうございます。
この物語は、単なる異能バトルアクションではありません。神の視点から見た人間社会の矛盾、そして絶望的な状況下で足掻く人々の姿を描いた「反逆の物語」です。
光速を超える速度を持つ主人公・テヒモシンと、個性豊かな「神の子」たちが織りなす旅路を, ぜひ最後まで見守っていただければ幸いです。
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皆様の感想も心よりお待ちしております。
それでは、また次の章でお会いしましょう。




