THE FACT 6000回死んだ男が見た世界3話
THE FACT 6000回死んだ男が見た世界 3話
Episode3 未知の領域
ルイとオリビアはもう一度、フロア案内を念入りに確認した。
「 メモによれば、この通路を右に行くとダクトがあるらしい。」
「ええ、ダクトなら私見たわよ。でも、二人で肩車してもギリギリ届かないかも。それにどちらか片方しか行けないから、連絡も取れないわ。」
「 ここから出るには、西側のエレベーターに向かわないといけない。でも、ダクト側の北側の扉はロックされてるからな」
「この通路の左側、つまり南側にある私が一回入ったあの薄気味悪い部屋を抜けないといけないわけね。」
「そこを抜ければまた廊下に出る。」
「覚えるのは無理があるな……メモ帳に地図を書こう」
ルイとオリビアは自分のメモ帳に今までの経緯とフロアマップをレポートした。
「問題はあのアンドロイドだ。一体とは限らないしな。」
「 慎重に、音を立てずに行きましょう」
ルイとオリビアは南側の例の部屋の前まで歩いた。
「いよいよだな。ここから先は、メモにも情報がない。」
「私達が情報を収集する……」
左右開きの自動扉が開閉する。プシュュュウ。扉からはひんやりとした空気が漂って来た。二人で中に入る。
「 なるほど、これは薄気味悪いな」
そこは薄暗く、天井に照明はついてはいるが、青白い色をしている。まるで自殺防止用の踏切のブルーライトみたいだ。
「向こう岸まで結構あるみたいだな。」
さらにその部屋には、トラックのコンテナほどの大きさの何かが、シートに覆われていてそれが沢山、点々と存在する。広さは少し大きめの体育館くらい。おそらく、梯子で下に降りると、そのシートに覆われた何かが死角になり、迷路みたいになるだろう。
「俺が先に降りる」
ルイは暗くて底の見えない梯子を降り始めた。
「気をつけて!」
「合図したら降りてこい」
(カンッカンッカン)
鉄でできた梯子が音を立てる。しばらくして梯子を降りたのだろうか、音が聞こえなくなった。しばらく沈黙が続く。
「 ルイ?……」
ルイからの合図が一向に来ない。オリビアは待った。しかし、やはり来ない。合図がこないということは何かあったのか、それとも予想以上に底が深くてルイの声が聞こえないのか、オリビアはしびれを切らした。
「 降りるわよ!」
オリビアは梯子に足を掛けた。
(カンッカン)
時は五分前に遡る。
「合図したら降りてこい」
(カンッカンッカン)
下に降りるに連れて寒さが増した。
「 結構深いな……」
高さはおおよそ6メートルくらいだ。下に降りたルイは周りを見回した。何せ薄暗い。それに、シートに覆われた何か分からない物が陰になりさらに暗く感じた。
「よし、周りには誰もいないな。オリビアに合図を……」
(ヴィィイン)何かの音がする。
「何だ……」
(ブィィイン)
それは突如ルイの近くに現れた。赤く伸びるレーザーポインター。そこに現れたのは、空飛ぶバレーボール。いや、球体の形をしたドローンだ。球体の中心にはレーザーポインターがついており、球体上部にはなんと、銃らしきものがついている!
(やばい!)
ルイは立ち止まった。ドローンは梯子の周りをレーザーポインターでサーチしている。「このドローンも音を感知するのか!」
梯子の降りる音に反応したらしい。今回ばかりは命がないと悟った。おそらくこのドローンは容赦なく射撃するだろう。ここは立ち入り禁止の場所。言い訳は聞いてくれそうにない、やばい状況なのだ。何がやばいか、それはオリビアがルイからの合図がこないことを不審に感じて声を出したり、梯子を降りて来てしまう事だ。彼女の性格的に、あと数分もすればしびれを切らして勝手に降りてくるだろう。その間にこのドローンが飛び去ってくれるのか? と、ドローンのレーザーポインターがルイの方をサーチし始めた。幸いサーチの速度はスローなため、音を立てずにゆっくり、レイザーポインターをかわす。
(やばい!このままいけばオリビアが降りて来てしまう)
彼女が降りてくればその音を察知したドローンが彼女を蜂の巣にするだろうことは予想できる。どうするべきか。と、ついに起きてはならないことが起きた。
「 降りるわよ!」
ついにオリビアが声を出してしまった!そのドローンは音に反応し、レーザーポインターを梯子に向けた!幸い音の方向は分かったが、梯子の上から音が聞こえた事はバレていないらしい。しかし、次にオリビアが梯子に足を掛けて音をたてれば、見つかるに違いない。どうするべきか、ものの3秒の間にルイは出来る限りの策を考えるが、この窮地で冷静に判断するのは難しく、ついにオリビアが足を掛けた!
(カンッ)
その音を聞いてドローンは梯子の上に一気にレーザーポインターを向ける。
「 やばい!」
(カンッ)
またオリビアが梯子を降る。ドローンは銃口を梯子の上に向けた!
(ズドドド!)
音が響き渡った。ドローンが捉えたのは、ルイだった!ルイは全力疾走で走り出す!ドローンは物凄い速度でルイを追跡する。薄暗い部屋の中、シートを掻き分けながら、ルイはジグザグに逃げる、逃げる!
(ズドドドドッ)
ドローンが機銃を乱射する!カランカランカランカランと弾丸の薬局がものすごい数落下する。辺りは勢い良く放たれた銃撃のせいで視界が曇り、火薬の匂いが立ち込めた。ルイは途中で近くのシートの中に身を隠した。ドローンが銃口を梯子の上に向けた時、ルイは自ら足で音を立て囮になったのだ。
(ヴィィイン)
ルイを見失ったドローンが、ルイを探している。いつ見つかってもおかしくない状況だ。するとドローンがルイの近くで止まった。ドローン近くのシートの陰に、ルイは隠れている。
( 音を立てないようにしなくては……)
ルイは息を止めた。心音も止めたつもりだ。すると、ドローンがシートに近づいた。
( ばれているのか?)
ドローンはシートに接近し、シートを球体のボディの側面でゆっくりめくった。
( 頼む!バレないでくれ)
ビラリ。ドローンとルイが対面した。ドローンがルイを見た次の瞬間!
「 ルイ!どこなの?」
部屋に声が響いた!オリビアが叫んだのだ!その瞬間にドローンは声に反応し、声の聞こえた方向にすっ飛んだ!
「 助かった……」
思わず心の声が漏れた。しかし、またオリビアに危険が差し掛かる。
「なんて事だ……彼女はドローンの存在を知らない!」
オリビアを助ける為に取った行動だったが、これでは本末転倒になってしまう。ルイもまた、声の聞こえた方向にゆっくりと慎重に歩みを進めた。
「 オリビア、無事でいてくれ」
そう思った矢先、
(ズバババババン)
機銃が鳴り響いた!
「 嘘だろ…… オリビア!そんなまさか!」
ルイは不安に襲われた。
「 一体どこにいるんだオリビア!」
この薄暗く広い空間の中、シートの死角に身を隠しながらルイはオリビアを探した。
時はオリビアがルイの梯子の合図を待っているところまで巻き戻る。
「 いくらなんでも遅いわ。何かあったのかしら……」
「ルイは確かに 合図すると言ったわ。 下は暗くて見えないし、何かあったにしては静かすぎる」
「 降りるわよ!」
オリビアは叫んだ。そしてゆっくりと梯子に足を掛ける。カンッ。一歩目を梯子に降ろした。カンッ。二歩目を梯子に降ろした時、下の暗闇から赤い一筋の光がビュンとオリビアを照らした。
「何?この赤い光は…… レーザー?」
すると、梯子の下から大きな音が聞こえてきた。その瞬間、オリビアを照らしていたレーザーがグイっと梯子の下に消えた。
「ルイ?ルイが音を出しているの?」
そう考えたのも束の間、梯子の下から誰かが全速力で走る音が聞こえた。その後に風を切るような羽音がブゥゥンと聞こる。
「今走っていったのは、ルイ? 何かあったの?」
オリビアは急いで梯子を降る。そして、地面に片足がついた時、ズババババッと銃声が鳴り響いた!暗闇で連射された銃は、撃った時のフラッシュファイヤーで部屋を照らした。「銃!? まさか…… ルイ!」
オリビアは銃声を聞いた時、さっきの足音はルイのものだと確信した。
「 そんな……」
オリビアは少しの間動けなかった。部屋のどこかでルイが銃に撃たれて死んでいるのではないか、不安が彼女を襲った。銃声が鳴り響いた後、静寂が訪れた。
「 ルイ…… 今行くわ」
オリビアは銃を撃ったのがだいたい誰か分かった。
「 アンドロイドが現れたのね。アンドロイドで無いにしろ、何かがこの部屋にいる。きっとルイは声を出さなかったわけでなく、出せなかったのよ。アンドロイドは確か音を探知するのよね」
オリビアはルイと合流する為に、ゆっくりと歩みを進めた。
「このシートで隠してあるものは何なの?」オリビアはシートをめくった。何せ部屋が暗い為、何かはハッキリ見えなかったが、大きな機械みたいなものが、シートに覆われていた。
「これは一体何?……」
自分がどこにいるかも分からないのに、謎が深まるばかだった。考えすぎても仕方がないので、オリビアは先に進むことにした。シートからシートへとゆっくり、慎重に。そして、慎重に歩いていたその時、カンッカラン。オリビアは何かを蹴って転がしてしまった。
「しまった!」
しばらく身を隠したが、誰も来なかった為、オリビアは自分が蹴ったものを確認しに行く事にした。
「これは、薬莢!ここで銃が撃たれたんだわ」
そのまま壁際をそって歩くと、壁に銃痕が残っていた。すると、オリビアの近くのシートの中がピカピカと点滅していのに気がついた。「 ルイ?……」その光はシート越しに蒼白く見えた。シートにゆっくり近づくと、シートに無数の穴が空いている。
「 ここに銃を撃ったのね……」
そのシートを開くのが怖かった。もしかしたら、ルイの死体があるかもしれない。そもそも、死があるのかも分からない。なぜなら自分達はもう死んでいるのだから。オリビアはゆっくりとシートをあけた。ビラリ。するとそこには真っ黒焦げの何かが、煙を漂わせていた。
「ケーブル?」
それはケーブルだった。太さは大きめの蛇くらいだ。乱射された弾がシートを貫通し、機械に接続していたケーブルをちょん切ったのだ。ケーブルの切れ目がバチバチと強そうな電気を放電していた。放電の点滅が光の原因だったらしい。
「 良かった…… このケーブル、もしかしたら……」
オリビアはシートから出て、地面に散らばった薬莢を数個拾い上げた。そして、事もあろうか大声で叫んだのだ。
「ルイ!!どこなの?」
あまりの大声の為、部屋中にオリビアの声が反響した。するとずっと奥の方から一直線にドローンが飛んできたのだ!
「来たわね!ドローン型って言うのは予想外だったけど」
ドローンは、オリビアの近くでレーザーポインターを使いながら右往左往している。するとオリビアは先程のシートの中にこっそりと隠れ、薬莢をシートの外側に投げつけた!カランッ。その音を探知して、ドローンが薬莢に近づいていく。そしてまた薬莢を投げつけた!カランッ。するとドローンはそこにいるのかといわんばかり、銃を乱射する!ズババババッ。さらにオリビアは自分のシートの前にも薬莢を投げた。カランッ。ドローンはまた音に反応し、銃を乱射する。しかし、ドローンは数発連射した後、撃たなくなった。そしてオリビアは最後の薬莢を、自分が隠れているシートの中に落とした。カランッ。次の瞬間、ドローンがシートをめくり上げ現れた!オリビアとドローンは向かい合った!ドローンは銃口をオリビアに向けた!カチャッカチャッ。しかし、弾は発射されなかった!「人間の方が一枚上手だったって事ね」
オリビアは放電したケーブルをドローンにぶっ刺した!バチンッという音と共にドローンは地面に落下した。そしてもう動くことは無かった。
「助かったわ……」
オリビアは動かなくなったドローンを観察した。
「こんなに小さい機械なのに、プログラム次第では人間より強力な力を持つのね。いや、私達はもう人間じゃないのかもね……」
「いいや、人間さ。但し心がね」
いつの間にかルイが横にいた。
「ルイ!良かった無事だったのね!」
「どうやらもう安全な所はないらしい。そのドローン、君が倒したのかい?」
オリビアはホッと息をついて話した
「こんな奴、私にかかればこんなものよ」「ははは、心配した僕が馬鹿だったよ。」「あっ、そうだ」
ルイは思い出したかのように話した。
「ここに来る途中に大きなレバーを見つけたんだ。でもそれが何かは分からない。」
「レバー?何かのスイッチかしら。どこにあったの?」
ルイはオリビアをレバーの所に連れて行った。
「これは何かのスイッチね、多分だけど」
そこには見たこともない文字が書かれていて、その下には上下に降ろすレバーがあった。
「でも何のスイッチかわからない。変に下げたら痛い目にあうかもしれないな」
とルイはスイッチの起動に反対だった。
「でも危険なものをスイッチにはしないわ。どこかのドアの開閉をするものなのかも」「下げてみるか?」
「下げましょう」
オリビアは好奇心で恐る恐るレバーを降ろした。ガシャン。ルイもオリビアも、風船が破れる時みたいに身構えたが、なにも起きなかった。
「なんだ、電気が通ってないのか?」するといきなり部屋がゴォオオっと音を立て始めた。
「何が起きているの?」
その音はますます音を上げる。まるで発車前のロケットみたいだ。ゴォオオオオ!
「何かやばいんじゃないか?走ったほうがいい!」
オリビアとルイは急いで出口へと続く梯子まで走った。梯子についた時、その音は唸るのを止めた。そして、眩しい光が彼らを包んだ。
「眩しい!」
暗闇に長い間いたため、目が慣れるまでしばらく時間を要した。そして、ようやく目が慣れ始めた。
「何が起きたの?」
先に目が慣れていたルイが言った。
「この部屋のライトがついたみたいだ」
どうやらレバーの正体は部屋のライトの電源だったらしい。そして暗闇で見えなかったものがハッキリと見えた。部屋は天井も床も壁も真っ白だった。
「こんなに広かったのね。」
「なぁ、あのシートの中身気にならないか?」
ルイが興味本位で話した。
「機械だったわ。でも暗くて見えなかったの。確認してみましょ」
オリビアとルイは協力してシートを捲り上げた。
「あと少しよ!もうちょっと引っ張ってちょうだい!」
「よし!取れたぞ!」
二人は大きな機械か何かが包み隠されていると思い込んでいた。なぜなら彼らも初め、大きな機械に繋がれていたからだ。しかしそれは彼らの予想を遥かに超える物だった。
「何よこれ……」思わずオリビアが呟いた。ルイは驚きで声が出なかったが、しばらくして話した「要するにだ……」
「ここは軍事基地か、あるいは……エリア51的な場所なのか?」
彼らが見たものは、いわゆる『UFO』だった。大きさは約八メートルから十メートル位だろう。色はカーボン製の黒曜石色。漫画で見るガラス張りのコックピットは無かったが、恐らくマジックミラーの様な構造で黒色のフロントガラスが付いていた。
「おかしいと思ったんだ。あんなロボット、最先端技術以外にあり得ない」
「俺たちは一般市民が知らない様な、とんでもなくヤバイ所にいるんだ」
「何?じゃあ私達はエイリアンに拉致されたって言うの?」
「これを見る限りそうとしか思えないだろ!」
「一番の謎は私達が死んだ事よ。そして生きている。」
「それにメモはどう説明がつくっていうの?」
「確かに……」
「でもまぁ、俺達が想像できないスケールだってのは分かった。何にせよ、ここを脱出するのが一番早い。」
「そうね。早く出ましょう」
オリビアとルイは念の為、他のシートもめくってみたが、やはり全て小型の円盤型の乗り物だという事が分かった。二人は部屋の出口に続く梯子を登った。
「ねえ。」
オリビアが口を開いた。
「どうした?」
「この先何があるか分からないわ。さっきは偶然危機を回避出来たけれど。」
「今のうちにメモを書いておかない?」
「そうだな……そうしよう」
ルイとオリビアは自分達が何者で、何が起きたかをメモした。先代の記憶がそうして来たように、彼らもまた次の記憶を書き記した。「この扉を出る前に、地図を見ておこう。何が起きても大丈夫なように」
二人はスケッチしたフロアマップを見た。「この部屋を出たら向かいに大きな部屋があるみたい。部屋を出て左右の廊下は少しいけば行き止まりみたいね」
「あぁ。しかも向かいの部屋は今いる部屋の三倍の大きさはあるぞ」
「この部屋でドローンがいたんだ。向かいの部屋にもドローンがいる可能性がある」
「この部屋より危険になるのは確かね……」「向かいの大きな部屋を抜けて、廊下を道なりにいけば、遂にエレベーターにたどり着く。」
「向かいの部屋が山場ってワケね」
オリビアとルイは覚悟を決め、扉を出た。重く開く自動ドアは彼らを前にゆっくりと口を開いた。彼らもまた真実を追い求め、ゆっくりと口に入った。まずは二人は廊下をまっすぐに進んでみた。やはり地図通りの行き止まり。あったのは天井にはりめぐっているであろうダクトのみだ。そこから引き返して突き当たりまで行ってみるが、やはり何もなかった。
「やっぱりこの部屋を抜ける他なさそうね」参ったとばかり首を振りながらオリビアが言った。
「そもそも、この扉が開くのかも怪しい。」ルイは試しに扉に近づいてみた。……しかし何も起こらなかった。
「おい嘘だろ。」
ルイが扉をノックするみたいに、コンコンっとしてみるが、やはり開かない。
「内側からしか開かないのかも」
「私が一番はじめにアンドロイドに襲われた時、アンドロイドはどこからともなくやって来たみたいだったわ。それに私達のいた部屋以外全て、ロックされた扉だったみたいだし。」
「なるほどつまり、アンドロイドにしか開ける事が出来ない扉もあるって訳だな。」
「俺達に簡単に逃げてもらったら困るわけだ」
「とりあえずこの部屋に入るには扉を開けさせないといけないって事だな」
「ええ。もしかしたら大きな音を立てれば、反応して出てくるかもしれないわ」
「だが、だ。」
ルイが思い悩んだように話す。
「奴らが出てきたとして、すれ違い様に部屋には入れないだろうな。少なからず出てきた奴は殺さないといけない。さっきは背後を取れたから倒せたが、銃でも持っている様なら、さらに倒すのは容易では無くなる訳だ」「彼らは一体どの様な方法で扉を開いているのかしら」
「確かに。この扉にはカードキーをスキャンする機械もなければ、暗証番号を打つ様な機械もない」
「カードキー……カードキーは確か磁気だったわよね。彼らの身体の中にも磁気があるのかしら?」
「もしかしたらその通りかもな…… まるで駅の改札みたいに、磁気カードの原理で扉を開くのかもしれない」
「でも彼らの磁気が鍵になるにしろ、奴らがいないと開かないわけよね……」
「ここの施設のロボットならどんな奴であれ、扉のロックを解除できると思うか?」「ええ。そうだと信じたいわ。きっと彼らが近づくと開く様になっているのよ」
「よしオリビア、少し待っててくれないか?」
そう言うとルイは元来た部屋に引き返した。「ちょっと!?どこに行くつもり?」
ルイはさっさと行ってしまった。そしてしばらくしてからルイが戻って来た。
「ハァハァ……鍵、持って来たぜ」
ルイの手にはオリビアが電撃をお見舞いした丸焦げの球型ドローンがあった。
「ちょっとルイ、正気なの?」
「正気さ。このドローンもこの施設で作られたはずだ。だとすれば、この扉を開ける事ができる。」
オリビアは気が進まなかった。今は動かないとはいえ、銃を乱射する様な殺戮マシーンという恐怖がまだ残っていたからだ。
「大丈夫だ。扉を開けたらコイツはここに置いていく」
「そうね……」
ルイはドローンを使って扉を開く前に話した。
「この先何があっても、俺とお前は最高のコンビだ」
「俺達ならきっと大丈夫。メモにも書いておくよ」ルイはメモに『ルイとオリビアは最高のコンビ』と記した。
「ルイ、大げさよ。でも、私達ならきっと大丈夫よ」
しばらくしてから覚悟を決めたルイはドローンを扉にかざした。すると何やらモーターが回転する音が聞こえて来た。それと同時にガシャンっと重い音が鳴った。
「どうやら開いたみたいだ……」
ルイとオリビアは深呼吸して、扉の前に立った。その扉は今までとは違い、上下開きだった。下から上へと扉が開く。二人は中へと足を進めた。
中へ入るといきなり、ものすごく大きな一枚貼りのガラス窓があった。まるでとてつもなく大きな水族館の水槽みたいだ。そのガラスの下には、ガラス窓の横幅と同じくらいの長さの機械がびっしりとあった。まるで戦艦のコントロール室みたいだ。横幅は約十メートルくらいだろう。そしてルイとオリビアはそのガラスを覗き込んだ。そこには目を疑う光景が広がっていた。それは驚きというよりも、もはや圧倒の二文字で表したほうが早い。二人の目は見開けられたまま、しばらく声も出すことが出来なかった。そこに広がっていたのは工場だった。この部屋は部屋というよりも、大きなショッピングモールほどの大きさは優にあった。どうやらここはビルの三階くらいの高さらしく、部屋の端に下に降りるための昇降機が付いていた。そして一番の驚きは、この部屋の広さや、機械の多さではなく、『あるものの』製造工場であったという点だ。その工場は缶工場でも車の工事でもなく、なんと、アンドロイドロボットの製造場だったのだ!部屋一面に回転寿司の様なベルトコンベアーとレールみたいなものが張り巡らされており、アンドロイドロボットが何百体も運ばれている。ある場所は頭を製造していたり、ボディを製造していたり、要所要所で様々な部品が作られ、組み立てられていた。全て全自動で淡々と行われている様子だった。
「なんて事……」
「今はまだ俺達には理解できない…… だが、ここを抜ければ『真実』がきっと分かるはずなんだ」
二人は胸の鼓動を抑えた。自分達がなぜここにいて、ここがどこで、一体何が行われているのか。それを知る為にはこの部屋を抜けなくてはならない。
「この部屋の一番奥の扉を出れば、エレベーターに続く廊下にでれるはずだ 」
「簡単じゃ無さそうね……」
「あぁ。武装したアンドロイドが巡回しているみたいだ」
その部屋にいたアンドロイドは、今までのオフホワイト色ではなく、黒曜石みたいなドス黒い色をしていた。いかにも兵士らしく、規則正しいリズムで足を上げて歩いている。手には、アサルトライフと思われるカービン銃が握られていた。
「今回ばかりは簡単じゃなさそうだ」
「でも私達には、進む道以外残されていないわ。」
「そうだな…… あのまま最初の部屋にいても、殺されているだろう。『再接続』というやつが一体何を意味するかは分からないが」初めにルイはコントロールパネルと思われる機械を手当たり次第に触ってみた。すると、画面にアンドロイドの情報が出てきた。
「これは……」
画面には六百という数字と、五という数字が表示されていた。もっとも、ルイとオリビアには言語が理解できず、数字しか読めなかった。
「よく見て、この地図、この工事と同じ地形だわ」
画面の端に映し出された地図らしきものはどうやらこの工事の地図の様だった。さらに、ルイはその地図をタッチしてみた。すると、地図がアップされた。
「見てみろ!この地図に動く反応がある。」ルイはその地図と、窓から見える工場の風景を見合わせた。
「間違いない。この画面の赤い点が、この工場を巡回しているアンドロイドだ。」
「一、二、三、四……」
「五体いるわ!」
「って事は、さっきの数字の五は、見張りのアンドロイドの数か。」
「でも、六百って数字は何を表しているの?」
「くそ…… 」
「待って!画面の地図をみて!この白い線って、白い点が大量に合わさっているんじゃない?」
「だとすると…… これは!」
二人の声が重なった。
「製造されてるアンドロイドの数!」
「なるほど…… 製造段階のアンドロイドは全く動く気配がないな」
「つまり、私達の敵は五体ね。」
ルイとオリビアは画面の地図に映る、警備アンドロイドの行動パターンを解析してみた。「だめだ。皆んな不規則にパトロールしている」
「でも奴らが五体いると分かっただけで上出来よ」
「あそこの昇降機で下に降りるんだな。」「降りてずっと直進で進めたら最短距離だけど、そう簡単には行けなさそうね」
「隠れながら行くしかない」
オリビアとルイは意を決して、昇降機に乗り込んだ。するとゆっくりと音を立て、昇降機は降り始める。
彼らの行動を陰で監視するものがいた。そして彼はボソッと呟く。
「 おもしろい。ここまで来たのは君達が初めてだ 」と。




