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ep6

それからしばらくしたある日。


社長に呼ばれ、事務所を訪れていた。


社長室の扉をノックすると、


「はい、どうぞ」

社長の声が聞こえてきた。


私は、深呼吸してから扉を開ける。


「し、失礼します」

「愛ちゃん、久しぶり」

「お久しぶりです」


少しだけ緊張がほどける。だが次の言葉で一気に心臓が跳ね上がった。


「今度、愛ちゃんのカムバックが決まったから」

「え?ほんとですか?」

「うん。そしてな、新曲は大和の曲に決まった」


時間が止まった気がした。

「……大和、の曲?」

「そうだよ。あいつがどうしても愛ちゃんに曲を書きたいって言ってきてね」


どうしても――。

その言葉が、胸の奥で甘く響く。


ノックの音がして、息を呑んだ。

ドアを開けて入ってきたのは、彼だった。


「し、失礼します。遅れてしまい申し訳ございません」

「大和、来たか。じゃあ、あとは二人で打ち合わせしてね」


社長が去り、静かに扉が閉まる。空気が一気に変わった。

机を挟んで座るけれど、息が近い。互いの鼓動まで聞こえそうで落ち着かない。


「ひ、久しぶり」

「お、おう」


視線を合わせた瞬間、あの頃に戻ったみたいに心が暴れる。

「曲、書いてくれるんだね。ありがとう」

「……おう」


大和が視線を落とし、少し沈黙が流れる。耐えきれずに唇を開いた。

「あ、あのさ、こないだの話だけど」


「その話はもういいよ。忘れてって言ったじゃん」


強がって笑ったつもりなのに、声が震えていた。

大和はゆっくり首を振る。


「なんでなかったことにするんだよ」

「私、あの日はどうかしてたっていうか……」


その言葉を遮るように、大和が前のめりになる。

真っ直ぐな瞳に射抜かれ、呼吸が止まる。


「俺は好きだよ。愛のこと」


「え……?」


「俺は、好き。ずっと好きだった。だから曲を書きたいんだ。音楽だけじゃない。愛の隣にいたい」


目が熱くなる。視界が滲んで、大和の顔がぼやけた。

「……私も、好きだよ。好きに決まってるじゃん」


次の瞬間、机を回り込んできた大和に抱き寄せられ、唇が重なった。

あまりに突然で、でも夢みたいに甘い。


――私たちは、この日から恋人になった。


そして1ヶ月後、私は彼の作った曲で2年ぶりにカムバックすることになった。

彼もフィーチャリングという形で参加し、音楽番組で共演するはずだった。


だが、その日。

彼は――姿を現さなかった。


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