THE FACT 6000回死んだ男が見た世界最終話
ついにTHE FACT6000回死んだ男が見た世界最終回です。
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それでは最終回をお楽しみ下さい!
THE FACT 6000回死んだ男が見た世界最終話
Episode20 オアトン
『ルイが亡くなってからもう6年もの歳月が流れた。新星オアトンに到着するまで後30年。本当なら生物液体保存装置に入らなければならないのだけれど、私はまだ希望を捨てはしなかった。ルイの遺体は今、イタニムスリー内部にある治療室にある。私がPlanGの毒ガスにやられた時に、ハチが私を治療してくれた場所。ルイの心肺は完全に停止しているけれど、生物液体保存装置に遺体を保管している。それには理由がある。6年前のあの日、私は数日どうすることもできなかった。ルイを亡くしたショックは今でもひきずっている。でもある日思いついた。昔の私の技術があれば、ルイとアンドロイドをキャプテンのように結合できるかもしれないと。そうすれば、彼は生き返る、そう信じたかった。でも、どうあがいても過去の記憶は取り戻せない。そこでは私は、自らが生物液体保存装置に入り、過去の地球の記憶からオリビア・アデッソの記憶を探す事にした。再接続をしなければ、記憶が消える事はない。正直、とても怖かった。一回『夢』に入ってしまえば死ぬまで目覚めないからだ。でも、私はルイに会いたくて仕方がなかった。愛していたから。
私はオリビア・アデッソの一生を経験した。オリビア・アデッソの事実上の死はゲイリーによる再接続だった。最初に死んで目が覚めたとき、自分が何者か分からなかったが、暫くするとクロエの記憶とオリビア・アデッソの記憶が馴染み、私はオリビア・アデッソの記憶を手に入れた。オリビア・アデッソの人生は短いものだった。彼女が亡くなったのは30歳だった。でももっと驚いたのは、イタニムスリー内では2年しか経過していなかったという事だった。
私は早速、ルイとアンドロイドの結合手術に取り掛かった。不可能ではなかった。もし人間とアンドロイドを結合するならば、心臓は不要だった。脳さえあればどうにかなった。しかし、予想以上に高度な技術が求められるため、かなりの時間を要した。ルイとアンドロイドの結合が終わると、次に私は動作のプログラムを作成した。そして遂に、アンドロイドのルイが完成した。顔と手足以外は全てアンドロイドだった。そこから、ルイの脳とアンドロイド本体を接続するのに、かなりの時間がかかり、未だにそれは成功していない。』
そう書くと、オリビアはノートを閉じた。
「ルイ……必ずあなたを生き返らせて見せる……」
オリビアは気分転換に、コックピットへと向かった。熱いコーヒーを入れ、大きな窓から宇宙空間を眺める。天井には大きな穴が空いていた。ルイがゲイリーに突き上げられたときにできた穴だ。コーヒーを唇に浸したまま、オリビアは遠くが見えづらい事に気がついた。
「私、目悪くなったのね……」
オリビアはずっと、イタニムスリー内にあるアンドロイドや宇宙船に関する本を読みあさり、研究し、実験し、睡眠時間は毎日数十分だった。コーヒーを飲みながら、次にどこの回路を接続するかに着いてずっと考えていた。
それからさらに半年経過した。ある日、この数年間で一番といって良いほどの回路の配列をオリビアはシャワーを浴びている時に思いついた。早速それを試そうと、髪もまだ濡れたままルイのいる治療室へと向かう。
「もしこれがうまくいけば、必ずルイは目覚めるわ」
このような状況には何百回となってはいたが、どれも失敗だった。それでもオリビアは一回一回、希望を持って決して諦めなかった。プログラムを打ち込み、ルイにインストールする。
「お願い……」
すると、今まで進むことのなかったインストールゲージがみるみる内に進んでいく。
「きた……」
そしてやがてそれが百パーセントになると、ルイの身体が電気ショックを受けたかのようにびくんと跳ね上がった。
「ルイ!……」
やがて、オリビアが待ち望んでいた瞬間が訪れた。
「ルイ!ルイ!分かる?私よ、オリビアよ!」
ルイは目を開け、オリビアを見た。
「私オリビアよ!分かる?」
ルイは口を開いた。
「オリビア……?」
「そう!ルイ!オリビアよ!」
「ルイ?……」
「そう、あなたはルイ」
「すみません……どうやら僕、貴方を知らないみたいで……」
「記憶……無いの?……」
「すみません。僕の中では今、貴方に初めてお会いしたという感じで……」
「エウロパ、エウロパって名前に聞き覚えは?」
「すみません……」
「そう……驚かしてごめんなさい。」
「こちらこそ……すみません……期待に添えなくて……」
「きっと混乱してるのよ……暫くしたら思い出すわ!」
「そうかもしれませんね!」
しかし、現実は甘くなかった。ルイは一向に記憶を取り戻す事気配がなく、それどころか、ルイの中の年齢は一六歳くらいの知識しか持ち合わせていなかった。何度もアップデートをしたり、回路の組み換えを施したりしたが、その度に記憶を失った状態になった。
「そんな……どうして……」
そんなある日、図書館で技術系に関する本を探していた時、一冊の本が目に入った。
『アンドロイドと人間の共存』という題だった。著者は、デイル・アデッソと書いてあった。
「パパのだわ!」
そう、その本の著者はオリビア・アデッソの父であるデイルが書いたものだった。オリビアは小さい時に、事故で父親を亡くしていた。デイルもまたアンドロイドの技術者だったのだ。
オリビアはその本を読み漁った。そして気になるページにたどり着いた。目次は、
『死者とアンドロイドの結合について』だった。オリビアは目を通す。
「『死者とアンドロイドの結合について』前章で述べたとおり、人間の脳をアンドロイドに移植する事は可能で、そうする事により、あらゆる難病からも逃れることができる。しかし、一つ例外がある。それは『死者』とアンドロイドを結合した時に起こる危険性についてだ。結論から話すと、死者とアンドロイドの結合からは『死者』が生まれる。どういうことか説明すると、一回結合体が死亡(脳活動の停止)が起こると、アンドロイドと結合しても生前の記憶は引き継げない。つまり、死者から死者が生まれるのだ。理由としては未だに解明されていないが、今まで数百人の遺体で実験を行なってきたが、必ず同じ結果が出た。つまり、死んだ者は生き返らない。これはいくら技術が進歩しても同じなようだ。生前の人物と似た記憶を意図的に作り出し、記憶を植え付ける方法はあるが、それはもはや本人とは言えないだろう。いくら科学の力を持ってしてもやはり、人類は死から逃れられないのかもしれない。」
オリビアは本をそっと閉じた。オリビアの中の何かが崩れ落ちた。その後、オリビアは電源の入っていないルイの側に腰掛けた。
「ごめんね……」
オリビアは泣いた。ずっと信じてきた物がついに途絶えた。暫くしてから、オリビアはルイをクルー保存区へと運んだ。そして生物液体保存装置へと浸す。
「全ては無かったことになる」
「私の知るルイ・シーランは私だけの心にいる。いるべき場所に帰るだけ……ルイ……さようなら……ずっと貴方を思っているわ。ずっと……ずっとよ……」
オリビアはルイの腰にプラグを挿した。設定は再接続。あと数十年、数十回の再接続を行うだろう。
「ルイ、次会うときはオアトンね。そこでこのイタニムスリーを解放したら私達はさよなら……」
オリビアは泣いた。これが最後の別れだ。スイッチに手をかける。
「ルイ、貴方を絶対忘れない。ずっと一緒よ」
そしてオリビアはスイッチを押した。
オリビア自身もようやく眠りにつくことができる。オリビアは生物液体保存装置に入る前に、ブレイヴが一人できていたモールのバーに立ち寄った。店頭にある酒を適当に掴み取り、動かないバーテンダーと会話する。
「ブレイヴもきっと、こんな気持ちだったんだわ……私これで本当に正しかったのかな」
バーの中で会話するルイとハチが幻覚として見えた。
「私だけ生き残ってよかったのかな……」
(ガシャンッ)
アンドロイドのバーテンダーの首が下に傾いた。偶然だろう。でもオリビアにはルイとハチがそれでよかったんだと合図してくれているのではと、そう信じた。
やがてオリビアも生物液体保存装置に入った。次の目覚めをオアトン到着の一年前にセットした。
「これで全て終わり。夢の中で、彼に会いえたらいいな……」
そしてオリビアは眠りについた。
やがてイタニムスリーはオアトンに到着した。到着の一年前にオリビアは目覚め、全クルーを覚醒させた。全てのおおまかな説明は、モールのモニターによって説明された。人々は自らの使命を理解し、到着までの一年間をモールなどで暮らした。あの動かなかったバーテンダーも今やモールの人気者だ。オリビアは活気あふれる人類を、必ず守らなければならないと使命に駆られた。
モールの図書館でひたすらに本を読んでいる男がいた。
「すみません、少しいいですか。」
「はい、どうしました?」
「今、クルーの健康管理をしていまして、網膜スキャンと、指紋、それから血液を採取しているのです」
「はぁ……それで僕のが必要なのですか?」
「可能でしょうか?」
その女性は美しかった。金髪だった。例えるなら女神のような。真正面から直視できないくらい美しかった。男は少しの下心でこう話した。
「分かりました。協力します。それで、もしよかったら、バーにでも行きませんか?」
「考えておくわ」女性はにこりと返事をした。
やがてオアトンに都市が建設された。数年で大きな都市が出来上がった。人類は地球の教訓から、争いや経済制度を廃止して、皆が平等に暮らしていける社会を構築していった。アンドロイドと人類が共存し、または結合する事で、瞬く間に都市は発達した。オアトンは本当に地球によく似ていた。太陽もあった。塩水も、淡水も、森林もあった。誰が偉いだとか、誰に従うとかも無かった。皆が偉かった。4年くらいたったころ、既に元の地球を越えるくらい便利に発達していった。
昼下がりのある日の事、町の中心街で作業行う帽子をかぶった金髪の女性がいた。それをみた小さな少女(おそらくオアトンで生まれた第一世代の子供)が金髪の女性に尋ねた。
「ねぇねぇ、それなあに?」
「ん?これはね、英雄のアンドロイドだよ」
「あ!知ってる!前に学校で習ったよ!オアトンに伝わる神話の話!昔、いたにむすりーが悪者に乗っ取られるのを阻止した英雄のアンドロイドがいたって!名前は『ハチ』!」
「そうそう!偉いね、お利口さんだね」
金髪の女性は帽子を脱いで少女に被してあげた。
「お姉さんはこのアンドロイドのことすごく大好きなの。だからね、ここにこうして銅像を建ててるのよ。」
その女性はオリビアだった。
ハチの銅像は町の中心街に建てられた。主にデートスポットとして人気となった。
オリビアが町を歩いていると、ティーンくらいの女の子が話をしていた。
「ねぇ!昨日のあれ見た?」
「見たよ!凄かったよね……はぁドキドキしちゃう」
「アンドロイドと人間の禁断の恋……はぁ、素敵!」
「もうなんたってブレイヴがイケメンすぎるのよ!」
「はぁ、私もターシャになりたいわ!」
『禁断の恋』、それはオリビアがブレイヴとターシャの出来事を執筆した恋愛小説だった。それがベストブックに認定され、映像配信もされる事になった。それはオリビア自身が、彼らを忘れないようにする為の印でもあった。
「ブレイヴ、ターシャ、貴方達は今もこうして語り継がれているよ……」
オリビアは都市の山手に移行したブレイヴとターシャの墓地に来ていた。
(ギャンッ)
今では聞き慣れた、アンドロイド特有の機械音だ。オリビアが振り返るとそいつは立っていた。
「あの……」
「あぁ、あの時の……」
その男はイタニムスリーの図書館にいた男だった。
「お茶でもどうかな?……」
しかし、オリビアは冷たかった。
「ごめんなさい。用事があって。ごめんなさい強いこと言うようだけど、私は貴方に興味がないわ……」
オリビアは自分の中の気持ちがキュッと縛り付けられるようになった。その男はルイ・シーランだったからだ。しかし、今は別の名前に違いない。イタニムスリーを着陸させるのには特別権限が必要だった。ルイの網膜、指紋、血液が必要だった。オリビアは変な感情が湧かないように、一生懸命、坦々と、それらを回収した。しかし、ルイはまた彼女の元に来てしまったのだ。オリビアは辛かった。全く同じ容姿の、全く違う人物と会う事に。そしてオリビアはまだルイを忘れられなかった。
「もういくわ……」
「待って!」
オリビアは進む。ルイは追いかける。
「明日のこの時間に、僕はここにいるから」
オリビアは無視して歩く。
「明日が無理なら、次の日だ!」ルイが遠くで叫んでいる。
次の日、ルイはその場所にいた。オリビアはそれを遠目で眺め、結局会わなかった。
次の日は雨だった。まさかと思い、オリビアは約束の場所に向かった。そこには濡れたルイが立っていた。見かねてオリビアはルイの方へ向かった。
「あ!来てくれたんだね!」
「まったく何を考えているの……私の家近くだから」
オリビアは自分の家にルイを招き入れた。
「雨宿りしたら帰ってね」
「雨は明日まで止まないそうだ」
「『オリビア』、明後日にでもいっしょに食事でもどうかな?」
「……どうして私の名前を知っているの?」
「そりゃ……簡単だよ。君だから」
「はぁ……しつこいのは嫌われるのよ」
「ところでその指輪、僕とお揃いだ」
それは指輪ではなく、ハチの身体の部品だった。お互いにハチを忘れないために身につけたやつだった。
「はっきり言うと、僕は運命を感じた。『君』に」
「でしょうね……そうじゃ無いとここまでこないものね……全く……」
「同じ指輪してるなんて運命だよ」
「じゃあ明後日、食事にいこう」
「あなたの名前は?」
「分からない」
「分からない?『夢』の中の名前は?」
「それが覚えてないんだ……」
「だから名前をつけてほしいんだ。」
「どうして私が付けなきゃ行けないのよ?」
「早く!なんでもいいから」
「ん……」
「じゃあ、『ルイ』ってのはどう?」
「え!?」
「そんなにびっくりすることかい?ほら地球の歴史でいたじゃ無いか、皇族で」
「あぁ……そうねいたわね……じゃあ貴方は……」
「ルイ……」
久しぶりにオリビアはその言葉を口にした。こんな偶然、ありえるのだろうか。ルイが帰った後、オリビアはルイのことしか考えられなくなっていた。彼に会いたくなっていた。オリビアの知るルイはもういないのに。
食事の当日、服装を選ぶ自分がいた。
「待って、彼はルイじゃないのよ。どうしてこんなに意識して……」
(ブー!)
家のブザーが鳴った。ルイだった。
「わお、それ僕の為に着てくれてるの?」
「たまたまよ!」
歩いて数メートルでいきなり手を繋がれる。
「ちょっと!勘違いしないで……」
「ちっとも勘違いなんてしてないさ!」
そこから何回か彼と会い、私は彼に惹かれていった。彼ではない彼に。そしてある夜、夜景が見える綺麗な場所でルイが話した。
「君に謝らないといけない事がある。」
「どうしたの?」
「僕は君を知っていた……」
「え?」
「君はオリビア・アデッソ、僕はルイ・シーラン。神話とされていたあの話も実は本当。君がイタニムスリーを救ったんだ。僕と。」
「どうして……」
「これだよ」
ルイはズボンのポケットから、一冊の古びた手帳を取り出した。それは、あの手帳だった。
「それは……」
「読んだんだ……それで……君の存在を知った。何が起きたかもここに書いていた。そして僕は君に会いたくなった。メモを読む内に君に会いたくて、いずれ会いに来るだろうって待っていたら、君が来た。僕は一目惚れした。君は僕じゃないルイ・シーランを愛していた。この身体、君が僕を助け出そうとしたんだね。でも出来なかった。だから君は僕を再接続さした。」
オリビアはうつむいたままだった。
「僕は、前のルイじゃない。でも、今は別のルイとして君のことが好きだ。確かに記憶は無いかもしれないし、言動が違うかもしれない。それでも……僕は君の事が好きだ。」
「どうしてかは分からない。ずっと君を考えてしまう。君が僕の落ち着ける場所なんだ」
顔も、声も、笑った時の頬のシワも、ルイだった。それは何故か本物のようだった。
ルイはオリビアを包み込んだ。それは確かにルイだった。そして、何故だか身体全体が沸騰する様に熱かった。
「大丈夫、今扉を閉めた!」
完
この度は THE FACT 6000回死んだ男が見た世界を読んでくださってありがとうございます。今回のお話では、主人公はこいつだという縛りは私の中ではなく、登場キャラクター一人一人が主人公であり、それぞれの生き様にも物語が展開していく所も、この作品の見どころだと思います。全てのキャラクターにそれぞれの思いがあって、それが正しいとか正しくないとかも関係なく、一個人の正義を尊重してキャラクターの作成を展開しました。この作品にはとても思い入れが深いです。この作品で重点を置いているポイントは、『人間の儚さ』『醜さ』『美しさ』などといったものです。この作品の制作期間はおよそ八ヶ月です。この作品を書いている最中に、『死』という恐怖に直面する機会があり、その「死」と同時進行での作品制作になりました。この作品はその恐怖に希望を見出す為の作品、理想象だったりするのかもしれません。まず、オリビアとルイは記憶を失ったまま物語が進みます。最初は自分たちが何者でどこにいるのかを知る為に、色々と行動を起こすわけです。いわばルイとオリビアからすれば目覚めたその世界は『死後の世界』という事になります。しかし、物語が進むにつれて、こちらの世界か、あるいは生前の世界かどちらが本当の世界か分からなくなって行くのです。つまり、『死』とは終わりではなく始まりなのではないか、という私の希望がここに詰められています。悪夢は死ぬことでは無く、今ここに生きていることなのかもしれない、つまり『死』からの現実逃避がここには含まれているのです。
さらにこの作品ではルイとオリビアの中身の人間が入れ替わるという特殊な展開を見せます。これは決して自分が主人公ではない、主人公はこいつだというのはないというのを表しています。つまり、特別な人はいないと言うことになります。この物語のルイとオリビアが真実に近づけるのは過去の人々のおかげだと言うところにも、やはりそれを感じさせます。過去の人々のメモ帳の記述があって、やっと物語が進行して行くのです。
物語が中編に差し掛かってくると、いっきにアンドロイドの猛攻が始まります。いわば前半、中半は、アンドロイドからいかに見つからずに脱出していくかという、サバイバル要素が強めだと思います。この時読者の方も、もちろんルイもオリビアも、アンドロイドが敵であると認識で話が進んで行きます。
後半に差し掛かると、一気に「人間の醜さ」「儚さ」についてのポイントに触れ始めます。後半、ルイとオリビアは自分たち以外にクルーがいる事や真実の記憶版を見つける事で、何かもっと大きな真実があるのではないかという事に気がつき始めます。この時、オリビアが混乱し始めます。しかし、ルイの一言で我にかえることになるのです。
「『事実』だけ知ればいい。だから、事実以外の『憶測や推測』はいらない。だから悩むことも不安になることもない。事実が分かってから、初めて悩んだらいい。違うかい?」
というものです。もちろんこのルイの一言にも、『死』に対する恐怖からの逃避があったのだと思います。後半のブレイヴとターシャの話では、初め、敵だと思い込んでいたアンドロイドが実は愛する人間を守る為に戦っていたという話です。ここでようやく、アンドロイドにも感情があり、好き好んで人間を傷つけているわけでないと、明かになり始めます。ここでルイとオリビアが「正義」だと思って行った行動が果たして正しかったのか、自分達は正しい事を行なっているのか、と疑問を持ち始めます。
そして本当の黒幕、キャプテン、ゲイリー戦では哲学的な要素も出てくるのです。まず黒幕はやはり人間だという点も重要だと思います。結局人間が全て悪い。これはこの地球における環境問題ともかけていますし、しかしながら、キャプテンも、ゲイリーもそれぞれの「正義」を持ってしてその行動を行なっているというのもポイントです。つまり、全ての元凶は人間だが、誰一人としてそれが自分の正義感の上には、悪い事ではないと思っている、というのが深刻な問題の元凶であるというのをここで表現しています。だからキャプテンのこの一言がルイとオリビアの動きを止めることになったのです。
『俺にとっての悪はお前らだ。俺は自分のしていることを正しいと思っている。悪が滅びるというのなら、それはお前らだ。そして俺の悪がお前らで、お前らの悪が俺なら、正義とは一体何処にあるのか』
つまり、キャプテンの言うところ、正義が勝つと言うのは無いと。常に自分の行動が正しいと思う者同士が対立する時、相手は悪であり、相手の悪は自分という事になる。つまり、正義が勝つなんて綺麗事はこの世に存在しない、どちらも平等に生きるか死ぬかだ、と言うことを言っているのです。つまり、全員が正義が故に悪は滅びないと言う事を表現しています。
19話『終止符』はゲイリーとの直接対決が描写されています。そもそもゲイリーが何故イタニムスリーを乗っ取り、支配しようとしたのかは、13話『オキュパー襲来』に描写されているゲイリーの過去のトラウマが大きな原因ということになります。ゲイリーは正義感溢れる真面目な男の子でした。しかし、その正義感が他の同級生の間に触り、『いじめ』を受けることになるのです。今まで味方してくれていた友達も、寝返っていじめっ子の側になりゲイリーをいじめました。これは多数派側が常に正しいとする人間の心理を描写したもので、これを境にゲイリーは心に大きな傷を負うことになるのです。その大きな傷はゲイリーを二人の人格に分けることになります。ゲイリーはそれ以来、家族以外は誰も信用しないようになりました。家族だけは自分の味方をしてくれる、家族の愛だけは自分を守ってくれる。『僕』と『俺』はゲイリーの良いところ、悪いところを分離した人格ということになります。小さい頃から宇宙に興味があったゲイリーは、やがてイタニムスリーの特別クルーとなるのです。しかし、『特別権限』の最終選抜では不適合という結果に終わります。その不適合の理由はゲイリーの二つの人格、気性の不安定さから判断されたものでした。この時、ゲイリーは理不尽な思いをするわけです。二つの人格の出現は、自分のせいではないと。正しいと思ってやった事が正しくないのなら、正しくないと思ってやった事が正しい場合もあるのだと感じ始めるわけです。これがゲイリーの動機ということになります。
19話の最後にはゲイリーのこんな思い描写されています。
(俺は羨ましかったんだよお前らが……正しい事をしても、それが相手の正しい事じゃないのなら、それは正しい事じゃないのかもしれない……俺は、僕はあの時、正しい事をしたつもりだった。人間とは常に怯えている。自分が標的になる事に怯えている。安全なのは多数派の意見……いつだって少数派は多数派に勝てないからな……悪いと分かっていても、合わせるのさ……その内に僕はこの世で何が正しいか分からなくなった……殺人だって、本人が正しいと思えば正しいのじゃないかって……俺は自分の正しい道を生きた。これが俺の正義だ。一切の後悔もないぞ……人間は皆汚いのだ……唯一美しいのは……『愛』だ……例え他の惑星に異星人がいたとしても……この美しさだけは……人間の褒めるべき唯一の……も……の……)
ゲイリーは最後の最後まで、自分が悪いという事を認めませんでした。なぜなら、人々の行動には理由があり大抵の場合、本人がその行動を正当化しているからです。これが争いの絶えない理由ではないかと私はそう思うのです。
長々と後書きを書いてきましたが、冒頭でもお話した通り、主人公はこいつだという縛りはありません。この話の主人公は実はゲイリーかもしれないですし、アンドロイドかもしれません。あるいは、地球に残った人々かもしれません。それは読者の人によるものだと私は思っています。そして、私は必ず主人公が生き残るというのも美しく無いと思っています。基本的にハッピーエンドで終わるのが物語ですが、それは美しく無いと思います。なので私はこいつが主人公というのを決めず、必ずキャラクターの過去を描写します。誰が死んでもおかしく無いですし、誰が生き残ってもおかしくありません。
この物語の最後は読者の感じ方によってエンディングが異なります。それは読者次第という事です。
『The fact 6000回死んだ男が見た世界』は私の一番最初の作品になります。私は本を通して伝えなければならない事がたくさんあります。既に分かる人は分かると思うのですが、この物語は本当の意味で『真実』なのです。人々の『抵抗』をつけるためにも、私は物語を描き続けます。
この度は私のThe fact 6000回死んだ男が見た世界を読んでいただき誠にありがとうございます。今後とも作品をたくさん書いていくので、どうかこの素羅直大を応援下さいませ。それでは失礼致します。




