誰かの視線
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「スミハ、出発の準備終わったよ」
あっという間に出発の朝を迎えなんとなく目が覚めた俺は、可愛く鼻息を鳴らし枕元で小さく丸まって寝ているネコ・・の無防備な姿であるシマチをソッと抱き上げ、ビヨンと脱力し伸びた全身を見て言葉にならない感情を抱きつつお腹に顔を埋めモフモフを堪能した後に、再びベッドへと戻すも起きた気配はなくそのままにして着替え終え部屋を出るとリビングに立つスミハと視線が重なり支度ができたことを伝えた。
「そうか、では行ってくるぞ二人とも」
「・・・・」
山小屋の外に出てからスミハが言っている意味がわからないでいると、いつもの寝巻きの格好をしているフェンリル娘とエルフ娘が気怠そうに手を振っている姿を見て、この時全員で旅に出るのではないことを知った。
「えぇ? その、2人は残るの?」
「そうだ、主よ・・この家を守る者が必要なのだ」
「・・・・そうなんだ。じゃぁ、元気で」
「主よ、留守は我に任せるがよい」
そう告げたフェンリル娘だったけど、見送りより眠たさを優先したようで山小屋へと戻って行くとエルフ娘も彼女の後を追い中へと入り、彼女らの見送りはあっけなく終わりを告げた。
「・・・・」
「カイよ、行くぞ」
「・・・・」
「カイ、もう行くにゃ」
「お、おぅ・・うん」
なんだかスッキリしない心をどうすればと考えていると、シマチに手を握られ優しく引っ張られた俺は足を動かしながらも視線は山小屋に向けていると、窓からヒョコッと覗くように顔を出したフェンリル娘と視線が重なり、彼女は何か言いたそうな銀色の瞳で見つめ俺を静かに見送ってくれたような気がした・・。
「カイ、ちゃんと前を向いて歩かないと危ないにゃ」
「・・ごめん、シマチ」
獣道を進み山を降りて俺達は街へと続く街道に辿り着き、一休みした後に整備された街道を歩いて街のある方へと進む。
「スミハ、このまま俺も街に入らないとダメか?」
「なんじゃ? 別にカイが街に来る必要性はないのじゃが、街に行くのが嫌なのか?」
「あのさ、俺って元騎士団にいたから・・その、街にいる騎士団に知り合いがいるとなると面倒なことが起きそうな気がして・・」
「うむ・・無駄にことを荒立てるのは避けたいのぉ・・では、ミユキはどうなのじゃ?」
「ん〜スミハさん、私もあんまり騎士団の人とは会いたくないかな」
街道を歩きながらスミハは何か考えた後に、先頭をフラフラと歩くシマチを呼び止めて告げる。
「ならば、シマチは街で馬車の手配を・・妾は旅に必要な買い出しをするとしよう。カイとミユキは街の外で待っておれ」
「スミハ、ありがとな」
俺の前を歩いていたスミハは隣りへと歩み寄ると、何かを求めるかのような上目遣いの表情で見つめているから、なんとなく頭を撫でるとフニャッと表情が変わり身体を静かに密着させ歩く。
そんな彼女と歩いていると背中に何かが繰り返し触れていることが気になり視線を向けた先には、鱗に覆われた尻尾がペチペチと当たっていた。
(・・これが、スミハの尻尾?)
スミハの頭を撫で終え役目を終えた右腕を彼女の腰に回すか、背中でブラブラとしばらく遊ばせておくかと悩んでいた右手をそっと動かし揺れる尻尾の動きに合わせながら触れてみるとひんやりと冷たい感触を味わうと同時にピクッと反応した直後にスミハが俺の腰に回していた腕がギュッと締め付け不意に息が漏れる。
「ゔっ・・」
「カイよ、まだ明るい時間なのじゃ・・それにハジメテが外はの?」
「????」
頬を紅潮させ涙目のスミハが言っている言葉が理解できずに息苦しい中で浅く早く呼吸を繰り返していると、さらに腕がキツく締め付けられ耳元で小さくバカと言われてしまい余計に訳が分からなくなると、シマチが笑いながら告げた。
「カイ、スミハちゃんがシッポで触れてきても、外で触れちゃダメなんだにゃ」
「ん? あぁ・・ごめん」
「・・よ、よいのじゃ」
謝ったことで締め付けられていたスミハの細い腕から力が抜け解放されたことで、呼吸を元に戻すことができ元に戻ることができた俺は、街道の端っこを街に向けて歩き続けた先に街の手前にある分岐路で立ち止まると先頭を歩いていたシマチが振り返った。
「カイ、スミハちゃんと2人で街に行くからミユキとこの先の道沿いで待ってて」
「わかったよ。適当に歩いたところで待ってるから」
「よろしくにゃ・・スミハちゃん・・行こう・・行くよ! ほらっ!!」
「い、嫌じゃ・・妾は、カイと・・」
俺にくっついていたスミハはシマチに腕を捕まれ街へと連れて行かれるのを必死に拒むも、力負けしてしまい引きづられながら俺に助けを求めながらシマチと共に遠く見えなくなって行くのを笑顔で見送る。
「行っちゃったね」
「行ったな・・俺たちも行こうか? ミユキ」
「うん」
街へと続く街道を眺めていた視線をもう一つの道である遠い先にある山へと続いているだろう道へと向けて歩き出そうとした瞬間に背後から何者かの視線を感じた俺は、足を止め振り返り歩いてきた街道へと素早く顔を向けた。
「・・・・」
「・・どうしたの?」
「・・・・いや、なんか見られてたような気がしたんだ」
「誰かに監視? されてるってこと?」
「ん〜監視されてるような悪意は感じなかったんだけどね」
「そう・・どうする?」
「気になるけど、少し様子見で行くよ」
「カイがそれでいいなら・・」
不意に誰かに見られていたような視線を感じた俺だったけど、その方向に視線を向けるも平野が続くこの辺りに身を隠す者が皆無な景色に人影はなく、ただ視線の先に見える遠くの見慣れた山を眺めた後に小さくため息をついてからミユキと街道から見えないような場所まで歩き進んだのだった・・・・。




