西国水軍会議 その1
「ははは。正式な会議は明日。今日は内々の席じゃ。皆、寛いで下され。この通り、我も阿子を連れておるでのう」
今日は広間で宴会。パパンが言っている様に沢山の人が並んでいる。
西日本の地図が描かれた屏風を背に、上座の中心に座るのが、パパン。現関白の鷹司忠冬だよ。左右には一条さんと西園寺さんが座ってる。
一条さんはパパンと同い歳だってさ。西園寺さんは一回りぐらい若い。
一段下がった席には大内さんと三好さん。大内さんは九州の偉い人。三好さんは、千熊のジィジだね。
その隣は一条さんと西園寺さんの分家の人だって。長崎から瀬戸内の水軍の人達が集まっているんだ。
なんでも湾岸警備とか水先案内とかの打ち合わせがあるらしい。大宰府から京までは水運が重要になっているからね。
上機嫌なパパンだけど、宴席の下座の方に居並ぶ人の殆どは硬い笑みを浮かべている。
「なんじゃ?向こうの先は、随分と箸が進んでおらぬ様じゃのう?」
「ホホホ、関白様。皆、京に着いたばかり。初めて京へ登った者も多いでおじゃる。緊張するのも無理は無いかと……」
西園寺さんがフォローしている。
「無理はあらぬか。ならば、少しは京に慣れておる者はおらぬか?阿波権守殿はどちらかの?」
パパンが話題を変えようと、一条さんの親戚を探す。
すると、精悍な青年が名乗り出たよ。
「は!わたくしが房基にございます」
「おお!そちが房基殿か!成る程、良い面構えでおじゃる。先年の房冬殿の事は誠に惜しい事をしたのう。いよいよこれからと言う所でおじゃった」
なんでも「冬」繋がりで文通してたんだって。
「いえ、鷹司様にはその折も懇ろな進物をいただきました。お陰で良い供養が出来たと思います」
「うむ、そちには幡多の郡司も用意しておる。詳しくは後でご本家に尋ねるとよい」
「は!ありがたく存じます!」
公家の筈だけど、日に焼けているし、スポーツ選手みたいだなぁ。
「ははは。誠に気持ちがいい男じゃの。本に房通殿は、良き分家があって羨ましい」
「ありがとう。わたくしも心強く思うております」
土佐一条家の若殿に話し掛けたのを機にパパンは立ち上がって座の真ん中に進む。
そこには世界の東半分の地図が敷かれていた。日本からインドまで。いい加減な形だけどオーストラリアも入ってる。
「水軍衆でこの図が何か分かる者はあるかの?」
ほとんどの人が首を傾げたりしている中、一人の少年が声を上げた。
「恐れながら申し上げます」
「ん?そちは大内の所の子だったな?」
「は!松浦隆信にございます」
「おお!源三郎だったのう。そちはこの図が何か分かるか?」
「は。こちらが九州、こちらが朝鮮。これが琉球と思えますので、これは外国を示した図では無いかと」
「見事!さすがは松浦水軍の頭領じゃ!」
源三郎くんの答えに、周囲の水軍衆から感心した声が上がる。
「そうじゃ。そして、ここがルソン。ここが寧波、こちらがシャムじゃな。この尖っている辺りが天竺じゃ」
パパンの「天竺じゃ」に、皆んなが反応する。知っている地名が出たので反応したのだろう。
「では、淡路はどの辺りでしょう?」
水軍衆の、一人が声を上げる。
「淡路島はこの辺りじゃ。小さくての。一応描かれておるのう」
「淡路島が、小さい?」
「うむ。瀬戸内がここじゃ。熊野はこの辺りじゃな」
瀬戸内の水軍衆は世界地図のスケールにびっくりしているな。それと同時に瀬戸内の狭さも認識した様だ。ここでパパンが爆弾発言をした。
「うむうむ。大内殿には朝鮮や明への貿易を任せておるが、これをもっと盛んにしたいのじゃ。更にはルソンやシャム等とも貿易を行いたいと思うておじゃる」
「「「ええぇ!!!」」」
「聞いておりませぬぞ!」
アレ?大内さんも叫んでいるぞ?
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