ep1
サイン会場には、熱気を帯びた空気が渦巻いていた。
机の前に座る私のもとへ、ひとりの少女が駆け寄ってくる。
「愛ちゃん! 愛ちゃん大好きです。応援してます!」
まっすぐで、何の汚れも知らない目。
その視線に真正面から向き合うと、胸の奥が少しだけざわつく。
差し出された両手を握ると、私は自然と微笑んでいた。
「ありがとう」
少女の瞳は潤んでいて、私だけを見つめてくる。
「永遠に好きでいるからね」
——永遠。
その言葉が胸のど真ん中を刺す。
笑おうとしたのに、口元がひきつった。
「う、うん……ありがとう」
ちゃんと笑えていたかな。
分からない。きっと、ひどい顔をしてた。
永遠なんてもの、あるわけない。
心の中でそう呟く。
いつかこの子も、私を好きじゃなくなる。
そんなの決まってる。
――あの日からだ。私は、人を信じるのをやめた。
⸻
今から3年前。
「俺、愛のことを大事に思ってる、大切にする。これからも永遠に」
彼はそんな言葉を囁いて、ベッドの上で私の頬に触れた。
「ありがとう。私もずっと好きでいるね」
そう返した瞬間、唇が重なった。
——真実の愛って、本当に一生続くんだ。
あの時は、疑いもなくそう信じていた。
『人気男性アイドルグループdanger13のメンバー・田中大和容疑者が、覚醒剤取締法違反の疑いで逮捕されました。交際相手Aさんによる告発で発覚した模様です。』
永遠を口にした彼は、何も言わずに私の前から消えた。
私は言葉を失い、その場で固まったまま動けなかった。
⸻
「はっ——」
私はベッドの上で跳ね起きた。
荒い呼吸が胸を揺らす。
「……夢、か」
あの日の光景は、いまだに私の脳内から消えてくれない。
——私はもう、恋なんてしない。
どうせ裏切られる。信じられるのは音楽だけ。
今も、昔も。
ずっとそう思っていたのに。
彼がもう一度、私の前に現れるなんて——
この時の私は、これっぽっちも想像していなかった。




