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鷹司家戦国奮闘記  作者: 若竹
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【閑話】[貧乏貴族]兵衛くんの嫁取り合戦 その12

 やあ。我こそは、武甕槌命(たけみづちのみこと)の化身、林兵衛だ。ははは、はぁ。


 俺は今、大きな輿(こし)に乗って春日大社を目指している。わっしょいわっしょい!


 なんで、こんな事になっているのか?これは勘解由小路(かでのこうじ)様の思い付きからだった。


 --------------------


 興福寺の強訴は春日大社の御神木が利用されて来ました。


 御神木を京に運んだ場合、藤原氏の公卿や官司は謹慎となります。これに従わなかった場合は放氏処分とされたのです。藤原氏として認めない。つまり、公卿、官司をクビになるって事です。


 藤原氏の公卿や官司は朝廷の過半を占めていますから、御神木の入洛中は、朝廷が麻痺します。ほとんどの人が謹慎中ですからね。


 武家を集めて入洛を阻止しようとしても、実際に衆徒に武器を向けたら、今度はその武家を罰する様に強訴をするのです。


 これでは終わりがない。朝廷としては興福寺だけを相手にしている訳にも行かない。他の地方にはもっと困ってる人達がいる訳ですからね。


 ですから最終的には興福寺側からのどのような無理も(まか)り通ったのです。


 --------------------


「つまり、藤原氏が御神木に手を出せない事を利用されたのです」


 朝廷側からの視点を聞かされて、バツの悪そうな顔をする大和武士達。


「始めの頃は国司の横暴を抑えるなど、利点もあったのですが、次第に悪用されるようになったのです。何しろ衆徒の意見が朝廷を動かすのですからね」


 ちょっとだけ助け船を出す、勘解由小路様。言外に悪用してるのは衆徒代表、つまり筒井だよって言ってる。


「さて、皆さん、ここに武甕槌命の化身と呼ばれる林の兵衛がおります。春日大社に武甕槌命が訪ねて行った場合、どう対応するのでしょうか?」

「え?ちょっ……」


 イタズラを勧めるように提案する勘解由小路様。


「おお!そりゃ面白い!社人はこぞってお迎えに出て来るでしょうな!」

「いやいや、あいつら筒井の言いなりじゃ、僧兵を出して来るぞ!」

「こちらには、武甕槌様が付いているのじゃ!刃を向ければソイツを追訴じゃ!」


 皆んなが盛り上がっていく。


「よし!面白い!これから強訴と行こうか!」

「流石、楠木様!話が早い!」


 ええ?ちょっと、俺の意見は?


 俺の意見など聞いてもらえる訳もない。どこからか輿が持ち出されて来て、俺を乗せる。


「それでは皆の物、()れを出せ!手の空いている者は春日大社へお詣りじゃあ!」

「うぉぉぉ!」


 --------------------


 筒井城に詰めていた順昭(じゅんしょう)の元に妙な知らせが入って来た。


「何?強訴じゃと?」

「は。衆徒は春日大社へ集まるよう、触れが出ております」

「なんじゃ、ワシはその様な触れは出しておらぬぞ?」

「それが、藤原長者のお名前でのお触れでして……」

「何ぃ!」

「大社は藤原の氏神様ですから……」

「そんな事は、ワシだって知っとるわい!」


 そうやって騒いでいると、一人の武将が駆け込んで来た。


「順昭様!大事で御座る!春日大社の事、お聞きおよびか?」

「今、聞いた所じゃ。なんでも強訴と言ってるらしいが」

「そは楠木の(はか)り事で御座る!」

「強訴と申して春日の山に武士を集めてあるのでござる!」

「春日の山はお寺から目と鼻の先。あそこに兵を詰められたら、興福寺は一溜りもありませぬぞ!」

「これは不味い!皆!興福寺へ行くぞ!覚誉(かくよ)様をお守りするのじゃ!触れを出せ!」


 覚誉とは興福寺の別当(トップ)だが、前の関白、近衛稙家(たねいえ)の弟でもある。藤原長者の名が出ている以上、近衛家の意向が入っているかも知れない。とにかく、興福寺の別当の身柄は此方で確保しておかねばならない。順昭はひたすら興福寺を目指すのであった。


 

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