珍客は実家のお隣さんだった少女でした・・が、すでにいろんな意味で遅かった
アクセスありがとうございます。
「カイ兄ちゃん!」
先手を打たれ俺の名前を呼びながら突然抱き着いてきた氷のように冷たい少女への対応ができず戸惑っていると、胸にグリグリと押し付けていた顔をスッと上げ視線が重なった紅い瞳にどこか見覚えがある。
「・・カイ兄ちゃんだぁ・・・・やっぱり生きていてくれた。会いたかったよ〜」
彼女から害意よりも好意を感じてきた俺は、潤む紅い瞳から流れ落ちる涙を見ながら過去の記憶を探り1人の少女の存在が浮かんできた。
「ちょっ・・もしかして、ルミナ魔法士団長様・・ですか?」
「ちがうよ」
「ちがう?」
「うん・・バトルクリーク家長女のルミナ。カイ兄ちゃんの妹のルミナだよ?」
ルミナは小刻みに震えながら訴えてくる。
「いや、でもルミナ様は・・」
「ちがうもん! ルミナだよカイ兄ちゃん!!」
「わわっ・・わかりました。わかったよ。ルミナちゃん落ち着いて・・そんな押すと・・あっ・・あぁ〜」
ドボンッ
全裸のままでいた俺はできるだけ彼女の触れないよう後ろに離れようとしていたけど、泥だらけでびしょ濡れの冷え切った体のルミナに力強く押され止めきれず背後にある浴槽へと2人仲良く飛び込んでしまった。
湯冷めしていた身体が温かい湯に癒されていき、ブクブクと水面へと上がっていく空気の泡の先に目を閉じるルミナの顔が見え冷静さを取り戻しバッと起き上がってからルミナを抱き上げた。
「「 ぷはっ・・ 」」
止めていた呼吸を2人で再開し、落ち着いたところで彼女に問いかけた。
「ルミナちゃん、どうしてここに?」
「カイ兄ちゃん、助けて・・」
「・・何があった?」
「帝国に・・帝国に勇者が・・勇者たちがいたの・・・・」
「勇者? 勇者って、御伽噺の勇者?」
「うん」
ルミナの震える口から出た勇者という言葉に、あの黒髪黒目の少年と隣りに立っていた少年少女達が浮かぶも、あえて知らないフリをしてルミナの話しを聞くことを選んだ。
「・・あのね、先遣部隊を率いた副団長と私の部隊が合流して国境沿いの帝国部隊をいつものように駆逐している途中に・・途中に押し上げていた戦線が突然崩壊して・・・・」
温もりを与えてくれる湯の中でも、ルミナの小さな身体は未だ冷え切ったままで小刻みに震えている。
「・・それで攻撃魔法が大爆発を起こして王国騎士団が敗北した・・流れに?」
「うん・・でも、どうしてそれを?」
「ん? それは、俺は417高地で経験済みだからな?」
「あっ・・そうだったねカイ兄ちゃん」
俺を抱き締めていたルミナの腕に力が込められギュッと抱き締められ自然に彼女の頭を撫で、互いに黙ったまま時間が流れの後にルミナの腕から力が抜け離れる。
「そういえば、どうしてここが?」
過去の知り合いの中で、俺がここで暮らしていることを誰も知らないはずなのに彼女がここに来た理由を聞いてしまった。
「カイ兄ちゃんが行方知らずになってから、教えてもらった探知魔法を全力で使ったらこの街がある方向に・・ほんの僅かで一瞬だったけど、カイ兄ちゃんの魔力を感じ取れたの」
「た、探知魔法だけで?」
俯き揺らぐ水面を見つめていたルミナはスッと顔をあげ俺を見るとゆっくりと首を振り口を開く。
「ううん・・それはキッカケなの。本当は、ネルルが・・部下が身を隠す場所を確保したって教えてくれて・・・・」
「だからあの騎士は、あの言葉を言い遺したのか」
ルミナが教えてくれたことで騎士がこの家に来た理由と、玄関前で力尽きる直前に遺した言葉が繋がった。
「????」
俺が独り言のように呟いた言葉を理解できないような表情で見ていたルミナに説明すると涙を流しながら納得してくれた。
それから再会したことで互いの不明だったことが判明しいつものような感じに取り戻してくれたルミナは、俺と2人で湯に使っていることを思い出し立ち上がると、そのまま裸でいる俺の姿を見た途端に変な声を漏らし顔を真っ赤にして気絶してしまったのだった・・・・。