【閑話】[貧乏貴族]兵衛くんの嫁取り合戦 その8
もちろん、俺たち二人だけで行く訳じゃない。検非違使の部下達が荷物持ちとして10名来ている。服部殿は伊賀からの道案内として一人、忍者をつけてくれた。
「これなるは、高場左兵衛と申す。なかなかの腕利きでの。ワシも頼りにしており申す」
パッと見た身は、冴えないオッサンだ。だが、本当にヤバいのは冴えない外見で実力を隠しているヤツなんだ。(って布施さんに教えてもらった)
「ほう…」
布施さんが、感嘆の声を上げた。何か感じたらしい。布施さんもコレで検非違使の隊長だからな。人を見る目は確かだ。
「これは、失礼したの。ワシらは賀茂神社ゆかりの陶工での。ワシの事は布施の大夫と呼んでくれ。焼き物に使う土を探しておる。よろしく頼む。ほれ、兵衛も頭を下げんかい!」
そう言って、俺の頭を掴んでぐいぐい押す。もう、なり済ましが始まっているのか!慌てて俺も調子を合わせる。
「よろしゅう、お願いします!」
高場のオッサンはニヤリと笑うとこう言った。
「布施大夫か。よろしゅうたのむ。些細は聞いておる。ゆるゆる行くでな。五日はかかるじゃろ。ワシの事は『ひだり』と呼んでくれ」
なんだか、布施さんとは通じ合っているようだ。オッサン2人でニヤニヤしている。気持ち悪いぞ。
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俺達は伊賀から大和に入ると、アチコチの村に立ち寄った。一箇所では本当に穴を掘ったりしてアリバイを作ったのだ。
そうして置いて、ずいぶんと前から陶工が土を探していると噂を撒く。実際にあちこちの村で目撃されているからな。
あの村でも見かけた。この村でも見かけた。となると、随分前からなんだろうと勘違いしてくれるんだよな!
お陰で噂は添上郡に広まって、五日目には、すれ違う百姓に「いい土は見つかったかね?」と声を掛けられる様になった。
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「さて、柳生の里には上手く入れたが……」
左殿が油断なく、周りを見廻しながら呟く。
「まずは、当たって砕けろだ。屋敷を訪ねてみよう。警戒されているなら追い出されるし、入れてくれれば儲けものだ」
布施さんが威勢のいい事を言い出して、俺達は柳生殿の屋敷を訪ねる事にした。すると、あっさり屋敷に入れてくれた上、夜の宴に招待された。
「大丈夫ですかね?宴席に誘って置いて、バッサリとか……」
「ならば逃げられない様に、見張りを立てるだろう。そんな気配も感じられぬ」
「まあ、兵衛は陶工にしか見えぬから安心しろ」
え?布施さん、それってどう言う意味?
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ドキドキしながら夜を待って宴席に出た。
「賀茂神社の累計とか。どうですか、良い土がありましたでしょうか?当家としても何かお手伝いさせていただければ幸いでございます」
初めは当たり障りの無い話だったのだが、柳生殿の酒が進み、徐々に怪しい雰囲気になって来た。
「もう、本当に嫌なヤツなので御座る!」
なんでも興福寺の衆徒を取り纏めている筒井順昭は、自分の勢力拡大に熱心で、他の豪族を圧迫しているらしいのだ。
「先年も、十市殿が城を追われ申してな。妻と子も追っ手が迫り申したが、某がこっそりと伊勢へ送り申した。もう、本当に大変でしたぞ」
酒を飲みながらモウモウとグチをこぼす柳生殿。これじゃ柳生じゃなくて野牛だよ。この後、布施さんが上手く誘導すると、北畠家へ服属すると言い出した。
準備には苦労したが、柳生殿の調略はあっさり出来てしまったな。
コレで桂ちゃんとの結婚に、また一歩近付いたぞ!
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