【閑話】[貧乏貴族]兵衛くんの嫁取り合戦 その5
ドーン、ドーン。太鼓が規則正しく鳴っている。
「そこどけい!関白殿下の御使者であるぞ!」
俺は今、生駒から南下して嶋城へ向かっている。こないだは共周りも四人だけでひっそりと行ったけど、今回は護衛の衛士だけで百人はいる大行列だ。先頭では布施さんが大声で露払いしている。随分と離れているけど、ここまで聴こえて来るぞ。ちょっと楽しそうだな。
ドーン、ドーン。太鼓の音に合わせて行進する。
「どけ、どけーい!御使者のお通りじゃー!」
絶対、楽しんでる!
俺は御使者として豪華な輿に乗っている。屈強な衛士が八人掛りで担いでいる。更に長い日傘もさしていて、どこの大名かと言う感じ。こないだも着た超高級狩衣が、いっそう映えてるな。
大きな話題になるように、道中も派手に金を使って印象を強めている。ちょっと進んでは一休み。みんなに水を貰うとお礼に一貫文(約十万円)。昼を食べたら五貫文。おやつを食べたら三貫文だ。宿にした村には十貫文置いて来た。ゆっくり進んでいるから、普通一日で行ける距離を三日かけて進んでいる。これは絶対、噂になるよ。
今回の任務は京からの使者が嶋城に入るのを大勢に見せつける事。周囲に「あいつ、裏切るんじゃないか」って思わせる策らしいんだけど見え見えだよね。
だけど、一度疑心暗鬼に陥ると、見え見えだからこそ、裏をかいて本当なんじゃないかとか、色々考えちゃうんだよ。
道中に貰った松永様からの手紙には早速手応えがあったと書いてあった。
実は俺達が広めたんじゃないんだけど、朝廷が僧兵を問題視しているって噂も盛り上がっている。これは本当の事だし、夏の細川の京攻めに興福寺が手を貸したのも事実。細川京兆家は朝敵指定されているから、前の噂と合わせて朝廷から嫌われているって話しが真実味を帯びたんだ。
比叡山は夏の合戦で焼き討ちされ、門前町の坂本は六角の所領になった。南都北嶺と並び称された比叡山がそうなのだ。興福寺にも懲罰が下されるのでは?と思うよな。
実際、俺たちが泊まった村でも、探りを入れられた。関白の使者だ。朝廷のど真ん中から来ているのだから聞きたくもなるだろう。
「白河院も仰せなりける」って、答えておいた。
これは平家物語からの引用。白川上皇が賀茂川の水害とサイコロの目、それに僧兵は思い通りにならないって嘆いたんだよ。ある程度、教養がある人ならピンと来る。あとは勝手に推測してくれるって訳だ。
嶋殿は、力無い笑顔で迎えてくれたよ。
「ははは、これで三好が攻めてくれば、我が城に誰が助けに来ましょうや。我が城の堀は無いも同然です」だって。
帰りには三歳になる嫡男を預けてくれた。
「確かに預かった。しかし、預かりモノはいつか返すもの。嶋殿は返しに来る先をきっと守って頂けると信じており申す」
生きていろよって事だけど、伝わったみたいだな。
「かたじけない。この子の烏帽子親を頼みに行く故、楽しみに待っていてくだされ」
この分なら、生き延びてくれそうだな。
よし!一つ目の任務完了!桂ちゃんとの結婚が近付いたな!
今回で兵衛くんの話しは一旦終了で、次回からは本編に戻ります。
しばらくしてから、いいタイミングで兵衛くんの話を入れたいと思ってます。
兵衛くんの明日はどっちだ!
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