恋人になって、夫婦になって、家族になりたい
林二は、勉強して特大生になることを考えていた。特大生制度とは勉強とスポーツのいずれかに特化した4人が全校生徒から選ばれる。
選ばれた生徒は、1年間授業料の全免除になるありがたい制度だ。
高い授業料を抑えたい気持ちはわかるが、林二の成績は幼なじみの私がよーくわかる。家庭教師と言っても小学生レベルからやり直すのは半年では、絶対足りない。迂闊に同情しても私の生活時間を削るわけだから、即答で返事ができない。
「なっ、頼む。俺とお前の仲だろう? 岬ちゃん、岬様、岬殿ー」少し考えこんでいるのが気になったのか両手で拝みあわせて猫なで声を出している。
「授業料高いわよ! それからバイトや食事、睡眠、風呂の時間帯を書いたシフトを写メで送って。それを吟味してから家庭教師引き受けるか決めるから」
「なんだよ、俺と岬のなかだろう。授業料とるのかよ」
睨みつけると出世ばらいでお願いしますと、申し訳なさそうにいう。
二人共ラーメンをすっかり平らげてお代わりの水を飲んでも、会話は途切れない。
「それから昨日、遅くまでどこ行ってたんだ?」
やっぱり聞くよね。かいつまんで説明すると
相槌をいれながら「ふーん」と一言。
「それで? 俺はさ、今までもこれからもずっと岬と一緒にいたいと思う。おまえは、話の中で刺激がないとか恋愛感情がわかないとか言っていたけど。俺はいつも俺の側に岬がいてほしい。これからいくつもの喜怒哀楽があるだろうけど、そのたびに今までみたいにお互い話あって解決しあって、時には喧嘩して口を利かなくなってもまたそれを乗り越えていきたい、それって恋でも愛でもあるんだ」
「何夫婦みたいなこと言ってるのよ」その自分の突っ込みに、顔が赤く染まっていくのがわかる。
でも、林二の言ってることもわかる気がする。いくつもの思い出のなかで過ぎ去った光景があるから。
「あ、何でだろう。涙が」
「鼻水もな」と、くしゃとなったハンカチを出しながら「口に出さないとわからないなら、いくらでも言う。俺は、岬のことが大好きだ。恋人になって夫婦になって、家族になりたい」
「もう、なんでこんなとこでいうのよ。色気もないし、心の準備もないじゃない」急に人目が気になって辺りを見回す。それでも嬉しかった。きっと、プロポーズってこんな感じなんだろうなあ。
そして、クラブで出会ったレン太が言っていた言葉を思い出していた。未来があるからいいよねって言葉と、寂しそうな綺麗な顔が浮かぶ。