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鷹司家戦国奮闘記  作者: 若竹
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【閑話】[貧乏貴族]兵衛くんの嫁取り合戦 その13

 興福寺と春日大社の敷地は隣り合わせになっている。興福寺の前から春日大社の参道が始まっている。神仏混淆(こんこう)のこの時代、一体の敷地と言ってもよい。


 そこに大和武士が集合する。大和の武士達はお互い小競り合いを繰り返して来たとは言え、時には反し時には合すといった具合。その時その時で離散集合する為、誰が敵で誰が味方かもよく分からない。


 大抵は筒井城なり、何処かの拠点に集合してから合戦場に赴くのだ。


  --------------------


 春日大社の参道はすっかり祭り気分だ。参道で競馬が始まっている。何故か出店も出ていて、思い思いの場所に集まって騒いでいる。


 (いくさ)と聞いて取るものも取り敢えず駆けつけた武士達は呆然とするが、大抵は知り合いに声を掛けられて連れて行かれる。


「一体、どうなってあるのじゃ?これは?」


 顔見知りを見つけて問う武士もいるが、


「まあまあ、まずは落ち着け。お(やしろ)からも騒ぎを起こすなと注意が出とる。何処かから攻められておる訳でもなし、お寺の目の前で殺生(せっしよう)騒ぎが出来る訳も無いじゃろう」

「もう少しすれば、また行列が戻ってくる。結構な見物じゃぞ?それまでこれでも食っておけ」


 などといなされる。なんでも武甕槌命(たけみづちのみこと)の化身とやらが現れて御輿(みこし)で練り歩いているそうだ。


「若い衆の悪ふざけであろう。今のところ禰宜(ねぎ)様達も(とが)めておらぬ様でな。放っておるのじゃが、威勢は良い。見せ物ではあるぞ」


 実の処、ほとんどがよく分かっていないのだったが。


 たまに巫女や神官が名のある武士を探して回っている。


「井戸様ー?井戸様はおられませんかー?」


「必要なら、ああやって探しに来るからのそれまでは思い思いのところで休んで居れば良いのだ」


 僧兵も出て巡回をしているようだが、


「ワシらも詳しくは知らぬ。騒ぎを起こさず、大人しくしておれ」


 と言うばかりなのであった。


 その内、参道を御輿がやって来る。輿には若武者が一人乗っているが、むしろそれを振り落とさんばかりに担ぎ方が張り切って担いでいる。


 それを見ると血が騒ぐのか、


「よし、ワシも担いで来るか!」


 などと参加する者も出てくる始末。一体、何の為に集まったのか、分からなくなるのだった。


 --------------------


「そーれぃ!わっしょい!わっしょい!」

「「わっしょい!わっしょい!」」


 俺が輿の上で音頭を取るとそれに合わせて御輿が進む。さっきから参道を行ったり来たりしているが、担ぎ手がへたり込んでも次から次へと新手の担ぎ手が現れるのでキリがない。


 だが、俺にとってはそれが楽しくて都合が良い。激しく上下に振られるが上手く膝と腰で吸収する。たまに担ぎ棒に乗って挑戦するヤツが出るけど、振り落とされている。結構コツがいるんだよね。


 集中しすぎて、なんだか変な感じ。酒飲んで無いんだけど、そんな感じだな。もしかしたら、本当に神様を降ろしているのかも知れない。周りから色が無くなっている。


 --------------------


 参道の喧騒と打って変わり、春日大社の本殿では静かさが満ちていた。


 そこに集まっていたのは、先の関白太政大臣の近衛稙家(たねいえ)、興福寺別当で稙通の弟の覚誉(かくよ)、そして、現関白の鷹司忠冬(ただふゆ)と興福寺衆徒筆頭の筒井順昭(じゅんしょう)であった。


 そこで何が話し合われたのかは、記録に無い。だが、筒井家が衆徒筆頭を降りる事。興福寺は不入の権を放棄し、領地の多くを公田に戻すが、本所の扱いは変わらぬ事。また公田に戻すため、それを管理する国衙が設置されるが、僧兵や武士はそちらの所属となる事などが発表された。


 国衙が出来ると言う事は、国司が居る事になるが、興福寺別当の覚誉の兄である近衛稙家が就くとの事で収まった。




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