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青春ラブコメに探偵を登場させてはならない  作者: 夏目くちびる
選挙準備狂騒曲

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006

 支援室に戻ると、私は三人に会議室で起きた出来事を余すこと無く伝えた。その反応は様々。丈はお祭りに心を躍らせ、由亜さんは私を見て楽しそうに笑い、月乃さんは影郎君を訝しんだ。



「それで、月乃ちゃんは生徒会選挙に出るか決めた?」


「倉狩君が出ないのよ、何の意味もない戦いに興味なんてないから出ないことにするわ」


「ど、どんだけ影郎さんやっつけたいんすか。こだわり過ぎて、ちとキモいっすよ」


「こだわりもするわよ、いつでも好きな時に好きな相手をブチのめせるあなたとは違うんだもの。戦う機会を失いかねないことには、迂闊に手を出すべきでないわね」


「……すんません。俺が悪かったんで、クソ人聞き悪いこと言うのやめてくださいっす」


「つまり、平賀源之助という先輩も不参加ならば、出馬する人数は六人というわけですか。どう見ますか? 影郎君」


「別に、どうだっていい」



 ……はい?



「誰が勝とうが、僕は僕のやるべきことを精一杯やる。舞台は整えた、後は勝手にするだろう」



 呆れた。



 こんなに身勝手な話があるだろうか。あれ程の大演説を繰り広げて、学校の根底を覆すようなイベントをおっ始めた張本人のくせに、心の底から無関心でいられるなんてイカれてるとしか言いようがない。



 見てよ、あれ。もう観光ブック開いてる。



「こいつのことは、まぁ、ほっといていいでしょ。希子、あたしらはあたしらで楽しもうよ」


「そうですね。きっと、各陣営がパフォーマンスを披露したりイベントを開催したりして、人気の獲得に必死になるはずです。月乃さんも、一緒に冷やかしに行きましょうね」


「えぇ、楽しみだわ」


「……さっきと言ってること違うじゃねっすか」



 すっかり常識人のポジションが定着した丈のツッコミを華麗にスルーして、どこから持ってきたのか、月乃さんは影郎君にチェス盤を差し出した。



 放課後の恒例となった二人の戦い。今日は、これで勝負するみたいだ。



「やったことないね」


「ふふ、ならば私の勝ちは揺るがないわね。イギリスのミドルスクールで敵無しと呼ばれた私の実力を、とくとご覧にいれましょう」


「まったく、仕方のない人だ。希子、スマホを貸してくれ。駒の動かし方を知りたい」


「ねぇ、影郎。あんた、いくら同棲してるからって、女子のスマホを貸せってどういう神経してんの?」


「はい、どうぞ」


「か、貸すんだ……」



 結局、影郎君はスマホを片手に月乃さんに勝利した。知らなかったけれど、彼はこういうゲームも得意らしい。



「ああああああああっ!!」


「チェック・メイトというんだろう、こういう状況を」


「なんで!! なんで勝てないのよ!! あなた、今日が初めてだったんでしょう!? 私は全英アンダー・フィフティーンの入賞者なのよ!?」


「多分だけれど、キミが美人だから接待されてただけなんじゃないかな。素人の僕が見ても、キミの戦法は非合理的だったさ」


「……っ!! お、お茶よ!! お茶!! 早くしなさいっ!? 私に言われるまでやらないなんてあり得ないわ!! 尽くし方が足らないんじゃなくて!?」


「ククッ、わがままですね」



 月乃さんに言われるまま紅茶を淹れる影郎君だったが、ちょうど高いところからカップへ落としている時だった。支援室の扉が、荒々しく開かれて一人の男子生徒が現れた。



 この人、さっき会議室で見た人だ。何か、影郎君に伝え忘れたことでもあったのだろうか。



「影郎、依頼だ。俺の応援演説をやれ」



 ……副会長の小太刀佐助先輩。その口調は実に事務的で、且つ、獅子王先輩の次くらいには偉そうな代物であった。



「急ですね、小太刀副会長。まま、話は中で――」


「やぁ!! 影郎!! 来たよ!! 私の応援演説をやって欲しいっ!! ……あれ、小太刀じゃないか。奇遇だね」



 驚いている間に、夢島先輩までやって来た。五人では少し広い支援室だが、七人ともなると流石に狭く感じる。



「ごめんくださーいー。ねー、影郎君。私、キミに応援演説をやって欲しいんだー……けーどー……。あれー、夢島さん?」


「片瀬、キミもか」


「すみません、倉狩さん。折り入ってお願いが……。ひょっとして、俺は出遅れましたか?」


「ありり、袴田も?」



 まさかと思い生徒会役員のみなさんを避けて廊下を見ると、そこにはちょうど、階段を登ってくる蓮沼先輩の姿があった。



 ……あぁ、なんで気が付かなかったのだろう。



 これは、あまりにも当たり前過ぎる展開だ。あの大演説を聞いた彼らが、影郎君の実力を知っている彼らが、影郎君に依頼を申し込まないわけがないではないか。



「ふざけるなよ、貴様ら。俺が最初に来たんだ、影郎の支援を受ける資格があるのは俺だ」


「ちょっと待ちなよ、小太刀。私は、既に影郎と三回のデートをしている。彼を忌み嫌う生徒会の中で、唯一私だけが仲良くしているのさ。ならば、私を置いて他に支援の資格を得る者などないよ! さぁ、分かったら帰りたまえっ!」


「落ち着いてよー、夢島さーん。支援委員は、会計委員の仕事を手伝うことを条件に存続を認められた係だよー? つまり、支援委員と会計委員は懇意であるというわけでーす。大体、あなたが好きなのは女子でしょー? どー考えたって、そのデートはノーカンだよー」


「言わせてもらうけど、あなたたちはズルいよ。広報委員は、あなたたち本部からの命令で支援委員の情報を出させてもらえなかった。俺個人としては、ずっと支援委員、もとい倉狩さんを応援していたのにだ。それは、先ほどの会議中の敬意の評し方で分かることでしょう?」


「……総務委員だって、支援委員の支援をしている。この部屋の手配、屋上の鍵の譲渡、その棚の卒アル。お前、誰がくれてやったのか忘れたわけではないだろうな」



 総勢五名。獅子王先輩以外の立候補者が、ここ支援室に集まっていた。恐らく、会議を終えて室を出た順にここへ来たのだろう。そうでなくては、彼らのタイムラグの僅かさに説明がつかなかった。



 それが生徒会長になるための一番の近道だと、彼らは会議中もずっと考えていたに違いない。



「伊織君、一つ訊きたい」


「何かしら」


「支援委員の新ルールによれば、依頼者を支援することでイタチごっこになる場合に限り、同一の事件に関わる敗者を救わない決まりだったね。ならば、この場合はどうなる?」


「……同時である以上、全員を支援することに問題は無いわ。まだ、誰も負けていないのですから」


「そうかい。では、改めてようこそ、生徒会の役員方。我々支援委員は、()()()を歓迎しますよ」

 


 もう、滅茶苦茶だ。こんなの、普通じゃない。



「しかし、席が足りませんね。どうです? 一人ずつ面談した方が話もよく聞けるでしょう。ここは先着順と行きましょう、まずは小太刀副会長からどうぞ」



 そう言えば、今回はまだ例の猫なで声を聞いていないな。



 そんなことを考えながら、私は来賓用のパイプ椅子を広げ、真っ白なティーカップを影郎に手渡した。

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