第一章 揺らぎの楽園 【五節】出発
うむ
ミヤが旅の準備をするといって部屋を出ていったところで、エレユオに向き直る。
「今回の事だけど、あの異変についても気になるが、創造の力が初期化されている方が問題だ。」
「やはり、そうなのですか?」
「うん……」
この力は物体の創造を行うことができるが、この世界に過去に訪れた際に確認した制限があり、
それが過去に触れたものかつ自身の体積を超えないことである。
そう考えながら部屋にある椅子に片手で触れて、もう片方の手を空間に向けるとシナユリの手が光に包まれ、
同じ見た目の椅子が創造される。
「まぁ創造の力は、また様々な物に触れていけばよいだけ。それに神技は無事だったんだ、神格を落とされたわけじゃない」
創造の力は神として生まれた時、世界からこの世に秩序をもたらすためにと外付けされる力であり、
似たような力があったとしても、全く同じものではない大切なものだ。
そして神にはもう一つ神技と言われる力がある、この力は神の心臓である神核から形取られる物であり、
能力と違いこれは神である限り失う事のない武器である。
私の神技は光剣や結晶槍などに変化する不定形の武器を扱う物である。
「それより今の問題は影と異変だ。この二つは何処かで繋がっている気がする。」
「何故でしょうか?」
「あの魔獣から出ていた黒煙からは微かにだが創造の力に似た物を感じた。」
「それって!!」
「そう…まだ確証はないけど、もしかしたら異変の裏には私から創造の力の情報を初期化した影か、
似た能力を持った別の神が関わっている可能性がある。」
「そんな……でも創造のできる能力を持った神など、それこそ片手で数えられる程しかいません!」
「ただの仮説よ、熱くならないで」
「…そうですね。失礼しました。」
エレユオの言う通り、創造の力を扱える神など、それこそ原初の三神の一人である、”創始の神リュオス”様や、
それに付随する神だけ、しかし私のような異例の存在もあるため、その可能性を切り捨てることは難しかった。
「今考えても仕方ない……けど頭の隅に置いといて」
「かしこまりました」
「とりあえず、今後は異変を探しながら影を追いかけよう」
「わかりました」
そう話している内に外からの陽の光は届かなくなり、夜の静けさが訪れていた。
それからミヤがご飯を持って来てくれたので、他愛ない話をしながら食事をした、どうやら明日の昼には、村の男たちが戻ってくるとのことなので、
それを見届けてから、村を出るという旨の話をミヤに話した。
「分かったわ、それまでに準備は済ませておくわね!」
その日は疲れがたまっていたのか、食事をすませた後すぐに眠気に襲われ、それに抗うことなく私は布団へと潜るのだった。
**
――――赤い空。ひび割れる大地。祈るように立つ影
誰かの叫び。ひとつ、またひとつ、小さな光が黒い淵へと落ちていく。
空を割って現れる黒い手。崩れ落ちる浮島。その中心に立つ、顔のない少女。
またいつもの夢かと思っていた時だった。
顔のない少女がこちらに向かって話しかけてくる。
「私を……否定しないで。私はあなた……私は“正しさ」
「どういう事?あなたは誰なの?」
「忘れないで、私は―――」
**
そこで目が覚める。
「お目覚めですか?シナユリ様。」
そこにはいつ起きたのだろうか、エレユオが椅子に腰掛けていた。
「えぇ、おはようエレユオ」
外に目を向けると太陽が既に顔を出していた。
「少し長く眠っていたみたいね」
「もう村の男たちが帰ってきたようです。後で広場に顔を出してほしいとミヤさんが言っていましたよ」
「わかったわ」
それから少し経った後、シナユリ達は広場に向かった。
広場には村の人達が集まっており、そこにはミヤの姿もあり、こちらに気が付くと手を振りながら向かってくる
「シナユリにエレユオ、おはよう!」
「おはよう」
「おはようございます」
挨拶をしていると、ミヤの後ろから遅れて村の男達と思われる集団がやって来る。
「ミヤさんそちらの方々が?」
「そうよ、村に出た魔獣を倒してくれたシナユリとエレユオよ!」
そう聞くと村の男は深く頭を下げて
「村を助けてくれてありがとう!」
そうお礼をいってくる
「いえいえ、偶々通りかかっただけですから気にしないでください。えーとっ……」
「あっ失礼した、名前がまだだったか、タナトと言います。」
顔を上げて名前を告げてくれた。
「そうだ!これ、お礼になるかわからないですけど」
そう言いながら、タナトは背中の荷物入れから、小さな袋を取り出してきた。
袋に何か入ってるのかと不思議そうにしていると、
「これは、魔法式空間拡張袋という名で、見た目以上に荷物の入るもので、そんなに内容量のあるものではないですが、
どうぞ受け取ってください。」
と実際に片手で持てるサイズの袋にそれ以上の大きさの木材を試しに入れて見せる。
「いいんですか?貴重な物だったりしないんですか?」
「このくらいの内容量は珍しくはあるけど、そこそこ流通しているんで大丈夫ですよ。」
「ではありがたく使わせてもらいますね」
そういいシナユリはマジックバックを受け取る。
「大体見た目の5倍くらいは入るはずだよ。それでは村の崩れた民家の修復にかかるのでまた」
そう言いながら歩いて行ってしまった。
「じゃあ、私たちもそろそろ行く?」
そういうミヤは少し大きめのバックを背負っていた。
「そうだね、ミヤも準備はできてるようだね。」
「所で次どこに向かうとか決まってるの?」
そういわれて考えてみるが、特に決まっていない事に気が付く
「そういえば決まってなかった」
「それなら、まず町に行かない?」
「いいけど、どうして?」
純粋な疑問をぶつける
「町なら情報が集まるし、私も用があるから、ちょうど良いかなって」
確かに人が集まる場所なら情報も集まっているはず、
「うん、町に向かおう」
「私に異論はありません」
「決定ね!」
こうして三人は村人達に見送られながら、その地を後にした。
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???「始まったな……」
また気が向いた時に更新するよー