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逆さまの初恋

作者: Tom Eny

逆さまの初恋


導入:憧れと日常


ハルトは、クラスの隅で目立たない高校生だった。彼の視線の先には、いつもクラスの中心にいるリサがいた。完璧な容姿は、まるで手の届かない憧れの存在。彼女と目が合っただけで、心臓が飛び出しそうになるほど緊張してしまう。


そんなハルトの隣には、物心ついた頃からの幼馴染、アカリがいた。彼女は飾らない男勝りな性格で、ハルトにとっては気軽に話せる唯一の異性だ。アカリもまた、学園の王子様的存在であるイケメンのカイに密かに想いを寄せていた。カイは頭脳明晰、スポーツ万能。リサと同様に、完璧な存在に見えた。


ハルトとアカリは、それぞれが憧れるカイとリサを「自分たちとは住む世界が違う、完璧な人間」だと信じ込んでいた。彼らの共通の趣味は、夜な夜なオンラインゲームに興じること。二人はゲーム内ではお互いに気兼ねなく話せる良きゲーム仲間だった。


入れ替わりのきっかけ:ゲームが繋ぐ奇妙な運命


ある日の放課後。ハルトとアカリは、自宅でそれぞれオンラインゲームをプレイしていた。ちょうどその日、ゲーム内では年に一度の大規模な限定イベントが開催されていた。そのイベントには、普段あまりゲームをしないはずのカイとリサも、友人との**「付き合い」**で参加しているようだった。


イベントのクライマックス、謎の光に包まれた巨大なオブジェクトが出現し、参加者全員がその中心へと導かれる。ハルトのキャラクターとカイのキャラクター、アカリのキャラクターとリサのキャラクターが、それぞれの思惑とは関係なく、光の中心で同時に激しく衝突したその瞬間――。


ゲーム画面が激しいノイズとともにフリーズし、同時にハルトとアカリの部屋には強烈な閃光が走った。次に目覚めたとき、ハルトは鏡に映る自分の顔が、カイのイケメンな顔になっていることに驚愕する。そして、アカリもまた、リサの美しい顔が自分になっていることに気づく。


そう、ハルトはカイの身体に、アカリはリサの身体に入れ替わってしまったのだ。そして、カイはハルトの身体に、リサはアカリの身体に入れ替わっていた。見た目は憧れの相手、中身は幼馴染という、奇妙で前代未聞の学校生活が始まる。


入れ替わり生活:ギャップと成長、そして新たな発見


ここから、ハルトとアカリは、それぞれ二つの物語が並行して進む中で、互いの身体で憧れの人のフリをして学校生活を送ることになる。


ハルト(中身:カイ)の「ダサいイケメン」奮闘記


完璧なカイを演じようと必死になるハルトだが、「鼻水をすする」「緊張すると貧乏ゆすりをする」「急な質問に固まってしまう」といったハルト本来のダサい癖が、ふとした瞬間に漏れ出てしまう。周囲は「今日のカイくん、なんか面白い」「人間味がある」と、戸惑いつつもどこか親近感を覚えた。


憧れのリサ(中身:アカリ)と気軽に話せることに内心驚きつつも、アカリの気兼ねないツッコミや会話が、ハルトが抱えていた「美女を前にすると緊張して話せない」というコンプレックスを少しずつ解消していく。


カイの身体に入ったことで、彼が完璧に見える裏で抱えていた「常に期待に応えなければならない」というプレッシャーや、人には言えないマニアックな趣味などを知る。それまで「完璧な王子様」だったカイに対する認識が、「愛すべき人間」へと変わっていくのを感じた。


アカリ(中身:リサ)の「男勝りな美女」活躍記


美人なリサを演じようとするアカリだが、持ち前の男勝りでサバサバした性格が隠しきれず、周囲からは「美人なのに気が強い」「ギャップがすごい」と驚かれる。時には、虫を素手で捕まえたり、困っている人を豪快に助けたりと、リサのイメージを大きく覆す行動も飛び出した。


イケメンのカイ(中身:ハルト)と話すことに最初は緊張するが、中身がハルトなので、いつものように気楽な会話ができることに安心感を覚える。


リサの生活を送る中で、彼女が過度な注目やストーカー被害に悩まされていたことを知る。アカリはリサの身体で、そのストーカーに怯まず毅然と立ち向かい、男勝りな行動力で解決の糸口を見つける。この経験を通して、リサの「美人なのに怖い」という印象が、自分を守るための強さだったと理解した。


すれ違う恋心と真実の眼差し


ハルトは、リサの身体に入ったアカリの、男勝りな中に見せる純粋さや面白さに触れるうち、**「見た目の美しさ以上に、一緒にいて楽しい中身」**に惹かれている自分に気づき始める。


アカリもまた、カイの身体に入ったハルトの、ダサくて不器用な部分や、実は繊細で優しい心に触れるうち、**「完璧なイケメンというより、人間味があって愛すべきハルト」**に惹かれている自分に気づいた。


この奇妙な入れ替わり生活を通して、ハルトとアカリは、人は見た目だけでは判断できないこと、そして完璧に見える人間にもそれぞれ悩みや愛すべき欠点があることを痛感する。自分たちの「ダサさ」や「男勝りさ」といった個性も、愛すべきものだと自己肯定感を高めていった。


クライマックス:運命の再会と選択


入れ替わった状態での日々が続く中、ハルトとアカリは、それぞれの「中身」に惹かれている自身の恋心に確信を持つようになる。


ある日、プレイしていたオンラインゲームから「限定イベントの再開催」のお知らせが届く。ハルトとアカリは、これが元に戻る唯一のチャンスかもしれないと考え、カイ(中身ハルト)とリサ(中身アカリ)と共に再びゲームにログインする。


前回と同じように、光に包まれた巨大オブジェクトの中心へと導かれ、ハルトとカイ、アカリとリサのキャラクターが同時に衝突した瞬間、強烈な光が彼ら全員を包み込んだ。


結末:見た目は元通り、恋は新しく


次に目覚めたとき、ハルトとアカリは元の自分の身体に戻っていた。カイとリサも同様に、元の身体に戻っていた。


ハルトは、元の自分の身体に戻っても、アカリへの気持ちが以前とは全く違うことに気づく。リサへの漠然とした憧れは消え、**「美人なのに男勝りで、一緒にいて心の底から笑える」**アカリの存在が、何よりも大切だと実感する。


アカリもまた、元の自分の身体に戻っても、ハルトへの気持ちが大きく変化していることに気づいた。カイへの憧れは薄れ、**「かっこいいのにダサいけれど、不器用で優しい」**ハルトが、一番自分を理解し、安心できる相手だと確信する。


こうして、ハルトとアカリは、互いに元の見た目に戻ったにも関わらず、入れ替わりを通して互いの「中身」の魅力に気づき、改めて恋に落ちるのだった。


一方、カイとリサもまた、ハルトとアカリの身体で過ごしたことで、完璧を演じる必要のない解放感や、互いの意外な人間的な側面に触れる。彼らもまた、以前よりも人間味あふれる、より良い関係を築き始めるのだった。


この奇妙な入れ替わりは、少年少女たちにとって、見た目だけでは分からない本当の自分と相手の魅力に気づかせてくれる、まさに運命の「逆さまの初恋」となったのだ。

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