幕間 王国騎士団魔法士団長 ルミナ=バトルクリーク④
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ルミナの幕間は、これで終わり次回は本編に戻ります。
ルルネの挑発に見事に乗ってしまった自称Aランク冒険者の男達は、最後の一線である抜刀という最後の生きる線を躊躇うことなく超えてしまいました。
「ネルルは自称王国で2番目に強い魔法士なのに・・・・」
彼らに届くこともない程の声量で呟いた私はこの後の処理をどうしようかと考えますが、一応やる気に満ちたネルルの右肩に触れようと右手を伸ばすも彼女は一歩前に踏み出してしまったため空振りに終わります。
「それが貴様達の本性か・・思い通りにいかない女にでさえ武器を向ける愚行・・」
「黙れ! もう泣いて謝っても許さねぇ・・もうお前らは壊れるまで使ってやるよ!!」
ネルルの言葉に男達は一気に殺気を私達に向け踏み出した瞬間に反応した私よりも先に、ネルルの指先から伸びる氷の蔓が5人の喉元を貫いていました。
「もう、ケンカっ早いんだからネルルは・・早く砕いてあげなさい」
バキンッ・・バンッ・・
水属性魔法の上位である氷結魔法が得意なネルルは、ゆっくりと赤い血で染まっていく喉元を貫いた氷の蔓を瞬時に粉砕したと思うと、絶命した彼らの全身を透明な氷で覆い尽くした直後に粉々にさせ地面には砕けた氷像がばら撒かれます。
「・・いつ見ても寒気がする光景ね」
「はいっ! お褒めいただき光栄です! お姉様っ!!」
「お、お姉様? って、別に褒めてないわよ・・ねぇ、それよりもあの中身は氷が溶けたらそのままなのよね?」
「そんな地獄絵図にはしませんよ? ちゃんと中身のアレも氷と一緒に溶けて水のように地面に吸収されて消えますから」
「それはそれで、恐ろしい魔法よね・・」
「そうですか? 証拠も残らない完全犯罪で、カッコ良くありません?」
「カッコイイは別として、完全犯罪は不味くない?」
「えへへ・・」
人通りの無い夜の通りとはいえ、男5人分の全身を凍らせ粉砕した氷の量はそれなりに大量に散らばっているため、私は風魔法で周囲の家屋の目立たない場所へと飛ばし掃除を終えてからネルルと共に部下達が寝て待つ宿へと戻り、予想通り布団が冷え切っている快適なベッドで眠りつくことができました・・。
酒場からの帰りは深夜だったため、眠りについた瞬間にすぐ朝を迎えたようで窓から差し込む陽の光で強制的に目が覚めてしまい、憂鬱な気分のまま出発の支度を整えたところでネルルが迎えに来たため馬車の準備を整え待っている部下達の元へと向かうため宿屋を出ます。
「はぁ・・」
「団長? 何かありましたか?」
「・・なんでもないわ・・相変わらず、ケロッとしているのね?」
「当然です。いかなるときも、部下の前で情けない姿を見せるわけにはいきませんから・・ね?」
「そういうところは、昔から変わらないのね・・」
「はい! さぁ、そろそろ部下達が待つ場所ですよ? ルミナ団長」
「わかってるわよ・・・・ネルル副団長」
酔いは醒めているとはいえ深夜に帰った影響で睡眠時間が短い私の本音は、こんな朝早くに街を出る必要はあるのと気分が乗らないまま馬車の旅を再開します。
街道を止まることなく走り続ける馬車の中で、ジーニス団長から聞いていた情報をふと思い出します。
辺境の街のさらに向こう側の国境に近い場所では、帝国兵との散発的に小規模な戦闘が増えていると。それを撃退するため副団長アリアさん率いる精鋭部隊が先に派遣され、遅れて遠距離攻撃に特化した魔法士部隊の私達が追従するように向かう・・・・のは表向きで、北の辺境の街へは別の目的を優先してのんびりと移動します。
「・・・・だって、私の私情も入っていますから」
また誰に問われたでもなく、無意識に呟く私は馬車の小窓を開き顔だけを外に出し風を感じながら前を走る馬車の後ろ姿を見ていると、なぜか速度を落とし間隔が詰まったため私が乗る馬車も速度を落としていると、ついに止まってしまいました。
「・・この遠征に野営なんて計画していないはずだけどな・・なんだろ?」
「ルミナ団長〜」
軽快に街道を走っていた馬車が止まった理由がわからず、ただ小窓から顔を出していると前の馬車の方から聞き慣れたネルル声が聞こえ馬に乗る彼女の姿が現れました。
「どうしたの?」
「この先にある山越えの道が土砂崩れのため馬車は通れないようです」
「土砂崩れ? そんな雨なんて降ってないはずよ?」
「この先の経路にある山の方は雨季に入ったようで、数日前から豪雨だったとすれ違った時に冒険者パーティーが情報提供してくれました」
「そう・・なら、さっきの街に引き返す?」
「いえ、このまま馬車で土砂崩れの場所まで進みその先からは徒歩で超越し次の街を目指します」
「えっ? 本気で行くの? 土砂崩れでしょ? そこから先は徒歩で行く? 昔から知ってたけど、バカなの?」
私の独り言のような愚痴にネルルは涙目となり、両手をプルプル震わせています。
「団長・・申し上げますが、学園万年2位の成績だった私は・・決してバカではないと思います! よ?」
「そうね・・そこで疑問系で答えるネルルは、ただのバカじゃなかったわ・・ごめんなさい。発言を取り消して、訂正するわ・・・・・・ただのポンコツでした」
「ポッ・・ポンコツゥ!!」
グハッと出もしない吐血をアピールしながらネルルは地面に両手を突き凹んでいますが、私はいつものことなのでスルーして続けます。
「それで、迂回もせず突き進む理由は?」
「・・・・・・」
「理由は?」
「・・・・」
「この、ポンコツ!」
ドゴォ!
「ぐぇっ」
上官である私の質問に答えないネルルの横腹を軽く蹴飛ばした瞬間に、少し快感を感じてしまったことを内緒にして地面に寝転がるネルルを見下ろしていると、彼女は何事もなかったかのようにスッと立ち上がり無表情のまま私を見つめます。
「・・っで、あなたの答えは?」
「このまま進み、通行不可の土砂崩れした場所を突破し行動に遅滞がないようにします」
「土砂崩れした場所を馬車で突破するのは不可能よ?」
「私の辞書に不可能という文字は存在しません」
「・・そう。なら、貴方の力で不可能を可能にしてみなさい」
「おまかせください。ルミナ団長」
久しぶりに見せたネルルの自信いっぱいの笑顔を見た私は、彼女に行動計画を委ね馬車が通れないと聞く土砂崩れの場所まで移動した後に、ネルルは発言通り馬車3台を突破させ私達は遅滞することなく移動を続けることができ、私が計画していた日数を使い北の辺境の街へと辿り着くことができました・・が、そこで想定外の敵に私達王国騎士団は翻弄され戦略的撤退を余儀なくされてしまったのです。
「団長! ここから撤退を!」
「ダメよ! 貴方も一緒に!」
「私は、平気です! 先に騎士に頼んで団長が身を隠せる場所を確保しています!」
「何よそれ! 意味がわかんないわ!」
帝国兵達を撃退する副団長アリアさんの部隊と合流し国境がある山間部で待機中に懐かしい魔力を捉え嬉しくなるも、部隊行動中のため個人的に動けない歯痒さに耐えつつ進軍した先で突如現れた黒髪容姿の少年少女達の理解できない戦力に抗うことができず敗走する中で、ネルルがおかしなことを言います。
「意味はありません! ここは、団長さえ生き延びれば勝ちなんです!」
「そんなのダメ! 私も戦うわ!」
帝国側にいる黒髪少女が放つ攻撃魔法で騎士達は容易く排除され、それでも生き残った騎士は黒髪の剣士に斬り倒されていくだけです。
このままじゃ終われないと思い、残り僅かしかない魔力で最後の足掻きとしてカイ兄ちゃん直伝の魔法で串刺しにしてやろうと構えたところで、戦場の中心が真っ白に輝き眩しさのあまり目を閉じた瞬間に大爆発が起こり、その爆風に巻き込まれた私は、風に舞う木の葉のように吹き飛ばされ全身に激しい衝撃とともに意識を手放してしまったのでした・・・・。
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時系列的には、カイがミユキを帝国勇者側に預け逃げている途中に
勇者達が追撃を止めて、帝国兵と別の方向へ向かった頃です。