転生したら謝罪されてました。
畳敷の部屋で座布団の上におくるみに包まれた赤ん坊。
んでもって、オレに向かって土下座しているオッサン二人。
それも麿まろしい、陰陽師ってヤツ?みたいな格好をしている。産まれたばかりでよく見えてないんだけどね。聴力は問題ないんだけど、視力はこれから発達するみたい。
それで、ナニこれ?どうなっているの?
「ダ?ダゥー?」
まだ、発声器官も発達していないから上手くしゃべれない。産まれたばかりだもの、しょうがないよね。それでもなんとか発声すると、オッサン達がビクリっと動いた。
「「大変な事になりまして、申し訳ございません!」」
どうやら、オレ、戦国時代に転生したらしいです。
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オッサン達の話をまとめると、本来なら別の世界に転生するところを強引にこの世界に転生させられたのだそうな。
「やらかした女神サマは逆ギレしておりまして、立て籠もろうとした所を弟神二柱がなんとか取り押さえまして……」
天界も大騒ぎになっているらしい。ゴシューショーサマデス。
「それはそれとして、伝えねばならぬ事が山ほどあるのだ。まず第一に、そなたはワシの子供として転生しておる」
まあ、死んだ後、転生するとも思っていなかったので、それはいいんだけどな。
「ダーウー」
「意外と反応が薄いな」
「ここで、ぶちギレされても大変ですし」
怒ってないのは伝わったらしく、オッサン達はホッとしていた。よろしくなー!オッサン。
話を聞いていると、オレの父親になるオッサンは鷹司忠冬といい、とても偉い貴族なのだそうだ。
正直、知らん。オレ、日本史詳しくないし。
「んん?どうも反応が鈍いですな。もしかして、知らないとか?」
「ダゥ!」
「むむ?転生者と聞いていたのだが、戦国時代に詳しくないのかも知れぬな」
「確かに。他の世界線に転生する予定だったとの事ですし、ファンタジーやSF世界向けの魂だったのかも知れませぬ」
オッサン達がヒソヒソと相談すると、こちらの知識を確認してきた。
「近衛前久はご存知ですかな?」
「ダゥ?」
「明智光秀?」
「ダゥ!」
「細川晴元?」
「ダゥ?」
オレの戦国時代の知識と言ったら、謙信信玄とか信長秀吉とかの有名人の名前ぐらい。大河ドラマも見なかったしな。
「あぁ、三好家も知らないのですね。……まぁ、ぼちぼちお伝えしていきましょう」
もう一人のオッサンが苦笑いしている。こちらは勘解由小路在富という陰陽師なのだそうで。
陰陽師!本物始めてみたよ!
オレが興奮して鼻息をフンスフンスしていると、陰陽師のオッサンは苦笑いのまま、魔法みたいな事は出来ないとぶっちゃけた。
「本来は、天文の動きを元に暦を作ったり、一日の時刻を測ったりするのがお役目なのです」
国立天文台と気象庁と天気予報士を合わせたもんかな?オレが首をひねっていると、陰陽師のオッサンはそのまま話を進める。
「これからしばらくは、一日一回、この東屋に籠ります。周りには、摂関家の嫡男へ祈祷の為、秘事の儀式を行なっていると説明してあります」
セッカンがなんだかよく分からないけど、そう言って、三人だけの場を作ったのだそうな。新生児虐待じゃないのか?よく部屋を借りられたな!
言い訳としてなんだから実際には何もされないだろうし、まぁいいや。
しばらくはここで他には漏らせない話を教えてくれるそうだ。
「とりあえず、今日はここまで。赤子の身では長話も出来まい」
パパンの忠冬さんが、話を切り上げる。たしかにそろそろオレのバッテリーが切れそうだ。
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陰陽師に抱かれて東屋を出ると、素早くオネーサンが近寄ってきて、オレを受けとる。オネーサンに抱っこされたトコロでオレの体力も終了。赤ん坊だからね。仕方ないね。
【今回のやらかし】
忠冬達がやらかした事案をここで解説します。
座布団:今のような布の袋に綿を入れる座布団は、江戸時代の中頃に出来ます。この時代は藁などを渦巻状に編み上げた円座や、薄く小さな畳を敷いて座ってました。