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鷹司家戦国奮闘記  作者: 若竹
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【閑話】[貧乏貴族]兵衛くんの嫁取り合戦 その11

 吉野に楠木が旗を立てると、三好の松永が大和国に侵入して来た。大和川から奈良盆地に入るとまずは北上。平群(へぐり)から生駒(いこま)を平定する。ほとんど抵抗なく開城したようで、三日も持たなかった。


 その後、松永弾正は大和川沿いに少しずつ支配地を広げていた。無理攻めはせず、城を囲むだけなのだが、調略が上手いのか次々と落城して行く。


 筒井家の当主順昭(じゅんしょう)の元には、次々と負戦の知らせが入ってくる。


「ええい!嶋は何をやっておる!これは何とした事じゃ!」

「きっと三好の策謀かと!」


 だが、敵は三好だけでは無かった。


「葛城で布施が兵を集めております!」

「布施だけでなく、平田党が決起した様子!」


 平田は元々近衛家の荘園だったが今は興福寺の所領である。

 しかし、近衛家への復帰を叫んでいると言う。


「十市が兵を上げたとの知らせ!」

「越智も同調している由!」

「今度は十市か!南は興福寺から離反したか!」


 元々、奈良盆地の北と南では因縁がある。北を代表する筒井に対して、南の十市とは仲が悪く、近年も小競り合いを繰り返していた。


「それだけ、楠木の名は大きいか?」


 吉野で旗を上げた楠木の軍は、するすると橿原(かしはら)まで北上している。

 今は、藤原京跡に陣を築いていると言う。


 --------------------


 やあ!桂ちゃん。今日は一日晴れてお日様が暖かく感じたよ。


 やっと布施さんと合流出来たよ。なんでも葛城は勘解由小路様ゆかりの土地で布施さんのご先祖様もここの地の出なんだってね。


 今は藤原京跡に陣を築いているのだけど、鷹司様から預かった錦の御旗と幕府の武家御旗、それに菊水の旗が並んでいるのは、大和の武士達に物凄く響くらしい。


 旗を見ただけで泣き崩れちゃう人もいるんだよ。


 陣の中では、楠木の甚四郎(じんしろう)さんを真ん中にして、左右に朝廷を代表する俺と、幕府を代表する松井さんが座る。


 ここじゃ、林様、林様って呼ばれているんだぜ。部下が優秀だし、布施さんも合流したので、俺のやる事はあんまり無いんだけどね。


 ちょっとした小競り合いに応援に行くぐらい。それもほとんど俺が着く前に終わっているんだ。だから安心してね。


 それじゃ!また明日、手紙でね!


 --------------------


「ふふふ、また奥方への文ですか?」


 桂ちゃんへの文を飛ばしていると、背後から話しかけられた。


「また見られちゃったか。(ひだり)殿も人が悪い。一言かけてくだされば」

「ははは。その代わりに他のモノが近づかぬ様見張っておりましたよ」

「で、左殿が来たと言う事はそろそろですかな?」

「ええ、上手く話が付いたようです」


 --------------------


 俺は検非違使の時から使っている杖を脇に抱えると立ち上がる。


「林兵衛でござる。では、尋常に勝負仕る」

「藤林大膳でござる。覚悟召されよ!」


 藤林と名乗った武士は槍を上段に構えた。そう、俺は一騎討ちをやっているのだ。


 実は吉野にいた時に、どうしても一戦しないと納得出来ないって家がいくつかあってね。武士の意地とか言われちゃってさ。


 ただ、山奥の村単位だから、二十人ぐらいの規模なんだよ。それで隣村みたいなものだし、殺しちゃって兵が減るのも勿体無いってんで、検非違使の捕縛術で捕まえて降伏させていたんだよ。


 それで大抵は腕に自信があるのなんて、一人か二人だし、強硬なのがソイツだけだったりするから、説得がわりにソイツを捕まえるって流れになったんだよね。


 でも、始めてみると面白いように捕まえる事が出来るんだよ。


 これでも京では佐々木小次郎殿や富田兄弟と稽古してたし、柳生でも手合わせしてもらった。そもそも京は全国から武芸者が流れて来るし、そんな荒くれ者達を相手にしてたからね。


「それ!」


 わざと見せたスキに釣られて突いて来た槍。それに沿うように杖を走らす。槍は懐に入ってしまえば此方のものだ。槍を突いた勢いを利用して腰投げしてやる。本人は訳分からないだろうな。


「これで喉をつけば、仕舞いで御座る。降参なされい」

「な!これは?妖術か⁉︎」


 今回は結構しぶといな。俺は杖を軽く振ると先に刃が生えてくる。


「妖術かどうか、首になって確かめてみるか?」


 そう脅してやるとやっと観念したのか、槍を手放した。


「い、いや。わしの負けじゃ!」


 周囲がわっと騒ぎ出す。農民兵の中にはお互いに喜びあっているヤツもいるな。顔見知りだったんだろう。


「流石は林様じゃあ!」

「わしゃあ、武甕槌(たけみづち)様かと思うたぞ!」

「鹿島様じゃ!鹿島様じゃ!」


 流石にそれは恐れ多い。武甕槌命は春日大社の主神だし、藤原の守護神だ。そもそも春日大社は藤原家の祖神を祀った神社なんだが。


「ふむ。これは使えるかも知れませんね」


 うわ!勘解由小路様!いつの間に!




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