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第1話 家に来た少女

 僕はどこにでもいる平凡な少年だ。この春から高校生になって一人暮らしをしている。

 そんな僕の家にある日、見ず知らずの可愛いメイドさんが訪ねてきた。

 ピンポンが鳴って玄関に出てみると明るいころころとした表情をした彼女が立っていて元気な笑顔で挨拶をしてきたのだ。

 教育の行き届いた礼儀正しい仕草だと思った。


「初めまして、メアリと申します。これからご主人様のお世話をさせていだだきます」


 そのメイドさんを僕は怪しむべきだったのかもしれないが、それよりも彼女の発する瑞々しい可愛さに僕は見惚れてしまった。 

 彼女は身長は僕よりも低くて小柄だが出るところは出ているという理想的な体型をしていた。

 顔も目鼻立ちがくっきりしていてとても綺麗だった。

 髪の色は薄い茶色で肩までの長さがあった。

 服装は黒を基調としたワンピースにフリルのついた白いエプロンを付けていた。

 恰好はメイドなのにまるでどこかの御令嬢のような厳かな雰囲気もある。

 そんな子がどうして僕の家に? 何かの手違いか? 僕はメイドなんて雇った覚えはない。とにかく訊いてみよう。

 僕は初対面の女の子を相手に緊張しながら訊ねた。


「えっと……君は?」

「はい! 私はご主人様にお仕えする為にやって参りました! メアリというものです!」

「へっ!?」


 彼女の言葉を聞いて僕は驚きの声を上げた。


「ちょ、ちょっと待ってよ! 一体どういうこと!?」


 仕えるなんてここは貴族の屋敷でもなんでもない普通の家だ。中世でもない現代の日本でそんな事がありえるのだろうか。

 僕が戸惑っていると彼女は鞄から一枚のパンフレットを取り出してきた。


「この案内を見てきたんですけど……」


 そう言ってメアリと名乗った彼女が見せてきたのは、確かにうちの学園が配っている物だった。

 僕も入学した時に見た覚えがある。

 そこには『生徒募集中!』と書かれていた。

 そしてその下に小さく『使用人募集』とも書いてあった。

 こんなの書いてあったっけ? よく覚えていない。

 まさかとは思うけど……。


「それを見てここに来たっていうのかい? 入学する生徒じゃなくて?」

「入学もしますよ? 労働もするんです」

「なるほど」


 使用人かは知らないけど、働きながら通う生徒もいると聞いた事はある。


「でも、まさか生徒の方がこんな立派なお屋敷に住んでおられるとは思いませんでした」

「う~ん、普通の家だと思うけどなあ」


 どこにでもある平凡な家だと思う。ご近所さんと比べても何も変わらない。特別な所なんて何も無い家だ。

 だが、彼女は首を振って目を輝かせた。


「いえいえ、前にわたしが住んでいたアパートに比べれば十分過ぎる程お綺麗ですよ」

「前はどんなところに住んでいたの?」

「それは秘密です」

「秘密なのか」


 まあ、無理して聞き出すことでもないだろう。話したくなったら話してくれるはずだ。

 それよりも今考えなければいけないのは過去よりもこれからの事だ。彼女はどうやらここで働くつもりらしい。使用人として。

 これはどうしたものかなぁ。当たり前だけど僕には人を雇った経験なんてない。

 学校に連絡した方がいいのかもしれないが、それも彼女を信用していないようで気が引ける。

 彼女はこんなに明るくやる気を見せてくれているのだ。男の僕がやる気に答えなくてどうするのだろう。父だったら快く迎えるはずだ。

 考えていると彼女の方から再び口を開いてきた。興奮しているようで行動力を発揮するタイプのようだ。

 引っ込み思案な僕には少し眩しい人だ。


「あなたは特待生であの学校に入学されたんですよね」

「まあ、そうだけど」

「そんな方のところで住み込みで働けるなんて光栄です!」

「まあ、たいしたことないけどね。特待生なんてどこの学校にもいると思うし」

「またまたご謙遜を」


 本当に大したことはないと思うんだけどね。ただちょっとテストが上手く出来ただけで僕より優れた人はいっぱいいると思う。

 彼女はちっとも信じていないようだ。明るく笑っている。それよりもさっきちらっと話した事が気になった。


「僕の勘違いだったら申し訳ないんだけど、今住み込みでここで働くって言った?」

「はい。そうさせていただければ幸いなのですが……」


 やっぱりそうなんだ。困ったな。

 ここは男の一人暮らししている家なんだぞ。そんなところに使用人とはいえ女の子を住まわせるのは倫理的にどうなんだろう。

 学校には寮があるんだからそっちに住めよというのも何か彼女に悪い気がする。

すると思いが伝わったのかメアリは不安げな表情を浮かべた。


「ダメでしょうか……?」


 うるうるとした瞳で上目遣いをする彼女。ああ、そんな顔しないでくれ。

 断れなくなってしまうじゃないか。それに可愛い子だし断る理由もないよね。うん、決めた!


「いいよ。この家は好きなように使ってくれて構わない」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

「ちょうど空いている部屋もあるしね」

「空いている部屋があるなんて何て高級な住宅なんでしょう! 流石は特待生ですね!」

「そこまで言われる程の物じゃあないよ」


 褒められて僕も少し得意になってしまう。

 いつまでも立ち話しているのもなんだし、彼女に靴を脱いで上がってもらおう。

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