第一章 揺らぎの楽園 【二節】揺らぎ
一週間ぶりですね
――霧の中をさまようような感覚。
世界と自分との境界が曖昧になっていく。
だが、次の瞬間には、はっきりとした「重さ」と「風」がシナユリの肌に触れた。
空に浮かぶ神殿の静謐とは異なる、生命の気配が濃い――現世、創造世界【アルミス】の空気だった。
「……ここは、空域?」
どうやら空中に放り出されたみたいだった。
エレユオに手を引かれ
「どうぞ、おつかまりください。」
頷きながら言われた通りにエレユオにつかまると
エレユオの背中から4枚の翼が広がり、それをはためかせゆったりと落下速度が落ちていく。
状況が落ち着いたことで辺りを見渡し、そこに広がる世界にシナユリは目を奪われる。
「ここが私の世界……アルミス」
一種の感動のようなものを覚える。
空を支えるようにそびえ立つ山々に、大地を見守るかのように存在する浮島の数々、
そして足元の生命の息吹を感じる緑の大地に木々などその光景に私は息を吞む。
やはり創造初期の何もない頃の景色と比べるとこの世界の雄大さが心に響く。
「シナユリ様、これからどうされますか?」
景色に見とれていたシナユリにエレユオは問いかけた。
その問いかけに私は考える。
この世界を作ったのは私だけど、そこに存在する生命については全くといっていいほど知識を持ち合わせていない。
異変を探すにしても影を追いかけるにしても圧倒的に情報が足りないと感じる。
「今は情報が欲しい、どこか人が集まっている場所を探そう」
「かしこまりました。でしたらあちらの方向に人工物と思われるものが見えますが、そちらに向かうのはどうでしょうか?」
そう言いながらエレユオが指をさした方向に顔を向けると、確かに遠いが人工物のようなものが見える。
「そうしよう」
その言葉を聞きエレユオの翼が大きくはためき、滑空の角度を緩やかに変えながら、ふたりは大地へと近づいていく。
やがて風が木々の香りを運び、花の甘い匂いが鼻先をくすぐった。
「下に集落らしきものがあります。――あれは、村?」
視界に小さな集落が見えてきた。
自然の中に溶け込むように建てられた木造の家々。その周囲には畑や井戸があり、少し離れた所に村の入り口が見える。
「ここから降りて歩いて、村に向かおう」
「わかりました。――気をつけてください。異変の影響がこの地に及んでいる可能性もあります」
エレユオの慎重な言葉に、シナユリは小さく頷いた。
自分が創った世界なのに、まるで“旅人”のような気分だった。地を踏むのは実はこれが初めてであり、
この世界がどんなふうに、自分の創造した原始の状態から発展していったのか――知るすべはなかったのだ。
やがて足元に草の感触が広がる。エレユオの翼が閉じられ、ふたりは森の中の開けた場所に着地した。
風にそよぐ草、虫の羽音、木々のざわめきを感じる。
森を抜けて村に近づくとシナユリ達は、違和感を感じ駆け足で村に向かうとその正体に気が付く。
「……静かすぎる。昼間だというのに」
シナユリは周囲を見渡しながら歩き出す。
家々はある。畑にも手が入っている。生活の痕跡は確かに存在しているのに、肝心の住人たちの姿が見えなかった。
「まるで……皆、どこかに避難したみたい」
「あるいは――襲撃された後かもしれません」
エレユオが周囲を警戒する。
そのとき、シナユリの視線が一点に留まった。
地面に、黒く焼け焦げたような痕跡。
不自然な形で草が枯れ、何かが引きずられたような跡が地面を走っていた。
「これはいったい?」
シナユリはその跡に触れようと手を伸ばそうとした、そのとき――
ドゴーンッ!
村の奥の方から、爆発音が響いた。
ふたりの視線が交差する。
次の瞬間には、シナユリが駆け出していた。
「行こう、誰かがまだいる!」
「了解しました!」
ふたりは、音の聞こえた方向へと走り出した。
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また次の更新の時にでも…