幼馴染の上司に呼ばれ何か言いたいことがあるようです
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アリア副団長について行き食堂天幕に入ると、昼飯の食べれる時間が終わっているようで誰一人いない無人の食堂だった。
「カイ、あそこの奥の席で待っていなさい」
「はっ・・」
彼女から指示された6人用テーブルのイスの後ろに立ってから、十数分待ち続けていた頃に騎士団の幕僚達がやっと姿を現した。
「やっほーカイちゃん、久しぶりだね」
「はい、お久しぶりです。ルミナ補佐官様」
「様はいらないよ〜それに今は、魔法士団長だからね〜」
「失礼しました。ルミナ魔法士団長様、就任おめでとうございます」
「・・うん、ありがとう」
長い赤髪を一つに束ねポニーテールという髪型で俺のことを紅い瞳で見るルミナは、学園時代の魔法科専攻であり一つ学年が下であり彼女と実家が隣同士で幼い頃からの付き合いだ。
そんなルミナが幼少の頃は毎日後ろを付いてくる2人目の妹のような存在だったけど、今では雲の上の人の存在になってしまっている。
そのルミナ魔法士団長様の後ろから団長のジーニスそして副団長アリアが姿を見せ、なぜかたくさんの書類を手にしている期間限定の直属上司であるバビロンの姿があり、最後には珍しく大隊長の職に就いたばかりの女騎士シェリーとノーシスの2人が付いてきていたが、親交のあった2人も俺を見ることなく団長ジーニスの背後に立つ。
「カイ、座ってくれ」
「・・失礼します。ジーニス騎士団長」
幼馴染みや知り合いの子達に囲まれるも明確な上下関係が確立しているため、ただの一般兵の俺から言葉を発することは許されていない。
長テーブルを挟み団長と副団長そして魔法士団長とバビロンと向き合う俺は、一度だけ4人の顔を見た後に最上位者であるジーニスに視線を向けて言葉を待つも、モフモフタイムを途中で終わらされたことが不満で早く天幕に戻りシマチと戯れたいことばかり考えていた。
「あのな・・カイ、実は・・・・」
「同意します。もうそれでお願いします。では・・」
騎士団長ジーニスが伝えづらそうな口調に俺は内容を最後まで聞くことなく同意すると伝え話が終わったと思い席を立つと、驚き目を開く幼馴染の顔とバビロンだけが笑う両極端な反応に一瞬動きを止めてしまう。
「カイ! 最後まで話しを聞いて!」
我に返っただろう副団長アリアが、また俺を怒鳴りつけながら睨みながらジーニスに続きを伝えるよう促す。
「カイ、じつはな・・お前を次の任務後に騎士団から追放・・じゃなくて除隊してもらう。もちろん、強制的に」
「なっ・・・・」
突然の幼馴染からのクビ宣告に言葉を失う俺は、その理由を聞くことすらできず中腰の姿勢のまま足の力が抜けドサッと椅子に座るも、正面の4人の顔を見ることができずテーブルに視線を落としたままになった。
「・・話は、以上だ」
そう告げたジーニス団長は席を立ち去って行くと続いてアリア達も何も言わず立ち去って行き1人になったと思っていた俺に残っていた2人の気配が歩み寄って来た。
ジーニスの話しを後ろで聞いていたシェリーとノーシスは左右から俺を挟み顔を耳元に近づけ同時に言葉を吐き捨てられた。
「「 ざまぁ 」」
「くっ・・」
学園時代に突然非公式に見込み騎士に任命され予備隊に所属した俺は、1学年生から周囲の学生や幼馴染達にも知られないよう活動し、何年もの間に繰り返されてきた帝国との戦闘で、騎士団の部隊が壊滅を避けるために使い捨ての殿となり死闘を制し敗走する騎士達の命を守ってきた。その立場は正式に騎士となっても立場は改善されず、ただ周囲から蔑まれ孤独に若い帝国兵を始末してきた俺の苦しみを知ろうともせず、たった一言で幼馴染がこうも簡単に切り捨てるなんて・・・・。
騎士養成学園入学式以来、何年も流していなかった涙が頬を伝わりテーブルにポタポタと落とす泣き顔を見るシェリーがテーブルに数枚の硬貨を置く。
「今回の殿の手当・・銅貨5枚だって。前線で活躍できないあんたには、多すぎる報酬かも・・まぁ、次の殿も頑張ってね」
ノーシスは何か知っているような口ぶりでも、俺はただ声を殺し泣いているばかりで立ち去る2人の姿を最後まで見ることなく食堂で1人泣き、なんとか落ち着くことが出来た俺は自分の天幕に戻るも寝袋に癒してくれるシマチの姿は見当たらず1人静かな時間を過ごした。
あれから誰にも会うことなく3日間が過ぎ戦力回復という休暇が終わった俺に新たな命令が出るも、出発まで10日間あり駐屯する街で必要な物を購入するついでに愛する野良猫シマチを探すも一度も姿を見つける事ができず、癒されないまま俺は最後の戦地となる国境を跨ぐ417高地を占領するという激戦が予想される場所へ出発したのだった・・・・
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