彼に彼女を救おうと誘われ断り帰ろうとしたけど、彼は帰してくれないようです
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サーシャの弓矢を回避した勇者クンは、少し遠くに離れた位置に移動し音もなく襲う矢を警戒しているようで、俺を見ることはなかった。
そのタイミングで脅威が下がり俺はゆっくりと立ち上がり態勢を立て直した俺は、サーシャに謝るように手を合わせると、フンッと言わんばかりに腕組みをして顔を逸らされてしまった。
「カイ、お前・・今まで何をしていた?」
ジーニスの声が聞こえ顔を向けると、未だに俺が生きているのが信じられないのか亡霊を見ているような顔色が悪いままだ。
「何してたって? 生きていたぜ? あの日からずっと・・」
「なんだよそれ・・お前は、あの場所でもう・・・・多くの騎士が一瞬で犠牲になった戦場だ。それに、お前の認識票だってあの場所で回収されたんだぞ?」
「ジーニス。認識票の回収は、遺体の損傷が激しい場合だけだろ? 俺は、ただあの戦場に落としただけだ」
「なら、ただ失くしただけなのか?」
「結果的にはそうなるかな〜」
ジーニスは俺の回答に納得してないような反応だ。
「なぜ、騎士団に戻ってこなかった?」
「騎士団に? 俺がか?」
「そうだ・・」
「まぁ、連れがいたからな・・それに、冒険者も楽しかった」
「冒険者?」
「あぁ、日銭稼ぎの冒険者だよ」
まるでなんで死んでなかったんだと言いたそうなジーニスに、胸元にしまっている冒険者として身分証となるギルドカードを見せてから胸元に戻す。
「本当にお前が、冒険者に・・・・だが、騎士団に戻れば給金があるじゃないか」
「お前、忘れたのか? 自分があの時あの食堂で俺に言い放った言葉を・・忘れたとは言わせないぞ?」
俺から視線を逸らしたジーニスは、本当に憶えてないのか必死に思い出そうとしている反応にため息が出そうだ。部下であっても幼馴染のことさえ、他の騎士達と同列の存在だったとは。
ジーニスが黙り込む中でアイツとの話しは終わったなと感じた俺は、静かに敵意を向けている勇者クン達へと警戒すると、視界の端に捕えられたアリアが俺の方をジッと見ているような気がした。
「カイ! 本当に生きててくれた・・あの森で私に認識票を投げたのは、やっぱりカイだったのね」
「認識票を・・」
そういえば別れの挨拶の手土産として、自分の認識票をアリアに投げていたなと思いだしコクリと頷くと、なぜかアリアの瞳から涙の粒がこぼれ落ちる。
「はぁ・・なんだかよくわからないけど、3人の痴情のもつれは死後の世界で続きをお願いできますか?」
会話の中で俺達3人の関係を悟ったらしい勇者クンは、気怠そうに言葉を吐き捨てながら頭を掻いている。
「いや、その気遣いは無用だよ勇者クン。俺は裏切られ既に捨てられた男だからな」
「「 カイ!! 」」
「違うの!」
なぜかジーニスとアリアが同時に俺の名前を呼び、アリアは何か否定する言動を口にするも続く言葉は発していない。
「なんだ・・あんたは、間男側だったんだ」
勇者クンの黒い瞳は、俺を哀れな感情で見ている。
「あはは・・結果的にそうなるかな? もう俺の心が砕け散りそうだから、過去の話はやめて今の続きをしないか?」
「そうですね・・僕も早く国から頼まれた事を達成したいし」
「そうかい? 勇者クン、初めて意見があったね?」
「ははっ・・最初で最後だよ? 絶対に」
十分に時間稼ぎが成功し消耗した体力が自然回復できた俺は、もう一踏ん張り勇者クン達と戦う気持ちへと切り替えたところで、ジーニスは都合の良い事を口にした。
「カイ! 俺と共にアリアを救い出すんだ!」
「・・なんだって?」
「聞こえなかったのか!? アリアを帝国から一緒に助けるんだ!」
「俺がジーニスに協力してアリアを助ける? どうして、そうなるんだ?」
「な、何を言っている・・アリアが帝国に捕まっているんだぞ?」
「俺は、冒険者だ。王国騎士が敵国の捕虜になったら、王国騎士団が救い出すんだろ? 冒険者の俺には、関係の無い話しだ」
「「 ・・・・ 」」
俺の反応が予想外なのかアリアは口を開けたまま固まり、ジーニスの表情は過去に一度も見た事もない程の怒りに満ちたことに、俺の心の奥深い場所から湧き上がる気持ちに少し満足し汚い笑みが溢れそうになるのを必死に隠すため、見捨てるような感じで背を向けシマチ達がいる方へと歩く。
(ククッ・・が、我慢しないと)
「待てよ、カイ!! アリアが目の前で危険な状況なんだぞ!? それを見放して、自分だけ逃げるのか? それでもお前は、アリアの・・・・アリアの男だっただろ!?」
背後から遠慮なく投げかけてくるジーニスの言葉に笑いを必死に堪えていた感情が一気に冷めていくのを感じながら、動かしていた足を止めてゆっくりと振り返る。
「ジーニス、俺がアリアの男? いったい、いつの話しを持ち出しているんだ? とっくにもうアリアには・・・・」
もうすでにルミナからジーニスとアリアの関係を聞かされている俺は、2人の関係を知っているぞと告げようとするも、吐き出そうとした言葉が喉に詰まって上手く吐き出せなくなり、一呼吸置いてから詰まっていた言葉を吐き出した。
「知っているさ。ジーニスとアリアが恋人同士以上の関係になっていること・・そうですよね? アリア副団長様?」
「・・・・・」
俺の問いかけにアリアの大きな瞳は、さらに大きく開かれ瞳が揺れているのが離れた場所でもわかる。無言は肯定だと決めつけ納得した俺は、視線をアリアからジーニスへと向ける。
「ジーニス、お前の女はどうやら認めてくれたぞ? もう、お前も男だから認めたらどうだ? 騎士学園時代に俺から別れるようアリアの心を揺さぶり自分の方へ誘導させ手に入れたんだ・・・・中庭でアリアに一方的に告げられたあの日の事は、今も鮮明に忘れられず憶えているほど俺を追い込んだんだ」
「ジーニス! あなた・・それは本当の・・・・」
「黙れ黙れ! カイ、俺はこの国の未来を背負うために生まれた男だ! たかが家の身分・・いや、親の都合で愛する人が何も取り柄の無い幼馴染の男に嫁ぐ未来なぞ、到底受け入れられない!」
「おいおい、そこまで暴露しろって言ってないぞ?」
王国騎士団団長ジーニスの沈着冷静である男という評価が一気にここで崩れ去ったような程の豹変ぶりを、今ここにいない部下達にも見せてやりたかったなと思いつつ、俺は冷静さを失ったジーニスとこれ以上やり合う価値は無いと決め離れる。
「逃げるのか!? 敵前逃亡は、死罪だ!」
「俺は騎士じゃない! 冒険者だジーニス!」
ジーニス達から離れ斬り倒し地面に転がる帝国兵の屍を越えた先にいるシマチ達の場所へと戻ると、さっきまでの会話を聞かれていたようで4人娘は優しく俺を受け入れてくれた。
「カイ、帰るにゃ」
「あぁ、帰ろうシマチ」
もうジーニスとアリアの顔なんて見たくなかった俺は、シマチ達とあの家に帰ろうと何事もなかったかのように歩き出すも、勇者クンはどうやら見逃してくれないらしく行く手を阻むかのように立っていたのだった・・・・。
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