突然やってきた騎士に、何かを託されました
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ズザザザァァァァ・・・・
暗闇へと落下ししていく感覚の中で、背中から足へと順に壁のような固いものの上を滑る感覚のまま数十秒何も出来ないままでいると、伸ばしていた両足の裏が止められる衝撃とともに滑り落ちていた感覚が強制的に止まり、その偶然向けていた視線の先にある丸く小さく切り取られた所から光が差し込み青いものが見えた。
「・・出口?」
薄暗い空間の中でゆっくりと身体を起こし手探りで見つけた壁に触れた頃に、手足を入れることができそうな窪みがたくさんあることに気付き、それが上に向かっていることから俺はそれを利用して頭上にある丸い出口のような場所を目指す。
「あと少し・・」
踏み外さないようゆっくりと壁を登る途中で、あの青いやつが青空なのだと認識し外に出れると期待する俺は出口の先に何があるかわからないまま勢いよく頭をバッと出し周囲を見渡した。
「・・・・どこだ? 誰もいない・・けど、あっちが街か」
顔を出した反対側へと顔を向けると見慣れた街があり、ちょうど破壊された門が見えた。
「結構遠くの場所に繋がってたんだな」
街が見える方向と周囲の山を見て自分の居場所をだいたい把握できた俺は、廃井戸に偽装された出口から出て走り去り街道をそのまま走り抜け、家がある山の獣道へと向かう途中に街の方から断続的に爆発音が鳴り響き時より見える街から黒煙が巻き上がっているのは関係無いと言い聞かせながら何事もなく家に辿り着けた。
「はぁ・・夜になっても戦闘が続いているのかよ」
騎士団時代は日の出から日没までの時間で戦闘をするという昔からの流れだったと記憶していたけど、今は暗くなり夜になっても街の方から攻撃魔法による爆音が家の窓をガタガタと不規則に揺らす。
戦闘地域から離れているとはいえ、不規則に揺らされ音を鳴らす窓ガラスのせいで気になり寝室にいた俺は、リビングへと移動し椅子に座っていると小腹が空いてしまった。
「今から作るのも面倒だし・・・・久しぶりにアレ食べるか」
ミユキから回収していた騎士団が支給する懐かしい携行食をアイテムポーチから取り出し、ガリガリと豪快な咀嚼音を鳴らし歯を折らないよう集中して食べ終えた時には、騒がしい夜はいつの間にか静けさを取り戻していた。
「・・・・やっと終わったのか?」
自分が動く時に聞こえる音以外に何も聞こえない静かな夜に安心してしまった俺は、不意に眠気に襲われたため眠り落ちる前に寝室へと移動しベッドへと横たわった直後に意識を手放し眠りへと落ちていった・・。
ドンドンドン・・ドンドンドン・・・・
意識の遠い場所から何かを叩く音が聞こえたような気がして、沈んでいた意識が浮かび上がろうとするも再び沈んでいき音は聞こえなくなる。
ドンドンッ! ドンドンドンッ!!
また聞こえてきた音で沈んでいた意識は浮かび上がってしまうも、目は開かず意識だけが先に覚醒しドアを叩く音だと認識し呟く。
「・・居留守しよ」
このまま静かに過ごし見知らぬ訪問者には帰ってもらおうと考えつくも、脳裏にあの騎士の姿が浮かんでしまう。
「まさかな・・」
そう呟いた頃には身体も起きていたためベッドからゆっくり立ち上がる俺は、目を擦りながら部屋を出て今も遠慮なく叩きつけられているドアへと向かい、叩かれるタイミングを計ってからドアを少し開けた。
「・・どちら様で?」
嫌々ながらもドアを開けた先にいるだろう騎士に嫌悪感をたっぷりと含ませた視線を向けると、想像を裏切るような格好をした騎士が1人立っていた。
「だ、大丈夫か!?」
騎士の鎧はボコボコに凹み傷だらけで、身体を衝撃から守れるような部位など一つもない酷い状態であり騎士自身も血だらけであり、俺の声を聞いた瞬間に倒れた。
「お、おい! 目を開けろ!」
「・・・・ぐっ」
俺の問いかけに反応するも言葉を上手く発せられず苦しんでいる若い騎士は、姿を見せた俺を見ると最後の力を振り絞るように小刻みに震える口から小さく告げる。
「・・か、かならず・・くる・・だから・・たの・・・・んだ」
そう言い残し脱力した名も知らない若い騎士は、役目を果たしたかのように短い人生を終えてしまった。
「はぁ・・いったい誰が来るんだよ」
予備隊時代に何人もの仲間を目の前で失った俺は、見知らぬ騎士が死のうとも微塵も感情が乱れることもなく、ただ彼が遺した言葉が理解できず呟くだけだ。
「仕方ない、このままに出来ないし弔うか」
このまま玄関先で放置するわけにもいかない俺は、重しとなる役に立たない鎧を外し身軽となった彼を背負い山の奥へと進み獣道から外れた深い茂みの場所まで運び、魔物達に荒らされない程度に深く穴を掘ってから認識票を回収し埋葬したのだった・・・・。