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THE FACT 6000回死んだ男が見た世界7話


THE FACT 6000回死んだ男が見た世界7話


Episode7 エウロパという男


ある男は静かにその本を閉じた。もう書きたいことは書いたと、悔いはないと。その男は机の上に置いてあった注射器を手にすると一言話した。

「 これが僕の考え得る最も苦痛のない死に方だ…… 」

その男は左腕に注射を打つと、ものの数秒でばたりと床に倒れた。死んだのだ。彼は後に『ルイ・シーラン』として目を覚ますことになるのだが、一体彼に何があったのだろうか。それはその男が書いた本を見れば分かる事だった。彼が書いた本の一ページ目にはこう書かれてあった。

「 私が命を絶つ理由 」

彼が何故命を絶たなければいけなかったのか、見てみることにしよう。 その本にはこう書かれていた。


『僕の名前はエウロパ・バッカード。25歳、彼女はいない。えっと、実は二日後にはこの世にいない。何故こんな事を書こうかと思ったかは分からない。どうせ誰も信じやしないだろうし。ただ、これを書かなければ気持ちが治らなかった。もしこの本を手に取った人がこれを見た時、この話を他の誰かに語り継いで欲しい。最も、君が僕の話を信じるかは別だが……。 僕は小さい頃から体が弱かった。貧弱な体で、痩せ細っていた。僕は普通の人とは少し違っていて、生まれつき頭蓋骨が普通の人より2倍も大きかった。その為母は帝王切開により私を産んでくれた。しかし、母はその時僕という『悪魔』を産んでしまった。僕は二足歩行できるまでには時間はかかったものの、1歳になる頃にはいくつかの言葉を話せた。母はその時、僕がニコラ・テスラみたいな天才に違いないと、2歳に入る頃には算数を教えはじめた。僕はその期待に答えるように、それを理解したのだ。不思議になったのか、母は僕を担いで脳の専門家を訪ねた。すると専門家は驚くべき顔をして、興奮を抑えるように話した。その時の顔を3歳の僕はよく覚えていたし、その医師が驚いているということも理解できていた。そしてその医師が言った言葉はこうだった。

「 奥さん。お子さんは3歳でいらっしゃいますよね? …… いやどう見ても3歳ですね…… いや、不思議なんですがね…… その、全く有り得ない話ではあるんですが…… 3歳のこの子の脳は既に8歳同等レベルの学力があるようです。 」

僕は化け物だった。もう何故か理解していた。今は自分は三歳で、世間一般の三歳は話さない子もいるし、一番可愛い時期なのだから、もうすこし可愛子ぶらなければならないと、そう考え三歳にして猫をかぶっていたのだ。本当は色々と理解していた。三歳なのに。そして三歳の僕は医者にこう話した。

「 つまり突然変異というか、僕は普通の人と違うという事ですね? 」

母も医師もドン引きした。目をまん丸にして。

「 こっ…… これは驚いたな…… 三歳で…… 」

そこからは、母の協力も得て世間にはそう言った子である事を伏せた。しかし、小学校に入ってからは頭の大きさもあってガキどもにいじめられるのだが、驚いたことに小学4年生には既に24歳の脳年齢にまで達していた。言われた全てを百パーセント以上で理解し、小学校では子供を演じた。そんな僕の唯一の趣味は化学だった。小学5年生の頃には電気を生み出すモーターを自主作成し、ニコラ・テスラに憧れて研究を続けた。中学の時には僕の発明した、お手伝いアンドロイドが世界に普及し、母と僕は億万長者になった。

しかし、ここまではただの天才が産まれた話に他ならない。皆は天才を羨む。優れた知識でありとあらゆることを理解するからだ。大抵の人は、自分は凡人であるから何か他の人にない特徴を見出そうとするし、出来る限り賢くいようと心がける。頭がキレる人のことを凄いと思う。でも、僕から言わして貰えばそれは違う。君たちから見ると『天才』なのだが僕が感じているのは『天災』以外の他何者でもない。逆に何も知らない凡人として出来る限りの努力をして生活する。普通の人ならどう考えるか、普通の人ならこうは考えないだろう、だとか……

僕が言いたいのは、ただ働いて死ぬ事は苦痛ではないという事だ。いや、なんというか『知りすぎてはいけない』。僕は知りすぎた。知りたくなくても、わかってしまう。恐らく凡人よりも君たちが思う『天才』の方が悩み事はぐんっと多いだろう。そしてこの世界は頭のいい、いわゆる『天災』によって支配されている。僕は中学生の時それを悟った。僕は利用された。まず、これを読む人がどれだけいて、全ての人が信じるかどうかはもう自由という事にしよう。僕は僕の知る事をここに書き残すだけ。

まずこの世界の大統領だとか、政治家だとか、歌手だとか、宗教だとかについて話そう。まず国のトップであれ、優れた歌を歌える人であれ、宗教の教祖であれ、彼らは普通の人間でない。僕と同じ。でも僕は君たちの味方だ。まず一般人はどうあがいてもそのいわゆるエリート層にはなれない。そう世界自体が出来上がっている。みな平等に生きているという解釈は全く違う。この世界はその頭のいい奴らにいいように利用されていて、彼らが楽しく暮らせる世界だ。その彼らというやつは、人間ではあるが、普通ではない。普通をどう定義するかにもよるが、君たちが思う天才と言える人々は皆その『彼ら』に当たる。具体的にどう支配されているかについて話そう。僕は生まれつき彼らの側だった。確かに幸せで普通の人を哀れんでいた。周りの天才は物凄く冷酷だった。凡人を見下して、利用するだけだ。しかし僕にもやっていいことと、悪いことぐらいは分かった。そこが彼らとは違った。まず彼らは凡人を支配するために『欲』を作った。金銭欲、物欲、食欲、性欲、経済欲、もちろんこれは凡人にだけ与えられた。次に彼らは『宗教』を作った。この二つを持ってして、凡人を操るシステムを作り上げた。凡人たちはみるみる内に繁殖し、経済や、国などを作り上げた。しかし、それらの頭にいるのは天才達だった。彼らは恐らく『平等』が嫌いに違いない。金銭欲、経済欲を持ってして、凡人は老いぼれるまで働かなければならないというルールが作り上げられた。驚くべきことではあるが、戦争、自然災害、病気、犯罪などは意図的に発生させられている。それらを作り出すのは彼らで

、痛手を食らうのはいつも凡人なのだ。本当にシンプルに一つだけ貴方に質問したいことがある。それは、なぜ人はいつまでも争い続けるのか、ということだ。単純に考えて見て欲しい。お互いが思いやればいい話ではないか? 僕ですらこう言っている。だがそれが出来ないようにされている。彼らが操作しているのだ。それは一体どうやって? 君たちの身近なものは、『インターネット』『ニュース 』だ。彼らにとって一番都合が悪いのは、凡人が自分たちの存在に気づく事と、自分たちの支配に屈せずに凡人に幸せに生きられる事だ。そう言った事が行われないように、『全て嘘』のニュースを放映して、偏見から争いや、憎悪を生み出させたり、インターネットやテレビで他人と自分を比較させ、『自分もこうなりたい』などの欲を量産させる。幸せに暮らしそうなやつが現れ、都合が悪いと思ったら『疫病、癌、白血病、大地震』を意図的に起こして、現実に引き戻させようとさせる。大半の人は本当に優しくて、凡人が結成すれば、世界は平和に必ずなるだろう。そうなられては困るのが『彼ら』らしい。市販の水や、食べ物には寿命を短くさせる成分を大量に注入してあるし、歌手やセレブ達は作り上げられた、凡人に失望と都合の良い夢を与えるためのツールでもある。君たちが考える世界は360度以上違った世界なのだ。これを僕が暴露してしまったから、僕はどの道消される事になるよ。いいかい、彼らはあらゆる方法で君たちを凡人でいさしたいわけだ。そんな洗脳された凡人こそが君たちなんだよ。君たちの世界は一つじゃない。同じ時間に無限に存在する。君の一つの行動で、その世界を君は転々と旅する事になる。僕がいるこの世界はもう変えられないだろうけど、この本を読んだ君たちが、意識を変えて新しい世界を生み出して欲しい。そうするための方法をここにまとめる。どうか世界を変えて欲しい。凡人こそが『真の平和』を構築する。最悪な世界があれば、最高の世界もある。そのどちらに行くかは君の意識次第。まず、彼らの思い通りにならないようにするべきだ。どうするか?それはとても簡単だ。『ストレスを溜めない事』だ。彼らが根本的に凡人を支配する為に使っているのは、『ストレス』なんだ。人間はストレスが溜まると、発散したいと思う。これが『欲』につながるというわけだ。これが根源で争いや、殺人が起こる。犯罪もこれが原因だ。だから例え何が起きても『ストレス』を溜めてはいけない。その方法の一つに、『マイナスに考えない事』がある。彼らは凡人に自信を持たれる事が一番嫌いなんだ。だから生まれつきに、美人と凡人に分けたり、頭の良さを悪くしたり、インターネットやテレビで自信を失わさせたりする。それらがマイナス、つまりストレス、つまり『欲』になってしまうわけだ。だから何事も楽しむ事だ。そして周りの目を気にしない事、何故自分だけこんな目に合わなければならないのかなどと考えない事、ストレスを感じても流す事だ。つまり、何事にも余裕を持つ事が、凡人の次元を少しづつあげることになる。周りには凡人のふりをした彼らが紛れ込んでいる。彼らは君たちを罵倒したり、理不尽な目に合わしてストレスを与えようとする。が、いちいちそれにストレスを感じては彼らの思うツボだという事だ。愚痴を言うようだとまだ甘いと言う事だ。ストレスを制覇すれば、君たちは新たな次元の世界へと行ける。君一人でいい。君の捉え方で行動すれば良い。もう他人と比べるのや、他人の良いとこだけを真似して生きるのはやめたほうがいい。それは君が見出すのだ。『自我を持ち、影響を受ける事なく生きろ』これが、世界を変えるのだ。

僕が書けるのはこれくらいだ。僕は自我を持った。その結果、君たちを助けるべきだと、そう思ったのだ。周りに何時も余裕があり、自信を持っている人いないだろうか?一人くらいはいるだろう。その人は僕が語ったこの『エウロパ理論』を既に自分で見出した人に違いない。この理論を知った時、君達の次元は高まり、良い世界が構築される。忘れるな、世界は1秒ごとに君が作る。君が自然体で影響される事なく生きれば、何にでもなれるのだ。これが凡人が凡人を抜け出す唯一の方法。なにか辛い事があれば、それは彼らが元凶だ。それに屈してはならない。そうすれば必ず良い世界に君は飛ぶ事になる。君達は『 可能性を持つ星 』エウロパだ。僕の意思を受け継いで欲しい。このエウロパ理論を。』



 その本はここで終わっていた。

彼の語ったことは果たして本当だったのだろうか?恐らくだが、この本は人類の未来に関わる重要な事柄を記してた。彼は頭が良すぎた。良すぎて、知ってはならないことまで知りすぎたのだった。




「 ここはどこだ?…… 僕は一体?…… 」

エウロパは暗闇の中で目覚めた。彼は自ら命を落としたのだが、それは叶わなかった。

「 僕は…… 死ねなかったのか?…… 」

エウロパはやがて自分が液体に浸されている事に気がついた。

「 この液体は一体何なのだ?…… 自殺が失敗してどこかしらの病院で処置を受けているということは考え難いな。体感時間的には死んでからすぐに目覚めているし、自殺した自分の部屋には鍵をかけておいた。つまり、ここは全く別の場所だ。」

そしてエウロパは背後にささってあるプラグに気がついた。

「 !! 」

ハッと驚いた後に、数秒黙り込み、話す。

「 なるほど…… この時点でわかったことが二つある。まず一つは『僕でも予想できない未知の出来事が起きている事』そして二つ目は『それは今推測しても分かる事じゃないので、この部屋から出て考え始めることが適切』だということだ。 」

エウロパはためらいもなく背中に刺さっていたケーブルを抜くと、浴槽から身を乗り出した。そして自分の手を確認する。ケーブルが始まっている根元の大きな機械を確認する。

「 なるほど…… 『意識』か?…… 実験…… ?」

エウロパはニヤリと不敵な笑みを浮かべて、ハッと何かを思い出した。

「 そういえばだが、あれは確か死んだ後か?僕が手にクスリを打ち込んで間も無く、身体が快感に満ち溢れた。これはよく聞く話で、死ぬ間際には脳に計り知れないほどの快楽を感じる成分が分泌されるかもしれないという研究結果もあるため信じるが、肝心なのはその後だ…… 」

「 その後に確か声が聞こえて来た。その声は確か『数をカウント』していた。そしてその後に、ここで目が覚めた…… 」

そう立ち止まって考えていると、エウロパのいる部屋がグッと明るくなる。部屋の扉が開いたのだ。すると小さいロボットみたいなものが入って近づいてくる。エウロパはそのロボットに恐怖を感じ、後ずさりをする。

「 おっ、おい! 君は誰だ! 何の真似だ! 」

そのロボットは案の定こう話した。

「 オハヨウゴザイマス、No.001、ルイ様。貴方ハ5999回目の起床デス。数時間後に再接続イタシマス。」

そう言い終えるとそのアンドロイドはくるりとUターンして扉の方へと歩いて行く。

「 ちょっと待て!! 」

そうエウロパことルイが話すと、アンドロイドは動きを止めた。

「 何デショウ? 」

「 No.001ってのはどういう事だ? ルイってのは? 」

「 ルイ様トハ貴方様ノコトデス。貴方ハルイ・シーラン。ソレ以上ハ話セマセン。デハ。」

そういうと再びロボットは動き出した。

「 なるほど…… 君に聞くよりもっと手っ取り早い方法を今思いついた 」

そう話すとルイは小走りでロボットに近づくとロボットの頸の部分に手を当ててこう話した

「 コード確認 」

するとそのロボットはいきなり力を失いガクンとその場に正座の形に崩れ落ちた。そして背中の部分がカパリと開いたかと思うと、中からキーボードらしきボタンのついたパッドが顔を出した。

「 なるほど…… 僕が作ったお手伝いアンドロイドとは少し外見やプログラムは違うようだが、根本は同じようだ。」

ルイは生前、お手伝いロボットを発明して世に送り出していた。その知識と『天才』という頭脳が相まってロボットの仕組みを簡単に理解することができた。

「 ん? アクセス許可がおりているぞ…… 」

普通、ロボットの心臓部となるコードを開くときは製作者の権限が必要となり、大抵はパスワードの入力が必要なのだが、このロボットにはそのアクセス権限が誰にでも許可される仕様になっていた。その為、容易に情報を見ることができた。

「 妙だぞ…… 普通はセキュリティを掛ける。悪用されない為に…… 」

ルイは真実を知る為にロボットの行動原理となるプログラムコードのファイルを開いてみることにした。

「 ん!? 」

プログラムコードを開くのにはコマンド入力

しなければならないのだが、それ以前にルイは妙な事に気がついた。

「 ……読めない…… 」

そのキーボードはアルファベッド表記では無かった。見たこともない文字だった。まるで楔形文字みたいだった。ただ数字は理解することができた。

「 ここは一体どこなんだ?…… 僕の知ってる世界じゃない?…… 」

それでも試行錯誤を繰り返し、どうにかプログラムのコードを開くことに成功した。恐らくこれは、天才であるエウロパでなければ開く事はできなかっただろう。しかし、そのプログラムを見てルイは言葉を失った。

「 …… 」

「 何だこれは! 」

ルイには勿論理解する事のできない言語ではあったが、それが確かにプログラムコードの羅列であることはルイには分かった。

「 これが全てのプログラムだとしたら…… それはあり得ない事だ…… こんな小さなロボットにこれを搭載できるというのか!? いや、そういう技術が…… このロボットには備わっているというのか…… 」

「 これはあり得ない事だ…… 僕ですらこの技術は思いつかなかった…… こんなことがどうやったら可能になるっていうんだ! 」

ルイはその場に崩れ落ちた。天才の彼を超える技術、彼ですら思いつかない技術がそこにはあった。そして始めて自分が理解できない事に直面したからか、それともその悔しさからか、彼は狂ったように笑い出した。

「 だーっはははははははははははは!!!!!!!!!!!! 」

「 うひゃひゃひゃひゃ!!!!! 」

そして暫く笑い続けると、沈黙した。

暫く静寂が続くと、今度は目の前のロボットをただひたすらに殴り始めた。

「 どりゃやああぁぁ! ごおぉぉらぁぁ! 」

( バゴン、ボゴンッ!! )

狂気を感じるほどの荒さである。そしてボコボコになってロボットを満足げに蹴り上げると、息を荒げて彼は話した。

「 それはそれは面白い話だ。この僕に理解できない事があったなんて。だけどそれは『今』だけだ。必ず理解してみせるぞ。ハハハハハッ! 楽しくなって来た! 気持ち良くなって来たぞおッ!」

この時、彼の中には何としても謎を解き明かしてやるという『執念』があった。今まで『完璧』に生きてきたエリートが、始めて『無力感』を味わったので、なぜか試されている気持ちがして、ワクワクが止まらないらしい。ルイは軽々しい足取りで扉の前に立った。すると、扉がゆっくりと開き始める。

「 さぁ、ここがどのようなところか見せてもらおう 」

ルイは廊下に出た。言わずともわかるかもしれないが、一本廊下だ。右に行くと行き止まり。左にまっすぐ行けば、途中で左と右に扉があるが右の扉は施錠されている。左の扉はルイが入っていた部屋とまったく同じ構造になっている。ルイはその廊下をまっすぐ進む。

「 ひんやりしているな。壁も天井も床もステンレスか? 恐らく中にコードやらケーブルが入っているのだろうな。だから容易に取り出せるようにステンレスの板を採用してるわけだ。 」

しばらく歩くと右手に部屋があったが、施錠されていたのでまっすぐに進む。

「 さっぱり分からん…… 構造は宇宙船ようだが、見たこともない配線だ 」

すると左手に部屋が見えた。

「 ん?扉が僕のいた部屋と同じ系統だな。とすると、この部屋にも誰かがいるかというのか? 」

ルイはその扉の前に立った。すると、その扉が開いた。恐る恐る中に入る。そして暗闇に目が慣れたのを確認して歩く。そこには何やら見覚えのある浴槽らしきものがあった。

「 誰かここにいたな…… しかもだ、ここにいた人物も僕と同じ様に浴槽に浸されていたらしい。床に落ちている水滴がまだ新しい。つまり最近この部屋を出た。恐らくこの施設の者ではないな。僕と同じで、何もしらない人に違いない。とすると、僕たちは何かの実験台なのか?…… 」

「 そのもう一人を探そう 」

ルイは再び廊下を出ると歩き始めた。すると、ずっと奥の方で音が聞こえた。

(バゴンッ! )

「 何だッ! 」

ルイは一瞬歩みを止めた。しかしその音はそれが最後にもう聞こえなかった。

「 何かが居るんだな…… 」

ルイは黙々と進んでいく。すると奥の方に何かが見えた。

「 ん? あれは! 地図か! この場所の地図か! 」

それはフロアマップだった。ルイは思わず駆け出すが、やがてフロアマップに近づくに連れて足取りを止めた。

「 何かが来る 」

(ギジジジィィィィィ)

それは何かを引きずっている音だった。

「(何か重いものを引きずっている?)」

それはフロアマップがあるT字の分かれ道の右側から聞こえてくる。ルイは何のためらいもなく、そいつがくるのを待った。

(ギジジジィィィ…… )

やがてそいつはコーナーを曲がってルイと鉢合わせた。

「 なっ……!? 」

そこに現れたのは金魚鉢みたいな透明な頭に脳がむき出しの半人間ロボットみたいなものだったが、見かけは美しく女だと分かった。しかし、その女は顔面がボコボコのアンドロイドロボットを脇に抱えていた。

「 (何…… この女がこのアンドロイドを殺したのか…… )」

その女はなぜかずっとルイを見つめている。

しかし、脇に抱えているアンドロイドを見てその女が危害を加えないと考えることはできなかった。その為、ルイは話てみることにした。

「 あの、ここの人ですか?…… 」

ルイは話しかけた。

するとその女はこう話した。

「 妙な真似するんじゃないわよ。そこを一歩でも動いたら殺すわよ 」

彼女はマジだった。その女は軽く命を殺める程度の力があるとルイは悟った。

「 あんたは綺麗な言葉を話すのね。 見たことも無い外見。人間に近い感じ…… 」

「(ん? こいつはまさか…… )」

ルイは何かの推測を立てた。そして話した。

「 君は死んで目が覚めたら浴槽に浸かっていて、自分が何者か、ここはどこか知る為に部屋から出た。違うかい?…… 」

「 ………… 」

すると、その女は脇に抱えているアンドロイドをどんっと床に落とすと、歩いてルイに近づいて来る。瞳の中には光が無い、冷酷な意識さえ感じられた。ルイは息を呑んだ。だが、妙な動きをしては余計に怪しまれると思った。その女は段々と近づいてきて、顔を寄せてくる。そして互いの顔同士がつくかつかないかの位置で止まり、話した。

「 貴方が味方だという証拠は? 」

女はルイの瞳から決して目を逸らさなかった。

ルイは話した。

「 君がここで僕をどうしようが構わないさ。だが、一つだけ言っておこう。僕を殺せば君の探し求める『謎』は永遠に解けない。僕の『知識』があればそれを可能にするだろう。 」

「…… 」

女は黙ったままルイの肩を押した。ルイはよろめいたが、体勢を立て直した。

「 分かったわ。貴方には『自信』がある。絶望的な状況に陥った時、生き残る術を知っている、そのような目よ。」

「 貴方は信用できる人よ 」

「 君の名前はなんて言うんだ? 」

ルイはホッと一息ついて話した。

「 私の名前は『クロエ 』。元特殊部隊だったわ。貴方も私と同じ軍の人? 」

ルイは床に倒れているアンドロイドの無惨な姿を見て( 道理でな )と思いつつ答えた。

「 いいや、僕は生前は発明家だ。」

「 発明家? そう…… 」

「 おっと、申し遅れたが僕の名前はエウロパ。ここでの名前は『ルイ』みたいだがな 」

「 ルイですって!? 」

「 ここでの名前?…… 」

「 ここで目覚めた時にロボットがいてそう言われたんだ 」

「 あぁ、あのちいさいロボット? 確かにここで目が覚めた時、何かを話していたわね。でも意識がはっきりとしていなかったから何をいっているかわからなかったわ。」

「 でも、貴方が『ルイ』だとするならば、私は『オリビア』って事になるわ 」

「 ??? 」

「……どう言う事だ? オリビアって誰だ? 」

「 ズボンのポケットにはいっていた『コレ』よ! 」

クロエはメモ帳をズボンのポケットから取り出すと、パラパラと開いて話した。

「 このメモ帳には、私達みたいにこの場所に来た人たちが色々と記録を残しているみたいなの 」

「 だから私はここに書いてある事を確かめる為に、色々探索していたの 」

それを聞いて確かめてみると、ルイもズボンのポケットにメモ帳が入っている事に気が付いた。

「 ん…… 」

しばらくパラパラとメモ帳に目を通すと、ルイは話した。

「 少しこれを読む時間が欲しい。ここは危険なんだろ? 」

「 えぇ、メモに書いていた通り 定期的にアンドロイドロボットが警備に来るらしいわ。こいつ(床に倒れているアンドロイド)も音を探知して私を襲おうとした 」

「 少し引き返そう 」

ルイとクロエは自分たちが最初にいた部屋の前まで引き返して、話し合う事にした。数十分してから、ルイが口を開いた。

「 理解したよ 」

「 僕達は何度もここに来ているみたいだね。そして今だにここの謎を説いた者はいない…… 」

「 君の名前はさっきの推測通り、『オリビア』で間違いなさそうだな。」

「 えぇ、メモ帳を見返してみたら最後のページに名前が書いてあったわ『オリビア・アデッソ』ってね 」

「 『記憶』だよ おそらく…… 」

「 記憶?…… 」

「 僕の考えでは、死んだ人はここで目を覚まし、そして時が来たら記憶を消されるんだ。それがこのメモ帳の割と最近に書いてあった『 再接続 』と言うやつだ。」

「 だが…… だ。 」

「 俺の考えるところ、こちらの『世界』というのが本当の世界なのかと言う事だ 」

「 本当の世界? 」

「 死んだはずなのにここで目を覚ます。ここの世界は僕達が死んだ世界とは違うという事。つまり…… 」

「 つまり?…… 」

「 ……どちらかが『偽物の世界』だという事になる…… 」

「 死んだ世界か、今いる世界か…… 」

「 あるいは…… こちらが『未来』であちらが『過去』であるとか…… 」

「 とりあえず理解不能な事である事は確かだよ…… 」

「 あー私そういう難しいの嫌いなのよね…… つまり、この場所を調べたらすぐ分かるって事よね! 」

「 容易ではない事は確かだ メモ帳を見る限りではな…… 」

「 どの道ここで『再接続』ってやつを待ってる時間があるなら、機械野郎のことぶっ飛ばしたいって所ね 」

「 ハハッ……君は少し野蛮みたいだね 」

「 言っておくけど私、このメモ帳に載ってる誰よりも強い自信があるから 」

「 あぁ、間違いない アンドロイド野郎を素手でボコボコにするのはオリビア(クロエ)だけだ 」

「 だが…… 」

「 何よ? 」

「 僕もだ 、僕も自信がある 」

「 何? 彼女が出来ないっていう? 」

「 ハハッ言ってくれるな怪力女…… いいや…… 」

「 僕もこのメモ帳に記された奴らの中で最も『賢い』という自信だ! 」

「 ハハハハハッ 」

ルイとオリビアはクスクスと笑い合った。

「 これは面白いわね! 最強の『戦士』に最強の『頭脳』」

「 あぁ、今回はどうやら『 一味 』違うみたいだ。僕たちなら必ずここの謎を解ける! 」

「 長く続いてきた謎解きも、僕達で最後だ 」


自分の人生に大きな後悔を持つ悲しき女クロエ、

人並み外れた知性が故に知りすぎてしまった男エウロパ。今回の彼らは何かが違う。

誰よりも良い『色』が滲み出していた。今までのような黒ではなく明るいものだ。偏りが無い、美しいバランス。黒と黒で白が出来上がるような、そのような感覚だ。


果たして今回のルイとオリビアは謎を解くことが出来るのだろうか?


  Episode8へ続く












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