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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

綺麗な女

作者: 沼野雷菜



非現実的な光景に目を疑った。

人は驚きすぎると声すら出なくなることを初めて知った。


目の前には男女の死体。

片方は私の友人で、もうひとりは友人の妻だろう。

ひどく欠損した女を抱きしめるような形で、友人はその首を切って死んでいた。

自殺、いや心中か。

友人の手にはナイフがしっかりと握られていた。


数ヶ月前に友人が結婚をした。

友人はそうとう惚れ込んでいる様子であった。

惚気でも聞いてやるかと、久々に会いに来たのだ。

呼び鈴を鳴らしても、呼びかけても返事がない。

失礼とは思いつつ、扉を開けると鍵がかかっておらずあっさりと開いた。開いた瞬間生臭い臭いがした。それが血の臭いだと気付いて何かあったのかもしれないと飛び込んだ先にその惨状はあった。

まさか自分がこんな現場に遭遇するとは、思ってもみないことだった。ああ警察に知らせなければと、頭で考えながら目の前の死体から目をそらす。生臭い匂いに少しふらついた。机にぶつかってしまってそっちを見ると、机に置かれた薄い手帳が目に入った。


私は、現実味のないこの状況に頭がおかしくなったのか、はたまた現実逃避のためか、あとは少しの好奇心もあったのだろう。つい、その手帳を手に取った。どうやら友人が書いていた手記らしい。



血で少し汚れた手記の、始まりはこうだ。


"運命と出会った。私はそれを記録に残すことにした。この記録の最後が、どうか、幸せな結末であることを願う。"



◇◇◇



7月12日

綺麗な女だった。

今日、出会った女だ。

黒い髪も、白い肌も、たれ気味の目も、高い鼻も、形の良い唇も、豊満な胸も、折れそうな腰も、長い手足も、その仕草も、考え方や性格も。

すべてが綺麗で、完成された女だった。

私は人間は醜いものと思っていた。親も、兄弟も、友人も、他人も。鏡に映る自分でさえ、醜いと思っていた。容姿、性格、生き様。何かしらの汚点がある。それが人間だと思っていた。彼女に出会う前までは本気でそう思っていたのだ。

彼女をひと目見て、美しい女だと思った。彼女と交流して、完璧な女だと思った。彼女はあまりに完成されすぎていた。汚点のない綺麗な女。それは本当に人間なのか、私にはわからなかった。人間にしては気味が悪く、女神や天女等と呼ぶには人間に似すぎていた。そのため、彼女は多くの人間に慕われていたが、多くの人間に嫌悪されてもいた。つまりそれらは、彼女を女神と見て崇め慕う者と、彼女を人間と見て否定し、嫌悪する者だ。彼女に魅了された私は前者なのだろう。彼女は運命だった。私は女神のように綺麗なその女に恋をした。



7月28日

赤が似合うな、とふと思った。今日は仲間内に呼びかけ街に出かけた。彼女は仲の良い友人と洋服を選んでいた。彼女がシックな赤いワンピースを手に取ったとき、黒い髪や白い肌が映えて綺麗だと思った。彼女もその服を気に入ったようで悩んでいた。どうですか、と感想を求められたので、よく似合っていると正直に褒めると、彼女は照れくさそうに笑い、購入を決めたようだった。



8月15日

彼女のことを考えていた。今、何を見て、何を感じ、何を食べ、何をしているのだろうか。ひとりでいるのだろうか、誰かといるのだろうか。盆の時期だから家族と墓参りでもしているのだろうか。

想像ばかりが膨らんで、彼女に連絡する手段も勇気も持たない私は、彼女の夢を見た。相変わらず綺麗だった。



9月4日

彼女が私に微笑んだ。綺麗に微笑んだ。今もその、計算しつくされたような笑みが忘れられずにいる。衝撃的で幸福な気持ちになる微笑みだった。私は思わず、好きだと、己の気持ちを彼女に伝えていた。恥ずかしくなって俯く私に、彼女は言ったのだ。


私は、人を好きになるということがわからない。私は、人を愛するということがわからない。たくさんの人に愛されてきました。でも、その気持ちが理解できなかった。こんな私でも、側にいてくれますか。こんな私でも、愛してくれますか。こんな私に、愛を教えてくれますか。


私の答えは肯定以外になかった。彼女の側にいて、彼女を愛し、彼女に愛を教えよう。私はそう誓った。神でも仏でもなく、目の前の綺麗な女に誓った。

そうして彼女は、私を側に置くことを許した。



9月19日

愛とは何か。そんなことばかり考えるようになった。言わずもがな、彼女のせいだ。彼女を愛している。それは間違いようもない事実であるが、私が私であることの証明ができないのと同じように、それが愛だと証明するのは難しい。彼女にこの愛を伝えたいのに、彼女には理解できないのだ。彼女に愛というものを教えたいのに、まだ私は彼女に愛を教える言葉などを持っていないのだ。私のすべてが彼女を愛している。それは、どうしたら伝わるのだろう。人の心を開示する奇術でもあればよかったのに。

いまだ愛を伝える方法は見つからぬ。それでも、私は彼女に約束したように、彼女を愛し、彼女に愛を教えねばならないのだ。それだけが私が彼女の側に在る条件なのだ。



10月3日

彼女に問うた。君は愛がわからないというが、家族への愛はないのか。友への愛はないのか。愛を教えるきっかけになるだろうと思ったから。

彼女は美しい顔で微笑んだままこう答えた。父と母は血の繋がった他人です。友は仲の良い他人です。あなたは、いっとう仲の良い他人です。私は、他人を愛する感覚がわからない。強いて言えば、自分だけは愛せているのかもしれない。けれど、まわりが私に向ける熱ほど熱く自分を愛せているのかと問われると、まったく自信がありません。でも、信じています。あなたが私に愛を教えてくださる日を。私に愛を与え、愛を教え、側にいると誓ってくれたから。

蕩けるような笑みを浮かべた彼女はこの世のものとは思えないほどの美しさだった。もしかしたら、本当にこの世のものではないのかもしれない。

私にとって、両親は、父として母として愛している。友は一緒にいると楽しく、自分の中の何かが満たされる気すらして、とても好きだ。彼女のことは特別に、愛するという言葉で足りるのかわからないほどに、まるで狂ったように愛している。私は私と繋がりのある誰も彼もを他人と思ったことはないのだ。繋がりを持った瞬間、彼らは他人ではなくなるのだから。彼女と私では見ている世界が違うのか。そんな彼女にとって私の愛はどう見えるのだろう。歪だろうか、真っ直ぐだろうか。



12月16日

私は日に何度も彼女に愛を伝える。それでも彼女に愛は伝わらない。相手が知らないものを教えるにはどうするのがいいのか。愛とはエネルギーであり、熱い感情であり、目に見えないものである。形のないものを伝えるのは難しい。感情とは揺れ動く不確かな定義であるからして、また、自身の心は自分でも掴み難く、そして他人には完全な理解など不可能であるから。

私は、私でも全容がわからぬこの愛をどう説明するか悩んでいた。なるべく曖昧な表現は避け、彼女のどこがどのように好きなのか詳細に語ってみた。君が髪を梳く仕草が色っぽくて好きだ。君がお気に入りの指輪をつけてご機嫌に笑う姿が愛らしい。彼女はきれいな顔で、ありがとうと微笑むだけだった。

そうして一日が終わる。明日も、明後日も、そのまた次の日も、この先ずっと、私は私を愛する彼女を夢見て、彼女に愛を伝え続けるのだ。



1月4日

今日は彼女が私に問うてきた。愛を知るとはどういう気持ちなのかと。

私は答えた。それは衝撃なのだと。そして幸福なのだと。

さらに彼女は私にたくさん聞いてきた。

幸福とは何か。

幸福とは満たされることだ。

満たされるとは何か。

己のひび割れた心の隙を埋めるような感覚だ。

何と似ている?

疲れ果てたときに飲む酒の味だ。

彼女は首を傾げるのみだった。



1月22日

よく晴れた穏やかな日だ。

今日は随分と寒いが、彼女と身を寄せ合えるなら、この寒さも悪くない。

彼女は私の隣で布団にくるまり眠っている。その寝顔は死人のように不気味で美しい。

神様が本当にいるのならば、この美しい女を欲しがり連れて行ってしまうやもしれない。そう思わせるほどの美しさは私を不安にした。

その存在を確かめるように彼女に口づけた。その唇はとても暖かかった。



2月1日

雪が降った。積もるほどではなかった。

それでも彼女は楽しそうに雪を見ていた。

彼女が楽しそうだったから、私は嬉しくなって、舞い降る雪をかき集めようとした。しかし雪は私の体温で溶けてしまう。

残念がる私に、彼女は、空から降っているのがいいんではありませんかと言った。

たしかに、白くひらひらと降る雪は綺麗に見えた。それをかき集めて、手にいっぱいの雪を彼女に渡すなど、なんと無粋なことだろう。私は自身を恥じた。

やはりこの綺麗な女は本当の美というものをわかっているのだ。それは生まれたときから、それが自然なように、万物の美しさを理解できるのだ。なぜなら、彼女は綺麗な女だからだ。それ以上の理由などいらない。美しいものは美しいものと共にあるものだ。

しばらくして雪はやんでしまった。彼女は特に気にした様子はなかった。あんなに楽しそうだったのに、まるでそんな事実などなかったかのように、雪が振りそうなほど寒いものだから温かい飲み物が飲みたいと言って、私の手を引き喫茶店に入った。

彼女の指は雪のように冷たかった。



2月19日

今日は祝福すべき彼女の誕生した日だ。彼女はいつにもないほど輝いていて、世界が色あせて見えた。

記念に贈った指輪をつけて彼女はそっと私に微笑み、どうもありがとうと言った。その微笑みはいつもと変わらないはずなのに、色あせた世界では特別なものに見えた。その細い指に光る小さな金鉱石すら色あせるような彼女の微笑みに私はまた恋をした。

こんな素敵な日があるだろうか。

なぜなら恋をした彼女の恋人はこの私なのだ。

こんな素晴らしいことがあるだろうか。

これは愛の形かと彼女は聞いた。

私はそうだと答えた。

この愛は形が見えるけれど、いえ、見えるからこそ、とてもチープで偽物みたいねと彼女は言う。

彼女は愛を知らないのだ。愛を愛だと認識できないのだ。その指輪は私の愛する気持ちなのだ。しかし、彼女にはわからないらしい。

君が私の愛を信じるまで贈り物をしようか。そうすればいつか伝わるかもしれない。

そう提案すると彼女は首を横に振る。

贈り物は何もいらないから愛をくださいな。

やっぱり彼女はその贈り物に込めた愛には気づかない。そもそも愛を知らない彼女は、どうしても愛に気づけないのだ。

仕方のないことだが少しの寂しさを感じた。それから、私は何度も恋し、愛したこの美しい女に、また愛を告げる。いつか伝わると信じて。



3月28日

随分と暖かくなった。

今年は暖冬でもう桜が咲いている。

桜並木の中を歩く彼女が消えてしまいそうで、思わず腕をつかんだ。少しの体温が彼女の存在を証明していた。

彼女は少し驚いた顔をして振り返る。

あら、どうしたの?と尋ねる彼女に、私は素直に消えてしまいそうで不安になったと伝えた。

不思議そうな顔をしながらも、私が消えることはないわと彼女は笑った。

その笑顔もやはり、美しいものだった。

桜がまるで彼女に嫉妬しているように風で舞った。



4月17日

今日彼女は友人と出かけるのだという。

会えないことを残念に思った。

私は彼女と会えない日でも彼女のことを考えて過ごしている。彼女はどうなのだろうか。いや、考えなくともわかる。彼女は私のことを考えることはしない。目の前の友人とどう過ごすのかだけを考えるのだろう。

本当にそうだろうか?

私は彼女の考えていることがあまりわからなかった。

両親を血のつながる他人と言った。友人を仲のいい他人と言った。私をいっとう仲のいい他人と言った。

彼女はきっとその考え方のままだろう。目の前にいてももしかしたら他人事で他人のことなど意識もしていないかもしれない。

そこまで妄想をして、寂しくなった。

無性に彼女に会いたかった。



5月13日

彼女をつなぎとめておきたかった。

どうしても、どうしても、誰かにやりたくなどなかった。

彼女が私に愛想を尽かしていると、そんな噂が聞こえてきた。もともと私なんかでは彼女に釣り合わないのはわかっていた。それでも、私は彼女のそばにいたかった。

そもそもすべての人間に興味のない彼女が、私に愛想を尽かすなんてことがあり得るのか?尽かす愛想などあるのだろうか?

そんな疑問もあるが、それでもどうしようもない不安が胸に残った。

この美しい女が、私の恋した彼女が、私以外の誰かに取られてしまう。彼女が私以外を側に置くかもしれない。

それが不安で不安で、精神的に限界まで追いやられた。

その不安に耐えられなくなった私は、結婚しようと、指輪も何もなく彼女にそう軽く言ってしまった。

言ってしまった後悔で逃げ出したくなった。終わりだと絶望した。

しかし、彼女はいいわよと、いつもの調子で言った。いつもどおりの美しい笑みを浮かべていた。

今も彼女の美しい笑顔が鮮明に蘇る。夢ではなかろうか。頬をつねったら痛いので夢ではなさそうだ。

ああ、私はあの美しい女と添い遂げることができるのだな。なんと幸運なのだろう。

安心と興奮で今日は眠れそうにない。



6月1日

来月、簡単な結婚式を挙げることになった。

互いの両親だけを呼び、籍を入れるのと同時に神に愛を誓い合うのだ。まあ、私が誓うのは彼女なのだが。

こういうのは女である彼女の方が興味があるだろうに、あなたの好きにしていいわと彼女は簡単に言う。

盛大なものが良ければ、式は来年でもいい。そう言ったら彼女は、首を横に振る。

盛大さも、式の有無も関係ないわ。私はあなたに愛を教えてもらえたらそれでいいの。誰かを愛することを私に教えてくれるのでしょう?

そう微笑む彼女に私は、必ず教えてみせると決意を伝える。

待っているわと笑う彼女は、恐ろしいほど美しかった。



7月12日

彼女と出会った過去の日と同じ日に、私たちは結婚した。

私の一生を使って、彼女の望む愛を与え続けると、いるかどうかもわからない神ではなく彼女に誓う。彼女は幸福そうに微笑むことはなかったが、とても嬉しそうに笑った。

彼女と結婚し、彼女と結ばれることで、彼女を繋ぎとめることに執着していた私とは、輝きの違う本物の笑顔だった。

それでも、今日をもって彼女は私のものとなる。私は人生の中で最も幸福だった。彼女を手に入れられなかった数々の男ども(中には、彼女を想う女もいたかもしれないが)を、見下し優越感に浸った。

それでも、私がどれだけ彼女を愛そうとも、まだ彼女は愛が理解できずにいた。彼女は人を好きになるということも、人を愛する気持ちも、わからなかった。ただ、愛されること以外を知らなかった。



10月15日

今日、彼女は言った。

あなたは、私の側にいてくれる。あなたは、私を愛してくれる。けれど、あなたは私に愛を教えてはくれないのね。教えてくれると誓ってくれたのに。


彼女は私を責めた。

私は、彼女を愛していた。愛し続ければ、この愛が伝わると思っていた。長く愛し続ければ、この愛をわかってくれると思っていた。

傲慢な自分に青ざめた。

許してほしい。

そう縋りついた。

もう一度チャンスがほしい。

そう訴えた。

でも彼女は、いいえと微笑むばかり。

そして、もういいのと狼狽える私に言った。


もういいの。もう私は、人を愛することを知ったから。あなたは教えてくれなかった。あなたの愛はわからなかった。

でも、誰かを想う気持ちはわかったの。こんなにも愛おしく、こんなにも尊く思う存在が、私にできるなんて!


興奮した様子で、頬を染め、いつも以上に美しい女は、そう言った。そんな彼女に見惚れながら、憎々しくも、彼女に愛を教えた存在に私は焦がれて、それは誰なのかと問うた。



そして彼女は、そっと、お腹に手をあて幸福そうに微笑んだ。



私の知らない、美しい微笑みだった。



その後のことはあまり覚えていない。

気がつけば、彼女は死んでいた。

首と、胸と、腹を刺され、死んでいた。特に腹は、何度も何度も何度も刺されていた。

ああ、いや、そう。私がやったのだった。

内臓が溢れ、血みどろの彼女はやはり美しかった。


黒い髪は乱れ、白い肌は赤く染まり、たれ気味の目は虚ろで、高い鼻からは血を流し、形の良い唇は歪み、豊満な胸はあらわになって、折れそうな腰は骨すら美しく、長い手足は腹を守ったためか傷だらけで、その死に様はとても無残で生々しい。

それでも、女は美しかった。

綺麗な女だった。


彼女は彼女であるから完成していた。

だから、もうひとつの命という汚点を彼女に宿してはいけないと思った。

彼女が死んで、お腹の子も死んで、彼女をがまた、美しい女に戻ってくれて、私は嬉しくなった。


このあと私は、あの世でも次の世でも彼女と離れぬように、美しい女を強く抱きしめて、自らの首を切って死のうと思う。その前に今日のことを、書き残さねばと筆を執っている。いや、私は書き残したいのだ。なぜなら今日は記念すべき日だから。彼女が、私の力ではないとしても、愛を知った日なのだから。私が教えられなかったことは生涯一片の悔いではあるが、彼女が幸せならば私は幸せなのだ。


ところで、私は狂人だろうか。

でも、死後の私もきっと、幸福な顔をしているに違いない。ならば、私は運命と呼んだ綺麗な女と死ねる幸福者だ。

だから、どうか、私を哀れまないでください。

綺麗な女のために狂った私を哀れまないでください。

私は、誰よりも、何よりも、彼女のもとで死ねて、幸せでした。



◇◇◇



そこにはひとりの女に人生を狂わされた男の想いが綴られていた。いや、愛というものが欠如した女の人生こそ、狂気的なひとりの男に壊されてしまったのか。


ときに"欠如"は人の目に美しく映ることがある。例えば、愛情が欠如した女は、狂った男が愛したように、欠如した感情さえも美しかった。例えば、その女の死体は生気を失っているにもかかわらず、何よりも美しかった。例えば、何かが欠如した一家の無理心中は美しい物語となるだろう。


男が手記の終わりに綴ったように、この不幸じみていて幸福な人生を歩んだ男女を、私は哀れまずにいられるだろうか。存在さえできなかった赤ん坊のことを、哀れまずにいられるだろうか。でも、せめて、この手記の持ち主が安らかに眠れるよう、私は彼の友として、哀れみではなく祝福を贈ろう。



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