これは困った。
丹波戦線が思ったより善戦しているお陰で、困った問題が出てきた。若竹軍は鷹司家の私兵だし、検非違使や兵衛府は朝廷の官司。つまり、給料制なんだよね。一方、丹波国の領主たちは幕府から領地を貰って仕えていた武家がほとんど。
こっちは丹波の領主達に押領している分を返して貰おうと思っていただけだったので、武家の希望する「所領安堵で降参する」ってのと齟齬が起きてて交渉が進まないんだよ。兵衛にはそんな権限無いし、場所によってはほとんど押領した土地ですって家もあるからね。
大和国は近衛さんが国司になったし、若竹海軍は河野さんに従属する形になっているから、問題が起こらなかったんだ。
「うむむ。これは困ったのう。兵衛を郡司にするか?」
「郡を掌握した訳でもないのに郡司は無理があろう。それに向こうは守護代の家格もおる」
「では、伊勢殿は?」
「あれでも武家じゃ。伊勢にその力があれば、既に領地を取り戻しておるわい」
ジィジ達も頭を抱えている。九条さん達も来ている。丹波には荘園が多く、細川家に押領されていたからね。旧領を取り戻せそうだって事で、その処理を摂関家の御隠居達全員で話し合っているんだ。
「無理に土地を召し上げれば、建武のご新政と結び付けられかねん。そうなれば、細川京兆家が東国で復活するかもしれぬ」
「九条家としては鷹司さんに習って銭集めを始めたからの。少しは余裕も出てきたが、お家に寄っては今だ困窮しておるのも多い。公家衆は荘園が返ってくるのを期待しておるぞ?」
「知るかそんなの!荘園を返して欲しかったら自分で丹波へ行け!」
思わずパパンが罵ると、九条さんがたしなめてる。
「ホホホ、鷹司の悪童は健在じゃな。だが、人は自分の好きな様に期待をするものじゃ」
「いや、それも一つの手かもしれぬ」
「「「は?」」」
近衛のジィジが一つ悪巧みを思いついたらしい。
「兵衛隊が直接交渉しているから、我らが困るのじゃ。公田は別にして、荘園については各領家がそれぞれに話し合ってもらおうぞ」
つまり、所領安堵の所領について、我々ではなくて別の場所で話し合って貰うって案。幕府なり朝廷なりの別機関で裁定して貰ったら、そこで安堵されますって事ね。お役所得意のたらい回し作戦だ。
話し合いの間は若竹軍で面倒を見ると。所領については裁定待ちだから、とりあえずの銭払い。
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亀岡で話してみると、渋々ながら受け入れたらしい。受け入れなければ族滅だからね。受け入れざるを得なかったんだけどね。でも、鷹司式の仮設住宅に入ったら、びっくりする程態度が変わったんだって。
若竹軍に落とされた城の城主たちは、一旦、一家郎党まとめて京送りにしたんだよ。右京に収容用の長屋を作ってあるので、そこで諸々の裁定待ちをしてもらうってことでね。
長屋って言っても在富が用意した施設だからね。庭付き、上下水道や暖房設備も完備。もちろんお風呂やシャワートイレ付き。お嬢様で料理も出来ない奥方様もいるので侍女部屋も付いてるよ。両隣と壁がくっ付いているだけで、一軒家と変わらない。
ここまでやれば奥方様達はウチの味方。旦那さんの尻を叩いてウチへの奉公を勧めてくれるって塩梅。領地経営の煩わしさからも解放されるしね。
小規模領主ほど、領地を手放して鷹司の銭傭いになる家が多かったよ。
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