婚約破棄?絶対にごめんなんですが?
「エステファニア・ランカスター!貴女とギルベルト・ゴドウィンの婚約を破棄する!」
「……は?」
王立学園の卒業パーティーの真っ最中、大階段の真ん中に数人の生徒が立っていた。
真ん中にはか弱そうな女生徒が、周りの男子生徒に囲われるように立っていた。
突然の宣言に、皆驚いた様子で顔を見合わせていた。せっかくダンスをしていたというのに、馬鹿な宣言のせいで楽団員達の手もとまってしまっていた。
「一体、どういうことでしょうか」
名指しされたエステファニア・ランカスター、この国の第一王女は持っていたグラスを近くの者に渡し凛とした姿で彼等の方を向いた。
隣にいた僕も、否応なくそちらを向いた。
「ふんっ、しらばっくれるおつもりか」
「此方には証拠もあるというのに…」
やれやれ、とでも言いたげに肩をすくめるキャメロン、もとい宰相息子。その隣に立っている太々しい男がグレイディ、もとい騎士団長息子。
そのほかに、司祭の息子に大臣の息子。あーあとは…覚えてない男子生徒達だ。
「しらばっくれる、とは?わたくしは何のことだかわからないと申しているのです」
「このデイヴィス男爵令嬢に執拗に嫌がらせをしたことだ!」
ほぅ。あの女生徒男爵令嬢だったのか。
それより、第一王女が男爵令嬢如きに嫌がらせ?そんなことしている暇は王女様にあるわけないだろうに…。
きっと周りの生徒達もそう思ったのか、ざわざわと会場には動揺が走っていた。
「嫌がらせ…。わたくし、そんなことするほど暇ではありませんわ」
にっこり、とでも効果音がつきそうなほど綺麗に王女は笑った。綺麗すぎてつい、見惚れてしまうほどだ。…おっといけない。まだ話の最中だった。
頭を軽く振り、怒り心頭、と言ったところの彼らの顔を見る。グレイディは顔を真っ赤にして怒っていた。
「黙れ!大方ギルベルト様との仲に腹を立ててのことだろう!このシエラこそが王妃に相応しい!!」
「そうだ!貴様のような悪女、国母になどふさわしくない!」
へー、あの男爵令嬢シエラって名前なのか。興味ないからどうでもいいが…。
彼らを見るとみんなうんうん、と頷いていた。頭が悪いらしい。
「ギル様は常々おっしゃっておりました…。エステファニアみたいな冷たい女はつまらないと!だから、わたしといると心が安らぐと…!」
ようやく口を開いた男爵令嬢に、顎が外れそうなほど口を開けてしまった。
はしたない、と横腹を突かれてしまった。
つ、つめたい?つまらない?はぁ????
たしかに、第一王女は常に凛としていて周りから氷の王女、なんて呼ばれてはいるがそれは彼女と関わったことのない者達だけ。
彼女と少しでも親しくなった者達なら決してそんなことは言わない。
「だから…わたしが王妃となってギル様を支えてあげたいのです!」
まるで神に祈るかのように胸の前で手を強く握りしめる男爵令嬢。それを見てすばらしいっ、と感極まるキャメロン。
はぁ、と額に手を当てため息をつく王女。
まぁこれだけ頭の悪いやつらがいたらそりゃあ、ため息の一つや二つつきたくもなるよな。
「貴女が、王妃になることはありません」
「な!この期に及んでまだ!」
「あなた方、本当に学園に通っていたのですか?」
遠回しに、お前ら学園に通ってない子供レベルの頭脳だぞ、と言われ顔を真っ赤にして怒る彼ら。
「ならばここで貴様の悪事を公表させてもらう!」
グレイディが叫ぶと、キャメロンが大臣の息子ダリルから紙の束を受け取った。
「まずは、彼女からの挨拶を無視。その次に陰口に嫌がらせ。そしてサロンへの招待を拒否!貴女のせいでシエラは学園で友人一つできなかったのだ!」
ギリギリと紙束を握りしめるキャメロン。
隣で男爵令嬢はうるうると瞳を潤ませ、こちらを見つめていた。
とうとう我慢ならなくなった、グレイディはキャメロンから紙束を奪い取り床に叩きつけた。
「兎にも角にも!貴様とギルベルト様の婚約は破棄する!」
そう叫ぶと、司祭の息子クリスが前に出てきてニッコリと笑った。
僕は少しその場を離れて護衛騎士の隣へ行った。
「ちょっと借りるね」
「神の元にこの婚約をはk、……ひぃっ!!」
クリスが立っていたところには、槍が突き刺さっていた。
会場には水を打ったような静けさを取り戻していた。
周りのもの達は、声も出ない、と言ったように僕を見た。
なぜかって?槍を投げたのが僕だからだよ。
「ありがとね。槍投げちゃってごめんね」
「め、めっそうもございません!」
手をパンパン、と叩きながら先ほど立っていた場所まで戻ってきた。
流石の王女様も驚きの表情を隠せないようだ。
「いい加減、この茶番もうんざりしてきてさぁ」
「な、ちゃ茶番だなんて!ひどいですギル様!」
「君に愛称で呼ばれる筋合いはないんだけど。だって、君と話したことがあるのなんて一回だけだろう?」
すると、それを知らなかったのか彼女を囲っていた彼らは慌てて彼女の顔を見た。
「しかも、それだっていきなり僕にぶつかってきての謝罪だけだよね?それなのに、爵位が上の僕の愛称勝手に呼ぶって、どういう事」
流石に雲行きが悪いと思ったのだろう、キャメロンが慌てた様子でこちらを向いた。
「ギルベルト様、すこし彼女の方で勘違いがあったようです」
「勘違い?へぇ、この茶番を勘違いで済ませられると思ってるの?」
「そ、それは…!」
「そもそも、なんで彼女が王妃になんかなるわけ?この国の制度わかってる?」
「く、国を治めるのは男で、王になられるギル様でしょう!」
だから、私が王妃に…、なんてまだほざく男爵令嬢。
男だから王になる?そんなの何百年前の話だよ…。
この国は男だろうが女だろうが、第一子が第一継承者となる。これはもう300年も昔から続いている。はるか昔に、継承は王子だけ、としたときに下位令嬢に入れ込んだ王子が続出し、このままではいけない、と継承権を王女にも持つことを決めたのである。
今の女王、つまりエステファニアの母君なんだが…。それをわかっていないのかこいつら?
「僕はエステファニアに婿入りするんだ。王にはならないよ。国を治めるのは彼女だ」
「っな、そんな…」
「あぁ。男爵令嬢、父上は隣国出身だったね?だからそういう思考になったのかな」
近隣の国では、いまだに継承権は王子だけというところは少なくはない。ここ数年で、減りつつはあるものの、男が継ぐ、という思考はまだ根強く残っているのだ。
「まぁ、僕は地位などに興味はないよ。」
「ならば!私と一緒になりましょう!そんな氷のような女!捨ててしまいましょう」
「はぁ?まだ話の途中なんだけど、まぁいいや。地位には興味はないけど、僕はエステファニアを心から愛しているんだよ」
隣に立っている彼女を見ると、少し恥ずかしそうに扇で顔を隠しているものの、耳は真っ赤だ。そんなところも可愛らしくて、髪を一房とり口付けた。
「っ、ギル…!」
「睨みつけてもかわいいだけだよ、僕の可愛いステフ」
このまま抱きしめて会場を去りたい気持ちを、どうにか押し込めて正面に向き直した。
男爵令嬢は信じられないものを見るような真っ青な顔で、こちらを見ていた。
「そ、そんなわけない…だって…ギルベルトルートだと二人の中は冷め切ってて…!」
「とにかく、僕とステフの仲を裂こうだなんて、許されるわけないよね?」
パチン、と指を鳴らすと控えていた護衛騎士達が彼等を取り押さえた。
会場の壁際には彼等の両親が真っ青な顔をして立っていた。デイヴィス男爵なんて血の気が引きすぎて土のような顔色だ。
「そんな、こんなの何かの間違いだ!ギルベルト様!」
「そうです!もっと公平な判断を!」
「いやいや、何言ってんの君達?王族であるステフを貴女呼ばわりした時点で君たちは不敬罪なんだよ」
はっ、としたような顔をしたふたりはそのまま黙り込んでしまった。
もともとはとても優秀なもの達ばかりだったというのに…。とても残念だ。
騎士に連れて行かれたのを確認し、ステフは周りを見渡した。
「せっかくのパーティーに、水をさしてしまって申し訳ありませんわ。引き続きお楽しみくださいな」
見事な礼をすると僕の腕を取り、二人して会場を後にした。
向かったのは王室専用の休憩室。ドアの外に護衛騎士がいるだけの、二人の空間だ。
僕がソファーに座ると、ステフはその隣に座った。
「……シエラさんが言っていたこと、ほんとですの…」
「え?」
「その、わたくしが…」
綺麗なドレスを握りしめ、悲しそうな顔をしているステフ。ぅゔっ、そんな顔も可愛い!
つい抱きしめてキスをしまくりたくなるのを我慢し、そっとステフの手の上に手を重ねた。
「言っただろう?彼女とは話をしたことがないって」
「そ、そうですけれど」
「けれど?毎日愛を囁いてる僕が信じられない?」
「そういうわけではっ、」
重なっていた手をとり、手の甲にキスを落とす。少しずつ、上にずれていきながらさいごには頸に…。
「ぎ、ぎるっ」
「僕が愛しているのはステフだけさ…。一生ね?」
顔を真っ赤にして、涙目で僕を睨みつけるステフ。可愛くてこのまま押し倒してしまいたくなる。でも手を出すのはまだダメだって言われてるんだよなぁ…。娘を猫っ可愛がりしている女王陛下に…。
「ゎ、わたくしもギルを愛しています…」
尻すぼみになりながらも可愛らしく愛を伝えてくれた彼女に、これでもかというくらい抱きしめた。
そして少したって、二人は結婚し国は豊かになり、歴史に残る幸せ夫婦になりましたとさ。めでたしめでたし。
はじめての投稿作品でした!
いかがでしたでしょうか?
今までなろう系は読むだけでしたので、設定や回収できてないところがたたありますね…。
もしよかったから感想などいただけたら幸いです!
読んでいただき、本当にありがとうございました!