機械好み
【仕事はこれより機械に奪われる】
そんなお仕事が溢れかえっているはずだ。人間なんかよりも機械にやらせた方が捗るものが多いはずだ。そうやって人間が訴え続けている。
◇ ◇
極寒の国、ロシア。
「機械に頼るのは構わないが、驕らぬことだ」
現在、-20度の環境の中。上半身裸で逆立ちをしながら山を登っていく男が1人。地球の人間の中にあって、最強との呼び声が高い金髪の筋骨隆々の男。
ダーリヤ・レジリフト=アッガイマン。
「人間は常に進歩せねばならんのだ」
山の天候は激しく変わり、身を削るような拷問。それでも逆立ちしたまま、険しい山を登っていく。厳しい環境にも適応するための特訓の1つらしい。その適応は人間だけでなく生物が必ず持っているモノだ。
逆立ちを続けたまま、5時間。山を登り続けてついに頂上に達する。
「ふーーーっ」
そこから3分休憩し。息を整えてから、ゴロンとでんぐり返しをしながら斜面へ体を預ける。
悪天候で削れた岩が落ち、下へ落ちていくように。ダーリヤもそのまま山の下へ、衝撃を吸収することもなく転がっていく。この程度の事では傷すらもつけられんだろうという証の特訓だ。
丁度、ここから地上まで転がると、ダーリヤが午後に出会う予定だった人物のいる場所まで一直線。
「非科学的じゃわいなぁ~。ダーリヤ。それ故、最強の超人とはこれいかに」
ドゴオオオォォォォッ
「……研究所を破壊して来るんじゃない!!ダーリヤ!!」
「軟いぞ、この壁。これで大丈夫なのか?核シェルター並じゃないか?」
「お主が異常なんじゃわい!!儂、今回は正常!!核シェルター舐めんな!!」
ロシアの研究者、フレッシュマン博士はダーリヤの恐るべき超人ぶりに、科学のなんたるかを全て否定されそうで戦々恐々としていた。
無傷で特訓を終えるなんて、ホントはサボってるんじゃねぇの?って思いたいが、身体についている土の付き具合でホントにやってのけているのが確かめられる。
「話は聞いておる。しかし、お主にしては珍しい注文じゃな。科学とか好きじゃないじゃろ」
「本心はだ。それが人類の進化で必要であれば、好きも嫌いも関係なかろう」
「うむ。お主が儂に付き合う理由と同じじゃな。で、何十万人を殺していいんじゃ?」
「特に設けてないが、20万……30万でも構わん。ただの見せしめだ」
「おお~~……怖っ。そんなに軟弱な人間が嫌いかね」
「人間とは素晴らしいぞ」
科学の発展というのは素晴らしい。だからこそ、科学でも未だに解明しきれていない人間も凄いものだ。それを考えない人間を抹殺しようとする。超人であるダーリヤはおいといて、人間と科学のコストの話を持ち掛けた。
「……耳の痛い話をするが、フレッシュマン博士。研究のコスト、下げてもいいか?」
「!!ちょ、いきなり何を言い出すんじゃ!」
「新技術の開発費はもちろん、開発された技術を維持することにも出費がかかる。造ればそのままと思う輩も多いけれど、使わずにいるだけでコストが掛かるのが兵器といったものだ。使うために戦争をしたいものだなぁ~。私、軍総指令だから。小国をうっかりと侵略しようかな。○方○○とか行こうか」
「止めろバカ!!」
「冗談だ。今のはな。コストの話も冗談だ」
立場考えたら、冗談ではすまない。しかし、フレッシュマン博士は焦り気味で
「だいたい、お主。核兵器並の拳を繰り出すんじゃから、兵器とかいらんじゃろ!!」
「だから、冗談だと言ったろ」
「ホントじゃな!?まったく……。儂は日本が好きなんじゃ。漫画とかアニメとか……」
ビビッてしまったが。人類の発展に科学は色んな意味で貢献しているだろう。
だからこそ、ちょっとした事ではあるが。
「朝に目覚め、パン1個、水を少々。歯を磨き、顔を洗い。そして、機械とは違った柔軟さで仕事をしたり学ぶことができる人間なのだ。機械に存在を奪われるなど、それに恐れた奴やそうでしかない人間など要らんし。機械が最も得意としているのは、人を殺すための戦争と決まっている」
「……簡単に人は科学に敗れないというわけか。人間のコストも高いが、機械のコストもまた別じゃからなー。色んな問題があろう。注文の兵器ならもうできておるよ」
◇ ◇
とある街の上空に小型ドローンが3台飛行。
「消せ」
上空から人間を撮影し、国のデータバンクに照合。
照合結果の後、ターゲットとして認識されると。
パァンッ
ドローンから正確無比の狙撃で頭上から身体を弾丸で貫かれ、死亡。
ドローンなどを用いた管理社会。その初期段階のような実験だった。それも実践的なもの。
「働きもせず、希望のない人間で兵器の精度を試せ」
「人間を照合する精度も上げねばならないぞ。無能は撃ってよし」
「良かったね。機械に命まで奪ってもらって」
役に立たねば、死ぬ。
その後。
国に逆らえば、殺す。
誰でも未来のため、犠牲になれる可能性があるんだから。