紫という女
去年の冬のことです。今年もなんだかんだで、一緒にお参りに行くことができました。何を願ったか、よく覚えていませんが、君との悠久は願わなかった覚えがあります。少し大人になって、結婚することにこだわらなくなったからか、はたまた気持ちに油断があったのか。神社からの帰り道、午前一時を回っていましたが、腕をまくり、今年の抱負を大声で豪語していました。その時でした。
「なんだか今年で最後な気がする」
厄年の君から、こんな言葉が聞こえました。でも特に、動揺することはありませんでした。気がするでは片付けられないほどの、厚い関係を築いてきたからです。その厚さは、この日の七ヶ月後に、いとも簡単に燃やされたのですがね。
五年前
中学校に進学した私は、他小学校の友達を順調に増やし、やがて各校の卒業アルバムを拝見した。そこに一人、やけに脳裏に張り付く女がいた。名前は紫と言うようで、典型的なリーダー女子だったと、友達は語りだした。
バレーが上手で、男子顔負けの運動神経。毎年学級代表なのは当たり前。その他のリーダーなどにも基本彼女が任されていたそうだ。友達も多く、家も広くて、隙が全くない完璧。そして、
重い前髪に大きな目、小さい顔に、とても高い鼻。だが
私には当時、小学生の時から想いを寄せ続けていた女の子がおり、天秤にかけるに価するとは思わなかった。というか学年の人数が多すぎて、直接見かけたことがなかった。
君のクラスの担任に用事があって、初めて君の教室に向かった。君は休みだった。
不登校だと聞いた。噂によれば、担任と揉めて転校したとのことだった。
やけに脳裏に張り付くなと思っていたらこういうことか。やはり私には予知能力がある。
元々関わりは全くなかったのだし、しょうがないねで終わりだ。この時の私は、それどころじゃなかったのもある。とにかく部活が辛くて、そちらに集中していた。ここで身についた忍耐力に、何度も助けられることを、当時の私はまだ知らない。
一年が終わり、春休みを謳歌していた頃。何か面白いことがしてみたくて、学年全員の名前をルーレットに入れてみた。260人いるが、こういう悪趣味なことにだけ熱中できてしまうという長所に時間を割いた。やがてそのルーレットの結果が、クラス表に見えてきた。あとはピアノを弾ける子を、頭がいい子を、足の速い子を、リーダー経験のある子を。
これを一つのコピペで送れる、いわばチェーンメールのような形で友達に拡散した。かなり遠いところまで広まってくれたようだった。
それは、不登校中の紫も、例外ではなかった。
後から分かった話
紫は中一の夏、担任と揉めて転校した。籍はまだこちらに残しつつ、違う世界で生きてみていたらしい。新しい友達もできて、ここにいたいという思いが強くなっていく中、元居た中学の校長から連絡が来たそうだ。
「違うクラスになりたい人を二人、同じクラスになりたい人を二人、選んでいいから、戻ってきてくれないか」
春休みが明け、中学二年になるタイミングで、復帰することになったと。本人は怖さでいっぱいだったらしい。
それもそうだ。半年以上姿を消していた学年に戻ったとしても、みんな忘れているに決まっている。友達なんてできないし、勉強だってどんどん難しくなる。私とは真逆で、かなり重たい春休みを過ごしていたらしい。
そんな中、元居た中学で仲の良かった友達、佐藤から、一件のチェーンメールのようなメッセージが届いた。そこには聞き覚えのある人たちの名前がずらりと書いてあった。
「来年のクラス予想らしいよ」
自分の名前は、
なかった。
当然だ。半年間姿を消していて、転校したと思われているのだから。やはり私は忘れられていて、この学年に戻る場所なんてどこにも
「紫五組だね」
五組を探した。見落としていただけだった。しっかり自分の名前が載っていた。このメールは、誰が作った?
「これ作ったの誰?」
「あいつだよ。知らないの? 有名だよ」
その名前は聞いたことがなかった。
次の日に校長室で、いじめっ子の二人の名前を挙げた後に、佐藤の名前を挙げた。
「佐藤さんと仲良かったもんね。もう一人は、どうする?」
あのメールを作った、
私の名前を挙げてくれたらしかった。
中学二年で、紫と同じクラスになれた。




