【閑話】[貧乏貴族]兵衛くんの嫁取り合戦 その7
土いじりも五日過ぎると、それなりに形になった。
「うむうむ。これならなんとか使えそうじゃな」
ふー。なんとか次郎大夫に及第点をもらえた。
「なかなかスジがいい。京の公家と聞いた時は、どうなる事かと頭を抱えたがのう!ホッホッホ!」
公家と言ったって庶流も庶流。京が荒れる前からの由緒ある貧乏公家だからな。検非違使になる前は、畑も耕していたし、田んぼだって手伝っていたんだぜ。
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俺は土を作る担当だったが、布施さんは焼き担当。時間が無かったから、担当を分けたんだ。
「布施さん!俺、なんとか及第点を貰えました!布施さんはどうですか?」
次郎大夫に褒められた俺は、調子に乗って布施さんに声を掛けた。布施さんは小屋の向こう側の窯で太郎大夫に扱かれてる筈。昨夜も、ずいぶんと泣き言を言っていたからな。イヒヒ。
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「こりゃあええ。文字が書けると違うのう。ワシらには思いもつかない技じゃ」
「いえいえ、文字でもなければ分かりやすい印でも良いのですよ」
「しるし?」
「ええ、こんな三角とか四角とか」
「なるほどのう!」
アレ?なんだか、二人で盛り上がっているな?
二人の前には、一寸(約3センチ)くらいの小さな焼き物が沢山並んでいた。大きな箸置きかな?その箸置きには文字が彫られていて、布施さんは手元の通帳と見比べている。
「布施さん、なんですか?コレ?」
「おお!兵衛か。これは少しずつ配分を変えたカケラじゃ。変えた配分は帳面につけてあるからの。見比べれば、良き配分がわかるのじゃ」
「ほへー!スゲー!」
少しずつ配分を変えた小さい粘土を焼く手法は、次郎大夫にも褒められた。
「これなら新しき試しが楽になる。他にも色々と使えそうな手法じゃのう」
「うむ。布施殿は、京で色々な焼き物を見ておるようでな。焼き上がりを見分ける目はかなりのものじゃ」
「いやいや、たまに茶の席に呼ばれていたので、それで少し詳しいだけじゃ」
あー。検非違使の隊長格ともなると、各地の守護の係累とか、それなりの家の人が多かったからな。歌の会とか、蹴鞠とかやっていたよ。
「尾張と言えば瀬戸かのう。山向こうの信楽も頑張っておるがの」
「備前の茶陶もなかなかじゃった」
なんだか、三人でアチコチの焼き物の話で盛り上がっているぞ?
「ふむ。茶の湯か。半蔵殿にも相談してみよう。もしや伊賀名物になるかもしれぬ」
太郎大夫さんが何やら呟いている。
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これは、後々の話になるけど、伊賀焼は通好みの茶器として一部の茶人達に支持されて、高値で取引される事になるんだよ。
服部殿や布施さんも結構儲けたらしいぜ。
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さて、陶工になり済ます準備が出来た。そう。これまでは準備だったんだよな。これからが本題。最悪でも柳生家との伝を作らねばならない。
どーやったら、上手く行くかな〜?
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