幕間 ミユキ
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「待って!!」
私の声は、あの人に届かなかった・・・・。
「逃げる? ミユキは逃げない方が、帝国に帰れるぞ? あのふざけた威力の爆発は、きっと知り合いの魔法士の子だろうし」
カイの言葉に私は返す言葉がすぐ見つからず、瞳を見つめたまま黙り込んで考える。
たしかにあの敵味方関係なく巻き込んでしまう爆裂魔法が綾子ちゃんが放った魔法だとわかる。このままみんなの所に帰りたい・・けど、帰れるのかな?今の私は敵国の王国の人達と一緒にいるから帝国兵に見つかる方が怖い・・今になっては、カイと一緒にいる方が充実していて楽しいと思う自分がいる。
そんなことを考えていると、馬に乗った騎士がカイの元へと近寄り何かを手渡し離れるとこっちへと急いで逃げるように馬を走らせる。
周囲が見えていなかった私にの視界に、野営の夜に何度か会話をした冒険者も同じ方向へと必死の表情で振り返ることなく駆け出していく光景が、まるで映画のワンシーンのように思えて自分も逃げなきゃという意識が生まれず動けない。
「キミも早く逃げるんだ!」
不意に大きな声を掛けれた私の目の前に、さっきカイに何かを手渡していた騎兵隊の騎士が視界を遮り手を差し出す姿が一瞬だけ王子様に見えたような・・。
「えっ?」
騎士さんは私を差し伸ばした片手で軽く持ち上げると、ヒョイっと自分の後ろに乗せ馬を一気に走らせ加速しスピードを上げていく・・その揺れに振り落とされそうになる私は、無我夢中で騎士に腕を回し抱き締め山を駆け抜けた。
その騎士の背中がとても大きく頼もしく見えてしまい高鳴る心に、冷静さを取り戻せと言わんばかりにカイのことが頭に浮かび振り向くも既に遅く、もうカイの姿を見ることはできず遠く離れて行く景色を見送るしかできなかった。
「・・・・すまないね。馬に乗るのは、初めてだったかい?」
「は、はい・・」
「とりあえず、ここまで来れば残った彼がなんとかしてくれるだろう」
残った彼がなんとかしてくれるだろう・・騎士が漏らした言葉に、私はカイが一人残ってしまった理由がわかってしまう。
「もしかして・・もしかしてカイさんは、置き去りに?」
「置き去り?」
私の置き去りという言葉に騎士は心外だと言わんばかりの表情で私を見て口を開く。
「・・・・彼を置き去りにしたのではないよ? 彼は、我々のために殿を受けてくれたんだ」
「し、しんがり?」
どこか遠い記憶にしんがりという言葉をクラスの男子が使って騒いでいたような気がするけど、それがどんな意味だったかを思い出すことはできない。
「そう、殿だ・・彼はたった1人で押し寄せて来る帝国兵の追撃を・・・・」
「ニードル!!」
騎士の言葉を遮るかのように背後から聞き覚えのある女性の声が聞こえ、ニードルと呼ばれた騎士がビクッと反応し歩かせていた馬を止めると、隣りに騎士団副団長アリアさんが並ぶ。
「アリア副団長・・」
「良い、そのままで・・」
騎士ニードルさんは馬から降りようとするも、私が乗っているため素早く降りれ図にいるとアリアさんはそのままでと告げる。
「すいません、副団長・・」
「そんなことより、ニードル・・合同討伐は失敗したわ・・このまま撤退する」
「し、失敗ですか?」
「そうよ・・想定外の、最悪の状況が現実となったわ」
「最悪・・どういうことですか?」
「417高地の戦いの時に流れた帝国の情報は覚えてる?」
「たしか、召喚者・・異世界人を目撃したと?」
「そうよ・・その召喚者が、あの場に現れたの・・その中に勇者と名乗る少年がいたと情報が報告されたの」
「そんな・・それでは、王国に勝ち目は?」
「わからないわ。きっと、王国側も何かしら対抗手段に出ると思うけど」
アリアさんとニードルさんの会話を近くで聞いていた私は、正体がバレてしまえば処刑されてしまうと思い無意識にカイの姿を探すも当然見当たらず、味方が誰もいない状況に手の震えが止まらない。
「はぁ、カイがいれば・・アイツは何処に行ったのよ。除隊の手続きも済んでいないのに」
「アリア副団長、その彼は・・・・」
「それ以上は言わないでニードル! わかっているの・・もう頭では理解しているの・・でもね、417高地の激戦で亡骸も形見さえ残らない大爆発に巻き込まれたからって報告を受けても、この瞳で見ない限り何処かで生きているって信じたい私がいるの」
視線を逸らし遠い空を見つめるアリアさんの表情は、とても寂しそうで本当にカイが生きていて欲しいんだと感じ取れた。その思いに、カイが生きていることを伝えようとした私の言葉は信じてもらえないだろうと思い伝えることを諦めた。
「すいません副団長・・・・あの、撤退とはどこまでですか?」
「細部は、私にもわからないわ。ジーニス・・団長に聞いてみないとね」
「わかりました」
「だから、ごめんね・・・・」
アリアさんは謝った後に視線を私へと向ける。
「・・えっと、ミ・・ミユ・・」
「ミユキです」
「そう、ミユキさん。冒険者の貴方は、この先の集合点からはギルドが準備した馬車に乗って戻ってちょうだいね?」
「は、はい」
目的の集合点までニードルさんに運んでもらい2人と別れた私はギルドカードを御者に見せた後は、案内されるがままに乗り込み、馬車がゆっくりと動き始め何処かへ向かっている途中にふと一緒に乗っている見知らぬ冒険者の顔を見回し、ポツンと私1人になっていることに気付いた途端に猛烈な孤独感に襲われ、逃げ出したくなった私は衝動的に馬車から飛び降りようと立ち上がったところで、左腕を強く掴まれてしまった。
「嬢ちゃん! どこ行く気だ!?」
「いや! 放して! カイのとこに行くの!」
見知らぬ男冒険者の手を振り解こうとして、必死に抵抗するも痛みが増すだけでどうにもならない。
「諦めな! 嬢ちゃん、もう手遅れだ・・彼の好意を無にしないで街に戻るんだ」
「そ、そんなこと! どうして・・ねぇ、どうしてよ!?」
私の手を掴んだままの男冒険者は、スッと背けるも握る手の力は緩めてくれない。
「すまないと思っている・・彼が嬢ちゃんのパーティーメンバーだってことを・・」
「だったら、だったら、なんで・・」
「冒険者なら仕方ないことなんだ・・」
「んぐぅ・・意味わかんないよ」
目の前の男冒険者のせいじゃないくらいはわかっているけど、胸の奥から湧き上がる感情を我慢できずぶつけてしまった・・・・そして、ただ私の想いを黙って受け止めてくれている男冒険者に時間が経った頃に冷静さを取り戻し頭を下げる。
「・・・・先程は、取り乱してすいませんでした」
「ガッハッハッ・・気にすることはない。嬢ちゃんの気持ちがわからんでもないからな? それよりも、これからはどうするんだ?」
「とりあえず・・その、ギルドに寄ってから決めたいと思います」
「そうか・・それが無難だ。今は辛いが、きっとこの先は良いことがあるぞ?」
「はい・・」
名も知らない男冒険者に励まされた私は、彼のパーティーメンバーに守られるように数日間の野営を無事に過ごすことができ、街へと辿り着くことができた。
「ミユキくん、ギルドから説明をちゃんと聞いてから今後のことを決めるんだぞ?」
「はい、ありがとうございました。オンジさん達もお気を付けて」
この街まで私の身を案じてくれたのはベテランのオンジさんはAランク冒険者で、リーサルシルバーのリーダーでもありメンバー全員が40歳超えであるも生涯現役が目標で、未だに前線で活躍しているようです。
街の通りでオンジさん達と別れた私はそのまま冒険者ギルドへと向かい、久しぶりに会う受付嬢スティーカさんがいる窓口に向かう途中に、彼女の視線が僅かに動き隣りを見たような気がして胸が苦しくなるけど足を止めることなく窓口のカウンターに辿り着いた。
「スティーカさん、戻りました」
「・・・・おかえりなさい」
「・・・・」
今思えば、初めて受付嬢スティーカさんに話しかけたような気がする私は、なぜか次の言葉が出せない。
「ミユキさん、貴方のギルドカードを出してください」
「は、はい・・」
スティーカさんは、私の隣りにいないカイのことを聞く素振りもなく合同討伐を終えた手続きをしてくれているようです。
「ミユキさん、お待たせしました。これが、今回の報酬です」
カウンターには、なぜか金貨4枚が置かれている。
「あの、金貨2枚では?」
「・・・・パーティー登録されていたので、報酬は金貨4枚で間違いないですよ」
「わかりました」
冒険者の報酬システムがよくわからない私は素直に報酬を手に取ると、金貨の重さがカイの命の重さに思えてしまい視界が滲む。
「ミユキさん、冒険者は常に死と隣り合わせです」
「・・・・」
「心苦しいお話しですが、カイさんとのパーティーを解除されますか?」
「いえ、もう少しだけ・・このままでお願いします」
「かしこまりました。ですが、登録解除は必ずお願いします。規則ですので・・・・」
スティーカさんの言葉を無視して自分のギルドカードを手にして窓口から逃げるように離れた私は、誰もいないギルドの壁際にある椅子に座りカードに刻まれているカイの名前に触れてから胸に抱き締め、ゆっくり俯いてから目を閉じて周囲に鳴き声を聞かれないよう必死に声を殺しながら泣いてしまいました。
前触れもなくカイと別れてしまった私は、捕虜だったのに捕虜じゃない普通の扱いをされたことを思い出し、成り行きで王国の冒険者となり旅を続けていたことを振り返り、楽しかった冒険者活動の充実した日々に戻りたいと願う・・でも、もうこの王国には頼れる人を失ってしまった・・・・。
「わたし、帰ろう・・みんなのところに」
そう決心した私は立ち上がり、ギルドで王国の地図を見て帝国の国境に近い街を目指すことを決め、手元にある資金で旅の支度を整え誰にも頼ることなく帝国へ帰るため冒険者ギルドを静かに旅立ったのでした。
まさか、あんな死ぬ思いをする旅になるようなことを知る由もなく・・・・。
カイと離れ、帝国へと帰ることを決めて旅立つまでの物語でした。
次回は、なんとか再会したカイとミユキの話に戻ります。




