【閑話】[貧乏貴族]兵衛くんの嫁取り合戦 その9
やあ、大和国の東西で調略を成功させた、兵衛だぜ!
二つの調略を成功させたとして、部下が付いた。
こないだ柳生殿の調略の時に来てくれた検非違使のうち、五人をそのまま俺に付けてくれたんだ。
「林殿、よろしくお願い申し上げる」
「うむ。いろいろ、至らぬ事もあろう。こちらこそ、お願い致す」
この五人は京にいた頃からの知り合いで、気心が知れているから、俺としても遣りやすい。
「誠に」
「林殿は至らぬ事ばかりだからの」
「今から苦労が見えるわい」
「ちょっと!もう少し、いい気持ちにさせてよ!」
ちょっと、人選を間違えたかも。
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さて、実は在富様が伊賀まで来てくれたんだ。
今回の働きを在富様が書状を渡してくれる。
「兵衛。これでお前も部下持ちじゃ。所領は与えられぬが俸禄を与える。この俸禄は若竹様から出ておる。この意味が分かるか?」
「はい!これまで以上に若竹丸様への忠勤に励みます!」
俺が書状を受け取って平伏すると直ぐに面をあげさせられた。
「ははは、その心意気やよし。だが、兵衛。それだけではない。つまり、お主は若竹様の直臣なのだぞ?」
「は?あー?あ?そう言う事になるんですかね?」
「そう言う事になるのじゃ。しかもお前は他と違い繋累が無い」
確かに宗滴様達は越前の朝倉だし、乳兄弟も三好様と公家の万里小路様。小姓として八郎様がいるけど、まだ幼児だしな。
「八郎の事を考えておるな?些細は話せぬが、あの子は一家を構える事は無い。若竹様を支える家は林家が筆頭となるのじゃ!」
「ナ!ナンダッテー!」
俺もビックリしたが、言われて見ればそうなのか。
「もちろん、ワシもお支えするが、歳が違う。若竹様が活躍する頃にはワシはこの世にはおらぬじゃろう」
少し寂しそうに笑う、在富様。
「その時は在富様の分も忠勤に励みまする!」
「馬鹿者!お前なんぞに、ワシの分働けるものか!」
調子に乗り過ぎたようだ。叱られてしまった!
シュンとした俺に在富様は微笑むと、
「ワシの分など気負うなどせんで良い。お主はお主の分を背負えば良いのじゃ」
「さて、これより大和国の総仕上げとなるからの。頑張れよ!」
えー!これで終わりじゃないの?
「これで終わる訳ないじゃろう!兵衛には、まだまだ活躍してもらうぞ!」
「そんな〜」
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筒井順昭は困惑していた。近頃、俄かに筒井家の悪評が大和国を駆け巡った。順昭は手下に噂を調べさせたのだ。
「かなり多くの噂が流れております。規模や早さを考えると伊賀や甲賀が絡んでおりますな」
そう言いながら差し出された紙を読んで行く。
曰く、大嘗祭が出来ぬと帝が嘆いている。
曰く、伊勢神宮へ謝罪の使者を送るので道を改めている。
曰く、その道は三好、六角、北畠が各国の守護が自ら汗を流して働いている。
曰く、守護どもは己が至らぬために帝が嘆いていると働いている。
曰く、各国からの税が少なく申し訳ないと守護も嘆いている。
曰く、それらの国々からは京を守るための兵も出している。
曰く、この夏も京を守って戦った。
「うむむ。ここらは京の噂か。公家どもも困窮しておると聞く。その辺りから出た噂だろう」
「各国の守護どもも己の宣伝をしておるようです」
「この夏の合戦は、本来、将軍家と管領の戦い。幕府の内紛であろう?それに帝を巻き込んでおいて、好き勝手な事を言いおるわい」
曰く、大和国は帝を守るどころか、細川や比叡山に味方して兵を出した。
曰く、税も納めておらぬ。民からは絞り取っておるのに。
曰く、興福寺は大和国を治めているが、守護でも国司でもない。
曰く、興福寺は公田を己のものにして、帝の田畑を奪っている。
曰く、もしかすると朝敵にされるかも知れない。
「ここらからは、かなりきな臭いな。三好辺りが噂をばら撒いているのだろう」
曰く、興福寺の坊主は自分達だけ旨い物を食っている。
曰く、興福寺を差配している筒井も旨い物を食っている。
曰く、いやいや、経覚大僧正様は現状を嘆いている
曰く、順昭も自分に都合の良い事しか考えてない。
曰く、順昭は越智や古市を乗っ取り自分の領地にしてる。
曰く、順昭は柳生や十市も狙っている。
曰く、順昭は興福寺も乗っ取ろうとしている。
曰く、順昭はハゲ。剃っているのでは無くただのハゲ。
曰く、順昭はケチ。嫁の食事にも差をつけるドケチ。
曰く、順昭は赤フン。えー?あの顔で?センス悪いよねー?
「なんじゃこりゃ?わしゃ赤フンなんぞ履いとらんわ!」
今回はこれ一回です。兵衛くんの現状報告って感じ?です。
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