ep3
まず初めに訪れた私にとっての辛い出来事は、私が中学生になってすぐの頃だっただだろうか。
「ただいま。」
「あ、あい。は、早かったわね。」
私が玄関のドアを開けると、慌てる母。と知らない男。
母は下着しかつけていない。
隣にいるヒゲの生えた小汚い男も同様に裸だった気がする。
この頃この男がよく出入りするようになった。
こいつが誰なのか、母の恋人なのか、愛人なのか、再婚するのか、は聞くことができていない。
なぜかというと、怖いからだ。私は、捨てられるのではないか、そんな恐怖心が私を支配し、私は慌てて自分の部屋へと逃げた。
「俺、帰ったほうがいいんじゃないか。」
「いいのよ。どうせあの子、部屋で音楽聞いてるのよ。聞こえないって。」
私の部屋とリビングの間のふすまは薄い。
嫌でも二人の会話が耳に入ってくる。
私は、震える手を抑えながら、ベッドの上に置いていたヘッドフォンを耳に装着し、音楽を流す。
「私たち、結婚する?」
「で、でも愛ちゃんは、どうするんだよ?」
私は、ボリュームを上げ、その上から大声で歌った。
その瞬間、私は見たくない現実から逃げることができた。
一瞬でも幸せになることができた。
そうやって私は、自分に言い聞かせていた。
母は、私のことを捨てるはずなんてないと。
あの男よりも私を選ぶって。
そう信じていたのだ。
だが現実は、そう甘くなかった。