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戦いの後の癒しは、モフモフしかない

アクセスありがとうございます。

偶然この作品を読んでくれた読者様に感謝です。


「おい! もういい加減死ね・・死んでくれ!」


「はぁ・・はぁ・・」


 目の前で満身創痍の帝国兵が汗だくになり肩で息をしながら、敵兵の俺に向かって死ねと懇願してくるけど乱れた呼吸を整えている最中に返事を返す余力は俺には残っていない。


 思惑通り帝国兵に囲まれ時間を浪費させるため俺は退却して行く騎士達の命を守る殿として、細い山道の中央に立ち追撃する帝国兵を待ち構えていた・・いや、また置いて行かれたのが正しい表現だろう。



「多勢に無勢だ・・押し切れ」


 帝国兵にも王国騎士団に似た騎士道という立派な教えがあるようで、たった1人の俺に律儀に1人ずつ戦いを挑んでは散ってくれるおかげで25連勝中なのだが、もう腕はパンパンで一振りする気力すら実は残っておらず虚勢を張り詰んだ状態で弱みを敵に見せないのが俺の矜持だ。


「・・たった1人の王国騎士を集団で襲う帝国兵士は下衆な山賊野郎と一緒だ!」


「黙れ!」


 対峙していた指揮官らしき帝国兵の号令で、背後で構えていた兵士達が指揮官の横をすり抜け俺に迫って来る。もう対抗する腕力が残っていない俺は、このまま確実に斬り殺され魔物の餌になる未来から生きて家に帰り、あのモフモフを堪能し癒される未来へと書き換えるため刃こぼれし重く使い難い国から貸与された粗悪品の両手剣を投げ捨て、背中に背負う愛剣を素早く抜刀し刀身に魔力を纏わせ横一線に薙ぎ払う。


 日頃の木剣の素振りと大差無い感覚で愛剣を薙ぎ払うと、突っ込んで来た帝国兵達は突風に巻き込まれ腰から胴体がズバッと斬り裂かれつつも、動かしていた足は止まらず雪崩れ込むように次々に倒れ地面を赤く染めて静かになった。


 俺の一振りで負けると思っていなかっただろう指揮官の兵士は、目の前で部下が秒で全滅した光景に全身を震わせ俺を見下していた瞳から、畏怖を抱く瞳へと変わり尻餅をつき大事な武器を手放し腰抜け野郎と成り下がった。


 そんな弱者へと落ちた帝国兵に俺はゆっくりと歩み寄り、いつもの様に声を掛ける。


「名前は?」


「・・・・クリフ・・クリフ=シャーダンテ」


「家名付き・・帝国貴族の坊っちゃんか?」


「そ、そうだ・・」


「ちなみに爵位は?」


「男爵・・シャーダンテ男爵」


「下っ端貴族か? 興味無いな」


 クリフという貴族坊っちゃんの所持品を全て取り上げた俺は無抵抗な命まで奪うことなく帝国へ帰るよう脅し、彼を下着姿のまま山道を走らせその小さくなっていく背中を見送り呟いた。


「そうそう、素直が1番だよ・・・・さてと」


 周りで死に絶えた帝国兵の亡骸をどう弔うか考えるも、1人ではどうにもならないと判断し王国騎士流の敬礼をしてから立ち去り、出発した最寄りの宿営している街へと歩き戻ったのだった・・・・。



「カイ・・お前、今回も生きて帰って来たのか?」


 満身創痍で帰って来た俺を出迎えて激励の言葉を優しくかけてくれたのは、幼馴染であり騎士団の指揮官であるジーニス騎士団長様だ。


「はっ・・バビロン小隊長の命により? 殿の任を完遂しこの地に帰投しました」


 いくら幼馴染とは言え、相手は騎士団長様だから金髪碧眼で男前のジーニスを俺は直視できない立場のため、彼の汚れ1つ無い靴に視線を固定する。


「・・わかった。3日間の戦力回復と殿手当を後ほど支給する」


「ありがとうございます」


「以上だ・・」


 この言葉を聞いてやっと解放される俺は、ゆっくり立ち上がり最後までジーニスと視線を重ねることなく踵を返し騎士団作戦室から出てドアを閉めた後に微かに聞こえる団長と副団長の会話を耳にするも気にすることなく立ち去り、与えられた個人用天幕へと戻った。


「はぁ〜疲れたぁ〜」


 騎士用の軽装を取り外しラフな格好になる俺は、寝心地が悪い簡易ベッドに倒れ込み疲れとやる気を吐き出しながら休みとなった3日間をどう過ごすか考えていると、背中に小さな四つ足の生き物が乗る重みを感じた。


「にゃっ」


 愛嬌のある鳴き声に俺の疲弊した心は秒で癒やされ、そのまま寝返りたい気持ちを抑えゆっくり背中を歩き枕元まで来る四つ足の感触を堪能していると、右頬に髭の感触とクンクン匂いを嗅いでいる小さな息遣いに我慢出来なくなり両手でその癒しを抱き上げた。


「くすぐったいだろ〜?」


「にゃにゃっ」


 おかえりと言っているように鳴いてくれる黒色と茶色毛が交互に縦縞模様のキジトラと呼ばれるネコが緑色の瞳で俺を見つめる仕草に頬ずりをしても嫌がらず受け入れてくれた。


 このネコはこの街に辿り着いた日の夜に俺の寝床へ潜り込んでから、毎晩のように現れて一緒に寝ていたせいか懐いてしまい溺愛する俺は勝手にシマチと名付けた。


「シマチ、メシ食ったか?」


 人間の言葉がわかるのか鼻先をペロッと舐める仕草がまだ食べていない合図だとわかり、通りの出店で買っていた肉串をマジックポーチから取り出し食べさせていると、あまりの可愛さに俺が食べようと思っていた肉串も食べさせてしまった。


 腹を満たされたシマチはご機嫌となりゴロンと無防備なお腹を見せ小さく鳴き、俺はモフモフタイムのお許しを頂き癒しの境地へと向かっている幸せな時間を邪魔する輩がやってきた。


 バンバン・・


 何も言わず天幕を乱暴に叩き男の声が聞こえる。


「飯の時間だ・・」


 今日の当直騎士だろう若い騎士は偉そうに告げると、俺の返事を聞くことなく足早に立ち去って行く。


「・・確か、俺の方が上位者なんだけどな」


 そんなことよりも瞳を閉じて喉元をゴロゴロ鳴らし身を委ねてくれる小さな天使に夢中の俺は、不味い飯の時間なんて無視してモフモフを堪能していると、再び幸福な時間を邪魔しに来る足音が近付いていることに俺はシマチを寝袋に隠し簡易ベッドに腰掛け近寄る存在を待ち構えていると、声掛けもなく幕が乱暴に捲られた。


 バサッ


「カイ! いるなら早く食堂に来なさい!」


 いきなり怒鳴り込んで怒っているのは、女騎士アリアだった。彼女もジーニスと同じ幼馴染で王国騎士養成学園の同期生であるも、俺とは違いエリート組で今では副団長に就いている。


 そんな彼女と恋仲関係であったものの昔の話で、今は団長ジーニス様と恋仲との噂と婚約間近という話を最近になって後輩から聞いた。


 まぁ、彼女とは手を繋ぐ以上の進展は無く捨てられた俺には関係が無い話だな。


「・・アリア、食べる食べないは俺の自由だろ?」


「部下の管理は上官の義務よ・・いいから来なさい」


「上官ね・・今の直属の上官は仮でもバビロンだけどな? この派兵期間限定の」


「うるさい! 行くわよ!」


「おわっ・・」


 不意に左腕を掴まれ強引に天幕から引っ張り出された俺は、彼女と間近で目が合うとパッと手を離され勢いを殺すことが出来ないまま地面に倒れるように両膝を強めに着いた。


「ごめっ・・」


 背後から微かに謝罪のようなアリアの声が聞こえたような気がするも途中で消え去り、普段通りの口調になる。


「早く立ちなさい!」


「申し訳ございません、副団長様」


 アリア副団長の機嫌をこれ以上損ねないよう素早く立ち上がりつつ振り返り、深く頭を下げ謝罪する・・天幕から出ると周囲の騎士達の視線があり余計なトラブルを避けるための最善策だ。


 それまでの俺は、スピード出世し上への階段を駆け上がって行く幼馴染達に場所を選ばず親しく接していたことが原因で、周囲の騎士から嫌がらせを受けたことで学んだのだ。


「い、行くわよ」


「はっ・・」


 上官に対し行う敬礼をした俺は、視線を合わせないアリア副団長の2歩後ろの位置につき食堂天幕へと向かったのだった・・・・。


引き続きお付き合いをお願いします。

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