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自称勇者の仲間を捕虜として、衝動的に捕まえてしまった

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 多くの騎士達が武器を構え静かに417高地を登り進軍する光景を近傍の森の茂みから見守る指揮官から少し離れた場所で体を休めながら見ていると、頂きを越えた帝国兵達が姿を現し王国騎士団との交戦が始まった。


「ここでも、未来ある若い命が散ってしまうのか・・」


 互いに鍛え上げた剣技をぶつけ生き残るため休むことなく戦う騎士や、攻撃魔法が死角から襲われ足元で着弾し吹き飛ぶ騎士達がいたりと死に様はそれぞれ違うも、あの何もない417高地と呼ばれる場所を占領する目的は敵味方関係なく同じだ。


 ただ、自分は危険が及ばない安全な場所で傲慢な態度のまま指揮を取り、周囲の幕僚と伝令に罵声を飛ばし続ける姿に俺は嫌気が差し、指揮官の声が聞こえない場所へと離れ戦況を見守った。


 長い時間をかけ一進一退を繰り返し、この戦いも多くの戦死者を出しながら前線を少しづつ押し上げていき、やっとのところで頂きを超えた先まで前線を押し上げることに成功した騎士達は、士気が高揚しさらに帝国側へと押し上げるため、あのチャーリー部隊の指揮官は後方で待機させていた残りの戦力を逐次投入し戦果を確認するために自らも森から飛び出し高地の頂へと走り出していた。


 まさか指揮官が指揮所を放置し自ら飛び出す行動を予想していなかった俺は、ポツンと森の茂みに1人取り残されていることに気付くも慌てることなく、のんびり歩いて登り高地の中腹辺りの窪みで座って待とうとした瞬間に、ふと強大な魔力を感じた直後に空気を震わせる凄まじい衝撃に全身が襲われ思わず地面に伏せると同時に聞いたこともない位の爆発音が響きわった・・・・。


(・・帝国の逆襲にやられたな)


 大爆発音に聴覚がやられたのかしばらく耳がこもり何も聞こえない状態のため、問題なく見える目を頼りに周囲を確認していると、頂から駆け降りてくるボロボロの王国騎士達の叫ぶ声が少しづつ聞こえ始めたことで、自分の耳が無事だったと知った。


 騎士団が誇る銀色の見た目重視の鎧はボロボロに破壊され焼け焦げ、血だらけの多勢の騎士達が発狂しながら駆け降りて逃げて行くのを窪地から顔を出し見送っていると、右足の膝下を失い青白い顔の指揮官が部下に抱えながら俺の方へとやって来た。


「・・貴様! この高地を帝国共に奪われないよう死んでも死守しろ!」


「死んだらできるか! 俺1人じゃ不可能だ!」


「黙れ! 命令だ! 本隊が到着するまで、手足を失い頭だけになっても死守しろー!」


 そう叫ぶ指揮官は、吐血し白目を剥いて意識を失った。


「・・くたばったな・・2人は、どうするの?」


 俺に問いかけられた部下の2人は互いに顔を見合わせた後に、無言で抱えていた指揮官をゴミのように投げ捨て何も言わず走り去って行った。


「あ〜逃げちまったか・・最後は自分が大事だよな」


 そう呟きながら足元に転がる元指揮官の胸元から個人票を回収し、王国への逆襲が成功し一気に攻め込んで来るだろう帝国兵を歓迎するため小走りで駆け上がり頂の手前で止まった俺は、無策で顔を出すことなくゆっくりと移動し向こう側を覗き込むと、見渡すほどの巨大なクレーターがあった。


「でかっ・・・・やべぇ魔力を持った魔法士が帝国にはいたんだな」


 自国の魔法士が作り出した巨大なクレーターの落差が想定外なのか、帝国兵達は懸命になんとか通り越そうと必死になっている姿が残念過ぎて笑いが込み上げるのを我慢しながら見つからないよう見守っていると、なんとか巨大クレーターを走破するも疲弊し隙だらけの帝国兵に、俺は急襲し片っ端から斬り殺しながら蹴り落とし周る。


「卑怯だぞ! 王国騎士! うわぁっ・・」


 巨大クレーターから仲間と協力し這い上がる直前の帝国兵の目の間に姿を見せ、俺の行為に罵声を飛ばす兵士を刺殺し下の仲間に投げ飛ばし激突させ崩れ落とす。


「悔しかったら、ここまで上がって来いよ帝国兵ども!」


 1対数千という絶望的な戦力差に俺は最初から投げやりで挑発行為を繰り返していると、不意に地面が揺れた後に陥没していたクレーターの一部の土砂が盛り上がり一筋の道が出来上がった。


「やべ・・魔法士の仕業か」


 地形的に有利だった俺は、姿を見せない魔法士が土魔法で作り上げた道のおかげで一気に不利な状況へと追い込まれ、帝国兵達は形勢逆転したと歓声を上げながら1人しかいない王国騎士の俺を蹂躙しようと我先にと勝利の道へと向かい仲良く一列で俺へと迫って来る。


「はぁ・・習慣とは時に弱点になるんだな」


 偶然にも近くに転がっていた折れていないランスを拾い上げ、一列で仲良く剣を掲げ走ってくる帝国兵達に持っていたランスを全力で投げると同時に風魔法ウインドショットを放ちさらに飛行速度を加速させた。


 シュンッ


 俺が投げたランスを先頭を走る兵士が両手剣で弾き飛ばそうと構えるも、突然加速したことに驚き武器を手放し前屈みになり避けようとするも2人目以降は前が見えていなかったようで、飛び込んで来るランスに気付かないまま胸に刺さり2人目3人目と突き抜け、10人ぐらいが串刺しのような傷を負い絶命し崩れ落ち道を塞ぐと、後方から次々に来る帝国兵達は止まれず追突し勝手に道から転げ落ちて行く。


「わはははは・・・・人がまるでゴ○のようだ!」


 自然と自分からこぼれ出た言葉がゲスいなと思いつつ、本隊が到着するまでの時間稼ぎとしての殿を続けているものの、なかなか王国側から部隊が来る様子が無いまま膠着状態が続き日没を迎え、辺りが暗くなったことで今日の戦闘は一時中断となったらしい。


 夜風が吹き抜ける417高地の頂で1人、撤退した帝国兵達が遠くの平野で野営する焚火の灯りを眺めていると、背後から小さな気配を感じ振り向いた先に、ここには居ないはずの存在が何気ない顔で擦り寄って来た。


「にゃっ」


「シマチ・・なんでここに?」


 ゴロゴロと喉を鳴らしながら膝の上に乗り何度も顔に頬ずりをするシマチの頭を撫でると満足したのか、クルッと体を丸くしいい感じに足の中に収まる。


 シマチのモフモフを久しぶりに堪能し、長いシッポを根本から先っちょへと触ったりピコピコ動く猫耳を弄ったりして時間を潰していると、いつの間にかシマチは小さな寝息をたてていた。


「かわいいな〜シマチ・・でも、どうやってここに俺がいると知ったんだ?」


 ぐっすり寝ているシマチがその答えを教えてくれるはずもなく、きっと騎士団の食料を積んだ馬車に迷い込んだのだろうと決めつけた俺は、夜が明けるまでシマチの温もりを感じながら寝落ちすることなく朝を迎えることができた。


 陽が出て空が明るくなった頃に、帝国兵に動きがあったため寝ているシマチを揺すり起こした。


「シマチ、ここから早く遠くに逃げろ・・人間のつまらない戦争に巻き込まれるぞ?」


 ゆっくりと目を開けたシマチは口から赤い舌先をちょっとだけ出しながら背伸びをして起き上がると、ポンッとジャンプし俺の肩に乗るとジッと帝国兵たちがいる方を見つめた後に、別れの挨拶をするように少しだけ湿っている鼻先を唇に優しく触れてから短く小さく鳴き、肩から飛び降り下の森へと走り去って行く。


 そんな小さな後ろ姿を見送りながら、もう二度と会えないような気がした俺は最後にシマチの名前を呟くように呼ぶと、聞こえたのか返事をするように細長いシッポがピンッと立てて返してくれたのが嬉しかった。


「・・・・さてと、あいつが死に際に言った本隊がまだ来ないけど、第2ラウンドを始めますかな」


 昨日の失態を繰り返さないよう帝国側は、巨大クレーターの土を盛り上げ、数十人の兵士が一挙に攻め込める程の道を作り上げた・・・・その影響なのか、俺が1番警戒していた爆裂魔法は再び放たれる様子は無く数千の帝国兵が417高地を奪取するため一気に攻め上がって来たのだった。


 相変わらずの正面突破しか作戦がない帝国兵の指揮官に見せつけるように俺は、背負っている愛剣を抜き横一線に薙ぎ払うと、凡人には視認できない高速で突き進む風の刃が横隊で攻め上がる帝国兵の胴体を半分に切断しさらに後ろから続く帝国兵達も斬り捨て威力を失った風の刃は、役目を終え飛散した。


 今更だけど、俺は魔法剣士のジョブを与えられた半端野郎だ。この愛剣を使う時だけ刀身に好きな魔法を纏わせ自由に放つスキルを持ち合わせている。


 普段は実力がバレないよう、国の使えない重い騎士用両手剣に振り回されながら訓練に励んでいた。


「もちろん、幼馴染達にも秘密なんだけどな」


 誰に教えているのか自覚もなく自分だけの秘密を呟き、実は俺強いんだぜアピールをしてしまったことに後悔し軽く咳払いをした。


 そんな自爆行為から頭を切り替え、一気に数百人の自軍の兵士を屠られたことで意外にも早く後退する帝国兵士達を眺めていると、入れ替わるかのように冒険者の格好をした5人組が歩き近付いている姿に俺は本能的に警戒を強めた。


「パッと見は正規兵じゃないよな・・帝国の冒険者パーティーは、国の争いに首を突っ込むのか?」


 あえて必勝パターンの先制攻撃をすることを控え、冒険者達の出方を待っていると俺より若そうな男女混成の冒険者パーティーで、男2人と女3人の編成だった。


「聞こえますかー! あのー聞こえたら返事をしてくださーい!!」


 突然、少年から呼びかけられたことに応えるか無視をするか悩むも、好戦的ではない初めてのパターンだったため返事をすることに決めた。


「・・聞こえてるぞー!」


「よかった! あの〜僕達はチート持ちで、あなたより確実に強いのでこの場所を諦めて譲ってください!」


 よくわからない言葉と無条件で譲れという理解できない少年の話しを無視しようかと考えていると、魔法士が好んで羽織るマントを風になびかせている少女が右手に持つ杖を掲げると空に向かって威力がバカでかい魔法を突然ぶっ放した。


「今の魔法を見て、素直に諦めてください! どう見ても、貴方に勝ち目はなく王国も勝ち目はないんですよー!」


 突然やって来た少年少女が見下す態度に苛立つも、挑発に乗ることなく冷静に対応する。


「我が王国は、この場所が領地であるため帝国に引き渡す意思は無い! と思うよ?」



「「「「「 ????? 」」」」」


 中途半端な俺の回答に5人の少年少女の頭上にハテナマークがきっと浮かんでいるのだろうけど、ここは一切気にしないでおこう。


「我は、王国騎士であるが貴様らは何者だ!?」


「えっ? 聞いちゃう? それ僕達に聞いちゃいますか? 教えても後悔しないですよね?」


 中央に立つ少年が正体を言いたくて仕方ないような態度がムカつき、早く言えよと内心思いつつ我慢していると、予想通りその正体を自慢するように告げた。


「仕方ないな〜! 教えてあげよう! 僕は、勇者だ!」


「俺は、剣聖だぜー!」


「は〜い! 私も剣聖!」


「私は、ウィザード!」


「わたし、聖女でしぃ・・あは、噛んじった・・」


 どいつもこいつも伝説に聞く上級ジョブじゃねーかと絶句していると、ふと幼き頃に死んだ祖母から教えられた言葉を思い出す。


(・・カイ。女神様に召喚されし若者は、伝説のジョブを授けられこの世界を変えてしまうほどの恐ろしい力を持っているのじゃ)


「そうか・・アイツらが伝説の召喚者達か・・これは勝ち目が無いよな」


 強大な存在を前に、妙に納得してしまう俺は愛剣を鞘にしまい勇者達に告げた。


「わかった! この地は帝国に引き渡そう・・だから、ここまで登って来いよ帝国の犬が!!」


 俺が剣を鞘に収めたことで油断したのか、自称勇者達は手ぶらで俺の方へと登って来るも足場が悪いところで長い時間視線を足元に向けるという素人のような隙を見せたタイミングで、俺はすぐに行動し姿を眩ますことに成功した。


「あれ? いない、消えた!?」


 先頭を歩いてきた自称勇者の少年は、俺が姿を消してしまったことに驚き抜剣しながら周囲を警戒している。


(・・上級ジョブ持ちの割には、連携もイマイチで動きが素人だな)


 生き残るため仕方なく亡骸となった王国騎士達の隙間に入り込み、キツい臭いに耐えながら5人の立ち回りを分析し全員が戦いの素人だと改めて認識し、小さなチャンスを待つ。


 そんな5人は騎士の亡骸に触れられないようで、俺の場所を特定できずウロウロしていると突然5人が集まり同じ方向を見ている。


 その彼らの視線の先に俺もゆっくりと体を起こし視線を向けると、王国騎士団の本隊が土埃を派手に巻き上げながら近くの森に近付く光景が見えた。


(やっと来たか・・)


 王国側から数万の兵士が押し寄せる迫力に圧倒されたのか、自称勇者はここから早く逃げようと口にして急いで帝国側の斜面へと向かい降りようと無防備な背中を見せた隙に、俺は絶好のチャンスだと思い全力で飛び出し最後尾にいた黒髪少女の右腕を掴み強引に引き寄せることに成功する。


「きゃっ」 


「「 ミユキー!! 」」


 殺傷能力の無い風魔法ウインドショットを隣りにいた少女の背中に当てて牽制し、捕まえた少女と共に斜面を転がり落ちながら、捕まった少女の名前を叫ぶのを耳にしつつ彼女の鳩尾に掌底を叩き込み意識を刈り取ることに成功する。


 脱力し無抵抗になった彼女を肩に担ぎながら全力で坂を駆け下り森の茂みに飛び込んだ俺は、走った影響より1人の少女を捕まえたことにより心臓の鼓動が早くなっている。


「はぁ・・はぁ・・やっちまった・・捕虜ゲットだぜ! でも、山賊の人攫いだな」


 そんな人を担ぎ斜面を駆け降りる俺は、横目で本隊の騎士が駆け上がって行く姿を見るも誰も俺に興味が無く目先の頂しか見てないようだった。


 1人勝手に興奮し、衝動的に捕まえてしまった少女を落ち着いてから改めて見ると、この世界には数多く存在しない黒髪の容姿をしていることに素直に綺麗だなと思ってしまった・・・・。

ブクマ登録ありがとうございます。

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