部下に見送られて
人間がするというスキマバイトなるものを、魔王である我もやってみようと考えた。慣れた地を離れて人の住む大地に降り立つ。
これはその日記だ。
日記は人間……特に女がよく記すという。
性別のない我には分からないが、スキマバイトをするにあたっては、女の姿のほうが良さそうだ。
チカラの弱きものなら警戒心も解け、人間たちの懐に入りやすそうだからだ。
スキマバイトの面接には、酒場の店長を洗脳して受かった。
口頭説明を聞く限り、覚える酒の種類や組み合わせより、魔術を習得する方が万倍難しい。
人間はきっと頭が良くないのだな。
そんな人間の底力というものが、どうやって湧いてくるのか。それさえ抑えれば、勇者など怖るるに足らずだ。
魔王城から出る際、ラビットマンたちによる演奏やゴブリンたちによる歌唱で華やかに見送られた。
相棒は、供に出かけようと我に言ったが、断った。
バイトは、きっと人間にとっては修行のようなものだろう。少なくとも我はそう考える。
なぜなら人の配下に就くのだから。
我が人間に命令される。
そのような姿を配下の者たちに安易に見せられない。ましてや相棒などには。
これはメンツというものだ。分かってくれ、相棒よ。
バイトの時だけは、我が魔王だということを忘れなければならない……と考えてもみたが、もし忘れることができなかったら店ごと潰してやろうと思った。
我は、人間世界を混沌に陥れたり統べることはあっても、救う義理など毛頭ないからだ。
我は魔王。人間を混沌によって操る魔界の王、カフカ・ヴォーラク。
一時的に人間に仕える気ではいるが、相手がいい気になった時は、その存在に特大ダメージを与えてやろう。
まぁ、気ままにやる。
その気になれば村や町は吹き飛び、王国でさえも滅ぼせるのだから。
────前置きがとても長くなってしまった。魔界の者たちよ。魔王の我が、人間と働いた時の話を、土産話として聞いてくれ。




