山科駅
山科への道は東山にぶつかると谷に沿って南に折れる。折れると言ったがゆったりしたカーブで見通しは良い。そのまま真っ直ぐな道で山を越えると山科だ。
山を降りた所で少し曲がるけど、その後もまた真っ直ぐな道になる。ムキになったみたいに真っ直ぐにしているな。
「いざとなった時に、騎馬だけで先行するのです。その時はなるべく見通しが良い方がいいのです」
宗滴ジイがマンマに解説している。
「まあ、山科より内へ軍勢が入るのはなかなか難しいでしょうが。フフフ」
なんだか、怪しげな含み笑いをするジイ。だがすぐにその理由が分かった。
「まあ!大きなお城!」
「オッキ!オッキィ!」
「オッ!オー!」
山陰から広い平城が見えて来たのだ。
「ハッハッハ。あれは城ではございませぬ。あれが山科駅でござる」
いやアレどう見ても城でしょう!位置は前世の山科駅と同じぽいけどな!天守閣こそ無いが、堀まで備えた立派な城郭だよ!
「よく見てくだされ。この道が真ん中を走っております。城だとしたら敵を防げませぬ」
宗滴ジイはそう言うけど、オレは騙されないぜ。アレ、左右から射撃できる構造になっている。二つの城で道を挟んでいるんだ。山科からは宇治へと向かう街道出ているから正確に言うと三つの城だな。
近付くと三つの城はコンクリの橋で繋がれているのがわかる。山科の北側は山が迫り天然の城壁となっている。勿論、峰には櫓が立っているから山の防備も完璧だろう。
こりゃ近代の軍隊でも大砲持ってないと攻略は難しいぞ。
「あの『駅』があったので、我らは比叡山を越えて京へ入らねばならなかったのですぞ」
あ、そうか。朝倉は細川方だったからね。
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牛車を降りると、公家のオッサンが出迎えてくれた。彼が山科卿らしい。
「オッホッホ。宮さん、山科までよう来なさった。鷹司のクソガキも相変わらずなようじゃの」
おいおい、関白に向かってクソガキとか。オレとは気が合いそうだな。
「ハッハッハ。クソオヤジも変わって無いようで安心したでおじゃる。今日は新しい酒をたんと持って来たからな。今度こそ酔い潰してやる」
パパンも随分と気安いな。笑いながら悪口が言い合えるぐらい仲が良いみたいだ。
二人でワチャワチャ騒ぎながら、さっさとお屋敷に入って行っちゃった。
「昔からの喧嘩友達なのですよ」
唖然としているオレ達に在富が説明してくれた。
山科さんは名前の通り、ここ山科の領主だが、朝廷の財政責任者である内蔵頭でもある。海千山千の各地の大名からの寄付を集めて回っている人なんだって。
「大宰府が復活してからはかなり楽になりましたがの」
山科さん自身もお仕事を説明してくれた。
御禁領と言って朝廷の領地が各地にあるのだが、押領が酷くて税が集まらない。それを説得して返してもらったりするのも仕事なんだそうだ。
「このクソガキのお陰で、随分と回収も進んでますがの」
なんだか含みを持たせた言い方で、よく分からないけど、パパンもチャンと仕事しているみたいだな。
まあ、コレで何で山科で一泊なのか分かったよ。パパンが山科のオッサンと飲み明かしたかったんだね。
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翌日、二日酔いでウンウン唸っているパパン達を和やかな山科さんが見送ってくれた。
「うーん、相変わらずウワバミだった。四人掛かりでも勝てないなんて……」
山科卿は化け物らしい。
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