【閑話】[貧乏貴族]兵衛くんの嫁取り合戦 その4
「手応えはどうであった?」
上司の布施さんが問い掛けてくる。今、俺は嶋城から三好領である河内国の大県郡まで戻って来た所だ。既に日は落ちて、辺りは真っ暗になっている。
「まずは、上々の手応えです。嶋殿、真っ青な顔してましたよ」
布施さんは、俺の話を聞きつつ紙に書きつけて行く。勘解由小路謹製の特殊な紙だ。こちらに来る前に、在富様から沢山渡された。
「ふむ。こんな物かの?」
布施さんが書付を見せてくれる。うは!細かい文字でびっちり書いてある。俺の話しだけでなく、独自に集めた情報もあるな。
「こんな感じでした。これから送るんですか?」
紙を返しながら聞くと、布施さんが頷いた。
「うむ。早めに話を知りたいと申しておったからの」
紙を捧げ持つと、ぶつぶつ呟く。パッと放り投げると叫んだ。
「唵、急急如律令!」
すると紙がクルクルと回りながらカラスに変化して飛んで行く。
「すげーモンだなぁ!」
俺が素に戻って感心すると、布施さんは照れたように言う。
「なに、お主も手順を覚えれば使えるようになる。検非違使でも隊長格なら使っておった」
へー、そうなんだ。俺はペーペーの衛士だったからな。出世したら直ぐに覚えよう!この紙、それぞれ使える人が決まっていて、他人の紙は使えないんだ。血で紙と契約する必要がある。しかもその契約は在富様しか出来ないから、結構貴重なんだよね。
「実は昼に松永様から使いが来てな。三好が紀伊の畠山と睨み合うらしい」
そうすると、大和国は後回しになるのか?
「興福寺もそう思うじゃろうな」
布施さんが、ニヤリとしながら指摘する。なるほど、油断して見過ごしてくれた方が、その後が楽になるな。
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興福寺の守護が不確かな物であるとの噂は、あっという間に広まった。俺は裏事情を知っているのでぶっちゃけるが、検非違使だけでなく、六角様配下の甲賀や伊賀なども使って噂を広めたんだ。
ま、誰でも「実は〇〇だった!」って話しが大好きだ。それに荘園の押領なんて大和国だけじゃない。下克上の時代だし。興福寺だって筒井家に蚕食されているしな。
ただ、朝廷からもよく思われていないってのが新しかった。目の前を検非違使がウロウロしていたしな。
「ここは不入地である!」って叫ぶ坊さんと、朝廷の届けに無いって言う検非違使との押し問答も各地で起きた。
目の前で官司と揉めているんだ。誰だって疑問を持つよな?そうやって興福寺への信頼を揺るがすのも俺達の仕事なんだよ。
ま、俺は嶋城を攻略するのが一番の任務だけどな!待ってろよ!桂ちゃん!
兵衛くんは嶋城を攻略出来るんでしょうか?
大和で頑張る兵衛くんの明日はどっちだ?
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