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THE FACT 6000回死んだ男が見た世界5話

THE FACT 6000回死んだ男が見た世界 5話


Episode5 再接続


 酷い耳鳴り、近くで銃が連射されている。あまりにも近くで聞いたものだから、耳が痛い。オリビアはさぞ驚いたに違いなかった。でもこうするしか無かった。恐らく長い時間ここに倒れていたのだろう。完全に気を失っていた。自分があんなヘマを起こしたから、オリビアまで巻き込んでしまった。彼女はいまどこにいるのだろう?とっくにこの工場を抜け出しているのだろうか。彼女は賢いから。ルイは生きていたのだ。あの時、咳を出してしまう数秒前に、ルイは辺りを見回した。そこにはベルトコンベアーがあるだけだった。しかし、それが返ってよかったのだ。ルイは咳を出すほんの少し前にベルトコンベアーに流れていた、小さな鉄の部品を手に持っていた。そして、咳を出すのと同時にその

それを思いっきり地面に投げつけた!アンドロイドは大きな音を優先的に探知する事を、さっきオリビアが球型ドローンを倒した時にルイは悟っていた。部品を勢いよく地面に投げて、標的が自分じゃなくなったところまでは良かった。しかし不運なことに、アンドロイドはルイが飛ばした部品目掛けて的確に弾を命中させたのだ。なるほど、ブラックアンドロイドは射撃のセンスもいいと言う事か。その撃ち抜いた部品は弾き飛ばされ、ルイの額に直撃したのだった。ものすごい速さの予期せぬ出来事に、ルイの意識は落ちた。ルイはその場にうつ伏せに倒れ込んでしまった。そこまでは記憶があるのだが、どうやら今目覚めるまでずっとここにいたらしい。裏を返せばアンドロイド達はルイの存在に気づかなかったと言えるだろう。しかし、今回の一件でアンドロイドの警戒レベルが上がったことは言わずともわかる。

「 とりあえず、オリビアと合流しなければ。この工場の出口に向かえば、彼女に会えるかもしれない。」

ルイは痛む頭を抑えながら、その場に立ち上がった。すると、

「 うっ! 」

ルイの左脚に激痛が走った!

(一体どうしたんだ!)

なんとルイの左脚にはほとんど感覚が無かった。麻痺しているのだ。

「 なんてことだ! 左脚をやってしまったのか…… 」

「 頭部への損傷が思ったより激しかったのか…… 」

ルイは歩くのに、足を引きづるしかなかった。ルイは目の前にあったベルトコンベアーに乗っかり、移動した。すると進んでいく道中で大きな声が聞こえた!

「 やめてって、言ってるでしょおおおおおおおおおお! 」

( !!?)

「オリビアの声だ!! 」

(バンッ)

銃声がした!

「 ちょっと待て!! オリビア! 」

ルイは途中、ベルトコンベアーに立ち上がり、途中にあった小さなコンテナによじ登った。そして高い位置から声のする方を見てみた。するとなんと、オリビアが全速力で走っているではないか!その少し後ろにブラックアンドロイドが走って彼女を追いかけていた。しかし、その先はベルトコンベアーしかない行き止まりのようだった。ブラックアンドロイドは銃をオリビアに構えた!

「 やばい!一本道だッ!撃たれてしまう! 」

ルイはとっさに口笛を吹いた。セクシーな女性にアピールするかのように!

(ピユゥゥウウウウ)

それを聞いた瞬間、ブラックアンドロイドは一旦立ち止まり、こちらを見た!その隙にオリビアはベルトコンベアーに乗って姿をくらました様だった。そして再びブラックアンドロイドが意識をあちらに戻した時、オリビアは既にいなかった。

「 ふぅ、どうにか助かったか 」

しかし、今を考えすぎて先を考えていなかった。ルイがコンテナから降りようとすると、その下には既に別のブラックアンドロイドが音を聞きつけ、駆けつけていた。仕方がないのでルイは反対側から降りることにした。慎重に身を降ろすと、ひらけた場所に出た。

「 オリビア、無事でいてくれ 」とルイは心に祈りながら、歩みを進めた。

今さっき彼女は追い詰められて、自らベルトコンベアーに流されたのだった。そのベルトコンベアーは目視で確認する限り、上へと伸びていることが分かった。

「 間違いない彼女はこの工場の上に流れていった。」

ルイは自分も上に助けに行くべきか迷った。しかし、辞めた。もしルイとオリビアがすれ違いになれば更に脱出の可能性は低くなると考えたからだ。

「 俺は先に出口を見つける ! 彼女ならきっと大丈夫だ。」

ルイはオリビアが必ず出口に向かってくると信じて、先に進むことにした。

 あれからかなり時間が経過した。工場内はあまりにも入り組んでいて、出口が一向に見つからないのだ。幸い奴らに出くわすことは今のところなかった。すると奥の方から奴らの話し声が聞こえてきた。

「 今上で勝手にクレーンが作動したそうだ。誰かがこの工場に入りこんだみたいだ。俺は上を見に行ってくるから、お前はパトロールを引き続き行ってくれ。」

「 No.3 了解 」

「 もし見つけたらどうしますか? 」

「 被験体とは言え、半殺しにしてもいいそうだ。」

「 No.3 了解 、パトロール開始。」

ルイは上のクレーンを勝手に動かしたのは誰なのか大体検討が付いた。しかしなぜ動かしたかは分からない。上で何かが起こっているのは確かだった。ルイはまたゆっくりと出口を探しに歩いた。すると、大きな通路みたいな所に出た。今までとは違う通路だった。期待が高まる。ルイは通路を真っ直ぐに歩いた。すると前から巡回中のブラックアンドロイドが歩いてきた。しかし、ルイは動揺するそぶりも見せず、近くに溜めてあった機械の部品を自分と違う方向に思いっきり投げた。案の定、ブラックアンドロイドはそれに反応して、ルイの側から姿を消した。

「 弱点は分かっている。こちらさえ音を立てなければ大丈夫だ 」

しかしルイの頭には一つだけ不可解な疑問があった。それは、奴らは音に反応して動くはずだが、奴らの仲間の足音やこの工場の機械音には反応しないということだ。

「 どうも理解できない。奴らは何で 『音』を識別しているんだ…… 」ルイは慎重に足を進めるが、どうやらこの通路は地面が薄い鉄の板を繋ぎ合わして作っているようで、空洞の部分を踏むとボコんとへっこみ、音が鳴ってしまう。

(バゴンッ ボゴンッ!)

「 しまった! この音はデカいッ! 」

ルイは急いで足を止める。出来る限りヘコまなさそうな板を踏みながら歩いていたのだが、どうやら当たりを踏んでしまったらしい。

(ギャンッ、ギャンッ、ギャンッ!)

やはり先ほどのブラックアンドロイドが引き返してきた。この状況はルイにとってかなりまずい状況だった。何故なら、床の鉄の板を踏んだままだったからだ。もし仮に、ここからルイが動こうものなら、もう一度足を上げなくてはならない。足を上げてしまうと、床はまた形を戻そうとし、音を鳴らすに違いなかった。

「 だっ、駄目だ! BAブラックアンドロイドが近づいてくる来る。」

ルイはここから離れる他無かった。確実にこの場所はBAが初めに探索する。

「 せめて音の発生源をずらす事が出来れば」

(ギャンッ、ギャンッ、ギャンッ!)

BAはさっきの音を聞いて警戒心が増しているせいか、足取りが早かった。

「 このままでは殺られてしまう! 」

「 しかし、それは( このまま )である時だけ! 」

ルイはこのままの状況を脱する方法を既に考えついていたのだ!

「 俺はさっき部品を数個取ってポケットに入れていた。 つまり、これでBAの注意を再び背ける事が出来る! 」

ルイはポケットから機械の部品を取り出し、BAが向かってきた方向に投げた!部品は大きく弧を描き、かなり向こう側に音を立てて落下した。

(カランッ!!)

「 よし!これでこの場を切り抜ける事が出来る 」

(ギャンッ、ギャンッ、ギャンッ!)

「 !!?」

なんとBAは何のためらいもなく、部品の落下音を物ともせずに、一気にルイの所に向かってきた!そして大きな手を振り被った!ルイはとっさの判断で交そうと試みるが、BAの行動の方が先手だった。

「 うぐっ! 」

BAはルイの首を掴んで持ちあげたのだ!ルイはとうとうBAに捕まってしまった。

(どうして……だ! 音の方向を……探知しなかった!…… )

ルイの読みは正しかった。ただし、今まで通りならば。BAはルイに殺意をむき出して話しかけた。

「 お前はどうやってここに入った? 先程から怪しげな物音がしていたが、やはり鼠が一匹入り込んでいたようだな。 」

『一匹』その言葉にルイは安心を覚えた。少なからずオリビアはバレていないようだった。

「 他にもここに侵入した奴は居るのか? お前だけか? 答え無ければ殺す。答えても殺す。 」

BAの目には容赦という光が灯っていなかった。BAの握力は計り知れないものだった。意識が遠のいていく。何か、何か策を考えなくてはならない。ルイは考えも定まらないまま、何かを喋る素振りを見せた。

「 あっ、うぐっ…… 」

「何だ?他にもここに迷い込んだ奴が居るのか? よかろう、話せ。 」

BAはルイの首から手を離した。

「 ゴホッ、ゴホッ!!! 」

首から上に一気に温かみが伝わり始める。

「 さぁ、答えろ。どのようにしてここに入ってきたか、他にも逃げた奴がいるのか、をな 」

ルイは咳をして出来る限り試行錯誤の時間を稼ぎ、考えた。

「 咳をするフリをして、次にどう逃げようかと考えているな? 」

BAはルイの心を推測して見せた。ずばり図星だった。

「 ほう、心拍数が上昇したという事は、図星みたいだな。 」

(このBAは、人の考えている事まで分かると言うのか? )

考える隙もなく、BAが話す。

「 残念だがそこまで私は優しくはない。そうプログラムされているものでね。普通の漫画とかなら、ここから無傷で逃げ出すんだろうがね。でも現実は甘くない。 」

次の瞬間、BAは背中に背負っていたカービンライフルを構えて、コッキングした。

(ガッ、シャン)

そして銃口をルイに向けた。

「 いいか、俺はお前が死のうがどうでもいい。ただ仕事をするだけだ。どうせお前の記憶も消されるのだからな。だが、お前は俺の質問の時間を引き延ばそうとした。もう一度だけ聞くぞ。お前以外に逃げた奴はいるか? そしてここにどうやって入ってきた? 」

ルイは話し始めた。

「 俺以外に…… 」

(バンッ!!! )

なんとBAはライフルの引き金を引いたのだ!

「 うごぁあぁッ …… 」

ルイの周りに熱い飛沫が舞い散る。

「 いいかい。そんなに上手いこと物事は進まないんだよ。これはさっきの分の先払いさ。次は確実に胸を狙う。知ってたか?アンドロイドの機動中枢は胸の中央にある。」

BAは何とルイの左手を射撃したのだ!

「 お前の左手と左脚は完全に、使い物にならなくなったという訳だ。 」

「 話を続けろ。 」

ルイは左手の激痛を痛感していた。大きく重い疼きが腕から体に伝わってくる。しかし、この一発でルイは確信した。『このロボットには、慈悲の概念が微塵もない』と言う事に。話し続け無ければ殺される。そして、話し終わっても殺されるだろう。左足も左腕も機能しなくなった。ルイは正真正銘の『死』を覚悟した。そして焦るそぶりも見せずに、淡々と話した。

「 この工場に…… し、侵入したのは俺だけだ。 ここに入った方法は、ドローンを破壊して…… ソイツを元にこの工場に入った…… 」

意識が段々と遠のいていく。激痛と激痛。この一生で一番と言いきれるほど辛い経験だ。 BAが口を開いた。

「 何の目的でここに入ってきた? 逃亡か? 」

何度も質問して来る。まるで知られてはいけない秘密を知られていないか確認する様に。どの道殺される。こんなにも言葉の1文字1文字に集中した事は無い。

「 全てを…… 知りたかった。逃げるというよりは、ここが何処で自分は何者かを知りたかったんだ…… 」

ルイは何もかも正直に話した。 BAがまた話す。

「 お前は真実を知る必要はない。いずれ知る事になる。」

ルイは最後に口を開いた。

「 どうせ死ぬのなら最後に教えてくれ…… 」

ルイは自分が推測し得る、全ての憶測を質問にしてみた。

「 俺は一回死んで……何かの極秘プロジェクトの実験体としてここで実験させられているんだろ? …… 」

BAは答えた。

「 答える義務はない。」

それでもルイは真実が知りたかった。人間は疑われると、疑いを晴らしたくなるものだ。では、機械ではどうなのだろう。ルイは話した。

「 お前は怖いんだな……? 自分のプログラム道理以外に動くのが怖いんだ…… 」

「 なんだと? 」

BAは引き金に指を掛けた。

「 お前には意志があるはずだ。自分で考えて、行動する意志が。お前は俺と同じ飼い犬も同然なんだ…… 誰かに力で支配されている。」

「 もういい、殺してやる 」

BAは挑発に乗っかり銃口をルイの胸に当てた。引き金がゆっくりと動き始める。ルイは最後の一言をできる限り大きな声で話した。

「 本当の自分を持っている奴は、相手に敬意を示すことが出来る! 」

その大声はBAの指の動きをピタリと止めた。BAにもプライドと言うものがあるらしい。さすが恐らくは人間の産物である。BAは話した。

「 いいだろう、話してやる。だが、この話を終えた時私はお前を殺す。 」

ルイは本望だった。真実を知れて死ねるのだから。ついにBAは話した。

「 ーーー お前は『新世界』の練習台だ。」

「 ……私が話せるのはここまでだ。死んでもらう。 」

ルイは最後に考えた。『新世界』とは。

(どうやら真実は、俺が考える事より遥かに複雑だった様だ。ごめんよ、オリビア。本当に短い間だったけど、君に出会えてよかった。)

BAは銃口をルイに向けて、ゆっくりと引き金を動かす。そして、大きな音が工場に鳴り響いた。

( バンッ!!!!)

ドサッと倒れる音が響いた。

ポッカリ空いた穴からは大量の液体が溢れ出す。床がその液体色一色に染まった。ルイは気がつかなかった。BAは一回聞いた音や、外敵で無い音と判断した音には2度目は反応しないという事に。ルイの疑問はその点だったのだ。

「 よかった。間に合ったみたいね…… 」

「 オリビア……? 俺は一体? 」

体にポッカリと穴をが開き、ドサッと倒れ込んだのは、なんとBAの方だった!!

「 俺は…… 生きて…… いるのか? 」

「 えぇ。間一髪だったわ。」

「でも、奴を撃ったのは君じゃ無いよな……? 」

「 えぇ、BAを撃ったのは、ハチよ。」

「 ハチ? 誰だそれは? 」

しかし次の瞬間、別のアンドロイドがオリビアの背後に立っていた!

「 オリビア!背後にいるぞぉぉ!! 」

「 えぇ。彼がハチなの。」

「??? 」

「 いったいどう言うことだ? 」

「 えっと、話すと長くなるのよ。時間がないの。」

すると、そのハチと呼ばれるノーマル型のアンドロイドが話し始めた。

「 驚かせてすみません。簡潔にお話しすると、私が生産されて出荷される時に、何らかの誤作動で私だけ、出荷されずに床に倒れていまして、そこをオリビア様にお救い頂いたのです。 」

「 ちょっと待て、オリビア。アンドロイドを助けたのか!? 」

「えぇ。でもね聞いて欲しいの。私はこの工場の上層部にある、アンドロイドの生産場まで流れ着いたの。そこで驚くべき光景を目の当たりにしたの。BAに限らず、全てのアンドロイドは最初は皆無知の赤ちゃんみたいな、綺麗な感情の持ち主なの。でも、出来上がったアンドロイドは陳列されていく時に、首筋に制御プログラムのチップを埋め込まれるの。そのチップでアンドロイドへの命令や、性格の操作などを行うみたいなの。つまり、この『ハチ』は、そのチップを埋め込まれる前のアンドロイドなの。彼はBAになる予定だったらしくて、ボディーは白色だけれど、私がここまで帰ってくるまでに色々と私を手助けしてくれたのよ。 」

「 なるほど…… って事は、戦闘能力も普通のアンドロイドと変わらないと?」

「 そうなりますね!」

ハチは答えた。続けてルイは質問する。

「 でもハチは音を探知していないようだが?…… 」

「 全てのアンドロイドには安全処置として、音感知プログラムによる行動制限が適用されていますが、私はそのプログラムをアップデートしていませんので 」

「 安全処置ってどういう事だ?…… 」

「 言いたいのですが、言おうとすると言えないのです。 」

「 ハチはどうやら、制限された言葉を説明しない様に元からプログラムされているみたいなの。私が、この施設は何?っと質問した時も、答えられなかったわ。知られてはいけない情報は完全に漏らさない様に、製作者がプログラミングしているのよ。 」

「製作者ね……何を目的にこんな兵器を作るんだ…… 」

すると、ハチはルイの体を見てハッとした様に話した。

「 見たところ、腕と脚を怪我している様ですね。」

「 あぁ、脚は恐らく頭に衝撃を受けたのが原因だ…… 」

「 ちょっと、見せてくださいね。……なるほど。」

ハチはルイの頭に手をかざした。

「 なるほど。これは脚の故障ではないでしょうか? 」

「 脚の故障!? 」

「 あなた達の身体は所々機械で出来ているみたいですね。『脚』を取り替えれば、歩けるかと…… 少しお待ちください。 」

するとハチは近くにあったタッチパネルを徐に操作し始めた。すると、しばらくしないうちに、天井についてあった小型のクレーンみたいなものがルイ達の近くに現れた。そのクレーンがなんと義足を運んできたのだ。

「 この脚はアンドロイドのものですが、恐らくルイ様にも適用するかと…… 」

「 ちょっと待ってくれ! アンドロイドの脚を付けろっていうのか!? 」

「 ハチ、本当に付けても大丈夫なの?…… 」

「 絶対に適合するとは限りませんが、今後の戦闘の事を考えると、やはり歩ける様にしておいた方がいいかと…… 」

「 ルイ?…… 」

オリビアは心配そうな目つきでルイを見た。

なぜだか分からないがルイはドキっとした。それはオリビアに対してだった。恋心か?いや、こんなに辛い場面に陥って急に心配されたものだから、つい心情がなびいただけだ、と自分に言い聞かせながら、ルイは一言話した。

「 大丈夫。ハチ、頼んだ。 」

まったく気がすすまなかったが、ハチに義足の装着を頼んだ。ハチはルイの脚を力図よく引っ張ると、いとも簡単に脚が取れた。

「 ! 」

「 こんなに簡単に脚って取れるものなのか…… 」

ハチは早々とアンドロイドの脚をルイに装着した。するとなんと、その脚はパッチリとルイの下半身に連結したのだ!

「 完了です。少し歩けますか? 」

ルイは立ち上がってみた。そしてゆっくりと左足を前に出してみた。

「 歩ける!! 感覚があるぞ! 」

「 それはよかった。 」

ハチは無表情だったが喜んでいる様に見えた。

「 よかったわね! ルイ! 」

「 しかしながら、その腕は治すことはできません。筋組織を撃ち抜かれている。 」

「 構わないさ。歩けるだけで ……」

「 …… で、どうして名前が『ハチ』なんだ? 」

しばらく周りを歩いたルイが話した。

「 私の愛犬の名前よ。」

「 おいおいってことは、番犬か? 」

「いいえ、トイプードルだったわ。」


 オリビアはルイと合流を果たし、BAのハチも引き連れて一行は工場の出口を探した。

「 工場の出口は一体どこにあるんだ? 」

「 この先を抜けたところです。」ハチが話した。

「 頭の中にこの工場の地図がプログラミングされていたんです。」

ハチの大活躍により、みごとに工場の出口の扉を見つける事が出来た。

その扉は思った以上に大きなもので、重厚ななものだった。

「 この先に抜けるには、ここにあるレバーと向こう側のレバーを同時に下ろさなければなりません。」

「 よしじゃあ俺が向こう側を担当する。オリビアはこっち側をお願いできるか? 」

「 えぇ、了解よ 」

「 じゃあ私は他のBAが来ないかどうか見張っておきますね 」

ルイは小走り気味に反対側のレバーの場所まで向かった。そして、オリビアの準備が出来ているのを確認し、ハンドサインでカウントを行う。

(3、2、1 …… )

ルイとオリビアは同じタイミングでレバーを下に下げた。すると地鳴りの音が聞こえたと思ったら、今度は大きなサイレン見たいな音が鳴り響いた。

(ビィィッ!ビィィッ! )

大きなアラームと共に扉の内側から空気が抜けるような風音が聞こえてくる。

(プシュュュ!!)

明らかにこの扉は、立ち入り禁止の場所へと繋がっているだろう事は、この厳重な扉を見て容易に理解することができた。その扉は思った以上に遅いペースで、徐々に開き始めた。そして、しばらくすると工場中に大きなアナウンスが鳴り響いた。

「 ゲート作動! ゲート作動! ゲート作動! 」

「 ダメだ! この調子だと扉が開く前に残りのBAがここに来てしまう! 」

考える間も無く、BA、4体はその場に姿を現した。注意深くゲート付近を探索しているようだったが、そこにはルイたちの姿は既に無かった。そして、BAの一人が話した。

「 おい、お前は誰だ? 」

「 No.3です。いま向こうに誰かが逃げていったみたいです。 」

その声に反応して別のBAが話した。

「 No.3、それは本当か? 」

「 今確かに向こう側に、あの辺りの陰に逃げて行きました 」

「 よし、隊列を組め。あそこに向かう 」

「 No.3、先導を頼む 」

「 No.3、了解 」

BA達は兵士さながらのフォーメーションを組みながら、その音をしたと言う方向へと向かう。そして一行は、しばらくして開けた場所で動きを止めた。

「No.3、ここから音がしたと言うのか? 」

「 ええ。確かにここら辺りです。 」

するとBA No.3は、『止まれ』のハンドサインを出した。

「 むっ! 」

BA一行は、その場で隊列を組み直し、銃を構える。そして、 No.3だけがゆっくりと銃を構えながら前進する。しかし、その No.3が進む方向には誰もいない。そして、口を開いたのは、BAの No.2だった。

「 ちょっと待て!! 」

No.3はその声でピクリと動きを止めた。

「 お前、何か変だな。 」

「 お前は俺たちの部隊にいる時、自分から部隊を動かす様な奴では無かった。先頭を切るような奴では無かった。 」

「 そして、だ。 」

「 お前はいつも、『敬語』 は使わなかったはずだ。 」

生ぬるい風が辺りを吹き抜ける。

「 そして No.3、お前とは暫く無線が通じなかったな。なのに、俺たちが扉に着いた時、お前は一番はじめに到着していた。お前はいつも、行動する前は私に『一言』 話すはずなのだがな。つまり…… 」

「 お前は No.3じゃないな 」

一斉にBA達がが銃口を、 No.3と思われたアンドロイドに向けた。

「 バレてしまいましたか。でも、あなた方の負けは確定している。 」

No.2のBAが命令を叫んだ!

「 撃てェェェェェェ! 」

( ドゴォォォンッ! )

大きな音が工場に鳴り響いた。

「 やれやれ、危機一髪でした。」

なんと、BAが隊列を組んでいた場所に、大きなコンテナが落ちてきたのだ!いや、正確には落としたのだ!

すると上の階から声が聞こえてきた。

「 ハチ! 成功したか? 」

「 えぇ! バッチシです ! 」

その声を聞いて、近くに隠れていたオリビアが姿を現した。

「 成功したのね。良かったわ! 」

「 オリビア様の名案のお陰ですよ! 」

 扉のアラームが鳴りはじめて間も無く、オリビアはこんな事を提案していた。

「 ねぇ、ハチがさっき倒したBAになりきるってのはどうかしら? 奴らはまだ気づいていないはずなの。そして、あの大きな広場に連れてきて欲しいの。あの広場には大きなクレーンがあったはずだから、うまくいけば、奴らを一掃する事が出来るかもしれないわ。 」と。

「 やった…… 」

上から降りてきたルイが、話した。

「 俺たち、あの殺戮マシーンを倒したんだ 」

ルイ達はホッと一息付いていたが、すぐに危機は再来した。

( 警告! 扉の不正アクセスにより、扉の閉鎖を行います!)

「 何だってッ! 」

それは工場内のアナウンスだった。

「 急ぎましょう! 」

三人は全速力で扉に走った。もうBAが襲ってくる心配は無い。

そして丁度直線の位置に出口の扉が見えた。

しかしなんと、出口の扉は半分閉じようとしていた!

「 皆さん! あの扉が閉まると、もう2度と私達では開ける事が出来ません! 急いでッ! 」

ハチは全速力で走りながら、話した。そして、アンドロイドのハチの方が僅かに走る速度が速かった。ハチはルイとオリビアより先に扉にダッシュする!あと数メートルはある!その扉は徐々に閉鎖する!ルイとオリビアが残り5メートルに迫った時、先に扉に着いたハチは、自分の持て余す全ての力を使い、扉を持ち上げた!

「 早くッ!! 早く通るのですッ! もう、持たない…… 」

ハチの肩が押しつぶされて、変形して行く。

ルイとオリビアは全速力で走った!!そして二人は、持ち上げられた僅かな扉の隙間にスライディングした!

「 間に合えぇぇぇぇぇぇ! 」

そして、ルイとオリビアは壁に激突した。

扉を出る事が出来たのだ! しかし!

「 ハチ! さぁ! こっちへくるのよ ! 」

オリビアが手を差し伸べる。

「 ハチ、俺が扉を持つから、その隙に! 」

ルイが手を差し伸べる。

しかし、ハチは動こうとしない。いや、動けない!

「 ルイさんオリビアさん、私が出来る事はここまでのようです。この扉はやがて閉まります。貴方達じゃこの扉を支える事が出来ない。」

「 何を言っているの! ハチ! 」

「 短い間でしたが、本当にありがとう。オリビアさん、私を救ってくれてありがとう。あなた方なら、きっと『真実』にたどり着くことができるでしょう。さようなら…… 」

( ガシャァァァン!! )

扉が閉じた。おそらくハチはこの扉の下敷きになったに違いない。

「 嫌ァァァァ!! 」

オリビアは喚き叫んだ。

ハチは自らを犠牲にして、ルイ達を助けたのだ。

しばらく二人は話すことが出来なかった。オリビアは目を見開きながら閉まりきった扉を眺めている。きっとオリビアはルイの数倍悲しいに違いなかった。彼の命を救ったのはオリビアで、彼と協力して危機を乗り越えて来たのだから。しばらくの沈黙の後に、オリビアが口を開いた。

「 ーーーもうこりごりよ…… 」

ルイは出す言葉が無かった。

「 一体、何回大切なものを失えばこの『悪夢』から目が醒めるというの?…… 」

ルイもオリビアも巻き込まれたくて、巻き込まれたわけではない。しばらくしてからルイが口を開いた。

「 俺たちは想像出来ない様な事に関与しているんだ。俺たちは選ばれた。メモ帳にある通り、俺らはずっとこの謎を解き明かそうとしている。そして今、俺たちがいるここは、恐らく今まで誰も来たことのない、一番真実に近い場所だ。 」

「 ここまで来れたのもメモを書いてくれた人々と、ハチのおかげってわけね…… 」

「 オリビア、きっとこの先に『真実』があると思うんだ。 俺たちは何者で、どうしてここに居るのか。誰も知らない未知の領域…… 」

二人は廊下に座り込みながら、メモ帳に何が起きたかを記入した。メモに改めて書き出してみると、この数時間の内にかなり多くの出来事が起きている。しかし、体感では数日たった感覚だ。

「 よし、行こうか。 」

「 えぇ。 」

ルイとオリビアは腰を上げた。工場の出口から出ると、一本の廊下が続いていた。メモした地図を頼りに、ルイ達はエレベーターに向かう。そして途中で左に廊下が折れていたので、左に曲がる。どうやら警備のアンドロイドも全くいないみたいだ。二人はもういくつもの修羅場を乗り越えたせいか、ビビるそぶりは微塵もなかった。むしろかかってこいと言わんばかりのオーラが彼らにはあった。彼らは短い時間で多くの困難を乗り越えたことで、成長していたのだ。すると、ようやくずっと奥に求めていた、エレベーターが目についた。思わずそれを見つけた瞬間、二人は目を合わせた!

「 やったわ! エレベーターよ!! 」

「 ついにここまできたんだ!! 」

オリビアとルイは小走りでエレベーターに向かう。道中で大きな扉が右手にあったが、気づく間もなく、彼らは素通りした。 」

そしてエレベーターの前に二人は立った。

無論、このエレベーターに乗ったからといって脱出できる保証は少しもないが、真実を見ることが出来るのではないかと言う期待が、彼らの原動力となっていた。

ルイはエレベーターに付いていたボタンを押そうと、手を伸ばした。と、急にその手を止めた。

「 オリビア。」

ルイはオリビアの顔を見つめた。こんなに近くでまじまじとみたことがなかった。顔は本当に人間そっくりだ。くっきりとした眉毛、長い睫毛、高い鼻、そしてふっくらとした血色の良い唇。誰がみて美女としか思えない。

「 ど、どうしたの急に? 」

オリビアは急に見つめられて動揺を隠せない。あぁ、一体どうしたのだろうとルイは自分に問いかけてみる。たかが数時間一緒にいただけなのに、なぜか愛おしい。彼女に何回か助けられたからか?これがいわゆる吊り橋効果か?オリビアが話す。

「 ルイ? どうしたの? 」

彼女は気づいていない。オリビア、いやハンナは純粋無垢な女の子だ。言うべきか?いや、明らかにおかしい。普通ならこんな急に出会った人に告白なんかしたりしない。しかし、後悔はしたくなかった。

「 オリビア。 」

「 どうしたの? 」

「 ここじゃなくて、死ぬ前に君に出会いたかった。 」

しばらくお互いに沈黙になった。

さすがのオリビアもどう言う意味かは理解したらしい。

するとオリビアはサッとルイに歩み寄ると、なんとルイの唇にキスをした!そしてこう言った。

「 真実を確かめてからでも、遅くないわ 」

今までに味わったことのない熱が身体中を駆け巡る。彼らはこの短時間を通して絆以上のものを得たのかもしれない。

余韻に浸りたかったが、危機は突如訪れた!

「 ルイ見て! エレベーターが下がってくるわ! 」

なんとエレベータが動き出したのだ。もちろん、誰もボタンを押していない。

そして身を隠す間もなく、エレベーターが開いた!

エレベーターの扉が開閉すると共に声が聞こえてきた。

「 困るよ 勝手にここまで来てしまうなんて 」

なぜだか周りの空気が一変した。

「 まだ目覚めるには早いんだ オリビア・アデッソ、ルイ・シーラン。君たちはいつも逃げ出そうとするが、よくここまで来れたな。」

そいつの声は低かった。ハスキーボイスで図太い声だ。

「 だがお遊びが過ぎたようだ。そろそろ『再接続』の時間が来たのだよ。」

エレベーターの扉が完全に開き、そいつは姿を表した。

そいつは身長が2メートル近くあり、ガタイはゴツく、全身メタリックだった。ボディには006と数字が刻印されている。そいつは確かにアンドロイドロボットだったが、今までの奴らと桁違いに風格がある。まるで幾千もの戦いを生き抜いてきたライオンの様な、身の毛もよだつ様な、貫禄があった。オーラが違った。そしてそいつは話した。

「 いいか、君たちが真実を知るのはまだ早いのだよ。知らなくて良いこともある。それに、その記憶は再接続と共に消滅する。私はこの『舟』の『キャプテン』だ。この説明も5000回以上はしたな、君たちに。毎回君達だけ問題を起こすのだ。」

「 残念だが、『再接続』してもらうぞ 」

ルイとオリビアは必死に逃げようと走り出したが、その『キャプテン』は腰に付けていた銃を取り出し、二発発砲した。その銃弾は的確に、ルイとオリビアの胸を貫いた。アンドロイドの心臓部である胸を。ルイとオリビアはその場にばたりと倒れ込んだ。そいつは射撃技術が半端ではなかった。『キャプテン』はゆっくりとルイとオリビアに歩み寄ってくる。

「 うぐっ…… 」

「 うっ…… 」

二人とも身体中の力が抜けて動けない。

キャプテンは話した。

「 お前達が次に生まれるのは、1時間後だ 」

キャプテンはルイとオリビアを軽々と持ち上げた。

意識が遠のいていく。声が聞こえなくなっていく。飛び飛びで、うっすらと場面が切り替わる。運ばれていく。工場を戻り、オリビアが球型ドローンを倒した部屋も通過し、始めの廊下に戻り、途中でオリビアが下され、ほかのアンドロイドが抱えて運んでいった。体が動かない……ルイはキャプテンの手によって、またあの液体の浸る浴槽に入れられた。そして、背中にコードを挿し込まれる。うっすらと奴が、キャプテンが何かを話している。

「 胸を撃ち抜いたからボディを変えておいてくれ。西暦に設定を。あぁ、構わん 。こいつが済んだらオリビア・アデッソを頼む 」

「 ルイ・シーラン。安らかに眠るが良い。」

キャプテンは何やら機械のスイッチを入れた。その瞬間、浴槽の液体が沸騰し始める。

「 再接続ヲ開始イタシマス。設定、西暦2000年ランダム、男性、イギリス人、自殺死ノプログラムデ決定シマス」

(あと一歩だった、あと一歩で真実を知れたはずだった。だがやはり、もっと大きな謎が隠れているらしい…… もう… 次の世代の…… 俺たちに…… 託すしか…… ない……)

何もかも記憶が浄化されていく!

(あれ、俺は何を考えていたのだろう? いや、そもそも俺は誰なのだろう? 俺って?

お、れ? あ…ぶ…… )

何か明るい光に包まれていく!




「うわぁぁん!うわぁぁぁん! 」


「 おめでとうございます! 男の子です! 」


「良かった!本当に良かった!! よく頑張ったねマチルダ! 今日は記念すべき日だ! 」



         Episode6へ続く


          






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