幕間 王国騎士団魔法士団長ルミナの決意
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時系列的には、カイがシマチ達と街で出会った頃になります。
王国騎士団魔法士団長・・ルミナ=バルトクリーク
「待って!!」
何か言い掛けるも諦めたように僅かに開いた口を閉じ、悲壮な表情のような笑顔のまま踵を返し食堂から遠く去って行くカイ兄ちゃんの背中へ必死に手を伸ばし叫ぶも届かず消えてしまった瞬間に、私は薄暗い場所にいることに頭が混乱していた・・・・。
溢れ出す冷や汗と乱れていた呼吸を夢中で落ち着かせようと自分を律している中で、少しづつ暗闇に目が慣れてきたことでこの場所が国から与えられた宿舎の部屋だと知る。
「・・はぁ・・はぁ・・夢? 夢だったの?」
バンッ!
「ひっ」
不意に部屋のドアが乱暴に開けられた衝撃で情けない声を漏らし掛けられた布団を強く握り締めながら胸元まで引き寄せた私は、顔をドアへと向けようとした直前に争うことができないほどの強い力で抱き締められてしまい魔法を放つこともできずただ身動きが取れなくなってしまう。
せめて魔法を詠唱することができない私は、恐怖の中で必死に抵抗する声を漏らす。
「うっ・・離し・・て」
「よかった! 目が覚めたんだね!」
恐怖の中で滲む視界の私の耳には、緊張感などまるでない聞き慣れた女性の声に全身から力が抜け反射的に抱きついて来た人物の背中に腕を回し受け入れた。
「はい・・さっき目が覚めました」
私の部屋に飛び込んで抱き締めていたのは、幼馴染の関係にも近い騎士団副団長のアリアさんだ。
「もうずっと起きてくれなかったから・・・・」
「あの、アリア副団長。私はどれくらい目を覚さなかったのですか?」
「数ヶ月・・じゃなくて数日だよ。巡回中の騎士が見つけてくれた時には、重度の魔力欠乏症だったんだから・・・・ねぇ、あの場所であの時間にいったい何をして魔力欠乏症になったの?」
「えっと・・まだ記憶が曖昧で・・・・」
あの日の夜に激戦の417高地の戦いの後から行方不明となり戦死扱いとなったことが信じられない私が、一抹の想いでカイ兄ちゃんを見つけるため全魔力を解放し気配探知を発動し魔力を感知したことをさすがにいえず、言葉を探していると先にアリアさんが口を開いてくれた。
「いいの・・ルミナちゃんが起きてくれたから。カイに続いて、ルミナちゃんまで失うなんて想像できないわ」
「アリアさん・・・・はい、すいません」
アリアさんは、カイ兄ちゃんが戦死したことを既に受け入れているのでしょうか。カイ兄ちゃんをジーニス団長の独断で除名し私が気を失うまでの期間のアリアさんは、ジーニス団長との距離感は恋人のように近かったようなことを思い出し私は腑に落ちてしまいます。
そんな私を見ていたアリアさんがスッと私から離れベッドの横に立つと、普段着とは違うことに気付き思わず聞いてしまいます。
「アリアさん、こんな時間にどうして戦闘時に着る内衣を?」
「あっ・・これはね、夜明けに出兵するの。その前にルミナちゃんの様子を見ようと思って部屋の近くに来たところで叫ぶような声が聞こえたような気がしたから」
「そう・・ですか」
叫んだだろうあの言葉を聞かれた私は、なんて言ってたのかと問われる前にアリアさんに話し続けます。
「あの、早朝出兵ってことは遠くに行くのですか?」
「そうよ。北の辺境地にある国境に近い街よ・・帝国兵の威力偵察行動が、この2、3日になって急に活発化したとの情報が本部に届いたのよ」
「それならば、わたしも!」
「ダメよ・・貴方はまだ病み上がりだからね? 十分休養をして、魔力が全快になってから手伝いに来てね。でも、ルミナちゃんが来る前に私が解決させるわ」
副団長アリアさんは、笑顔でそう告げながらも瞳は真剣で私の肩を優しく押してベッドへと戻すと手を振りながら部屋を出て行く姿を見送り取り残された私は、静寂が訪れた部屋で眠れず過ごしていると窓の外から聞こえる声に誘われるかのようにベッドから立ち上がり窓を開けて外を見下ろす。
視線の先には1個大隊規模だろうの部隊が集結し終えて先頭の馬車が出発し始めているのをただ見送り、あの417高地で起きた戦闘が再び起きるような胸騒ぎを感じた私は、まだフラつく足を叩きながら動かし旅の準備を急いで始めました・・・・。
「早く行きたいのに・・・・今の立場が邪魔をするなんて」
アリアさんが出兵した日に私も旅の準備を整わせましたが、魔法士団長というイチ部隊の指揮官という立場のため個人で行動する許可が降りることなく数十日が無駄に過ぎてしまいました。
思い通りにいかない生活に苛立ちが蓄積されつつある私は、すでに枯渇していた魔力は全快してそれ以上になっていた頃にジーニス団長指示で、騎士団本部にいる担当治癒士の健康管理チェックを数日に渡り調べられ、やっと任務復帰の許可が出た私は、久しぶりに可愛い部下達がいる建物へと向かう途中の団本部の廊下で今は会いたくない人物に呼び止められてしまいました。
「ルミナちゃん!」
(はぁ・・・・なんて日なの)
「はい! ジーニス団長・・」
崩れただろう表情をなんとか気合いで笑顔へと戻すことができた私は、クルッと体を回転させ振り返る。
「ルミナちゃんアリアからはもう聞いていたけど、動いて大丈夫なの?」
(いやいや、貴方の指示で受けたくもない健康管理チェックを受けたんですど?)
「はぁい。担当の治癒士からも許可が出ましたので・・今からでも任務に復帰できますよ〜??」
周囲に他の騎士がいない状況では、上下関係の立場を無くしてジーニス団長は学園時代の話し方に戻るけど私は絶対に変えない。でも、長期間戦線離脱していた私のマイナス評価を少しでも取り戻す姿勢を見せれば、彼は喜ぶだろうと崩れそうな笑顔を必死に保持しつつ手を組んだ腕で胸を強調しながら一歩前へ出る。
「うん! なかなか前向きで嬉しいよ! でも、無理はダメだからね?」
「はいっ!」
(きっもぉ・・)
ジーニス団長の気持ち悪い笑顔と私に触れようと伸ばしてきた右手を避けるように自然な流れで片膝を曲げ敬礼をして無事回避すると、空を切った右手に困ったらしい団長は指先をモニョモニョ動かしながら自分の頬を掻いて誤魔化していた。
もちろん私は僅かに頭を下げているため視線は廊下へと向けていることから、直接見ていないことにして彼のプライドは保たれたはず・・でも、あの微妙な顔はまた見てみたいと少なからず想いました。
「そうだ!」
「はい・・」
敬礼の姿勢から元の姿勢へと戻った私は、なぜか顔を逸らしているジーニス団長に対し嫌な予感がしましたが、警戒心を忘れることなく普段通りの態度で応対を続けます。
「・・そうだ、このあと時間あるよね?」
「このあとですか? そうですね、久しぶりに可愛い部下達の顔を見た後なら多分時間はあると思いますが、部隊の現況を指揮官として把握するためいつになるか言えませんけど・・」
「そうか・・俺は定時報告会議ぐらいだから、終わったら迎えに行くよ。その後に一緒に夜飯に行こう」
なんでこの男は自分勝手に人の都合を決めてしまうのだろう。しかも恋人関係になっているはずのアリア副団長がいるのにと思いつつ明確な返事はしない。
「定時報告会議の後ですか・・その時間なら業務は終えていると思います」
「よし、決まりだ。店は僕のお気に入りの店を押さえておくから、もし会議が長引いていたら作戦会議室で待っていてくれる?」
「・・・・あの、アリア副団長も一緒なのですよね?」
ここで、アリアさんの名前を出して動揺を誘います。
「アリア? いや、アリアはいないよ。もうここを出発したから」
「いない? アリア副団長はどちらに?」
恋人がこの街にいないのを堂々と告げつつも、2人っきりで食事を誘うこの男の考えが理解できない私は絶対に誘いに乗らないことを改めて誓い目の前の男から別のことを考える・・早くカイ兄ちゃんを探しに行きたいな。
「北の辺境の街だよ。帝国兵の動きが活発化してるから沈静化させるためにアリアを大隊の指揮官として活かせたんだ」
「そうですか・・なら魔法士の部隊も同伴しているのですか?」
「いや、指揮官のルミナちゃんが不在だったから、副官に打診したんだけど断固拒否されてね・・・仕方なく魔法士は抜きで出発させたんだ」
(ナイスです! ネルル副官!)
「ならば、指揮官の私が復帰した以上は、後方支援として魔法士部隊を派兵させる必要がありますね?」
「えっ? あ、あぁ・・そうかもね」
「では、部隊編成を決める時間が必要なので失礼します!」
「ちょっ・・ルミナちゃん? 待って! そんな急がなくても・・・・ルミナちゃーん!」
踵を返しジーニス団長から急足で離れる私の背後から呼び止めようとする団長の声を無視して、私はグッジョブのネルル副官がいる建物へと飛び込み、私を軸とした部隊を編成しつつカイ兄ちゃんの魔力を感じた方向へ出発するため中隊規模の部隊を編成しその日の夜に騎士団本部を逃げるように出発したのでした・・・・。
カイ兄ちゃん、待っていてくださいね。あの時は、止めることができませんでしたが、今度こそ必ず繋ぎ止めます!