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その二

 ファンファーナたちが店に戻ると、扉を開けた瞬間、アランの怒声が耳に飛び込んできた。


「こんのっ、クソ鳥めっ。今日という今日は、焼き鳥にして食ってやるっ」


 ピィィィィーッという愛らしい鳥の鳴き声が、怒り狂うアランを嘲うように店内に広がった。

 軽やかで澄んだ鳴き声は、心が洗われるような美しい音色を奏でていたが、アランにとっては悪魔の囁きのようだ。

 優雅に飛び回る鳥を必死に追いかけ回すが、羽のない人間に勝てるはずもない。


「アラン」


 ファンファーナが名前を呼ぶと、彼はぴたりと動きを止めた。

 油の切れたおもちゃのように鈍い動きで首を回したアランは、肩を怒らせるファンファーナを目に入れると、ひっと小さく悲鳴をあげた。その顔は、小さな擦り傷だらけで、うっすら血がにじんでいた。


「ファ、ファナ様、い、いつからいらしたんで?」

「今し方よ。それより、わたしの可愛いトゥーリィーを苛めないでって何度言ったらわかるの?」


 トゥーリィーと呼ばれた鳥は、嬉しそうに羽ばたくとファンファーナの肩に止まった。

 そのまま頭をこすりつけ、ピィッと愛らしく鳴いた。

 真っ白な羽に、黄金の双眸が美しい鳥だけに、まるで天の使いのようでもあった。

 事実、神殿では神鳥として敬われている。

 もっとも、それを知らないアランにとっては、毛色の変わったただの鳥にしか見えないようだが。


「けどよぉ、ファナ様。あっしのせいじゃないでっせ。あんのクソ鳥……いや、鳥様が、あっしを馬鹿にして毎回毎回……っ」

「馬鹿だから仕方ないじゃない。トゥーリィーのほうがおりこうさんよ。ね、トゥーリィー」


 ファンファーナがそう言うと、言葉がわかったかのようにつぶらな目を輝かせて、ピピィッと鳴いた。

 ファンファーナは、トゥーリィーの柔らかな羽毛を指先で撫でると、ほんの少しだけ瞳を曇らせた。


「幸せなひとときって、どうしてこんなにもあっという間に過ぎていくのかしら」


 ファンファーナは、こぼれ落ちそうになったため息を呑み込んだ。

 トゥーリィーがやって来たということは、離宮に戻らなければならない。

 たった二日であったが、ファンファーナにとっては、自由に羽ばたくことのできる貴重な時間だった。


「セルヴィック」

「はい」


 いつものように爽やかな笑みを浮かべるセルヴィック。

 先ほどの冷めた視線が嘘のようだった。

 この上なく魅力的に微笑む彼に、ファンファーナは告げた。


「あなたは、アランとイーシスを補助なさい」

「と、いいますと?」

「一人の命が失われるかもしれないのよ。まごまごしていられないわ。わたしを送り届けたら、あなたは地を這ってでもご主人の手がかりを見つけなさい」


 セルヴィックは、笑みを深めた。


「では、銀貨十枚で手を打ちましょう」

「! な、なんで……!」

「当たり前でしょう。私は雇われの身。なぜ、貴女の命令をきかなければならないのです」

「なによっ! 普段だって、仕事を放っているくせに」

「ええ、ですから、たまにはしっかり貴女の護衛を務めようと」

「……っ、わかったわよ。ぎ、銀貨十枚でお願いするわ」


 ファンファーナは、泣く泣く懐から銀貨を取り出した。

 セルヴィックを雇った兄をこのときばかりは恨まずにはいられなかった。



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